#22
あれから更に五分程が経過する。
両者とも引けを取らず終わりの見えない戦いが繰り広げられていた。
心做しか戦闘を楽しんでいるようにも伺える。
「……なぁ。オレ、本当にこの中に入って良かったのか?」
あの後
「当たり前だろ。これ以上外に居たら怪我どころじゃ済まなくなるぞ。」
「……オマエに酷い事してきたのにか?」
「それとこれとは別だろ。」
優しく投げかけられる言葉に
皆と出会ってから今までの事を振り返る。
どうして自分はこんなに素直じゃないんだろう、と自責の念にかられていた。
「……今までごめん。オマエを見た時、羨ましかったんだ。人の姿をしているオマエに、嫉妬してた。あの時オマエに喧嘩吹っかけたけど、本当に嫉妬していたのはオレの方だったんだ。」
彼は黒斗を見た時、自分の心は人型の姿なんだと気付いた。
身体は魔獣である事はどうする事も出来ない。
現実に怒りが込み上げたのだ。
――人が食べる物が自身の口に合ったのも、きっと……。
辛い現実から目を背けたくて、黒斗に八つ当たりをしてしまったのだ。
黒斗は視線だけを
「……本当に、ごめん。嫌な事しておいて言うのもなんだけど……その……オレ達、友達になれるかな……?」
強風の音が防壁の外側で鳴り響いている。
この中は轟音さえもある程度はガード出来ているおかげで、内側にいる四人の声はハッキリと聞こえている。
「……今後のお前次第だな。」
黒斗はそう言って口角を上げ、視線をルナに戻した。
俯いてすすり泣く獣の姿に、見守っていた瑠璃と
二人の問題は解決した。……後は。
「……いやぁ、キミほど強い魔獣に出会えて光栄だよ。こんなに暴れたのは
「……我もここまで手応えのある相手と出会うのは久しい。……
不意にマゼンタに名を呼ばれ、
呼ばれる時が来るのを覚悟していたとは言え、圧力のある長に反発する事は勇気が要る。
緊張した空気が漂っていた。
「奴らと共に居るという事は
マゼンタの眼がギョロッと動き、黒斗達も恐怖心を抱く。
「……聞いてくれマゼンタ。オレは
「黙れ!!」
マゼンタは大声で怒鳴り、
裏切り者と共に消し去ってやると、彼の身体から今まで以上の強風が吹き荒れる。
「
マゼンタが唱えると刃のような風が木々を切り刻む。
枝や葉が切り落とされ、そのまま強風に乗せて空中を飛び回る。
黒斗は危険を察知し瞬時に防壁をかけ直したが、それでも押し潰されそうなほど強力な魔法だ。
「きゃあ!!」
瑠璃の叫び声が聞こえ皆が一斉に振り向く。
防壁の中に居たハズの彼女が森の奥へと飛ばされていき、大木に叩きつけられた。
ショルダーバッグが枝に引っかかった事でぶら下がった状態となっている。
一瞬にして全員の血の気が引いた。
防壁の外に出てしまっていたショルダーバッグが
「しまった……!! 瑠璃、
血相を変えたルナが大声で叫ぶと瑠璃はハッとし、両手を重ねて祈る。
幸運魔法が発動され、彼女自身が淡い光に包まれた。
強風で身体が煽られてはいるが、彼女自身の効能と幸運魔法のおかげで怪我はしていないように伺える。
「
黒斗は自身の上着を掴んだままの彼女の右腕を掴み落ち着かせようとする。
少しの間見つめ合った後、
この場に居る皆の心が落ち着いていくのを見届けると、彼女はホッとため息を零した。
二人の魔法を垣間見た
ルナや黒斗、マゼンタの魔法とは違い目に見えてわかる魔法ではない事に驚いていた。
ふと近くにいる黒斗と
その光景をただただ、眺めていた。
「……ちっ、マゼンタが邪魔で助けにいけない。どうすれば……。」
ルナは
おそらく同等の強さを兼ね備えている彼の隙をつけさえすれば、と脳裏をよぎるがその隙さえもない。
寧ろ、こちらが隙を作ってしまえば皆が危ない。
動けない現状へのもどかしさに歯を食いしばった。
その時だった。
瑠璃がぶら下がっている太い枝が数センチだけ割れるのを
――マズイ、早く助けにいかねぇと……!!
脳裏を過ぎったと同時に
あっという間に防壁から抜け出した彼を呼ぶ声が後ろから聞こえてくるが、振り向く事なく真っ直ぐに走り続けた。
傷は浅く軽傷ではあるが攻撃を受け続けると危険だ。
先程の枝がボキッと折れ、瑠璃は更に奥へと飛ばされて行く。
この場にいる全員が叫んだその時、
彼の魔法が
「ここで助けられなかったら漢じゃねぇんだよ!!」
走る速度は更に上がる。
それはおそらく黒斗の逃げ足と同等かそれ以上の速さだろう。
瑠璃との距離がだんだんと近付いていき、追い越す寸前で彼女の背中に飛びかかり、地面に向かって押さえる事で助ける事に成功したのだ。
「……こんな方法でごめんな、瑠璃ちゃん。怪我してねぇか?」
「うん、大丈夫……。
「オレの背中に乗れる? 二人の元へ戻るぞ!」
「身体を前に倒した状態で乗って」と指示され、風圧に苛まれながらも瑠璃は彼の背中に抱きつく形でゆっくりと乗った。
強風の中を切り裂いて走るその姿は疾風そのものだった。
数分かけて黒斗達の元へと無事に戻る事が出来た。
一方瑠璃は奇跡的に無傷だった。
四人の様子を丘の上で見ていたルナとマゼンタの戦闘はいつしか収まっていた。
「……驚いた。先程の光は
マゼンタは理解出来ない様子で呆然と立ち尽くしていた。
彼が戦闘を放棄したおかげでこの地一帯の風が止み、本来の静かな空間へと変化する。
木々の枝や葉が散らばり地面が少し荒れてはいるが、この森はようやっと落ち着きを取り戻したのだ。
「そうだよ。
「そうか……。我ら
「なんだ。ボク達、話せば分かり合えるんじゃん。……ならさ、取り引きしない? ボク達はキミ達の集落には行かないし攻撃もしない。キミ達にもボク達の敷地への攻撃や詮索はしないでもらいたいんだ。」
「ほう……。それで?」
「ボク達と食材の交換をしない?
ルナはそう言って胡座をかくと再度マゼンタを見上げている。
姿を隠し切る事など到底出来ないであろうその大きな身体をただただ眺めていた。
「……それは実に興味深い。だが、食に関しては我の独断では決められん。一度妻の意見を聞いてからでよいか?」
「いいよー。こっちは急いでないから、じっくり考えて!」
「……
マゼンタはそう言うと森の奥へと行ってしまった。
――お前も来いって……。
つまりは全員が助かり、自分は
「おーい!
ルナが犬の姿で駆け寄ってきていた。
彼女は
そのまま彼の首に魔導コンパスを装着した。
「それ、
「えっ……それって……。」
「向こうが落ち着いたらいつでもおいでよ。さっきマゼンタと約束したから、もう大丈夫!」
ルナはニカッと笑いながらピースサインを見せる。
全員を見た後、
透明なクリスタルに陽の光が差し込み虹のような輝きを放っていた。
「ルナちゃん、皆。本当にありがとう。必ず遊びに行くから待ってろよ!!」
顔を上げた
最後に黒斗の目を見た後、軽い足取りで
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