第56話 サムライ、ちょっと調子に乗る
突然降り始めた雨。
その雨は止むこともなく降り続き、次第に地面へと激しく叩きつける程の大雨となる。それと同時に空は荒れ狂い、稲光が走り始めた。
「本降りになったでござるな。」
マジックテントから出、結界内にて外の様子を見ていたムネカゲは、当分止むことの無い雨を見ていた。
この場所は、左に小高い山があり、右手には森が続いている。
そんな場所で、暫くボーっと空を見ていたムネカゲは、ふと思い出す。
「確か、先般覚えた襲雷は、手から稲妻が出たのでござったな……。」
ゴブリンジャーマンの放ったライトニングボルトを真似て放った魔法。それは、ムネカゲの左手より放たれ、そしてゴブリンジャーマンへと命中した。
しかし、今空を賑やかしているのは、地面へと向かって落ちる雷光だ。
「あれをこう、もっと広範囲に放つ事は出来ないのでござろうか?」
そう、サラニ村に大量のゴブリンが現れた際、一匹ずつ斬り捨てるのが物凄く手間だったのだ。
「感じとすれば、今鳴り響いている落雷がドンドーンっと数本程は落ちる感じでござるが……。」
そう言いつつムネカゲは、テントへと被害が出ない様に山の向こうへと向け、雷が幾つも落ちるイメージを思い浮かべながら魔力を練り放つ。
するとすぐに≪ピコーン!魔法スキル:雷霆を会得した≫と頭にメッセージが流れると共に、離れた山の向こう側へと雷が落ちる。
「いや、違うのでござる。こう一本では無く、数本纏めて放ちたいのでござるよ。」
雷霆と言う魔法を覚えたが、ムネカゲの思っているイメージとは異なるものに、ムネカゲは歯噛みする。
「先程の雷が、もっと複数本落ちる感じなのでござるが……。」
ムネカゲはそう言うと、再び山の向こう側へと落とすイメージで再度魔法を放つ。
≪ピコーン!魔法スキル:雷轟を会得した≫
その音と共に、空から幾本もの稲妻が、山の向こう側へと落ちる。
「おお!これでござるよ!しかし惜しむらくは、もう少し数が欲しいでござる。」
そう思ったムネカゲは、再びイメージをすると山の向こうへと魔法を放つ。
悪天候により魔法のイメージのしやすい環境が生まれ、これ見よがしにはしゃぎながら色々と試したムネカゲは、その後多少身体の不調――魔力切れ――を覚えたものの、キーラが「夕食の支度が整った」と言って来るまでの間に幾つかの魔法を覚える事に成功はした。
そう、覚えはしたのだが、その裏で甚大なる被害を出した事をムネカゲは知らない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ムネカゲがこれ見よがしに雷魔法の習得をしていた少し前、別の場所ではボルドック国の兵士達が突然の雨に降られ、兵士達が野営の準備に追われていた。
「しかし、この時期にこの雨とは……。兵達の士気に影響が無ければよいのだが。」
「そうですな。しかし、ダービッド伯。アッセン程度、我ら三領の兵だけでも落とせるのでは?」
「然り、然り!陛下も、何をお考えなのか。全領、全軍を以てしてアッセンを討ち落とすと仰られるとは!」
立派な天幕内にてそう話すのは、ボルドック北部の町を収める三領の貴族達である。
「ベルトルド殿の言われる通り、アッセン程度、我ら三領の兵五千を以てすれば三日で落とせよう。」
そう豪語するのは、トンバールから西へ二つ目の町を治める、ブレダム領ダーヴィド伯爵だ。
年の頃は四十代。口元には立派なカイゼル髭を蓄えたナイスミドルだ。
国内に敵う者無しとまで言われた武人であり、その体躯はやはり武人そのものだ。
ちなみにブレダム領の人口は約四万人。今回の出兵で二千五百人もの兵を出している。
「はっはっは。流石はダービッド殿。国一番の剣の腕前と呼ばれるだけあって、剛毅ですな。ダービッド殿が居るだけで、アッセン国の者共は震えあがってしまうでしょう!」
そう話すのは、トンバールの西にあるホールド領ベルトルド子爵。
