業 ルアン ピノ
「悪い事で稼ぐのはもうやめよう……これで、最後にしよう」
少女はそうつぶやいた。少女の名はルアン。ピンク色の髪、ところどころ黒い差し色が入り、瞳は半目をひらいたようで、目の下部分がとても大きい。しかし、純朴でかつ、美しい目をしていた。
少女が耳をかきわける。その耳は尖っていた。まるで兎か何かのように、明らかに作為的な何かを感じさせた。それにもまして、非人間的で美しい輝きが、少女の瞳と顔つきにはあった。
“ガラツキ街”ごろつきとガラクタを混ぜた造語から、そんな相性でよばれる、火星の大22クレーター。珍しくもない、“火星改良計画”の大量移住者の働く一区画である。“空天板”と呼ばれる半透明のシールドに覆われて、コロニーはそれぞれ、独自の働きをしている。その中で最もいわくつきの都市がそこにあった。
流れ者、訳アリ、犯罪者たちが多く住み着く場所だ。街は発展しておらず、整備もされず、ゴミや貧乏人たちが街角や道路すれすれにたむろしている。
少女は“清掃人”をしていた。安い給料で街を掃除するのだ。しかし、その仕事によって負う穢れ、精神的苦痛を思えば、いつまでも続けられるわけではない。少女は思い切って、コロニーの中心地に近い場所に位置する“ガラツキ街”と22-12地区との境目にある、“レストラン”に向かっていた。
「電話はした、あとは面接だけだ」
いつからそこにあったのだろう。不思議な事に少女は思い出せない。この街のほとんどの人が知らないかもしれない。あるいは気にも留めないのだ。昨日会った店が、ギャングや犯罪者に襲撃され、すっからかんになり、次の日には別の店になっていた。なんてよくある事だ。そうであっても、別にいい。過去があろうが、現在があろうが気にしない。この街は―あるいは、この火星は、そうした”その日ぐらし”の人々に支えられているのだ。
少女が、レストランの入り口にたって、ガラス越しの店内をみつめると、まばらに、住人十色の客がそこにはいた。少女の苦手とする“アンドロイド”もまたそこに。
「私は何ものにもなれない、それでいい、ただ、清く正しくいきよう」
そう決意すると、少女は、店のドアをあけた。そして元気よくいったのだった。
「面接にきました、ルアン・セルタリー、16歳です!!」
客の顔はすべてこちらにむいた。恥ずかしくも、恐怖もなかった。もはや、そんな感情など見失っていた。
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