第3話 プロ野球制度
さらに、問題は選手たちである。
煽てられて、さらには、
「地元の誇りなどと言われて、勇んで全国大会に臨んでも、全国の壁は厚いもので、すぐに敗退して戻ってくる」
それでも、まだ、学校が迎えてくれたりすればいいが、ほとんどの選手は、大学や社会人で野球を続けるという人もいるだろうが、果たして、そこでどうなるかは分からない。
ベスト4くらいに入った学校の選手だったら、ある程度は、プロの目があったり、社会人や大学から誘われたりするかも知れない。
「キャプテンをしていた」
ということであっても、戦力にならなければ、声も掛けられないだろう。
注目されるのは、やはり一部の中心選手。
プロ野球ドラフト会議にかかるとしても、そこでは、優勝投手ともなれば、よほど、大学や社会人志望でもない限り、
「ドラフトの目玉」
と言われることだろう。
中には、
「社会人に内定しているから」
ということで、他の球団が指名しないのをいいことに、ドラフト下位で、隠し玉のような指名方法で、
「一本釣り」
をするチームもあった。
また、かつては、
「野球協約」
の、重箱の隅をつついて、
「空白の一日」
を使って、ドラフト前日に、電撃契約をしたりした球団があり、問題になった。
実際にドラフト会議となり、別の球団が、その人への指名権を取ったのだが、本人は、どうしても、
「汚い契約」
であっても、そこに行きたいという。
その問題解決として、
「三角トレード」
というものが行われた。
最初にその選手は、
「ドラフト指名されたチームに入団し、数か月後にトレードという形で、行きたいチームに行ける」
という、一種の折衷案が示され、実際に、その通りに、トレードで、意中の球団に移ったのだが、その時のトレードとなった投手は、もちろん、エース級のピッチャーで、騒がれはしたが、そのピッチャーは古巣相手に、力投し、確か、20勝をしたのではなかったか?
元々のチームにいれば、そんなに勝てるわけはなかった。そういう意味では、
「ある意味。どちらのチームも得をした」
といってもいいかも知れない。
プロ野球球団として、世間を騒がせたのはまずかっただろう。特に最初に、
「空白の一日」
などを持ち出して、強引に契約を結んだというのは、あきらかに、
「火事場泥棒」
といってもいいだろう。
しかし、この問題は、そんな簡単な問題ではなかった。
そもそもの、
「ドラフト会議」
というものの欠点であったというのももちろんだが、それよりも、
「行きたい球団に行けない」
ということが、
「一番の問題だった」
ということであろう。
本当に最初、ドラフト会議が始まった理由ということを考えれば、それも仕方のないことだったかも知れない。
そもそもの理由というのは、ドラフト導入までは、入団選手と球団は、
「自由契約」
となっていて、
「球団のスカウトが声をかけ、選手が承諾すれば入団できる」
というものであったが、それが、どういうことを招くのかというと、
「金のある球団に選手は入りたいだろう」
ということである。
「金に物を言わせて、いい選手を集めてくる球団がある」
そして、その球団と金銭交渉で負けて、取れる選手は、そこまで有名選手ではないということになり、
「強いチームはどんどん強くなり、金銭的にも裕福になっていくが、そうではないところは、どんどん弱くなってきて。球団も貧乏になる」
ということで、戦力の差が歴然としてきて、
「強いチームと弱いチームがハッキリ分かれて、プロスポーツとして面白くない」
ということが一つの理由だったのだろう。
ただ、これは、どちらかというと表向きの理由であった。
これは野球協会側からの意見であるが、
「逆に、球団経営者側にも、もっと切実な問題」
というものが起こってきたのだ。
というのも、
「有名選手というのは、セリに掛けられた魚のようなものだ」
といっていいかも知れない。
つまり、選手に対して、球団から契約金や年棒が示される。すると、他の球団が、さらに高い値段で競り落とそうとする。しかし、また他の球団が……。
ということで、どんどん音が吊り上がっていくということだ。
ということは、それだけ、選手に対しての相場というものが、どんどん吊り上がっていくということである。
最初は契約金が、2千万くらいであったものが、数年後には5千万になり、次第にどんどん膨れ上がって一億になるということで、球団側も一人の選手にそこまで値を上げると、他の選手の手前、年棒も引き上げないといけなくなる。
すると、野球界全体の年棒が跳ね上がり、結局、にっちもさっちもいかなくなる。
だから、ドラフト会議というもので、
「年棒や契約金の高騰を抑えよう」
という理由があったのだ。
これは、球団側にもメリットのあることなので、ドラフト会議というものの導入には、さほどの反対はなかったかも知れない。
しかし、そうなると、
「選手は、好きな球団を選べない」
ということになる。
自分の運命を、指名球団が意中の球団一球団であれば問題はないのだが、いくつもの球団が名乗りを挙げ、しかも、意中ではない球団が引き当てれば、
「自分の運命はくじで決まるのか?」
ということになる。
しかし、就職活動でも、大企業であったり、人気企業から、複数の内定をもらうというようなもので、それだけ、認められているというだけでも、羨ましいことなので、
「意中だろうがなかろうが、プロ入りできればいいではないか」
