第53話 サムライ、魔法を覚える

 見張のゴブリンを飛斬にて同時に倒したムネカゲは、キーラと共に洞窟の入り口から中の様子を伺う。


うろの中だからでござろうか、拙者の気配察知の反応が薄いでござる。キーラは如何でござるか?」


 しかし、一応の反応が有るにはあるのだが、洞窟の中だからなのか、反応自体が薄く中に何匹居るのかが分からない。


「ご主人様と一緒です。居る事は分かるのですが、場所まで遠いいのか、正確には分からないですね。」


 キーラの鼻もゴブリンが居ること自体は分かるが、それが何匹かとまでは分からない。


「そうでござるか。では致し方無い、このまま中へ入るでござる。」


 ムネカゲとキーラは頷き合うと、洞窟の中へと足を踏み込む。

 洞窟の中はゴブリン達に踏み固められたのであろう、地面の土はしっかりとしており歩き易い。

 入り口から暫く進むと、地面が岩と変わり、斜め下へと降りて行く。

 滑らないように気を付けながら岩肌を降りて行くと、目の前に広い空間が広がった。

 その空間は、長年掛けて出来たのであろう鍾乳洞と化しており、高さ10mはありそうな天井からは、水滴がポチャッポチャッと落ちている。


「これは凄いでござるな……。」


 ぐるりと見渡したその神秘的な空間に、感嘆のため息が出る。

 暫くその風景に魅入られていたムネカゲとキーラであったが、ふと現実に引き戻される。


「居るでござるな。」


「ええ。奥の方に。」


 先程洞窟の入り口では分からなかったのだが、今は二人の脳と鼻に引っ掛かっている。

 その反応の場所は、降りて来た通路の反対側だ。


「数は大凡二十くらいでござるかな。」

 

 大凡でしか分からないのは、ゴブリンであろう小さな反応が一ヶ所に纏まり折り重なっている為、正確な数が分かり辛いからだ。ただ、確実にそれなりの数が居るのは分かる。

 まあ、ボブゴブリンを取り逃した際にゴブリンも数匹取り逃している訳だし、あれが全部だとは断定は出来ないので、それなりの数が居る事に関しては想定の範囲内なのだが。


 ムネカゲとキーラは武器を抜き放つと、足場の悪く広い

空間を歩き、通路を目指す。

 ゴブリン共はやはり寝ているのだろう、ムネカゲ達の事には気付いつていないようだ。

 それでも慎重に歩を進める二人は、暫くすると先程と同じような空間に出た。


「もう少し多いでござるかな?」


 通路の陰に隠れ広場を伺うと、やはりと言えばいいのか、ゴブリン達は手前の方で一ヶ所へと集まり、丸まって寝ている。その数は、凡そ二十戦後。

 そしてそのゴブリン達が寝ている場所より少し奥まった場所には、ボブゴブリンが一段高い場所に横になっている。

 しかし、それ以外に目を見張るものがそこにはあった。


「あれは祭壇でござるか?」

 

 そう、ボブゴブリンが寝ている場所の横に、祭壇らしき物があるのだ。


「確かに祭壇ですね。ご主人様、祭壇があるとなると、確実にゴブリンシャーマンが居る可能性があります。」


「ゴブリンシャーマン?」

 

 ゴブリンシャーマンとは、ゴブリンメイジより上位の魔物であり、メイジよりも高等多彩な魔法攻撃をしてくる、ある意味ゴブリンの中ではキングに次に厄介な魔物だ。

 シャーマンがその群れに居るかどうかは、魔物や人の骨で作られた祭壇が巣の中に有るか無いかですぐに分かる。

 今回の場合は、目に見える場所に祭壇らしき物があるので、シャーマンが確実にこの集団の中にいるだろう。そして、ゴブリンシャーマンが居ると、必ずと言っていいほどキングかホブゴブリンが居るのが確定となる。

