第34話 サムライ、迷宮へと入る②

 結果だけを言うと、ムネカゲ一人で楽勝であった。

 部屋の中はかなり広い場所となっており、五人が中へと入った途端にダングの言う通り、各種オークを引き連れたオークジェネラルが出現。それと同時に重厚な扉が勝手に閉まり、オークが雄叫びを上げる。

 ムネカゲは、身体強化で脚力を上げ更には瞬歩を使うとオークメイジへと肉薄。居合の要領でメイジを倒すと、その取って返す刃でアーチャーを攻撃。これで鬱陶しい遠距離オークが片付いた。

 次にムネカゲが狙ったのは、ファイターだ。振り下ろされる剣を巧みに除け、一刀の元にファイターを斬る。

 一瞬の内に三体も倒されたジェネラルは、怒りのあまり大振りの攻撃となる。それを躱しつつ、雷斬りを発動。感電したジェネラルなど単なる的でしかない。

 ムネカゲはジェネラルの喉元に深々と刀を刺し込み、戦闘は終了した。その間、僅かニ、三分だ。


「ひゅ~っ。流石だな。」


「ああ。あれなら、北の迷宮攻略が捗る。」


「流石ムネカゲだ。俺でも、一瞬見えなかった。」


「流石、カゲっち。」


 血糊を振り払い、鞘に納めているムネカゲを見て、ダング達が感嘆の言葉を呟く。

 オーク達の死骸の側には、ドロップ品である魔石や肉が落ちている。それらを収納へと仕舞っていると、広場中央に宝箱が生えて来た。


「おっ!ここは俺の出番だな。しかも、銀じゃねえか!こりゃ、中身が期待出来る。」


 宝箱を発見したアーベルが、手揉みをしながら宝箱へと近付いていく。

 鍵穴に針金を差し込み、カチカチと回す事暫し。「カチャリ」と言う音と共に、宝箱の蓋を開けた。そして中へと手を入れ、入っている物を出し始める。


「西の迷宮にしては色々入ってたな。」


 アーベルが出した物は、透明な丸い球、羊皮紙だろう丸まった紙が三枚。装飾も無い短剣。そして小袋が二つだった。中身を全て取り出すと、宝箱はスッと消える。


「不思議でござるな。」


 その光景にムネカゲは驚きの表情となる。


「ああ、迷宮は謎だらけだ。魔物は自然と湧いて来る。迷宮内で死んだ者は、迷宮に取り込まれる。そして突然現れる宝箱。これがどんな仕組みなのかは分からんが、一つ言えることは、迷宮のお陰で冒険者も、街も潤ってると言う事だろう。さて、おしゃべりはここまでだ。出た物は、一旦ムネカゲの収納へと仕舞ってくれ。」


 ダングの言葉に、我に返ったムネカゲが頷く。

 宝箱から出た物をムネカゲの収納へと仕舞うと、一行は奥へと通じる扉から外へと出る。

 奥の扉の先は行き止まりとなっており、地面には円形の幾何学模様が描かれていた。そしてその魔方陣の先には赤く光る菱型の物体が台座の上に鎮座していた。


「これは転移魔法陣だ。迷宮毎に違うが、大体十階層毎に設置してあり、ボスを倒し奥へと進むとそこから地上へと戻る事が出来る。これも誰が作ったのかは知らないが、まあここにあるから使ってるって感じだな。まあ、便利なんだから?気にしなくてもいい。それと、あの奥にあるのが迷宮核と呼ばれている物だ。あれを見つけても、絶対に壊すなよ?」


