第31話 サムライ、メイドを雇う
迷宮都市ブロス。
人口は凡そ13万人。北にシルル湖を望む、大都市だ。
主な産業は湖での漁と、迷宮から齎される様々な物。一攫千金を夢見る冒険者が落とすお金で成り立っている。
そんなブロスの街に到着した孤高の狼の一行プラス、ムネカゲとカエデ。そんな六人は、街へと入る門の列へと並ぶ。
「言い忘れてたが、カエデの入市税を準備しておけよ?銀貨一枚だ。後、これは後で構わねえから、市民証を発行して貰っとけ。でなきゃ、不法滞在と言われかねん。」
ムネカゲの前に居るダングが、後ろを振り向きそう言って来る。
「その市民証は、何処で貰うのでござるか?」
「市民証は、商業ギルドで発行してくれる。子供だから無料だが、大人なら大銀貨一枚支払わにゃならん。」
「商業ギルドでござるか?そこは何をする場所でござろうか?」
まあ、商業と名が付くので、何となくは理解出来るムネカゲ。だが、それが合っているのかは分からない。
「商業ギルドってのは、商売やる奴が登録する場所だな。冒険者ギルドの商人版って感じだ。ちなみに街に入ったら、一番に商業ギルドへ行くからな?そこで市民証を発行して貰え。まあ、俺が言うさ。」
「分かったでござる。」
ムネカゲは、懐から銀貨一枚を取り出し、準備をする。
街へと入ったムネカゲは、街の活気に息をのむ。
これまで入った街も無論活気があったのだが、ここブロスに関して言うとその倍以上の活気がある。
それもその筈で、そこかしこで冒険者達が昼間っから酒を飲んでいたり、街の住人達が買い物をしたりと、兎に角人が多いのだ。
そんな街の熱気に当てられたのは、ムネカゲだけではなく、カエデもまたその熱気に圧倒されていた。
そんなムネカゲとカエデを見てほくそ笑むダング達。その後一行は商業ギルドへと向かう。
大体どの街も、ギルドと言うのは町の中心へ近い場所に存在している。
ここブロスの商業ギルドも、街の大通りに面した分かりやすい場所に存在していた。
その商業ギルドは、冒険者ギルドと同じく広い敷地に立派な煉瓦造りの建物で、建物の横から馬車が出入りをしている。
そんな商業ギルドの扉を開けて、ダングは戸惑うこともせず中へと入って行く。
商業ギルドの中は、冒険者ギルドと違い昼間でも人が多かった。その人込みを避ける様に移動し受付へとやって来ると、代表してダングが受付嬢へと話し始める。
「要件は二つ。一つは、この子の市民証を発行して欲しい。当面、この街に住むからな。もう一つは、七人が住める貸家を探している。それなりに安く、そして迷宮になるべく近い場所がいい。ああ、治安のいい所と市場に近いと言うのも追加だ。あるか?」
ダングは矢継ぎ早に条件を言って行く。
「はい。では、先ずは市民証から手続きしましょう。市民証の必要な方は、そちらのお嬢さんですね?入街札の返却と、こちらの用紙へのご記入をお願いします。」
ダングはムネカゲに「お前が書け。」と言われ、出された紙を見る。
「えっと、名前はカエデ。歳は……何歳でござろうか?」
ムネカゲは首を傾げると、カエデに何歳か聞いてみる。カエデが頷いたのは、8歳の所であった。
「8歳でござるな。次は……親権者?」
親権者の所で再び首を傾げるムネカゲ。するとダングが横から口を出す。
「親権者はお前の事だよ。」
「拙者でござるか?」
「ああ、親代わりみたいなもんだろ。」
ダングにそう言われ、ムネカゲは納得し、親権者欄に「ムネカゲ」と記入する。
「出来たでござるよ。」
書いた紙と入街札を受付嬢へと渡すと、受付嬢はその紙を何か板状の物に挟み、カードと水晶を差し出してくる。
「こちらの水晶にお嬢さんの右手で触れて下さい。左手はこちらの板の上です。」
カエデが言われた通りに手を触れると、一瞬スッと光が発生する。
「はい、これで終わりです。こちらのカードが市民証となりますので、無くさない様にお願いします。登録料は14歳以下ですので無料となります。」