 とは言え、今回はシャーマンの発見より先に、ホブゴブリンが発見されていたのでキーラ自身もシャーマンの存在は頭に無かった。

 ちなみに、キングが居る場合は、ジェネラルやファイター、メイジにアーチャーと言ったゴブリンが生まれ、その四種に統率されたゴブリンが相手となる。

 その脅威度は討伐ランクCで、複数パーティーの依頼案件となるだろう。

 一方のホブゴブリンの場合は、四種のゴブリンは生まれない代わりに、ホブゴブリン自体に狡猾こうかつさに加えて知能がプラスされている為、非常に狡賢くずるがしこくなる。そのホブゴブリンに率いられたゴブリンもまた、同様の行動を取るようになるのだ。

 ホブゴブリンの討伐ランクはDであり、やはり複数パーティー案件だ。キングよりはホブゴブリンの方が脅威度は下がるのだが、両方共厄介な事には変わりない。


「成る程でござる。では、先にゴブリンシャーマンを倒した方が良いのでござるな?」


「ええ。ご主人様も私も魔法が使えませんので、シャーマンを先ず倒してしまった方が良いと思います。」


 そのようにキーラは言うが、ムネカゲは魔法が使えない訳ではない。使う事は出来るのだが、未だ使い方と言うかイメージが出来ないだけだ。

 とは言え、有る程度の作戦は決まった。後は、この空間内に居るゴブリン共を殲滅するだけだ。

 しかし、ここで一つ問題が発生する。


「分かったでござる。しかし、シャーマンはどいつでござろうか?」


 そう、ゴブリンシャーマンが何処に居るのかが分からないのだ。

 ムネカゲからしてみると、今まで散々にゴブリンは見て来たのでゴブリンは分かる。ホブゴブリンも先日相対したので、ゴブリンとの見分けはつく。しかし、ゴブリンシャーマンは初めての敵であり、ゴブリンとの違いが分からないのだ。

 

「ゴブリンシャーマンの体躯はゴブリンと同等です。しかし、一点違いがあるとすれば、骨で作られた首飾りを掛け頭には同じく骨の頭蓋を被っているはずです。」

 

「骨の首飾りと、骨の被り物でござるな?」


 ムネカゲはキーラの言葉を繰り返し、「よしっ!」と気合を入れると、ゴブリン達が寝ている広場へと躍り出る。

 広場へと躍り出たムネカゲとキーラは、先ずは手前で寝ているゴブリンへと剣を振るう。寝ていたゴブリン達は、突然の襲撃者への対応が遅れ、次々とその刃に倒れる。

 ムネカゲはそのままその場をキーラに任せ、ホブゴブリンの寝ている場所へと走る。

 その際に、キーラの言っていたゴブリンシャーマンを探すが、それらしき姿が無い。

 ムネカゲ達の襲撃の音でホブゴブリンは既に起き上がっており、傍らに置いてあった武器を手にしようとしていた。しかしムネカゲの方が早く、ホブゴブリンが剣を構える前には、雷紫電を振り上げ斬りかかろうとしていた。

 その時だ。丁度ムネカゲの左側。祭壇の裏から、キーラの言っていた通りの骨の首飾りに狼系の魔物の頭蓋だろう被り物を被ったゴブリンが姿を現した。そして、右手に持つ杖をムネカゲへと向けて、魔法を放つ。


「グギャギャ!」


 杖の先から迸る雷撃。

 ムネカゲは既にホブゴブリンへと斬りかかる体制の為、それを避けることが出来ずモロに食らってしまう。

 その一撃でムネカゲは一瞬体が硬直してしまったが、それ程のダメージを喰らってはいない。

 シャーマンが放ったのは、ライトニングボルトの魔法。そしてムネカゲには雷耐性がある。そう、全く効いてはいなかったのだ。


「あ、焦ったでござる……。成程、これが雷に対する耐性でござるな。そして今のが雷魔法!稲妻が如き形で魔法を放てば良いのでござるな!」


 ゴブリンシャーマンは、大技である魔法を放ったにも拘らず、ピンピンしているムネカゲに、驚きの表情となる。

 

