第37話 サムライ、迷宮へと入る⑤

 迷宮七階層。六階層と同じく、迷路の階層だ。

 出て来る魔物はブルーオーガ。通常種のオーガより少し強くなる。

 そんな七階層へと下りて直ぐ、ダングがムネカゲへと向き口を開く。


「ムネカゲ。ここからは、オーガを倒したら消える前にその死骸を収納へと入れてくれ。」


 迷宮の通路を歩き出したダングが唐突にそう言って来た。


「消える前にでござるか?」


 何故その様な事を言うのか、理由の分からないムネカゲは聞き返す。


「ああ。本来、迷宮内で倒した魔物は、迷宮に吸収されドロップ品が現れる。だが、吸収される前に魔法袋や収納へと入れられない訳じゃあねえ。そしてこの階以降に現れるオーガ。中級種と上級種の素材は、かなり高値で買い取られる。」


 ダングの説明では、通常種のも含めオーガの腱は弓の弦に。皮はその頑丈さから鎧やテント、野営時のマントなどに加工され、爪や角は武器に使用されるのだそうだ。

 ちなみに肉は、筋張って食べられたものではないらしい。


「収納がなけりゃドロップ品を待つしかねえが、せっかくムネカゲの収納があるんだ。ドロップを待つよりか、多少処分費は掛かるが、丸々一体持って帰る方が金になるだろ?」


「なるほど、畏まったでござるよ。」


 ムネカゲは了承し、一行は通路を進む。

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 ブルーオーガは皮膚が青く、力もオーガより少し強いかな?と言った感じであった。

 ムネカゲ的には、絵巻物に出て来る「青鬼?」かと思ったくらいだ。

 そんなブルーオーガは、通常種のオーガが倒せる一行からしてみると、そこまでの脅威ではなく苦戦することもない。

 出逢う端から倒しつつ、地図を見ながら八階層へと下りる階段へと辿り着く。

 ちなみに道中倒したブルーオーガの数は14体だ。


「今日はここまでだな。ゆっくり休み、明日下へ降りようか。」


 八階層へと下りる階段の周りは、少し開けた広場となっており他の冒険者パーティーが二組ほど野営をしていた。

 そこでムネカゲはふと頭に疑問が浮かぶ。


「そう言えばダング殿。拙者達が迷宮を進んでいた際、他の冒険者達は見かけなかったのでござる。しかし、ここには他の冒険者達がいるでござる。他の冒険者達はどの様にしてここに来たのでござるか?」


 六階層の時もそうだったが、迷路を進む際、他の冒険者達は居なかった。さらに言うと、迷宮内を進んでいた時にも、他の冒険者達と出会う事は無かったのだ。にも関わらず、安全地帯である階段広場には多くの冒険者達が居た。

 それは七階層も同様で、今も尚後続がやって来ているのだ。


「あ〜、それはだな。スタート地点が違うからだ。この迷路階層には複数の階段があり、他の冒険者とカチ合わない様になってる。どの階段に出るかは、完全ランダムだから、出口までは誰にも合わない。って訳だ。だからこそ、地図が無ければ進めないんだがな。何でこんな仕様になっているかは、俺には分からん。そう言うもんだと思っておけばいい。」


 五階層から下りて来た階段先が、何らかしらの力の作用で分岐。それぞれ別のルートを通り出口へと向かう。

 その出口は共通の様だが、これがどの様な仕組みなのかまでは、ダングにも分からないらしかった。


「なるほどでござる。迷宮とは、摩訶不思議な場所なのでござるな。」


 ダングの言葉に、何となく納得したムネカゲ。

 背嚢を下ろし、野営の準備を手伝い始める。

 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

 

 その後一行は順当に歩みを進め、八階層、九階層を踏破。目的地である十階層へと辿り着く。

 ちなみに八階層ではレッドオーガを10体、九階層ではブラックオーガを12体倒し、ムネカゲの収納へと仕舞ってある。

 ボス部屋の前には複数のパーティーが野営をしており、ダングが順番を聞いた所、五番目だと言う事が分かった。

 開いたスペースに陣取り、暫しの休憩タイム。

 そこでダングが口を開く。


「今までのオーガは、単体だったから問題なく倒せたが、ボスは複数体だ。しかも相手は、ブラックオーガだ。」


 ブラックオーガの強さを示すなら、オークで言えばジェネラルとキングの中間と言った感じだろうか。


「作戦としたら、俺、アーベル、アネッテで牽制。カズンは後方から魔法支援。ムネカゲは機を見て一体ずつ確実に仕留めろ。この中で、唯一致命傷を与えられるのはムネカゲだからな。俺達三人は、オーガを錯乱させながら、倒せそうなら一体ずつ確実にだ。オーガの攻撃を受けようとはするなよ!確実に避ける事。いいな?」


 ここまでの戦いは、オーガが単独で出て来た為、かなり楽勝であった。しかし、ボス戦は複数体であるので、注意が必要だとダングは言う。

 ダングの言葉に全員が頷き、暫くした後。前の組が終わったのであろう、ボス部屋の扉が「ギーッ」と音を立てて少しだけ開く。


「よし、俺たちの番だ。行くぞ!」


 ダングの掛け声と共に、ムネカゲ達は立ち上がるとボス部屋の扉へと向かう。

 重厚な扉を押して開き中へと入ると、部屋の中央に黒い皮膚をし、その手には棍棒ではなくバスターソードを握った、体長4mのオーガが5体現れる。そしてオーガが現れると同時に、背後の扉が閉まる。


