第35話 サムライ、迷宮へと入る③

 東の迷宮を進むムネカゲ達。

 オークジェネラルを倒せる者達にとって、この迷宮に出て来る魔物は全く脅威とはならない。

 遭遇する魔物を蹴散らし、ドロップ品である魔石などの回収もせず進み、一行は最下層である十階層へとやって来た。

 

「本当に誰も居ないでござるな。」


 十階層に下りてみると、ダングの言う通り冒険者の「ぼ」の字も無く、広場は閑散としていた。


「まあ、ここに来るくらいなら、北の迷宮に潜った方が金になるからな。」


 Cランク以上の冒険者は、その大半が北の迷宮へと入っている。

 西と東の迷宮は、ダングの話の通りFランクからDランクの冒険者の稼ぎ場所の用だ。


「ダング殿達はクォーヴに来るまでの間、どこら辺まで行ったのでござるか?」


 閑散とした広場で一時休憩を取っている際に、ムネカゲはダングへとそう質問する。


「俺達か?ブロスに着いた翌日、今回同様に西と東を四日掛けて行った後、北の迷宮の六階層まで行った。北の迷宮は西と東と違い、広いからな。外で地図を売ってはいるが、これまたそれが高いと来た。だから最初は地図無しで迷宮へと潜ったんだが……結果、一日経っても二階層へは辿り着けず。しかも道に迷いまくってな。結局地図を買う羽目になった訳だ。」


 その地図は、一階層毎の物が売られており、一階層が大銀貨一枚もする。二階層からは更に高くなる地図を計十枚。十階層分購入し、迷宮へと入ったのだそうだ。


「一応、食料も大量に持っては行ったんだが、それでも持てる量には限りがあってな。六階層へと到着した後に、一旦引き返した。そして清算しようとギルドに行った所で捕まっちまった。と言う訳だ。」


「と言う事は、次は六階層からでござるか?」


「まあ、そうなるな。とりあえず十階層まで行ければ、転移魔法陣がある。そこから地上へと戻れば、次の探索が楽になるからな。」


 ダングの中で、ムネカゲに期待する所がある。それは、食料などの荷物持ちだ。

 如何にCランクと言えども、持てる荷物には限りがあるのだ。魔法袋を持っていれば、その問題もクリアするのだが、悲しい事にダング達は魔法袋を持ってはいない。

 そもそも魔法袋は、迷宮の宝箱からしか取得出来ないのだ。しかも宝箱から出る物は、完全ランダム。絶対に出るとは限らない。そしてその宝箱を得るには、十階層のボスを倒す必要がある。まあ、途中で宝箱を見つければ話は別だが。

 そんな理由から、ダングは収納持ちであるムネカゲの加入を大いに喜んだ。無理矢理加入させなかったのは、ムネカゲは自分達の命の恩人であるからだ。

 それ故にダング達は、ムネカゲから「また一緒に行動したい」と言われるように色々と世話を焼いていたのだ。

 まあ、それ以外にも、純粋な戦闘力としても、ムネカゲの力が欲しいとは思っていた部分もある。だからこそ、現状一緒に行動をしているのだが。

 

 「よし。そろそろ行こうか。今回は俺達も参加する。キラーマンティスは、真正面と左右の敵には機敏に反応するが、真後ろの敵には反応出来ない。俺達がキラーマンティスの注意を引いている間に、ムネカゲは後ろから攻撃。止めを刺せ。いいな?ああ、出来れば、装備は槍の方がいいな。」


「分かったでござる。」


 ムネカゲはそう言うと、収納から羅刹天十文字槍を取り出し右手で握る。


 「んじゃ、行こうか!」


 ダングの言葉に全員が頷き、ボスが居るであろう重厚な扉を開けると中へと入って行く。


  ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 結果だけを言うと、ムネカゲ達にとって、キラーマンティスも雑魚中の雑魚だった。

