リカル エブン

 あかるくラフな顔で、その女性はルアンのかおをみつめた。にっこりとわらって、目は完全なへの字になっている。

「両親は?」

「いません」

「出身地は?」

「記憶にありません」

「ここに来るまで何をしていたの?」

「私はこの街で“リペア”されました、この街のドクターに……」

「ちょっと信じられないなあ」

 額にクローバーの模様があり、灰色の髪に、長い髪を後ろでまとめて左右にちらばらせている女性―彼女は、リカル。この店の店長だという。上瞼は、目の中心に近い方が山なりになっていて、目じりに行くほどに下がっている。まゆはとがっていて、強さを感じさせ、しかし唇はぷっくりしているので、バランスのいい感じがする。


「それで……」

 リカルは頭を抱えてクリップファイルを片手に一瞬そっぽをむいた。ルアンは、まっすぐに前をむいていた。彼女の“種々の事情”からいって、すべての過去をことこまかに他者に伝えることは避けなければならない。


 そのことに比べれば、アルバイトを断られることくらいは何の問題もなかった。むしろ、そうあっても当然という様子で、また違った場所にトライしつづければいい。失敗は常なのだ。


「それじゃあ、このアンケートに答えて頂戴、それで判断するわ」

 そういうと、リカルはクリップファイルの用紙を一枚、テーブルにおいた。そして少し席を外すといって事務室をでていってしまった。一人きりになったルアンは、親指でおでこの髪をかきわけ形を直しながら、どうやって早く回答するかを考えた。

 というのも店長の様子(目のうごき、くちの筋肉の動き、しぐさ)からいって、統計的にこうした異常にラフなしぐさをする人間は、むしろ規則に厳しく、表面上は誰にでも優しく接する傾向があった。だからもし雇えないなら、その答えが早くほしかった。


 その隣の空き部屋に入ると、リカルは自分の頭につけている小型のヘットセットマイクでどこかに電話している。

「ええ、そう、バイタルは?」

『異常ありません、多分彼女で間違いないかと』

「まあ、決定的な証拠はないけれどね、体の事を無理やり聞くのもあれだし、それに“テスト”を与えないと」

『そうですね、そういう”しきたり”ですから、“旧リーダーの”』

「ちょっと、エブン、その言い方やめない?」

『失礼しました……』

「まあともかくやってみる、けしかけてみて、“正体”をみるわ」


(早いとこ、ネタばらしするか)

 しばらくすると、リカルはもどってきた。そのとき、ルアンの様子にリガルの方が驚いた。ルアンは、体の顏以外、右半身をおおっていた手袋や、アームカバー、厳重なタイツなどをぬいで、機械的な精密機械が見える半透明の半身、をみせていた。


「あっ……ごめんなさいね、ちょっと驚いちゃった、そうかもしれないという話を聞いていたけれど」

「え?誰からです?」

「この街の人からよ」

「私が……ハーフロイドだってことを?」

「ええ」

「話してないんだけどなあ、それより、私クビですよね?」

「え?」

 







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DDウィッチ 電脳捜査官 グカルチ @yumieimaru

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