第28話 サムライ、昇格する

 ギルドへと到着した一行は、住人からの熱気を避ける様に建物内へと転がり込む。

 ギルド内はギルド内で、討伐に参加しなかった冒険者やギルド職員からの拍手喝采で出迎えられる。

 ムネカゲ的には、物凄く居心地が悪かった。


「諸君、討伐成功感謝する。今荷馬車に積まれているオークに関しては、これから急いで査定、精算をするので、暫く待って欲しい。」


 そして、待ち構えていたギルドマスターに感謝の言葉を貰う。

 ちなみに荷馬車は既にギルド裏手へと回されており、荷馬車毎に数を数えその金額を査定中だ。


「では、「漆黒の剣」と「孤高の狼」、そしてソロ冒険者ムネカゲは、上へ来てもらえるかな?」


 名指しで指名されたムネカゲは、ダングやバルトルド達と共に、ギルド二階へと向かう。

 通された部屋は、以前通された会議室よりも更に広く、三人掛けのテーブルが計六台。長方形に並べられた部屋であった。

 各々席へと座った所で、ギルドマスターが口を開く。

 

「さて、討伐ご苦労だった。粗方の話しは先触れから聞いた。オークキングとジェネラルが居たそうじゃないか。そこら辺を詳しく聞きたい。」


 ギルドマスターはそう言うと、バルトルドの方を向く。


「俺か?まあいい、説明しよう。」

 

 話を振られたバルトルドは、オークの集落での出来事を詳細に語っていく。


「なるほど。良く分かった。今のバルトルドの話しを踏まえ、報酬や買取の件は明日話すとしよう。どうせ、下は混雑しているだろうしな。明日の昼の鐘が鳴る頃、ギルドへと来てくれ。それまでに用意しておく。キングとジェネラルに関しては、こちらで預かる。」


 ギルドマスターの話に頷くと、全員が席を立ち会議室を出た。


 宿へと戻ったムネカゲ達は、各々部屋へと入る。

 自身の部屋へと入ったムネカゲは、装備を外すとクリーンを掛け収納へと仕舞う。

 

