第30話 サムライ、クォーヴの町を出る

 領主館を出て、宿へと無事戻ったムネカゲは、食堂でダング達に捕まる。「おい、領主んところで何があったんだ?」と。


「拙者を召し抱えたかったようでござるが、はっきりと断ったでござるよ。」


「まあ、そう来るだろうな。だが、断って大丈夫だったのか?」


 ダング達は既に出来上がっている――そこまで酔っては無いが――らしく、ムネカゲの話を聞きながら、エールをかっ喰らっている。

 ちなみにカエデはアネッテが面倒を見てくれていたようだ。同じテーブルで肉を喰らっている。

 

「大丈夫も何も、今こうしてここに居るのが証拠でござるよ。ああ、後、領主殿からこれを頂いたでござる。」


 ムネカゲはそう言うと、懐から小さな小袋を取り出す。


「ん?何だそりゃ?」


「さあ?金一封と言っていたでござる。なので、お金ではないかと思うのでござる。」


 ムネカゲはそう言いながら、袋の口を結わえてある紐を解くと、中に入っているだろうお金をテーブルの上へと落とした。

 チャリンチャリンと言う音と共に現れたそのお金を見て、全員の手が止まる。そして手で目を擦り、もう一度テーブルの上に落ちたお金をマジマジと見る。

 そして騒ぐ。


「ちょい待てぇーい!おま、お前、なんでこんな大金貰ってんだよ!」


「うむ。流石にわしも初めて見たな。」


「凄げ~!俺も初めてみたぜ。」


「ムネカゲって、金持ちじゃん!」


 テーブルに落ちたお金。それは銀貨でも金貨でも無く、白っぽい銀色をした硬貨だった。


「これは何でござるか?」


 そしてムネカゲはそれを知らない。


「バカッ!これは白金貨だよ!これ一枚で、大金貨10枚分の価値があるの!それが二枚!なんでこんな額をホイホイ渡して、貰って来るかね~。」


「これ一枚で、大金貨10枚分でござるか。それは、かなりの大金でござるな。」


 ここで漸く、その額の大きさを知るムネカゲ。

 

「領主殿は、迷宮都市へと行った際に色々必要となるであろうから、これを足しにするといいと言っていたでござるよ。拙者も、まさかこのような大金だとは思ってもみなかったでござる。」

 

 そもそも返そうとしたが、それをすると顔に泥を塗ると言われ渋々受け取ったのだ。返す事が出来ない以上、貰って来るのは必然だった訳であるし、その場で確認など出来るはずも無い。


「まあ、貰っちまったもんは仕方が無い。落とさねえようにしっかり管理しとけよ!」


「分かったでござるよ。それよりダング殿。」


 ムネカゲは、ついでとばかりにここで話をする事にした。


「んぁ?」


「拙者、今回の件で、Dランクへと昇格したでござる。」


「んまあ、そうだな。」


「そこで、拙者、兼ねてからの予定通りダング殿達へ恩を返す為、共に迷宮都市にて活動をしようと思うのでござる。」


「まあ、もとよりそのつもりだったんだから、別に構やしねえが?」


 ダングの言葉に、カズン、アーベル、アネッテも頷く。


「忝いでござる。」


 こうして、ムネカゲはダング達「孤高の狼」のメンバーとなる。のだが、問題が一つあった。


「カエデはどうするつもりだ?」


 そう、カエデの事があるのだ。

 ダングの話では、迷宮へと入ると数日は帰って来ない場合が多いらしい。そうなると、一人残されたカエデが心配となる。これで言葉が喋れるのなら、まだやりようもあるのだろうが、カエデは喋る事が出来ないのだ。


「そうでござるな。何かいい方法は無いでござるか?」


 ここはこの世界を良く知るダングの助言をと、ムネカゲはダングへと話を振る。


「まあ無くは、無いがな。どの道、俺達も定宿にしていた宿を一旦引き払ったから、住む場所をどうするかと考えていた訳だしな。」


「と言うと、どう言う事でござるか?」


 ダングの言っている意味が分からないムネカゲ。


「まあ、簡単な事だ。宿を拠点にするのにも金は掛かる。それも、日に安くても銅貨50枚はな。ならば、貸家を借りるのもいいんじゃねえかと思ってってよ。」


「なるほど。貸家でござるか。」


 ムネカゲの住んでいた場所でも、貸長屋と言うものが存在していた。一月幾らと言った感じで大家へと家賃を払うのだ。


「ああ。ただそうなると、食費はこっち持ちとなり食事代が掛かる。そこら辺の兼ね合いで、まだふん切れないでいたんだが、カエデの事を考えると貸家もありかな?と思ってな。だがその場合、家事の出来る奴を一人雇う必要がある。」


 宿だと金を払えば朝食と夕食は付いて来る。しかし、貸家となると食事代は含まれない。そこら辺の兼ね合いで、どっちが安上がりなのかを考えなければならないのだ。しかも、カエデはまだ幼く、喋る事さえ出来なければ料理も出来ない為、信用の出来る誰かを雇いカエデの世話もして貰わなければならないのだ。

 

「それは拙者が払うでござるよ。カエデの為でもござるし。」


 しかしそこは領主から白金貨を受け取ったムネカゲだ。懐は温かい。


「まあ、ムネカゲがそう言うのなら、それでもいいと思う。世話人は、そう言うギルドがあるからそこで雇えばいいとして、問題は貸家が空いているかどうかだな。まあ、こればかりは、ブロスに着いてからの話になる。」