年の頃は、三十代前半。スラリとした長身で、体躯もダービッドに引けを取らない程だ。口髭と顎髭を蓄えており、見るからに強そうと言う感じだ。
ホールド領の人口は、約三万人。今回の出兵で、千五百人を連れて出兵している。
そしてこの二人は隣同士と言う事と、お互いが武人であると言う事で仲が良い。
「左様、左様。ダービッド殿がいらっしゃるだけで、もう勝ったも同然で御座いましょう!」
あまり二人に相手されていないのは、ブレダム領とホールド領の中間から南へと向かった先にある、ブレソン領ビョルン男爵。
年の頃はベルトルドよりは少し上で、三十代後半。ただ、ダービッドやベルトルドとは違い、その体格は中肉中背。頭は少し禿掛かっており、どこからどう見ても戦場へと立つような人物ではない。
それもその筈で体格を見ればわかる通り、ダービッドやベルトルドの様に武芸に秀でている訳でも無く、どちらかと言えば金勘定を好んでやるような人物である。ではなぜそんな人物がこの場に居るのか。その理由は、息子はいるがまだ成人していないからだ。
ダービッドやベルトルドは、本人がある程度武力を持っている為戦場へと出て来ているのだが、ビョルンにはそれが無い。代わりに出せる息子自体が、まだ成人していないのだから本人が出るしか無いのだ。なので、今回のこの戦、ビョルン本人は国王へのヨイショの為に半ば嫌々参加しているだけなのだ。
それが分かっているからこそ、ダービッドとベルトルドは相手にしていない。
それと、もう一つ理由がある。
それは、道すがらたまたまブレダム領軍と一緒になり、それに同隊。その後ブレダム領軍とホールド領軍が合流したからだ。
ブレダム領軍とホールド領軍は示し合わせていたのだが、まるで謀ったかのようにそれに合流。同隊しただけの金魚のフンなのだ。実際、ビョルンはそうなるように出陣をしているのだが。
とは言え、ビョルンは国都へと向かう際に必ず通る町の領主。隣の領との付き合いも大切なのであるから、二人共無下には出来ないのだ。
そんなブレソン領は、人口約一万人の小さな町だ。ビョルンが率いている軍も、五百名と少ない。
「ふむ。とは言え陛下から全軍にてアッセンを攻め落とすとの下知が下っている以上、我らだけで先走る訳にもいくまい。ここは大人しく、他の領軍が到着するのを待つしかないであろう。」
「伯がそう仰られるのであれば、致し方なしですな。それよりも、この鬱陶しい雨はいつまで続くのやら。」
雨が天幕に激しく打ち付けるその音を聞きながら、三人はテーブルへと出されたワインを飲もうと手を伸ばしたその時だ。
バーンッ!と言う物凄い音が聞こえたと思ったら、天幕の外が俄かに騒がしくなる。
音がした瞬間、ダービッドとベルトルドは咄嗟に腰の剣の柄へと手を当て、ビョルンは驚き椅子から飛び跳ねる。
「何事だ!敵襲か!?」
ダービッドは天幕の外に居る者へとそう叫ぶ。
敵襲かと言ったものの、ここはまだ戦場ではない。そもそも、まだ戦端は開かれていないのだから、敵軍がここまで入り込んでいる事は先ず無いだろう。
「では、一体何が起こった?」ダービッドは頭の中で疑問に思う。
「ほ、報告します!突然、陣幕へと雷が落ち、その雷によって火事が起こっております!火は周りへと飛び火し、目下消火作業の最中です!」
運悪く、雷が落ちただけの様だ。それを聞いたダービッドとベルトルドは、的確に指示を出し再び椅子へと座る。
「全く。雷如きで右往左往するとは。」
「全くその通りでございますな。」
ダービッドとベルトルドは、そう話しながらワインの入ったゴブレットを手に取る。
そして互いに口を付けようとした時だ。
再びバーンッ!と言う轟音と共に、今度はバリバリバリと言う音が聞こえる。
二人は「またか。」と思うのだったが、今度は先程とは少し様子が違った。
三人が居る天幕の外が、ぼんやりとオレンジ色に染まっているのだ。