受付嬢はそう言うと、市民証をこちらに渡してくる。
「カエデ。とりあえず、拙者が預かっておくでござるよ。住む場所が決まったら、渡すでござる。」
ムネカゲはそのカードを受け取ると、懐へと仕舞う。カエデもそれで良かったのだろう、「ん!」と一言発すると、首をコクンと縦に振った。
「続きまして、貸家の件でございますが、七名様がお住みになれる物件は、五件ほどございます。ただ、全ての条件に当てはまる物件はございません。」
そう言って受付嬢は物件の説明をし始める。
一軒目は、街の西側。やや南寄りの壁近くにある物件。静かな住宅地であるらしく、治安はそこそこ。
ただ問題なのが、市場や迷宮にからかなり遠い事か。そして庭は無い。家賃は一月銀貨35枚。
二軒目は同じく西側ではあるのだが、北よりにある物件で、少し離れると酒場などがあり、あまり治安がいいとは言えない場所だ。その代わり賃料が安く、一月銀貨22枚。一応小さいが庭が付いている。
三軒目は、割と町の中心部に近い物件。治安の良さはピカ一で、市場にも、ギルドにも近い。ただ問題なのが、築40年は経っている建物らしく、老朽化が激しい。もし家に何かあれば、大家は干渉しないので自費で直して欲しいとの事。庭は無し。家賃は一月銀貨27枚。
四軒目は街の北側にある物件で、迷宮入口に近くはなるのだが、市場とギルドは多少遠くなってしまう。その代わりと言っては何だが、ここ最近――と言っても、数年も前だが――建て替えたばかりで新しく、庭付きであるらしい。治安はまあいい方だ。家賃は一月銀貨40枚。
五軒目は、街の東側にある物件で、スラム街の近くだそうだ。これを聞いた瞬間に、ダングが「却下」と言っていた。
「となりますと、この四軒の内から決めて頂く事となります。」
そう言って受付所うが四枚の羊皮紙を見せて来る。
見れば、確かに今説明を受けた四軒の物件詳細と間取り図の書かれた物だ。
「どうする?」
「わしは、四軒目がいいと思うが?」
「あ~、俺も四軒目がいいな。」
「あたしも、四軒目でいいと思う。」
「拙者は良く分からぬので、皆に任せるでござるよ。」
例えば、宿代が一人銅貨60枚だとしよう。迷宮に入っている間も部屋の確保をする為に払い続けるとして、一月30日で銀貨18枚となる。それが六人分ともなれば、金貨一枚と銀貨八枚となる、食費を抜きにしても、銀貨40枚と言うのはかなり安めだと言える。
ちなみに四軒目の建物と言うのは、一階部分にキッチンダイニングと倉庫がある。階段を昇った二階は両サイドに各二部屋ずつ。三階に更に二部屋ずつ部屋がある。
キッチンから裏手へと回ると、一人が訓練する程度の庭があり、その庭の建物寄りに井戸がある。
まあ、無難な所だろう。
「んじゃ、この四軒目の物件を借りる事にしよう。」
ダングはそう言うと、手続きをし始める。
家賃は毎月誰かが支払いに来るか、若しくは纏めて数か月分を支払っておくか、どちらか選べるようであった。
「めんどくせえし、先払いでいんじゃねえか?」
ダングのその言葉に、全員が頷く。
当分この街で過ごすのだから。と言う事で、半年分の先払いとなった。
〆て、金貨2枚と大銀貨4枚だ。一人当たりで言えば、銀貨48枚だ。
全員でお金を出し合い、支払いを済ませると、鍵を三本受取り商業ギルドを後にする。
商業ギルドを出た一行は、次に家令ギルドへと向かう。ここでメイドを一人雇うのだ。
そんな家令ギルドは、商業ギルドの目と鼻の先にあった。
これまた立派な敷地に立つ立派な建物で、重厚且つ威厳を感じる扉が正面に鎮座していた。
「んじゃ、行くぞ~。」
物凄く気の抜けた感じの声でダングが言うと、家令ギルドの重厚な扉を開けて中へと入る。
ギルドの中は閑散としており、受付には初老の女性が座っている。
「いらっしゃい。家令ギルドに何かご用かね?」
それを見たムネカゲは、「やはり受付は若い女子の方がいいでござるな」と内心思うも、口には出さなかった。