 部屋へと入り、ダングの作戦通りメンバーが散る。真正面にダング。左にアーベル。右にアネッテが布陣。カズンはダングの後ろで待機。そしてムネカゲは身体強化と瞬歩で、キラーマンティスの後方へと一瞬で移動。

 体長3m程もあるキラーマンティスを三人が挑発。その隙に、ムネカゲが後方からその太く大きな腹へと槍を突き刺し捻り、横に薙ぐ。

 攻撃を喰らったキラーマンティスは怒り狂い、その巨体を動かし自らを傷付けた者を探す。しかし、そこに再び三人からの攻撃が加わる。

 キラーマンティスは、大きな鎌を振り上げ応戦。また後方が隙だらけとなる。そこをムネカゲが槍で再び攻撃。

 ただ単に、その繰り返しだった。

 血を流し過ぎたキラーマンティスは、その巨体を地面へと横たえる。


「本当に楽勝でござったな。ただ、体力は凄かったでござるが。」


「まあな。態々、こいつの戦い方に合わせる必要はねえからな。それよりも、ほれ。宝箱だぞ。」


 キラーマンティスの死骸が迷宮へと吸収され、部屋の中央に黄金色の宝箱が現れる。


「金か!」


「凄ぇ!金なんて、始めて見たぞ!」


「これは期待が出来るな。」


「き~ん!き~ん!」


 ダングとアーベルが驚き、カズンが冷静に頷く。そしてアネッテがその場で小躍りをし始める。


「そんなに珍しいのでござるか?」


「珍しいってもんじゃねえ。迷宮の宝箱にはランクがあってな?下から木、鉄、銅、銀、金、白金、黒金と言う順で中身が豪華になるんだ。そして、金以上の宝箱は、かなりレアだ。」


「そうなのでござるか!であれば、金の宝箱は結構な価値があるのでござるな!」


 ダングの説明を受け、漸くその凄さを理解するムネカゲ。

 早速アーベルが宝箱に近付き、針金を鍵穴へと入れて解除に取り掛かる。

 流石は金色と行った所か。アーベルの鍵開けは、かなりの時間が掛った。しかし無事に鍵を開ける事に成功したアーベルは、蓋を開けて中を見る。


「おぉ!金の宝箱は、これ自体が収納になっているみたいだぜ!」


 アーベルの言葉に、全員が宝箱へと近付く。

 そして中を覗くと、確かにムネカゲの収納葛籠の様に、底が見えず真っ暗であった。


「ムネカゲ。この宝箱毎収納に入れられるか?」


 ちょっと欲張ったダングが、ムネカゲへとそう聞いて来る。


「やってみるでござる。」


 ムネカゲもちょっと欲張り即答する。

 しかし、現実はそう甘くは無かった。


「……無理でござるな。入らないでござる。」


 どう頑張っても、宝箱はムネカゲの収納へは入らなかった。

 そもそも、その場から動かす事すら出来ないのだ。


「そうか。或いはと思ったがダメか。アーベル。中身を出してくれ。」


「あいよ!」


 アーベルは二つ返事で返すと、宝箱の中へと手を入れ中身を取り出し始める。

 中に入っていたのは、160cm程の高さの箱型の物が一つ。斧が一振り。ロングソードが一本。ショートソードが一本。槍が一本。本が一冊。指輪が一つ。水差しが一つと、中身の入っている中袋が一つだった。