「何故でござるか?」


「何故も何も、あれが壊れると、この迷宮自体が無くなる。迷宮が無くなると、困るのは冒険者だけではなく、街の住人達も困る事になる。」


「なる程でござる。」


「あれを壊していいのは、ギルドや国から依頼があった場合のみだな。まあ、ほぼ無いに等しいが。ちなみにあれを許可なく壊すと、その罪は確実に死刑で決まりだろう。」


「死刑でござるか!?」


「ああ。まあ、それ程重要な物だって事だ。」


 この説明を聞きムネカゲは、絶対に近寄るのは止めておこうと心に誓った。


「さて、この転移魔法陣の使い方だが、この上に全員が乗り、誰かが一言言うだけでいい。」


 そう言うとダングは魔方陣の上へと歩み寄る。その後に続く様に、カズン達が魔方陣の上へと乗り、最後にムネカゲが乗る。

 

 「全員乗ったな?行くぞ?「地上へ!」。」


 ダングがそう言った瞬間。少しの浮遊感と共に、周りの景色が歪む。そして気付けば、迷宮の入り口を入った広間に立っていた。


「こうやって迷宮の下層から戻るって訳だ。」


「確かに便利でござるな。ダング殿が便利だと言ったのが、良く分かったでござる。」


 まだまだ知らない事の多いムネカゲは、ダングから説明を受けつつ、魔方陣から離れ迷宮入口へと向かう。

 迷宮から出た一行は、ギルドへとは寄らず家へと戻る。

 

 家へと帰ったムネカゲ達は、早速宝箱から出た物の鑑定をする事に。

 先ず一つ目の透明な丸い球だが、「惑わしのオーブ」と言う物らしく、魔力を流して使用する。その使用効果は敵に幻覚を見せる物。使用回数は5回。

 二つ目の短剣は、「憂いのダガー」。持つ者の筋力を僅かだが上げてくれると言う物。

 スクロールは、ファイヤーボール、ウォータースクリーン、ウィンドカッターの呪文スクロールだ。

 小袋の中だが、一つは宝石が三つ。一つには金貨1枚と銀貨が47枚。銅貨が68枚程入っていた。

 宝石は、親指の先程の瑪瑙が一つ。小指の先程のサファイアが一つ。同じく小指の先程のルビーが一つ入っていた。


「何か要るものはあるか?」


 ダングがムネカゲにそう聞いて来る。


「いや、拙者は要る物は何も無いでござるよ。」


「カズン達はどうだ?」


 ムネカゲが「要らない」と言うと、ダングは他のメンバーへと聞く。


「わしも要らぬかな。」


「なら俺は憂いのダガーを貰おう。」


「となると、あたしが使えそうな物は無いわね。」


「なら、後は売却する事にしよう。売った物の分配は後日として、カズン。この金を分けてくれ。ああ、生活費と家賃の貯蓄部分はこれの二割な。」


「分かった。」


 ダングからお金の入った小袋を受け取ったカズンは、羊皮紙に書き込み計算をし始める。

 その計算を待つ事暫し。カズンが内訳を説明する。


「金貨1枚、銀貨47枚。銅貨68枚の内、貯蓄は銀貨29枚、銅貨53枚だ。残りが金貨1枚、銀貨18枚。銅貨15枚となり、一人頭の取り分は銀貨23枚。銅貨63枚となる。さて、これをどう分配するか。」


 金貨一枚を両替しなくては、分配する事は出来ない。そして、銀貨100枚など誰も持ってはいない。

 ただ一人を除いて。


「拙者、銀貨は100枚以上あるでござるよ?」


 そう、ムネカゲだ。クォーヴの街でコツコツと依頼を受けていたムネカゲ。その報酬の殆どを銀貨で受け取っていた為、かなりの枚数を持っている。

 本来の冒険者ならば、ジャラジャラと硬貨を持ちたくは無い為、10枚を超える場合は大きい硬貨で受け取る事が多い。しかし、ムネカゲには収納がある。その為、使いやすい小さい硬貨で受け取っていた。それがここで役に立ったと言う訳だ。


「では、両替を頼む。」


「分かったでござる。」

 

 ムネカゲは収納からお金の入った中袋を取り出すと、その中から銀貨を十枚ずつ積み上げていく。丁度百枚となった所で、金貨を受け取り両替は完了。カズンがそれぞれに分配していく。

