第38話 サムライ、運が故に
北の迷宮に入り九日目。ムネカゲ達はようやく迷宮を離脱する。
離脱するまでに戦ったボスの回数は、他の冒険者達との兼ね合いもあり14回。
あれ以降、白金宝箱こそ出なかったが、金宝箱や銀宝箱が出現。ダング達に「普通、こんなに金箱は出ねえよな?銅か銀がせいぜいだろ?」と言われ、確率的な所でやはりムネカゲの強運が作用されているのでは無いか?と言う結論となる。
とは言え、ダング達からしてみれば、ホクホクの結果となった。
それはそうだろう。武器に防具、宝石貴金属に魔導具が多数手に入れている。
お金の入った袋だけでもかなりの額になる上に、全員――ムネカゲ以外――の装備が戦利品の中だけで一通り新調出来るのだ。
更には、不要な武器防具類や宝石などを売れば、相当な額となるのだから笑いが止まらない。
急いで自宅へと戻り、全ての品をムネカゲが鑑定。一人ずつ欲しい物を取り、残りは売る事に。
そんな中ムネカゲが貰った物は、人頭大のミスリル鉱石、ミスリル製の槍が三本。後は、「何処かで売れば金になるだろう。」と言う理由で宝石を五つだ。
刀や鎧甲冑があれば貰ったのであろうが、そんな物は宝箱には入ってはいなかった。それに、他にも武器等はあったのだが、流石に必要無い。そもそも先の三本の槍でさえムネカゲは「要らない」と言ったのだ。しかしダングから「そう言う訳にはいかん、いずれ役に立つだろうから貰っとけ!」と言われ渋々受け取ったのだ。
そんな武器など以外にも、ダング達が喜んだ物があった。それは、マジックバックを六つ手に入れた事だた。しかも、大中小と各サイズだ。流石、金宝箱だ。
「マジックバックの大はパーティーの為に使おう。残りの中と小だが、どれが欲しいか言ってくれ。」
そう言って机の上に並べられるマジックバック。大は麻袋程の大きさがあり、今後の迷宮探索の為にパーティー全体で使うそうだ。
残った中と小だが、中は巾着タイプと、鞄の様になっている物だ。小は、ベルトへと通せる様になっている長方形のポーチが二つと、巾着。
収納のあるムネカゲには必要のない物なので、黙って見ていた。
最終的に、鞄タイプはカズンが、中サイズの巾着はダングが。ポーチはそれぞれアーベルとアネッテが取る。
そして残った巾着がムネカゲの手元に置かれた。
「拙者、必要無いでござるが?」
何故自分の所に置かれたのか分からないムネカゲは、首を傾げる。
「いや、必要なくとも、戦利品の分配なんだから貰っておけ。と言うより、お前は欲が無さすぎるんだよ!ちったぁ、欲しい物を取れよ。いつも俺達ばかりが貰ってんじゃねえかよ!」
そして、ダングに怒られる。
「そう言われても困るでござるよ。拙者には、家宝の刀や槍があるのでござる。それに、こちらの世界の剣と言う物は、使い辛いのでござる。甲冑もこちらの世界の物は使い辛いのでござるよ。」
「剛に従えば〜」と言う言葉があるが、ムネカゲの場合は「従わず〜」であり、使い慣れ、着慣れている物以外は認めない。
しかしそこでムネカゲは閃く。
「そうでござる。どうせ選ぶのでござるなら、カエデとキーラの武器を貰うでござるよ。」
ムネカゲはそう言うと、余っている武器の中から両刃の大剣とショートソードを一振り選ぶ。
両刃の大剣は、鋼とミスリルの混合で、装備すると素早さに補正が付くと言う物。これはキーラへと渡すつもりだ。
ショートソードの方は、単なる鋼の剣だ。カエデ用なのだから、当面はこんなので十分である。
ただ、流石に今現時点でカエデに剣などは渡せないので、ムネカゲの収納入りとなった。二本の剣を手にしたムネカゲは、キーラを呼ぶと大剣とマジックバックを手渡す。
「色々と荷物が多くなって大変でござろうし、キーラ殿にこれを渡しておくでござるよ。後、これは拙者からの贈り物でござる。」
「ご主人様、有り難く頂戴致します。」
キーラは片膝を突き、ムネカゲから大剣とマジックバックを受け取った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌日、今まで貯めていた迷宮での戦利品を売却する為、ムネカゲ達はギルドへと向かった。
ただ、ギルドで出すのは各種魔石やブルー、レッド、ブラックの各種オーガくらいだ。素材回収依頼もこの三種の素材だったらしい。
気になる武器や防具、その他宝石貴金属に魔導具などはどうするのかと言えば、魔導具屋や武器、防具屋に直接売却するのだそうだ。ギルドで売却してもいいのだが、やはり専門の店とギルドでは値段がかなり違うらしい。
売ったら幾らになるか?などと話しつつ、大通りを歩き、冒険者ギルドへとやって来た一行は、受付で依頼完了の報告をする。
「では、素材をお出し下さい。」
まさか丸々一体を持って来ているとは思わない受付嬢は、「カウンターへどうぞ」と手で示す。
それを見たダングは、申し訳無さそうに返事を返す。
「あ〜、すまんが、丸々だ。それが数十体。ここには出せねえな。」
ダングが受付嬢へとそう返すと、受付嬢は目で合図をし、慌てて倉庫へと案内する。
倉庫へとやって来た一行は、「こちらへお願いします」と言われた場所へとオーガの死骸を出して行く。
その数、ブルーオーガ14、レッドオーガ10、ブラックオーガ12体だ。
流石にボス部屋のブラックオーガは持ち帰えれてはいない。だが、ドロップ品はあるので、魔石やら皮、腱も含めて全てを出した。