という人もいるだろうが、選手の寿命などにおいて、理解のある球団であればいいが、そうでもない球団であれば、こんなにつらいことはない。
やはり、
「くじで決められるというのは……」
と思うに違いない。
「今まで、自分はそれだけの努力をして、結果を出してきている」
という自負があるだろうからである。
そんなドラフト会議で、戸次は、8球団からの競合の中で、くじで引き当てたのが、
「東鉄フェニックス」
というチームだった。
関東の球団で、千葉県北部の方にあり、東鉄という鉄道会社が、スポンサー会社で、他にも百貨店や、不動産業といった、私鉄がやっている球団としては、普通のところであった。
しかし、今の時代、
「私鉄会社が、プロ野球の球団を持つ」
というのは、正直ビックリさせられた。
元は、新聞社がオーナー企業だったのだが、新聞社、出版社関係は、正直、その性質から、電子書籍や、ネット新聞という形でしか営業もできなくなり、本屋も減ってきたことから、
「昔のような経営ができず、業務の縮小を余儀なくされることから、どうしても、球団を手放す」
という状況に追い込まれることになっていたのだ。
元々、プロ野球球団というと、一番多い時などは、半分近い球団の親会社が、鉄道会社だということだった時代があった。
後は、食品関係、新聞社、そして映画関係などもあった。
さらに私鉄会社で球団を持っているところは、そのほとんどが関西だったというのも特徴だっただろう。
それが、ちょうど、時代が昭和から平成に移った頃で、それも、国鉄が民営化された時代ということも偶然なのか、私鉄が親会社の球団の身売りというのが、頻繁に行われたりしたものだ。
身売りした相手は、スーパーだったり、リース関係の会社と、それまでにはまったくなかった業種だったので、少しビックリもしたものだ。
だが、時代が移ってきて、今度は、さらに、IT関係が増えてくると、
「時代の移り変わりの激しさ」
というものを感じるようになった。
もし、プロ野球というものが30年先にも存在していれば、
「一体、どういう企業が親会社として君臨しているんだろうな?」
と感じるのだった。
そんな中で、10年くらい前に、東鉄という私鉄が、買収したのには、ビックリした。
元々は、お菓子メーカーがオーナーだったが、一時期の物価の高騰から、経営がうまくいかなくなり、球団を手放したのだ。
元々は、その球団や球場もそこから買い取った形でやっていたが、肝心の東鉄が通っていないというのはネックだったということもあり、千葉駅を中心に展開している東鉄ならではで、ちょうど、千葉駅近くにスタジアムを建設したのだった。
形態は、ドーム球場になっていて、
「一体、どれだけドーム球場が増えるんだ?」
という感じであった。
確かに雨に降られると試合が中止になったりして、スケジュールや試合日程が合わずに大変になるので、できるだけ雨に関係なく試合ができるのがいいということでのドームなのだが、半部に情がドームということになると、下手をすれば、
「アメリカメジャーリーグよりも、ドーム球場が多いのではないだろうか?」
と言われていた。
札幌などの、穏当に寒いところはしょうがないのだろうが、仙台でも、露天のスタジアムなので、
「寒くても野球はできる」
ということになるのかも知れないが、以前、仙台で、雪の中での試合ということもあり、
「サッカーじゃあるまいし」
と言われながら試合が行われたようだった。
実際に野球ができる環境であることは分かったのだが、他の球場は、必ずしもドームである必要はないだろう。
それでもドームにこだわるというのは、
「他の球団よりも中止が多く、シーズンが推してきた時に、日程が嵩むというのは、難しいことなんだろうな」
ということであった。
「ドームは、関東にこれで3つ目だ」
ということで、関西に私鉄球団が多かったのと、同じようなもので、
「立場が逆転したということだろうか?」
ということであった。
以前は、関東、関西に球団が集中し、それ以外の地方というと、名古屋、広島、福岡くらいだった。
しかし、今では、北は北海道から、仙台、そして、今は四国の松山にも球団があったりする。平成になったくらいから、
「各地に根差す、地元球団」
というイメージが定着してきた。
サッカーの地元球団というイメージも大きかっただろう。
そもそも、サッカーの地元意識というのは、プロ化する前から根差したものがあった。それが、jリーグというプロサッカーチームの理念として、
「地元密着化したクラブチーム」
というものの発展と、
「世界レベルの選手を育成」
という、オリンピックや、ワールドカップの日本代表のレベルアップが目的だったといえるだろう。
プロ野球界には、そこまでハッキリしたビジョンのようなものはないだろう。
そもそもの歴史は、サッカーほど浅いものではなく、もう戦前にさかのぼる。実際にプロ野球選手が、戦争に召集され、戦死した人もたくさんいたのも事実である。これまでの歴史も結構あった。球団が増えてきたことで、
「2リーグ制になったこと」
あたりから始まって、
「前期後期制の採用」
「指名打者制の採用」
これら二つは、片方のリーグだけだったが、前後期制というのは、10数年くらいのもので、すぐに1シーズン制にもどったのだ。
やめるきっかけになったのは、確か、前期の優勝が決まってしまうと、後期に向けての対策と消化試合になってしまい、シーズンがだらけてしまうというような理由ではなかっただろうか?