 これで懸念しているカエデの事は何とかなる。後は、ブロスに着いてからとはなるが。


「拙者はそれでいいでござるよ。」


「良し。なら、簡単に取り決めておこう。貸家があった場合、その賃料は人数割りで払う事にする。無論、カエデは入れずに五人でだ。食費に関しては、迷宮報酬の中から二割を食費として賄う。これの管理はカズン。お前がやってくれ。」


「分かった。」


 カズンはそう言って頷く。


「家令ギルドで雇うメイドの費用に関しては、ムネカゲが払うものとする。」


「構わぬでござる。」


 ムネカゲもまた、その言葉に頷く。


「迷宮報酬は、経費を差し引いた残りを人数割りだ。宝箱などから出た物に関しては、持ち帰った後に分配を決める。基本は欲しい物一点を選び、その他は売却だな。まあ、俺達は今までそうして来たから何も変わらないが、ムネカゲは初めてだからなその時にまた教えてやる。」


「分かったでござる。」


「後は追々だな。基本的にダンジョンでの収益は、全員の利益になるように分配するつもりだ。各自はそれをどのように使おうが個人の自由だ。だが、金が無くなったからと言って、貸し借りは無しだからな?そこら辺は気を付けて使ってくれ。それくらいか?」


 ダングの言葉に、全員が頷く。


「んなら、明日は丸一日準備の日とし、明後日に出発だ。食事に関しては、片道二日分ほどあれば足りる。そこら辺の買い出しはまとめてアネッテ、頼む。」


「あいよ。任された!」


「アーベルは、その他必要な物をチェックして、足りない物を書き出しといてくれ。」


「りょーかい。」


「ムネカゲは、足らない物は無いのか?」


 ダングからそう聞かれたムネカゲは、頭の中で今持っている物を思い浮かべる。

 持っている物は、水筒が4つ、毛皮の下敷きに、身体の上に掛ける布。食料は既に底をついている。後は、皿にコップか。


「何が必要なのかが分からないでござる。」


 そう言って今――葛籠の中に――持っている物を羅列していく。


「まあ、それだけあれば、後は食料だけ揃えれば大丈夫だろう。アネッテ、カエデの荷物もそれなりに買って来たんだろ?」


「任せて!ちゃんとこうなる事を見越して、色々と買って来た!」


「なら問題は無いな。そしたら朝一で食料を買い、そのまま街を出ても良さそうだ。アネッテとムネカゲは、明日の朝、朝食を摂ったら、その足で食料の調達に行ってくれ。俺達とは、西門で落ち合おう。」


「分かった!」


「畏まったでござるよ。」


 予定が決まった所で宴会はお開きに。各自部屋へと戻り支度をし始める。

 ムネカゲは結構な期間宿へと泊っていたので、明日宿を出る旨を女将に告げ先に清算をしておく事に。大方一月弱は泊まっていたその代金は、結構な額だった。


 

 翌日、ムネカゲは着物に胴鎧を着こみ、手には十文字槍、腰に刀を佩いて食堂へと下りる。

 カエデはチュニックに短パン。そして旅用のマントを羽織っている。腰にはムネカゲがアーベルから貰った、解体用のナイフを念の為身に着けている。カエデの荷物はと言うと、ムネカゲの収納の中だ。

 そして、軽い朝食を摂った後、アネッテとムネカゲは食料を調達する為、宿を出て市場へと向かう。

 買うのは、黒パンと干し肉。そして、干し野菜だ。

 二日分とは言ったが、本当であれば二食分で事足りる。

 何故なら、クォーヴ-レイホア間は一日歩けば到着するし、レイホア-ブロス間は半日あればいいのだ。だが、途中何が起こるか分からない為、一応の予備も含めて二日分購入する事にしたのだ。

 そう言う理由で食料を買いに出た二人は、必要な物を購入――ここは拙者がと、ムネカゲが支払った――し西門へと向かう。ダング達と合流した二人は、いよいよブロスへと向かって歩き出す。

 

 クォーヴからレイホアまでは約一日程で到着する。

 まあ、オーク討伐の際に、合流地点まで半日だった事を考えれば、自ずと分かるだろう。

 その街道は左手に海、右手に森と山々に挟まれた街道だ。時折風に乗って、潮の香がする。

 そんな街道を歩き、日が高くなった所で軽く休憩。そしてまた歩き始める。

 途中、カエデの体力が無くなってしまい、ムネカゲが背負うと言うハプニングもあったが、それでも日が傾き始めた頃にはレイホアへと到着した。

 そのレイホアの町で一泊し、翌日ブロスへと向けて再び歩き始める。

 

 途中、本街道へとぶつかると、その道を北へと向かう。

 分岐路から凡そ二時間後、目指していた迷宮都市ブロスの城壁が見えて来る。


「あそこがブロスだ。クォーヴやレイホアよりも、でけえ街だぞ。」


 そう言って説明してくれるダング。確かに、今まで通って来たどの町よりも城壁の幅が長い。端が見えないくらいだ。

 

「このブロスの街はな、北にシルル湖があり、水源が豊富なんだ。湖で取れる魚を使った料理も美味いぞ。」


 魚と聞いたムネカゲは、「そろそろ白米が本当に食べたいでござるな」と、内心そう考える。

 だが、先日も市場へと行った際、米を見つける事は出来なかった。叶うなら、味噌も欲しかったのだが、それらしき物も見かけなかったのだ。

 まあ、時間が無かったと言うのもあるのだが。


 そんな事を考えていると、一行はブロスの街へと到着する。

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