その量に驚くギルド職員。
流石に今直ぐにとは行かないとの事らしく、「査定は明日の昼頃に」と言われてギルドを出る。
その後向かった魔導具店でスクロールやら魔導具やらを売却。一番高かったのが、小型の魔導冷蔵庫。これ一つで大金貨6枚だった。
全てを売り払い、売却金を受け取り店を出る。
その後、武器屋と防具屋を回り、不必要な物を売却。結構な金額となった。武器防具を売却すると、今度は商業ギルドへと向かう。やはり商業ギルドでも、その場での査定は無理だと言う事で、宝石、貴金属を預けて家へと帰る。
翌日、冒険者ギルドは昼頃なので、全員で商業ギルドから回る事に。
宝石貴金属だが、総額で金貨25枚、銀貨43枚だった。受け取りのサインをダングがし、売却金を受け取ると今度は冒険者ギルドへと向かう。
「お待たせ致しました。精算額は、金貨13枚銀貨36枚、銅貨48枚となります。依頼達成総数は14となります。ギルドカードを。」
全員がギルドカードを提出し、達成総数が上書きされる。
「はい、完了しました。またよろしくお願い致します。」
カードを受け取りギルドを出ると、一行は家路へと就いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それからの日々は、迷宮に数日間潜り、二日休んでまた迷宮へと潜るを繰り返した。
階層も二十階層まで行く事が出来、そこを拠点にボスループをする事となる。ちなみにボスは、ヘルミノタウロスと言う、体長4mもある真っ赤なミノタウロスだ。
巨大な斧を振り回してくるが、当たりさえしなければ何の問題も無い。そして、単独で出てくるので、孤高の狼からするとカモでしか無い。
そんな事を繰り返すダングに、ムネカゲは「何故ボスループをするのか」と聞いてみた。すると返ってきた返答は、「いつまでも冒険者はやってらんねえ。引退した後の事を考えると、稼げる時に稼いどかなきゃなんねえからな。」と言う堅実的な答えが返ってきた。
要は、金がなきゃ生きてけねえだろ?と言う事らしい。
そんな孤高の狼だが、ムネカゲの運も手伝ってか、懐は常に温かかった。装備もその都度新調――ムネカゲ以外――しつつも、迷宮に入り浸っていたある日の事。
ギルドへと依頼達成報告に行くと、ギルド内が何やら騒めき立っていた。
「何かあったのか?」
手続きをする為、受付へと向かったダングが、受付嬢へとそう聞く。
「はい、オルスタビア王国が、西のロクリフ国へ宣戦布告をしたのです。それに伴い、冒険者の参加要請が入りました。それでギルド内が騒めいているのです。」
内容としたら、「参加資格はEランク以上。戦争に参加している間、一日につき大銅貨一枚が支払われる。募集しているのは、ここブロスの領主であるフィデル・ブロス伯爵。参加締切は三日後の昼。」そんな内容だ。
「ふ〜ん。」
それを聞いたダングは、興味が無さそうだ。
「参加するのでござるか?」
そんなダングに、ムネカゲは念の為に聞いてみる。
「いや。参加はしねえ。そもそも、戦争が嫌でこっちまで退避して来たんだからな。それに、隣のロクリフなら、態々俺達冒険者が出張らなくても、国軍と領兵だけで何とかなるはずだがな?募集を掛ける意味が分からねえ」
ダングはそう答える。
そもそもオルスタビア王国は、三方を海に囲まれた南北に長い領土だ。元々は、その長い領土のど真ん中にあった国で、そこから南を制圧し北へと伸びて来たのだ。
そんなオルスタビア王国の西にあるのがロクリフ国で、領土的にはオルスタビア王国に陸地を囲まれている。
そのロクリフ国唯一の逃げ場が海であり、その海を使い他国との交易を行う事で何とか生き延びて来た。
しかし、オルスタビア王国としては、早々に大陸南側を平定し、北へと全兵力を集中したいのだろう。それには、ロクリフが邪魔なのだ。そんな理由から、今回の戦線布告となった。
とは言え、ダングの言う通り、国軍と領兵が出張ればロクリフは太刀打ち出来ないはずだ。
例えばここブロスの街で言えば、人口はおよそ13万人。その内の約一割が領兵として考えると、兵数約一万三千人。その全てが戦争に行けないので三千人を領に残すとしても、一万人規模の軍となる。
ロクリフの町の数は首都を入れて大小13か所。対するオルスタビア王国は、大小の街が45か所もあるのだ。兵総数で言っても、ロクリフは太刀打ち出来るような相手では無い。
そこに冒険者を入れようとしたのは、単なる派閥争いによる見栄からだ。
要は、ランクの高い冒険者が参加してくれ、自領の兵士として活躍してくれれば、自分への評価が上がる。そう言う意図があるのだ。
ただ悲しいかな、領主と言えども冒険者ギルドに対して強制が出来ない。と言ったところか。だからこそ、自主的参加を求めるしか無いのだ。
「まあ、ウチは当分迷宮巡りだな。今の内に稼げるだけ稼いでおきたいしな。」
既に、相当な稼ぎを出している孤高の狼。
それもこれも、ムネカゲの「強運」故ではあるが、「いずれムネカゲはこのパーティーを去るだろう」と思っているダングからしてみると、今の内に稼げるだけ稼いでおきたいのが本音だった。
そんな思惑を抱えた一行は、ギルドの喧噪から離れると、借家へと向かって歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます