第33話 サムライ、迷宮へと入る➀

 買い物を済ませた三人は、借家へと戻る。

 出掛けにキーラが預かった鍵を使い家へと入ると、丁度カエデの訓練を終えた四人――ダング、カズン、アーベル、カエデ――が裏口から入って来る所だった。


「おう。買えたか?」


「色々買って来たでござるよ。カエデの方はどうでござったか?」


 ムネカゲは買って来た物をテーブルの上へと出しながら、そうダングへと問い聞く。

 キーラはムネカゲの出す物を彼方此方あちらこちらへと仕舞って行き、アネッテは買って来たお菓子をテーブルへと置きお茶が来るのを待っている。自分でやらないところが、アネッテらしい。

 

「まあ、そうだな。魔力の使い方はカズンが教えた。シーフ系の技能もアーベルが教えた。使いこなせるかは、カエデ次第だろう。」


 ダングはそう言いながら、カエデの頭をポンポンと叩く。


「まあ、まだ子供だ。ゆっくり訓練して行けばいい。」


 その言葉に、カエデは「ん!」と返事をし頷く。


 色々と必要な物が揃ったその日。

 夕食はキーラが作り、少し豪勢な食事となった。


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 翌日、カエデをキーラに任せ、ムネカゲ達は迷宮へと向かう。

 ブロスの街には迷宮が三箇所あり、その一つは北門から出た湖の西側に。もう一つは、湖の北側に。そして最後は湖の東側にそれぞれ入り口がある。


「西の迷宮はFランク、Eランクが多い。理由は、出て来る魔物がスライムやゴブリン、コボルトで、強くてもオークくらいしか出ねんだ。階層も10階層までしかないし、まあ、迷宮登竜門と言った場所だな。低ランクの奴らは、そこで日々素材狩りだ。」


 ギルドの依頼に、迷宮での拾得物集めと言う物がある。

 例えば、スライムだとスライムゼリーだったり、オークならば肉だったりだ。これは必ずしも出ると言う訳では無いらしく、運が良ければ現れる。と言った、一種の賭けの様な物であった。

 だが、規定量を収めれば、依頼達成となりランクアップの対象となる為、低ランク者達はこぞって迷宮へと入る。

 ちなみに、スライムゼリーとは、街で売られているお菓子や食事の材料となっている物だそうだ。


「東の迷宮は森地形の迷宮で、昆虫系の魔物が多い。昆虫系は、その硬い外殻から初心者用防具として加工して使われている。肉などは取れないが、その代わりとして浅い階層では、市場で高級とされる果実などがそこら辺に生えている木から取る事ができる。深い階層になれば、果実は取れねえがボスからのドロップが旨い。ここは、Dランクが多いな。」


 迷宮都市と言うだけあり、ここブロスの街には冒険者が多い。無論、Fランクの駆け出し冒険者も多いのだが、数で言えばE、Dランクが圧倒的に多くなる。

 何故E、Dランク層が多いのか。理由は、Cランクに上がる際の試験に引っ掛かってしまうからだ。

 Cランク以上となれば、護衛依頼。盗賊の討伐など、街の外に出る任務を指名される事がある。オーク集落討伐に「漆黒の剣」や「孤高の狼」が借り出されたのが良い例だろう。

 そんな指名依頼を受けるに当たり、ランクアップ試験がある。その試験に求められるのは、実力もさることながら、個人の人間性、更には礼儀正しさ。貴族との交渉などだ。

 その実力の中に、今までの実績と言った細々とした内容が含まれるのだが、迷宮都市で育った冒険者は外向きの依頼を受ける事が先ず無い。

 何故なら、西や東の迷宮に入ればそれなりの稼ぎとなり、態々時間を掛けて危険な外を移動する依頼など受ける意味が無いからだ。

 となると、外での活動実績が無い為、先ずそこからやらなければならない。そうなると、収入も減る。ならば敢えてCランクを受ける必要も無くね?となる。その悪循環から、E、Dランクの数が多いのだ。

 まあ、中にはまともな冒険者もちゃんと居るし、外から来た冒険者達には先ずその様な者は居ないが。

 

「んで北の迷宮だが、ここはCランク以上が居る。逆に言えば、DやEは居ないと思っていい。理由は、一階層からEランクのリザードマンが数頭の群れで出てくるからだ。それに西と東とは違い、一つの階層が広い上に、5階層毎にフィールドが変わる。そして、下に行けば行くほど魔物が強い。」


 ダングの説明に、ムネカゲは静かに聞いている。


「と、まあ、ここの迷宮の事を説明したが、今日はムネカゲの初迷宮の日だ。大体、どんな感じなのか分かって貰うために、西の迷宮へと入る予定だ。明日は東だな。で、一日開けて北の迷宮へと入る。そんな予定だ。」


 初めて迷宮へと来たムネカゲに、「大体こんな感じだ」と分かって貰う為に、敢えて簡単な迷宮から行く。そうする事で、迷宮のシステムやらを教えようと考えたダングだ。


「態々、拙者の為にすまぬでござる。」


「謝る必要は無い。ついでに、オークの肉を調達するつもりでもあるからな。明日は、果実だ。」


 そんな会話をしながら、到着したのはダングの言う通り西の迷宮であった。


 迷宮の入り口は、何故か大きな大木の切り株。

 その切り株の根本に、二人が通れる程の穴がポッカリと開いている。

 その迷宮の入り口の手間には、兵士が二人立っており、迷宮前には冒険者達の長い列が出来ている。

 よく見ると、迷宮前で冒険者達が何やら兵士へと見せ、そして迷宮へと入って行く。


「あの兵士にギルドカードを見せてから入る。これは、冒険者ではない者が勝手に入らない様にする為だな。」


「なるほど。」


 ダングの説明に、ムネカゲが納得していると、順番が回って来る。

 ギルドカードを掲示し、前へと進む。


「んじゃ、行こうか。」


 全員が頷くと、迷宮の入り口へと入って行く。


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 迷宮の入り口を越えると、そこは外からの見た目とは全く広さのある広場となっていた。

