DDウィッチ 電脳捜査官

グカルチ

1プロトウィッチ・シルヴィア。

 火星歴3024年。火星の隅、田舎街のある一角で。ピンク色の髪をしたショートボブの少女が、顔を伏せて路地裏に座っている。傘もささずに、雨風を防ぐものはない。雨は、ぽつぽつと降り続いていた。

「ねえ」

 傍らに、別の女性が立った。灰色の髪に、長い髪を後ろでまとめて左右にちらばらせている。まるで花火のようだ。その肌はうすくピンクがかっていて、熱い下唇が、色気を醸し出している。額には、青色のクローバーの模様があった。

「はい?」

「あなた……どうしてそんな悲しい顔をしているの?真実が分かっただけじゃない」

「どうしてって……」

 少女はクレーターを見下ろした。クレーターの下には“ロボットスラム”がある。ロボットたちは、“最適な環境”を目指して、無限の建築と資源の再構築に努めている。

けれど“ハイリフト”の住人のお眼鏡にかなうものも、人間に求められるものも簡単には作れなかった。

「永遠の命を望まないの?」

「それって……」

「そう……《ラスト・ウィッチ》すべての《魔女》を捕まえた人間に《火星のAI》の監視を任せる代わりに、永遠の命を与えるという懸賞金のかかったプロジェクト……」

「でも、それって、嘘ですよね……結局あなたのいってたことも、あの人達と同じ」

「あなたは、そうやってすべてを拒むの?手を差し伸べられているのに、それを噛んで、逃げ回って、何を得られるというの」

 少女は、目を上げた。半月上の模様の浮かぶ奇妙にも美しい目だった。その虚ろさが一瞬光輝いたかに見えたが、また曇り、暗い影が差した。

「試したんです……何度も、それで騙されて」

「たったそれだけ?」

「いいえ、それだけじゃありません……」

 少女は、肩をすくめて、両足を抱いた。

「私は……信頼する人を見つけました、絶対差し伸ばされた手を噛まない、絶対に彼のために働く、そう思っていました……けれど」

「けれど、何?結局あなたの失敗じゃないの?」

「私は、噛みつきもしなかった、彼も裏切りもしなかった、そんな事じゃないんです、私は……彼が何をしようとしていたかもしらない、ただ、知らない組織に狙われた彼は、私をすてて……逃げて……殺された」

「なんだ、それだけか、彼は裏切って……」

「彼は、私は……お互いを裏切ってなどいません、なぜなら、彼は私についてこないでくれといった、“お前の未来のために遠いところにいく”と、それが本当かどうかは、重要ではありません、私は置いていかれたんです、きっと、私のために何かをしている人に、自分の命を危険にさらしている人に、私自身は何も危険にさらされないままで……」

 雨脚はやむ事がなかった。だまって、傘を少女にだけさしだした。

「私はまだ“証拠”を見せていないわ」






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