 今回のオーク収納時に気付いたのだが、態々葛籠つづらを出して入れなくとも、収納したい物に手を振れ「収納したい」と思えば入れる事が出来るようだった。

 何故それに気付いたかと言うと、オークに関しては、今までも葛籠に体の一部が入れば入れる事が出来たのだが、問題は荷馬車だった。

 持ち上げる訳にもいかず、どうやって仕舞おうかと難儀していた際、たまたま車輪に手を当てて「収納したいのでござるが」と呟くと荷馬車がパッと消えたのだ。

 突然手を突いていた荷馬車が消え、倒れてしまったムネカゲだったが、そこで気付く。「手を当て収納と言えばいんじゃね?」と。

 それに気付けば、後は楽勝だった。数十台もの荷馬車はあっという間にその場から消えていく。

 ただ、本当に収納出来たのかが心配で、全てを収納した後に葛籠を出して確認したがしっかりと収納されていた。

 出す時は今まで通り、葛籠に手を入れ荷馬車を選べば、目の前に該当の荷馬車が現れる。

 ちなみに葛籠を出さなくとも、念じれば同じ事が出来る事にも気が付いた。

 とまあ、そんな感じで自らの能力の確認が出来て良かったと思うムネカゲだった。お陰で、目立ち過ぎたのだが。


 それはともかくとして、鎧甲冑にクリーンを掛けて収納に入れたムネカゲは、部屋にカエデが居ない事に首を傾げる。


「はて?カエデは何処でござろうか?確か、一階には居なかったでござる。となると、裏庭でござろうか?」


 部屋の中を見渡すと、1つしかないベッドの脇にはカエデの荷物が置かれている。木剣が見当たらないので、多分ベッド下だろうと見てみると、果たして一本の木剣を見つける。


「木剣が一本しかないと言う事は、もう一本を持ち裏庭に行っているでござるな。」


 ムネカゲは残っていた木剣を持つと、部屋を出て裏庭へと向かう。

 そこで見たのは、まだまだ痩せ細った両手で木剣を握り、ゆっくりではあるが上から下へと振り下ろすカエデの姿だった。

 ただ、かなりの屁っ放り腰だが。


「カエデ、違うでござるよ。どうせ木剣を振るならば、しっかりとした姿勢で振るでござる。」


 見兼ねたムネカゲは、カエデの元へと近付くと「見ているでござる」と、素振りの手本を見せる。

 それは、剣道の素振りとほぼ一緒だ。正眼の構えから右足を半歩前に出し、膝を軽く曲げ腰を落とす。臀部へ接触する手前まで木剣を振り上げ、そこからゆっくりと振り下ろす。その際、姿勢を崩さない事と、右足と左足を更に半歩前に出す事を説明。

 再び木剣を振り上げ振り下ろす際、今度は半歩後退をする。


「木剣を振り上げる際は、無駄な力を入れず自然に上げるでござる。振り下げる際も同様でござるが、振り下ろし切った際には、腕や手に力を入れてピシッと止めるでござる。しっかりと見ているでござる。」


 ムネカゲはそう言うと、綺麗な姿勢で素振りをし始める。一振り一振りに緩急を付けたその素振りは、力の入った箇所でブンッと空気を切る音がする。

 

「こんな感じでこざる。さあ、やってみるでござるよ。」


「んっ!」


 カエデを引き取り、初めて教える剣の基本。

 カエデは嬉しさのあまり、慣れない重い木剣を持ちフラフラとしながらも、ムネカゲの教えの通り木剣を振る。

 その様子をムネカゲは横で見ながらも、ここが違う、あそこが違うと口を出す。

 師弟の訓練は、日が暮れかかるまで続いた。


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

 

 翌日。昼の鐘が鳴る頃、ダング達共にギルドへとやって来たムネカゲ。

 既に討伐隊の報酬を受け取った冒険者達は居ない。まあ、かなり大変な討伐戦であり、報酬や買取額の上乗せで懐が温かいのだろうから、一日、二日は休養しているのだろう。

 そんな閑散としたギルドで、バルトルド達「漆黒の剣」のメンバーとも合流する。


「おう、昨日ぶりだな。」


「ああ、昨日ぶりだ。もう諦めてくれたか?」


 ダングは笑いながらバルトルドへとそう返事をする。


「んぁ?諦めちゃいねえよ。だが、まあ、今は諦めざるを得ないがな。いずれはウチにとは思ってるぞ?」


 バルトルドはムネカゲの方を向きそう口にする。

 そんな会話をしながらも、一行はギルド裏手の倉庫へと案内される。案内役はシーラではなく、男性職員だ。

 ちなみに今日はカエデも一緒だ。ここ最近、宿に一人放置状態だったカエデの息抜きで連れて来ることとなった。とは言っても、単に報酬を受け取るだけだが。


 倉庫へと案内され中にと入ると、そこには大量のオークが積み上げられていた。

 

「流石に凄え数だな。」


「これで値崩れせず買い取ってくれるんだから、ギルド様様だな。」


「ええ。肉はすぐにでも掃けますし、問題はありませんよ。」


 男性職員はそう言いながら、オークを出す場所を指示する。


「ここら辺りにお願いします。ああ、出来れば、間隔を開けて出して下さい。」


「分かったでござるよ。」


 ムネカゲは言われた通りの場所に、漆黒の剣が倒したオーク。孤高の狼が倒したオーク。それとムネカゲが倒したオークの順に収納から出していく。


 「本来は、オークの討伐報酬が大銅貨5枚。肉は銀貨1枚と大銅貨5枚。睾丸が銀貨5枚。そして、魔石が大銅貨1枚の合計銀貨7枚と大銅貨1枚が相場となっております。しかし、今回は量が量で査定に時間が掛りますので、固定価格での買取となります。価格はオーク一体につき、銀貨8枚です。すこし色付けしてあります。ファイター、メイジ、アーチャーは大銀貨1枚銀貨5枚となります。では数を数えて行きますね。」