「お陰で、何となくのイメージが分かったでござるよ!」


 ムネカゲはそう言いながら左手を翳すと、先程のライトニングボルトをイメージし、ゴブリンシャーマンへと放った。


 ≪ピコーン!魔法スキル:襲雷しゅうらいを会得した≫


 襲雷に打たれたゴブリンシャーマンは、その身を焦がし、体中から煙をプスプスと上げながら前のめりで倒れる。

 初めて覚えた雷魔法。その余韻に浸りたい所ではあるが、目の前にはボロボロの剣を振り上げたホブゴブリンがいる。

 振り下ろされる剣を前に、ムネカゲは瞬歩を使いホブゴブリンの一撃を躱し背後へと回り込むと、振り向きざまに刀を横一文字に薙ぐ。


「グギャッ!」


 ホブゴブリンは、背中を斬られて悲鳴を上げる。

 ムネカゲは刀を手元へと引き寄せると、そのままホブゴブリンの首元へと刀を突き刺した。

 


 ムネカゲがゴブリンシャーマンとホブゴブリンと戦っている中、キーラはゴブリンを掃討するだけの簡単なお仕事をしていた。

 そのお仕事とは、突然起こされて、武器も持たず混乱の境地となっているゴブリンを、大剣で切り刻むだけだ。

 ただ、気を付けなければならないのは、一匹足りとて逃がしてはならず、決して通路の方へは行かさない事だった。

 とは言えそこは元とは言え、Cランクの冒険者であるキーラだ。大剣を振り回し、一刀で複数のゴブリンをなぎ倒していく。

 それこそ寝ていても出来る、作業の様なものである。

 ゴブリンの殲滅が完了した頃には、ムネカゲの方もケリが付いており、二人は広場中央で落ち合う。


「こちらは終わりました。」


「こちらも終わったでござるよ。」

 

 お互いがそう言うと、二人は周りを見渡す。

 まあ、死屍累々な状況だ。

 これ以上奥に行く通路も無い事から、ここが最奥となるのであろう。ムネカゲの気配察知にも、他にゴブリンなどの魔物がいない事が分かる。

 これ以上やる事も無いので、二人は手分けをしてゴブリンの討伐証明と魔石の剥ぎ取りを始める。

 そう手間を掛ける事もなく二十匹の剥ぎ取りを終えた後、キーラがムネカゲへと告げる。


「ご主人様、ホブゴブリンとシャーマンの遺骸は、そのまま持ち帰りギルドへと提出した方が良いでしょう。」

 

 そう言いながら、ホブゴブリンとシャーマンの方を見る。

 今回の依頼、蓋を開ければ依頼内容が全く異なる為、依頼自体の訂正をしなければならない。その時の証拠として、この二匹の遺骸は役に立つはずだ。キーラはそう言いたいのだ。


「そうでござるな。では、拙者の収納へと仕舞っておくでござる。」


 ムネカゲはそう言うと、黒焦げとなったシャーマンと、未だ首から血をドクドクと流しているホブゴブリンの遺骸を収納へと仕舞う。


 ゴブリンの死骸を一所に集め、来る時に持っていた松明に火を付けると、それをゴブリンの積まれている場所へと突き刺す。

 キーラ曰く、このまま放置すると、アンデットになるので、そうならないように焼かなければならないらしい。

 そう言われたムネカゲは、「では、村の外に放置して来たゴブリンはどうしたのでござるか?」とキーラに聞いた。


「あれは、村の人達がちゃんと焼いておりますから、心配は不要です。そもそも、ご主人様がやる事ではありませんし。」


 と、軽く言われてしまった。


 

 ・襲雷

 所謂、ライトニングボルト。

 相手へと一直線に飛来し、それを受けた者を感電させる。

 場合によっては、その一撃で死に至る場合もある。

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