 広場には冒険者達が屯しており、その屯している冒険者達の奥。入って来た入り口の真反対には、下階へと下りる為の階段がある。


「さっさと行くぞ〜。」


 引率のダングが、冒険者達を避けつつ、奥の階段へと向けて歩き出す。


「今日は十階層まで行って、ボス倒して帰るからな。まあ、そこまでデカい訳じゃなく、出て来る魔物も楽勝だから、サッサと行けば夕方には戻れるだろう。」


 ダングはそう言うと、階段を降りて行く。

 西の迷宮一階層。そこは、広く穴の開いた洞窟であった。横幅は男三人が両手を広げて歩ける広さ。天井も5m程ありそうなくらい高い。

 洞窟と言うくらいなのだから、中は真っ暗かと思いきや、薄らと灯りがある。よく見ると、光苔がそこかしこに生えており、その光苔の灯りが洞窟内を照らしているようだ。

 そして、現れる魔物はと言うと、水溜りを少し膨らました感じのウニョウニョと蠢く水色をした物体だった。


「これが、一階層に出る魔物のスライムだ。こいつの弱点は、この中心辺りにあるコアだ。そのコアを壊せばいい。」


 ダングはそう言いながら、腰の剣をスラリと抜き放ち、コア目掛けて突き刺す。

 するとスライムは、その形を維持できなくなったのか、本当の水溜まりの様になってしまった。


「この状態で暫くすると、この水溜りは迷宮に吸収され魔石が現れる。その際に、運が良ければドロップ品が出ると言う訳だ。おっ、丁度吸収され始めたな。」


 スライムだった物がある場所を見ると、水溜りだった物がスッと地面へと溶け込む様に吸い取られて行く。そして残ったのは、小指の先ほどの水色をした石とプルプルと揺れる水色の物体であった。


「おっ!こりゃ、幸先がいいな。これがスライムゼリーだ。キーラに渡せば、何か作ってくれるだろう。」


 ダングはそう言うと、スライムの魔石とスライムゼリーを取りムネカゲへと渡す。

 渡されたムネカゲは、それをマジマジと見た後収納へと仕舞う。


「とまあ、これが迷宮だな。スライム自体に攻撃力はねえが、天井から突然頭に落ちて来て窒息させられる場合もある。それに、スライムの中には毒を吐いて来るベノムスライムや、片っ端から溶かしまくるメルトスライムなんかが居るから要注意だな。」


 ダングはそう説明すると、先に進み始める。

 その後もダングの迷宮講座を聞きながら、二階層、三階層と階を降りて行く。

 二階層はホーンラビットが。三階層からはゴブリンが出るも、今のこのメンバーが負けるはずもない。四階層からは、犬の顔をした二足歩行のコボルトと言う魔物が出て来るのだが、ムネカゲが「あれは獣人ではござらんか?」と攻撃するのを躊躇う場面もあった。ダングに「歴とした魔物だ」と説明され納得。即座に倒した。

 五階層からはオーク一辺倒となる。

 単独のオークに始まり、二体から三体の複数。中級種の単独。そして中級種の混合と階を追うごとにレベルが上がって行く。

 ドロップ品は、魔石と二分の一の確率で肉。稀に睾丸を落とす。

 中級種からは、肉に加えて鉄剣や弓と矢。杖などもドロップするのだが、どれも粗悪品に近い物でありこの五人には不必要であった為スルーされた。

 そうして到着した十階層。

 階段を降りると、そこは入り口の様な広場が広がっており、その広場の奥には鉄製だろう重厚な扉が鎮座している。

 その扉の付近には、順番を待っているのか、冒険者達の姿が多数見られる。


「まあ、見て分かると思うが、ありゃ順番待ちだな。それか、ここいらで儲けようと出入りを繰り返している奴らだな。」


 ダングはそう言いながら、屯する冒険者達へと近付く。


「あ〜、順番はどうなってる?俺達は何番目くらいに入れるんだ?」


 そして普通に聞いた。


「ここに居る奴らは、既に入った後だ。今は休憩中。ただ、待ちのやつもいるから、四番目っう感じじゃねえか?」


「四番目な。ありがとよ。」

 

 順番が分かった所で、空いている場所へと座り順番が来るのを待つ。

 暫くすると、五人パーティーが扉から出て来る。その表情は嬉しげだ。

 その五人が出払うと、扉が一人でに閉まるのだが、よく見ると少しだけ隙間が開いていた。

 前の五人が出払うと、次の順番なのだろう四人組が立ち上がり、扉を開けて中へと入って行く。それを繰り返す事二回。

 漸くムネカゲ達の番がやって来る。


「さて、行くとするか。」


 ダングが立ち上がり、カズン達も立ち上がる。

 それに釣られてムネカゲも立ち上がると、扉の方へと進む。


「ボスは、ジェネラル一体に、ファイター、メイジ、アーチャーだ。ムネカゲなら、楽勝だろ?一人で行ってみな。」


「拙者、一人でござるか?」


「おうよ。危なくなったら助けに入る。」


「分かったでござるよ。」


 ムネカゲがそう返事を返すと、「いくぞ」とダングが扉を開ける。

 ムネカゲは、「ふぅ〜っ」と深く深呼吸をすると、刀の柄に手を掛けつつも扉を潜った。

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