 男性職員は、漆黒の剣のオークからその数を数え始める。羊皮紙に通常種が何体、ファイターが何体と記入していくと、その記入した羊皮紙に男性職員のサインを入れてからバルトルドへと確認。羊皮紙を手渡す。

 同じ事をまた繰り返し、今度はダングへ。

 最後にムネカゲの番となるのだが、ムネカゲが倒したのは、オーク八体。ファイターが一体。メイジが一体。アーチャーが三体だ。ジェネラルは既に預けてあり、数には入っていない。

 羊皮紙に書かれた数字を確認し、その羊皮紙を受け取ったムネカゲ。

 すべてが終わった後、男性職員が口を開く。


「以上となります。今お手渡しした紙を、受付へと提出して下さい。キング、ジェネラルの査定は既に終わっておりますので、それも一緒に精算させて頂きます。後、ムネカゲさんはギルドカードをご準備下さい。ランク更新作業がありますので。」


 男性職員の言葉にムネカゲは首を傾げながらも「分かったでござる」と返事をする。

 

 全員で連れ添って受付へと向かい、受付で精算して貰う。


「ムネカゲさんは、通常種八体で大銀貨5枚銀貨6枚。ファイター、アーチャー、メイジが五体で大銀貨7枚銀貨5枚。後、ジェネラル一体が金貨3枚と大銀貨4枚となっております。これに討伐参加報酬銀貨1枚を加え、総額金貨4枚、大銀貨7枚、銀貨2枚となります。お納めください。」


 受付嬢からの内訳説明に、驚くムネカゲ。


「そ、そんなに頂けるのでござるか?」

 

「ええ。ジェネラルの素材は希少価値が高く、特に睾丸がキング程では御座いませんが、貴族様方にとっては喉から手が出る程欲しい一品。それなりに高額となるのです。金貨3枚の内、2枚はその睾丸の値段となっております。ですので、適正価格ですよ?」


 何故、オークのタマタマがそこまでの金額になるのかが分からないムネカゲ。だが、まあくれると言うのだから貰っておこうと、麻袋を受け取ると懐へと仕舞い込む。


「ご苦労様でした。後、ムネカゲさんは、今回の依頼でDランクへと昇格致します。ギルドカードを提出ください。」


 その言葉に、ムネカゲは意を唱える。


「拙者、まだEランクの依頼回数を熟してはいないのでござるが、何故昇格するのでござるか?」

 

 ムネカゲは手に持っていたギルドカードを受付に渡すのだが、何故ランクが上がるのか、その理由が分かっていなかった。その理由をダングがギルドマスターと話していたのだが、ムネカゲは全く聞いてもいなかったのだ。


「今回の昇格は、ギルドへの多大なる貢献があった。と言う理由での昇格となります。本来であれば、ムネカゲさんの言う通り、依頼をコツコツと熟して昇格するのですが、キングやジェネラルの素材を丸々持ち帰る事が出来た上に、更に通常種や中級種まで持ち帰る事が出来た。その貢献度をギルドは高く評価したと言う事です。」


「なるほど。納得したのでござる。」


「はい。ありがとうございました。」


 受付嬢はその場で一礼すると、ムネカゲのカードを持ちランクアップ処理をし始める。

 そして待つ事暫し。カウンターに出されたのは、銀色に輝くプレートであった。


「およ?色が変わったでござるか?」


「ええ。FランクとEランクは銅プレートとなります。それは見習いを現すのですが、DランクとCランクは銀プレート。BランクとAランクが金プレート。Sはミスリル製となります。ですので、紛失された場合、多額の再発行手数料が掛かるのです。」


「確かに、再発行には大銀貨1枚掛かると言われたでござるな。」

 

 以前、冒険者の登録を行った際、受付嬢からそう聞かされていた事を思い出す。


「ええ。材料費もバカに出来ませんからね。ですので、カードは無くさないようにお願い致します。」


「畏まったでござるよ。」

 

 ムネカゲは新しいカードを懐へと仕舞うと、ダング達と共にギルドを後にするのであった。

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