「メイドを一人雇いたい。家事が出来て、俺達が居ない間この子の世話の出来るメイドだ。もし可能なら、戦闘メイドでも構わない。」
ムネカゲは、ダングの言った戦闘メイドと言う所で少々驚く。
「どっちかはっきりして貰えないかね?戦闘メイドがいいのか、そうじゃない普通のメイドがいいのか。戦闘メイドなら、給金込みで安くて大金貨8枚から白金貨1枚だよ。普通のメイドなら、大金貨4枚から6枚だね。」
受付の女性は、「あんたら、金持ってんのか?」と言いたげに金額を伝えて来る。
それを聞いたムネカゲは、その額に驚く。
「そ、そんなに高いのでござるか!?」
「ああ、説明不足だったな。家令ってのは、雇うと余程の事が無い限り、一生その主人に付いて行く事になるんだ。その金額が今、婆さんが言った額。と言う訳だ。その額を払えば、それ以降の給金を支払う必要は無い。要は、その家令の一生をその額で買うって訳だ。まあ、金を支払うのはムネカゲだ。どっちかいい方を選んでくれ。」
いきなり選択権を投げられたムネカゲ。そうは言っても、どっちがいいかなど分かるはずも無い。
今回借りた家は、比較的治安のよい所ではあるのだが、だからと言って絶対に何もないとは言い切れない。
なので、
「で、では……せ、戦闘メイドの方でお願いするでござるよ。」
戦闘メイドを選ぶ。高いが。
ムネカゲは高いと思っているが、よくよく考えてみるとそこまででは無い。
給金を宿屋ベースで考えた場合、人一人が生活するのに銅貨60枚とすると、一月で銀貨18枚。一年で金貨2枚銀貨16枚掛かる。
四十年メイドとして付き従うと考えると、金貨86枚、銀貨40枚掛かるのだ。ギルドの儲けもある事を考えると、大体妥当なところではある。
「戦闘メイドだね?選ぶのはいいが、金は持ってんだろうね?」
まあ、確かに高額な金額だ。選びました、金はありません。では済まないだろう。
ムネカゲは懐から白金貨の入った小袋を取り出すと、その中から白金貨を一枚取り出しカウンターへと置く。
「確かに、白金貨だね。それじゃあ、少し待っておいで。」
受付の婆さんはそう言うと、ハンドベルをチリンチリンと鳴らす。
暫く待つと、奥の扉から5人の女性が現れる。
一人は背中まである茶色の髪で、背は160cm前後だろう人族の女性。
一人は耳が長く先が尖っており、腰まである金髪を靡かせるスラッとした体型のエルフの女性。
一人は身長170cmくらいはあるだろうか。金髪よりも黄色がかった髪のてっぺん付近に虎柄の耳が生えており、お尻から同じく虎柄の尻尾の生えている獣人の女性。
一人は、肩辺りまでの赤髪で、お尻の部分から尻尾の生えているドラコニアンの女性。
最後の一人は金髪ショートヘアの人族だ。
「この五人の使う得物はそれぞれ違うが、身体能力は大体一緒だね。家事全般を熟し、そこらのチンピラ程度ならこの子らの方が強いだろう。後は、見た目の好き好きさ。さあ、誰を選ぶ?」
婆さんは「ヒッヒッヒ」とでも言いそうな顔でムネカゲを見る。
「選べと言われても……困るでござる。」
ムネカゲはホトホト困り果て、ダングに助けを求める様に首を横に向ける。が、ダングはスッと目線を避ける。
ダングが使えない事を知ったムネカゲは、さてどうしたものかと本気で困る。
するとカエデが「んっ!」と言いながらメイドの方へと歩き出す。そして一人一人手を握り、ジーっとその目を見る。
そして全員の手を握った後、「このポケモ……人に決めた!」と言わんばかりにその手を取ったのが、何故か獣人の女性だった。
「カエデ、その人がいいのでござるか?」
その判断基準が分からないが、カエデが選んだのだからとそう聞いてみた。
「んっ!」
カエデは頷き獣人の女性の手を握り頷く。
「カエデが気に入ったのであれば、その方にするでござるよ。」
結局、その獣人の女性と契約。大金貨9枚を支払う事となった。
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