そのせいで2シーズン制はなくなったのだが、今度はそこから、20年後に、今度は、
「プレイオフ制度」
が採用された。
これは、それぞれリーグの6球団でのペナントを争うわけだが、今まであれば、優勝チームがそのまま、日本シリーズに進出し、日本一を決定するという、シンプルなものだったが、この制度になると、
「リーグ優勝チームがかならずしも、日本一になれるとは限らない」
というような、おかしなことになってきたのだ。
つまり、このプレイオフ制度というのは、
「シーズンを戦うのは同じことであるが、優勝チームとは別に、Aクラス、つまり、3位以内に入れば、そこから、勝ち抜きを行い、日本シリーズ進出チームを選出する」
ということなのだ。
要するに、ペナントレースは、予選のようなもので、リーグの代表を決める代表戦には、上位3位までが進出できるということになる。
まずは、2位と3位が対戦し、先に2勝した方が勝ちということになる。ただし、会場は、2位のチームのフランチャイズで行うというのが、ルールで、これが唯一の、アドバンテージということになるのだ。
選手としてというよりも、フロント側の方が、観客が入るのだから、ありがたいに違いない。
だから、球団側からすれば、
「絶対に2位以内に入ってもらいたい」
と思っていることだろう。
そして、そこで2勝したチームが、今度はリーグ優勝チームと、日本シリーズ進出を会座して雌雄を決することになる。
「優勝チームのフランチャイズを使うというのは、同じ条件だが、今度は、1勝が優勝チームにはアドバンテージとしてついている」
だから、本当は4勝先取が勝ち抜け条件なのだが、優勝チームには1勝がついているので、第一試合の段階で、
「1勝0敗」
ということになっているのだった。
そこで、いよいよシリーズ進出をかけての最終決戦が行われるのだが、やはり、状況は、優勝チームの方が、有利であることに変わりはない。
ただ、何といっても、優勝チームがリーグの代表になれないということに、その制度が始まってから、そろそろ20年近くがたつが、まだまだ違和感として残っているような気がする。
そもそも、このやり方が導入されたのは、
「2シーズン制を取りやめた時と何となく似ている」
といっても過言ではない。
つまり、優勝チームが早々と決まってしまったりすると、そこで、シーズンが白けてしまい、本当に消化試合になってしまう。
来年のためということで、二軍から有望選手を上げてきては、テストをしたり、場数を踏ませるなどの意味で、ファンからすれば、完全に白けてしまうことになるだろう。
しかし、優勝チームが決まっても、
「日本シリーズに出て、日本一になるには、とりあえず、3位以内に入ってしまえばいいのだ」
ということで、Aクラスへの滑り込みの可能性がある間は、Aクラス入りを目指すという意味で、チームは必至だった。
だからこそ、
「優勝チームが決まっても、まだまだシーズンは続くという意味で、消化試合と呼ばれるものがかなり減ることで、球場の観客動員が、極端には減らない」
という目的があるのだった。
もう一つは、レギュラーシーズンだけではなく、前述のように、2位以内に入れば、少なくとも、シリーズでの観客動員が望めるということで、球団経営にも一役買うという意味でのことだったのだ。
だから、球団としては、
「優勝しなくとも、2位通過であれば、クライマックスシリーズというプレイオフでも観客動員が見込めるということでありがたい」
ということであった。
日本シリーズ進出ともなると、プラス、最低でも2試合の観客動員が望める。しかも、日本シリーズということで、普段はあまり人気のない球団であっても、満員の観客を集めることができるということで、球団経営に大きく貢献することになるだろう。
そういう意味で、ファンが、半分疑問視するこの制度であったが、球団経営としては、この制度はありがたいのではないだろうか、ファンとしても、疑問には感じているが、肝心の試合が、数多くみられるということは、嬉しいことなのであろう。
そんなクライマックスシリーズなどというものがあるおかげで、野球界が盛り上がっているといっている人もいることだろう。
また、選手入団をきめる、
「ドラフト会議」
というものも、いろいろ変わってきたりした。
以前からの懸念としての、
「好きな球団にいくことがかなわない」
