第4話 鬼に花束

花つみ太郎が恐る恐る洞窟を歩いていくと、洞窟の壁に、地面に座り込んで怯える梅ねえさんと、ねえさんに襲い掛かる巨体の影が見えました。


(ねえさんが危ない!)


太郎は、相手に見つからないように、忍び足で影の方に進んでいきました。


(ぬきあし、さしあし、しのびあし……)


すると突然、「コラーーーーッ!」と洞窟が揺れるほど大きな怒鳴り声が響いてきました。


太郎が振り返ると、なんと、洞窟の入り口に、背の高い大鬼が怖い目をして立っていました!


(ヒャーーーこりゃだめだ、どうしよう……)


大鬼は、ブルブル震える太郎の方に、ズシンズシンと歩いてきます。


太郎は覚悟を決め、目をきゅっとつむり、「我が名は花つみ太郎! ねえさんを助けにきた!」と叫びました。


しかし、大鬼の方を見ると、太郎には目もくれず、奥の方まで歩いていきます。


「……あれ?」


太郎がこそこそと大鬼の後をついていくと、そこには小鬼と梅ねえさんの姿がありました。


「アンタ、またヒトの子に悪さして!いい加減にしな!」


どうやら、大鬼は小鬼に怒っているようです。


小鬼は怒鳴られて目がうるんでいましたが、


「悪さなんかしてないやい!一緒に遊んでただけだい!」


と、大鬼に反論しました。


「嘘つくんじゃないよ!その子、そんなに怯えてるじゃないか!」


たしかに、梅ねえさんはずっと地面に座りこんだまま、顔を手で覆っています。


太郎も、心の中で、「そーだ、そーだ!」と言いました。


すると、小鬼は、


「違うやい!おいらはビックリ箱を見せただけだい!そしたらその子がそんなになっちまったんだ!」


と言って、あるものを大鬼に見せました。


それは、すこし汚れたビックリ箱でした。


箱のなかから、ビヨンビヨンと汚れたガラガラヘビが揺れています。


太郎は、それを見て納得しました。


梅ねえさんは、お花畑は大好きでしたが、ヘビは大の苦手だったのです。


大鬼は、しゃがみこんで優しい声で梅ねえさんにききました。


「お嬢ちゃん、大丈夫かい?ほんとにこんなもんで腰抜かしただけなのかい?」


梅ねえさんは、コクコクと頷きました。


「うちの息子が悪いことしたね。もう大丈夫だから、ほら、立ちな」


梅ねえさんは大鬼の手を借りてようやく立ち上がりました。


「よし。……アンタ、この子送ってやりな。それと、そこに来てるお友達もね」


大鬼が太郎のことを親指で指さすと、梅ねえさんが太郎の方に駆け寄ってきました。


「太郎!来てくれたんだね」


太郎はビックリ恥ずかしで、おどおどしながら答えました。


「うん、あんまり役に立てなかったみたいだけど……」


「ううん。太郎が来てくれてすっごく嬉しいわ。あら、そのお花は?」


「ああ、これは……。そうだ、これ、キミにあげるよ」


そう言うと太郎は、持ってきた花束を小鬼に差し出しました。


「え、おいらに……?」


「キミ、友達がほしいんだろう。ボクらと友達になろうよ。梅ねえさんも、いいよね?」


「ええ、もちろんだわ。ただし、ヘビだけはダメよ」


「いいのかい!? ヒャッホーイ!」


小鬼は大喜びで花束を持ってその場を駆け回りました。


「坊や、嬢ちゃん、ありがとね。じゃ、三人仲良く帰りな!」



そうして三人は、楽しく村まで歩きました。


村に帰ると、鬼の姿に村のみんなは怖がりましたが、太郎と梅が事情を説明すると、みんなも小鬼を温かく迎えました。


それから、花つみ太郎と梅と小鬼は、一生の友達として仲良く過ごしましたとさ。


めでたしめでたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花つみ太郎 やながせじんた @yanagase_jinta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