「作戦通りに行くぞ!」


 ダングの叫びと共に、全員が行動に移る。

 ムネカゲ、ダング、アーベル、アネッテは武器を抜き放ちオーガへと走り出すと、それを見た5体のオーガは一斉に手に持つバスターソードを振り被る。

 カズンはその場で詠唱を開始。左端のオーガへと向けてファイヤージャベリンを放つ。

 魔法を嫌がるオーガは、腕をクロスして魔法を受ける。

 その間にダング達三人は三体のオーガへと肉薄。振り下ろされる剣を避け、オーガの足へと切り付ける。

 ムネカゲもまた、足に身体強化を施し瞬歩にて、一番右側のオーガへと一瞬で肉薄。オーガの手前で一瞬腰を落とし視界から消える。

 バスターソードを振り下ろそうとしていたオーガは、ムネカゲの姿を一瞬見失う。

 ムネカゲはその場で跳躍。オーガの目線まで飛び上がったムネカゲは、左肩に乗せていた刀を一閃。オーガの喉元をザックリと斬り裂く。

 ムネカゲの着地と同時に、鮮血を吹き出し倒れるオーガ。


「先ずは一体でござる!」


 ムネカゲは倒れゆくオーガを横目に見つつ、隣で戦うアネッテの援護に向かう。アネッテは、オーガの攻撃を軽いステップワークで避けつつも、足へと切り付けている。

 そこへムネカゲが加わる。

 真横からの雷斬りがオーガの膝を捕える。


「グォォォォ!」


 くぐもった声で叫ぶオーガ。感電し足に力が入らないのか、片膝を突く。その隙に刃を首へと突き刺したムネカゲは、次にアーベルの援護に入る。

 アーベルもまた、シーフらしくちょこまかと動き、オーガを翻弄していた。だが流石にダガーでは、硬い皮膚を持つオーガには致命傷は与えられないらしく、小傷を与えるに留まっていた。


「援護するでござるよ!」


「おう!有り難え!」


 そこへ殺傷能力の高いムネカゲが加わる。

 アーベルが翻弄し、その隙を突きムネカゲが攻撃をする。しかし、オーガもまたバスターソードを巧みに操り、ムネカゲの攻撃を往なしていく。

 オーガが足元でウロチョロとするアーベルを見、その隙に斬りかかるムネカゲへとバスターソードを向けたその時だ。オーガの顔で爆発が起こる。

 ムネカゲが横目でチラリと見ると、カズンがこちらに向けて杖を掲げているのが見えた。

 カズンは一体のオーガに集中して魔法を放っていたのだが、オーガが魔法を嫌がり、顔を背けた一瞬の隙を突きこちらへと援護射撃を行なったのだ。

 顔面に魔法を食らったオーガは、熱さと痛みに悶絶する。


「今でござる!」


 ムネカゲはそう言うと、オーガの背後へと回り込み、その巨体を支える足の腱を斬り裂く。

 腱を切られたオーガは、自重を支えることが出来なくなり、手からバスターソードを離すと、両手で地面に手を突き膝から崩れ落ちて行く。

 そこへアーベルが駆け込み、オーガの首へとダガーの振るう。時を同じくして、ムネカゲもまた反対側からオーガの首へと刀を振るう。

 左右から首を切られたオーガ。その切り口からブハッと血飛沫を撒き散らしながら地面へと崩れ落ちる。

 オーガが倒れたのを確認したムネカゲとアーベルは、次なるオーガへと向かう為に、周りを見渡す。

 ダングが相対しているオーガは、既にボロボロとなっており、倒れるのも時間の問題であった。

 残りの一体は、カズンが遠距離からの攻撃を加えつつ、アネッテがチクチクと翻弄する事で、その巨体に膝を突かせている所だった。


「これは、拙者達の出番は無いでござるかな?」


「ああ、もう終わるだろ。」


 二人は、逆に入る事で邪魔になりそうだと判断。オーガが倒れるのを見守る事に。

 その後、二体のオーガは無事に倒される。

 魔石やドロップ品を回収し、部屋の中央に現れた宝箱に全員の視線が釘付けとなる。


「これはまた……」


「流石に三回目となると、やはりムネカゲ殿の強運の所為としか思えないな。」


「そうなのでござるかな?」


「いや、そうに違いないだろ……」


「白金、白金♪」


 そう、宝箱は白身掛かった銀色をしていたのだ。

 

「いや、まあ、俺達にとっちゃ、喜ばしい事なんだがよ。流石にこうも続くと、ちょい怖いな。」


 ダングはそう言いながら宝箱を凝視する。


「とは言え、出ちゃった物は仕方がないだろ?早速開けてみるぜ?」


 そう言うとアーベルは宝箱へと近付き罠を調べ始める。

 針金を使いカチャカチャとやる事暫し。カチャリと鍵が開く音がすると、アーベルが満面の笑みで宝箱を開ける。

 白金色の宝箱は、金の宝箱と同様、中は真っ暗であった。念の為に、持って帰れるかを試したが、やはり宝箱はムネカゲの収納には入らなかった。

 気を取り直してアーベルが中に入っている物を取り出して行く。

 出て来た物は、金属鎧、革鎧、ローブ、大剣、小剣、大きな袋、球状の球の中にテントらしき物が浮かんでいる物、中身の入った小さな袋が二つであった。


「ムネカゲ、収納へと入れてくれ。これだけの物が出るんだ、このまま入口に戻りボス戦ループと行こうじゃないか。」


 少し欲の出たダングは、そう言うと入口へと引き返して行く。

 ムネカゲも戦利品を収納に仕舞うと、その後に続く。

 迷宮に入り六日目。十階層のボスループは、二、三日続けられる事となる。

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