ということが言われてきたことも、途中から、
「逆指名」
というやり方が導入されたりした。
高校生に関しては、逆指名はできないが、社会人、大学野球などからは、逆指名ができるようになり、
「有名選手は、逆指名をすることにより、意中の球団に入団しやすくなった」
というのも事実だろう。
ただ、それから紆余曲折があり、今は逆指名というのはやっていないようだ。
そもそも、ドラフト会議というのは、以前は、シーズン終了後のポストシーズンと呼ばれる時期に行われていたが、今は、
「日本シリーズ前」
という中途半端な時期に行っている。
なぜそんなことになったのかはよく分からないが、ファンとすれば、
「ドラフト会議があると、日本シリーズが、まるでエキティビジョンマッチにしか見えない」
といってもいいだろう。
さらに、ドラフトというと、枠が増えたのも、特徴だった。
いわゆる、
「育成枠」
というものが増えたのだ。
これからの選手を、チームで育成するという意味で、支配下選手ではないが、有望選手は試合化選手になれるという意味で、チームによっては、
「三軍」
という位置づけで、実践としては、学生野球のチームであったり、社会人クラブチーム、さらには、各地の独立リーグと呼ばれるクラブチームとの対戦などである。
もちろん、彼らの中には、支配下選手になってすぐに、
「エースの階段を昇った選手」
「ホームラン王になった選手」
「首位打者を獲得した選手」
などと、かなりの活躍をした選手もいた。
そういう意味で、
「ドラフトにおける育成指名の制度は、大成功ではないだろうか?」
と言われている。
逆にいえば、
「ドラフトでの改革の中で、成功したといえるのは、この育成制度しかないのではないだろうか?」
ともいえるだろう。
また、プロ野球を取り巻く環境として、前述の、
「独立リーグ」
というものができたのも大きかっただろう。
位置づけとしては、アマチュア野球の中で、
「プロ選手を目指す選手を育成する」
という目的を持ったという意味で、出現は大きなセンセーショナルを呼んだものだった。
学生野球などから、ドラフトにかからなかった選手が、プロを目指して、そのワンクッションとして所属していたり、逆にプロ球団に所属していたが、球団側から、
「来年の契約は行わない」
という最後通牒を言い渡され、中には、転職を考える選手もいるだろうが、
「現役続行」
というものを強く望む選手もいる。
「いや、現役続行を望む選手の方が、圧倒的に多いのではないだろうか?」
と言われている。
まずは、他球団から声がかかるのを待って掛からなければ、シーズン終了後に、同じように、球団側から、
「最後通牒」
を言い渡され、現役続行に未練のある選手は、そこで、
「トライアウト」
というものを受けることになる。
そこで契約をしていいという球団があればいいのだが、そこで落ちた選手は、外国、特に、韓国、台湾のプロ野球を目指すという選手もいるが、独立リーグで実績をあげ、またプロと、契約を結べるような努力するという選手も多いだろう。
そういう意味で、プロ野球を中心とした野球というものが、膨らんできたといってもいいだろう。
昔は、トライアウトなどというのもなく、各球団に自分を売り込んだりして、一般的には、自費でそのチームのキャンプに参加し、指揮官たちがその合否を決めるということが、自由契約となった選手の唯一といってもいい、プロでの現役続行だった。
昔は、アマチュア野球と、プロ野球との間での確執がかなりあり、その溝は深かったことで、
「プロ球界に関わった選手、監督スタッフは、すぐに、アマチュア野球をするということはできない」
というのが通説だったが、今では、独立リーグなどというクラブチームがあることで、選手が、プロ野球復帰に向けて、
「浪人する」
ということはなくなったのだ。
独立リーグ制というのは、結構いいものなのかも知れない。
特にチームとしては、下からと上から同時に入団してくるのだから、その強みはあるというものだろう。しかも目的が、
「プロ選手の養成」
ということなのだから、選手層が厚いということは、それだけ選手も切磋琢磨するということで、育成という意味では、いいことなのだろう。
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