 銅貨の分配の方は、三人が銀貨で受け取り、手持ちから大銅貨と銅貨をお釣りとして出す事で分配が終わる。


「いや~、まさか西の迷宮でこれだけ儲かるとは思わなかったな。」


「そうなのでござるか?」


 分配を終えたアーベルの言葉に、ムネカゲはそう聞き返す。そもそも、初めて迷宮へと行ったので、これが普通なのだと思っていた。


「ああ、あの迷宮で銀箱が出る事自体が珍しい。大抵は木箱で、稀に鉄箱くらいだろう。こりゃ、ムネカゲがパーティーに入った事で、俺達にも運が回って来たのかもしれないな。」


 アーベルはそう言うとニヤリと笑う。


「まあ、それはあるかもしれないな。何せ、ムネカゲ殿は稀人であるからして。」


 アーベルの言葉に、カズンが乗って来る。


「まあ、ムネカゲの初迷宮のボーナスって所だろ。次の東迷宮では、こうはならないと思うぞ?」


 二人の言葉に、ダングがそう言うと、「まあ、確かにな」とアーベルとカズンは納得。

 その日はそれでお開きとなり、キーラの作った夕食を食べる。


 翌日、朝早くから迷宮へと向かった一行は、東の迷宮へと潜る事に。

 迷宮の入り口は西の迷宮と差して変わりは無く、ここでもギルドカードを見せて中へと入る。

 広間を通り階段を下りた先に待っていたのは、感覚的には地下であるにも関わらず、天井には青い空が広がり太陽もサンサンと輝き、そして緑に生い茂った樹々が生えている。と言った奇妙な空間であった。


「凄いでござる。何故、地下に下りたのにも関わらず、空が晴れているのでござろうか。」


 そんな光景を目の当たりにしたムネカゲは、空を見上げ、森を見と、キョロキョロとしている。


「まあ、これが迷宮って所だ。そもそも、何故?と聞かれても、俺達にも答えられない。「迷宮とはこういうもんだ」としか言えねえな。」


 物珍しそうに見るムネカゲに、ダングはそう言う。


「この現象は、人の力を遥かに超えた何かだと言う事でござるな。興味深いでござる。」


「まあ、そう言うこったな。さて、そろそろ行くぞ~。」


 ダングはそう言うと森の中へと入って行く。

 

 この東の迷宮は、全てのフロアが森林となっている。

 出て来る魔物は大きな蟻や蚊、蝶や蛾と言った昆虫の魔物だ。

 ドロップ品は各種魔物に寄って違うが、この迷宮の特産物はと言うと、それは樹々に生る果物だ。

 一階層から五階層までの間には、多種多様な果物が樹々に生っており、冒険者達は危険を顧みずそれらを採取する。

 そんな果物は、市場では結構な高値で売られる。特に五階層の果物が高い。

 そんな説明を聞きながら、ムネカゲ達は足早に階層を進んで行く。


「五階層から下は、果物は取れない。だから、来る冒険者達も少ない。だが、本当に旨いのはここからだ。特に、収納や魔法袋を持つ冒険者に取っては、宝の宝庫だな。」


 六階層へと下りて来たムネカゲに、ダングはそう語る。


「何故でござるか?」


「ここから下には、稀に宝箱が落ちている事がある。それに当たれば、それこそ一攫千金だ。ただ、フロア的には広いからな。中々当たる事は少ない。それと、十階層のボスだな。キラーマンティスと言うボスなんだが、倒せば鉄箱は確定。中にはお宝がどっさりと言う訳だ。街育ちの冒険者は下に行く事は無いからな。」


「何故でござるか?」


「ん?そりゃあ、五階層までで儲けようと思えば儲けられる。敢えて危険を冒してまで、下の階層に行くバカは居ないって事だ。それに、街育ちの冒険者の腕の問題もあるな。確実に、キラーマンティスを倒せねえ。」


「なるほど。」


「まあ、五人も居りゃあ、楽勝だがな。」


 ダングはそう言うと「ガッハッハ」と笑う。

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