「ムネカゲ。一旦それらを収納に入れておいてくれ。帰ったら鑑定を頼む。」


「畏まったでござるよ。」


 ムネカゲはダングの言う通り、一通りの物を収納へと仕舞う。

 中身を取り出した宝箱が地面へと消えると、一行は部屋の奥の扉を開けて地上へと帰還する。

 入口へと戻った一行は、そそくさと迷宮を出て家路へと就き、そして家へと戻ると早速戦利品の鑑定を行った。


 先ず、160cmの箱型の物は、魔導冷蔵庫だ。冷凍機能は無いが、ゴブリン程度の魔石で、凡そ一月も稼働する優れものであった。

 斧は、灼熱の斧。これを装備すると、対熱耐性が付く。

 ロングソードは、ソードブレイカー。低確率で、相手の武器を破壊すると言う能力が付いている。

 ショートソードは、暗がりの小剣。この剣で傷を受けると、一時的に盲目状態となる。

 槍は、緑槍りょくそう。これと行った能力は無いのだが、槍全体が緑色をしており、鋼とミスリルの混合金属で出来ている。

 本は、中級火魔法の書。火魔法に適正が有る者が持てば、その効果が上がる。無論、中身は火魔法の呪文も書かれている。

 指輪は、ガードオブマジック。魔法耐性が上がる指輪だ。

 水差しに名前は無い。効果は、水差しに魔力を使用すると、水が湧いてくると言う物。

 中袋の中身は、金貨30枚に銀貨84枚。銅貨35枚であった。


「さて。欲しい物はあるか?と言いたいところだが、先ず魔導冷蔵庫と水差しは家用として置くことにしよう。まあ、これを個人で必要だと言う奴は居ねえだろうけどな。」

 

 ダング曰く、魔導冷蔵庫があれば、キーラが助かる事になる。魔石は迷宮で倒した魔物の物がまだ売らずに取ってあるので、それを使えばいいだろう。それと水差しだ。態々、井戸で水を汲む手間が省ける。そんな理由で、この二つは共有の物として家に置くことが決まった。


「さて。残った物の中から、必要な物を選んでくれ。」


 その言葉と共に、各々が欲しい物を挙げて行く。

 ダングはロングソードを。アーベルはガードオブマジックを。カズンが中級火魔法の書を。アネッテがショートソードを。ムネカゲは必要無いと言ったのだが、ダングの「槍貰っとけ」の一言で槍を貰う事に。とは言え、多分使わないと思われるが。

 残った斧は売却。お金は必要経費を差し引き、均等割りに。割り切れなかったものは、共有財産へと入れられた。


 全ての分配が終わった後、ふとアーベルが行った一言が物議を醸しだした。


「なあ、昨日と言い今日と言い、何か怖いくらい俺達ついてるよな?」


 昨日は銀の宝箱。今日は金の宝箱だった。考えれば考える程、ツキにツキまくっているのだ。それも、恐ろしい程に。


「まあ、それは俺も思っていた。ムネカゲが入って、こう何もかもが上手く行きすぎているってな。この借家然り、迷宮の宝箱然り。ムネカゲ。何か心当たりは?」


 突然話を振られたムネカゲは、首を傾げる。


「いや、最近はピコーンと言う音は鳴っていないのでござるよ。なので、何かあるのかと言われても、分からないのでござる。」


 そう言いながら、ムネカゲは「ステータスオープン」と言う。

 久方振りに見る自分の能力。

 

 名前:黒瀧 統景

 年齢:24歳

 称号:異世界からの稀人

 職業:剣士

 

 取得スキル:刀術、槍術、騎乗、雷魔法、雷耐性、強運、気配察知、瞬歩、身体強化、投擲、瞑想、無詠唱、解体

 

 魔法スキル:燈火、清水、清潔、光源、採掘


 武技スキル:雷斬り


 固有スキル:言語翻訳、収納、鑑定


 エクストラスキル:武魔の才


 そして気付く。


「あ~、拙者のスキルの中に、強運と言うのがあるでござる。もしかすると、これが関係している可能性があるでござるよ。」


 ムネカゲの言葉に、一同の動きが止まる。


「な、なるほど……確かに、その強運と言うのが怪しいな。」


 ダングの言葉に、ムネカゲを除く三人が「うんうん」と頷く。


「だが、まあ、いんじゃねえか?その幸運が俺達にも降り掛かって来てるんだから。」

 

 結局その一言でその話しは終わりとなる。

 その後、魔導冷蔵庫をキッチン近くに配置。魔石を入れて稼働させると、昨日迷宮にて取得したスライムゼリーやオーク肉を全て魔導冷蔵庫へと仕舞い込んだ。

 それを見たキーラが喜んだのは言うまでも無い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る