それに気が付いたダービッドは、ゴブレットを放り出すと慌てて天幕の外へと出る。
そしてその光景に固唾を飲んだ。
「なっ……一体、何が起こっているのだ……。」
ダービッドの目に飛び込んで来たのは、辺り一面の火の海。そして地面に倒れる黒焦げとなった兵士達の姿であった。
「こ、これは一体……。」
ダービッドが慌てて天幕へと出たのを追ったベルトルドもまた、その光景に唖然とする。
そしてその二人の目の前で、三度目の轟音が鳴り響く。その轟音と共に、天から幾本もの雷の柱が地上へと落ちた。
それを見たダービッドは、その場にへたり込むと頭を抱え地面へと頭をぶつけ始める。
「ダービッド伯!」
「神の怒りだ。我が国がアッセンを滅ぼそうとしている事を、神がお怒りになられているのだ!これは神の裁きなのだぁ!」
ダービッドは狂ったように地面へと頭をぶつける。それを必死に止めるベルトルド。ビョルンは漸く天幕から姿を現し、その惨状を目の当たりにする。
それ以降、数度程雷が落ちたが、それ以上の損害が出る事は無かった。その時点で、結構な数の兵士が死に絶え、天幕が焼かれているのだから当然だ。
結果、総勢五千の兵の内、半数の二千五百人もの兵達が雷に打たれ、または火事で焼かれて亡くなった。
翌日、雨の上がった野営地では、死んだ兵達の埋葬が行われ、その後陣を引き払った三領主は、国王への使いを出した後に領土へと帰還した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
自身の行った行為で、そんな大事になっているとは終ぞ知らないムネカゲは、翌日。意気揚々とトンバールへと向かって歩いていた。
トンバールまでは、約半日。何事も起こらなければ、昼過ぎには到着する予定だ。
とは言え、一応カエデの為に簡単な依頼を受けているムネカゲ達だ。途中で、薬草採取やらホーンラビットの捕獲などをしながら進む。
そんな一行が、昼を食べる為に街道を外れた時の事だ。
ムネカゲの気配察知に、複数人の反応が現れる。
「盗賊でござろうか?」
ムネカゲはそう言うと首を傾げる。
その反応と言うのは、こちらに敵意があるとも、無いとも感じ取れるのだ。
例えば、これが明確に殺意を以て敵対する者であれば、警告とも取れるような
しかし現在ムネカゲ達を取り囲むようにして近付いて来る者達には、そのけたたましさが全く無いのだ。
とは言え、全く殺意が無いのかと言うとそれは違う。殺意はあるのだ。しかしそこまでの殺意を持っている訳では無く、どちらかと言えば憎悪に近い感じだ。
そんな事を考えていると、キーラも気付いたのだろう。「ご主人様!」と一言言うと、剣を抜きカエデを抱き抱える。
「囲まれているでござるな。」
ムネカゲも腰の刀の柄に手を掛けると、キーラの背中を守る位置へと立つ。
緊迫した空気の中、ムネカゲ達の前へと現れたのは、以前アッセン国第二王女の乗る馬車を襲撃した黒装束の男達であった。
名前:ムネカゲ
年齢:25歳
称号:異世界からの稀人
職業:剣士
取得スキル:刀術、槍術、騎乗、雷魔法、雷耐性、強運、気配察知、瞬歩、身体強化、投擲、瞑想、無詠唱、解体、気配遮断、夜目
魔法スキル:
武技スキル:雷斬り、飛斬
固有スキル:言語翻訳、収納、鑑定
エクストラスキル:武魔の才
・襲雷
所謂、ライトニングボルト。
相手へと一直線に飛来し、それを受けた者を感電させる。
場合によっては、その一撃で死に至る場合もある。
・雷霆
所謂、サンダー。
雷を落とす。
・雷轟
雷霆の上位版。
幾本かの雷を落とす。
・天雷
雷轟の上位版
天の禍かと思える程の雷を落とす。
・雷鳥
雷で形成された鳥を召喚する。
・雷獣
雷で形成された獣を召喚する。
・雷壁
雷の壁を作る。
・雷槍
雷で出来た槍を形成する。
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