第27話 サムライ、下手に目立つ

 空が薄っすらと白み掛かってくる頃に、オークの討伐戦は無事に終わった。

 蓋を開けてみれば、オークジェネラルどころか、オークキングまでもが存在していた今回の討伐戦。

 キングはバルトルド達「漆黒の剣」が倒したが、ジェネラルの内一体は「孤高の狼」のダングが単独で撃破。もう一体を無名のEランク冒険者のムネカゲが倒すと言う異例の事態となった。

 しかも、ファイターやメイジ、アーチャーと言った中級種をも倒したムネカゲ。否が応でも、その目立ちっぷりは半端ない。


「ダングの言った通り、相当腕も立つみたいだ。ジェネラル相手にソロで立ち向かいそして倒すとは。」


「だから言ったろ?剛閃が焦ってたって。」


 集落の中央はかなりの激戦であった。それ以上にキングとジェネラルとの戦いは、この場に居た全員へとかなりの疲労を齎していた。その為、現在全員が地べたに座り込んでいる。


「ああ、確かに今となっては、それが真実だとはっきりと分かるわ。」


「やらねえからな?」


「そこは今からだろ?」


 バルトルドとダングはそんな軽口を言いながらも、一人地べたに座り込みもせず、自分が倒したオークの死骸をせっせと収納へと仕舞い込んでいるムネカゲを見ている。


「あいつは化け物か?」


 そんなムネカゲを見て、バルトルドが眉を顰めてそう言う。


「まあ、それは否定しねえな。そもそも、なんであいつあんなに元気なんだ?」


 ダングはそう言いつつ、溜息を吐く。

 暫しの休憩後、徐バルトルドが口を開く。


「さて、これから他を周らにゃいかんし、そろそろ動くとするか。」


 バルトルドはそう言うと、重い腰を上げて立ち上がる。


「だな。おい!自分らが倒したオークに印を付けて回るぞ!」


 ダングのその言葉で、孤高の狼、漆黒の剣、深紅の瞳の面々は、自らが倒したオークへと何かしらの印を付けて回る。

 孤高の狼は、オークの左手の甲にナイフで×印を。漆黒の剣は右手に。深紅の瞳は右腕の肩へと印を付ける。

 それら印を付けた物を、ムネカゲがせっせと収納へと仕舞って行く。

 ちなみに、オークジェネラルが持っていた大剣とキングの持っていた片刃の大剣は持ち帰る事となった。ファイターの剣は、埋めて帰るらしい。


 その後、北側で戦っていた者達のオークを収納してから、南西のオークを収納する。

 全てのオークを収納したら、火が付き既に燃えている掘立小屋以外の小屋を崩し、そこに火を掛け燃やしてから撤退する事となった。

 結果としてみると、負傷者は多数いたものの、死亡者はゼロと言う快挙。負傷者はギルドから支給されたポーションで、全開とまではいかないながらも既に回復している。

 オークの方はと言うと、通常種のオークが何と167体。ファイターが7体。メイジが6体。アーチャーが10体。ジェネラルが2体にキング1体だった。

 

 そんな帰りの道中は、皆足取りが軽かった。それはそうだろう。大量のオークが討伐されたのだ。その買取金の額は相当なものとなる。

 そしてその金額を自慢するかのように、身振り手振りで話をしながら警戒もせずに森の中を歩く。まあ、これだけ大勢で移動しているのだ。逆に魔物の方が逃げていくだろう。

 そんな足取り軽く野営陣地へと戻った一行は、騎士団から温かいスープと堅パン、そして干し肉を受け取ると、一時の休息を取った。


 丁度日が真上へと来た頃、冒険者達は行動し始める。

 ムネカゲがオークの死骸を収納から出し、それを各自が荷馬車へと乗せていく作業だ。

 特にレイホアの冒険者達は、このままクォーヴの冒険者達と別れるので、猶更積み残しや間違えの無いように自分達の倒したオークを積んでいく。

 クォーヴの冒険者達もそれは一緒で、幾ら収納を持っているとは言えムネカゲが街まで運んでやる必要は無い。なので、全てのオークを出していくムネカゲを見て、慌てて荷車へと積み込んでいく。

 ちなみに、深紅の瞳はここで分かれるのでその分は出したが、漆黒と孤高の倒したオークはダングの一言で、ギルドまでムネカゲが運ぶ事となった。その為、未だムネカゲの収納預かりとなっている。

 まあ、キングとジェネラルなので、当然と言えば当然だが。

 そんな収納からポンポンとオークを出すムネカゲの事を、両街の騎士団がジロジロと見ていたのは言うまでも無い。まあ、他の冒険者もだが。

 

 こうしてオークの積み込みが終わった頃には、既に日が傾き始めており、このまま帰ると完全に日が落ちる頃に街へと着く為、もう一泊野営をし翌日に解散する事となった。

 無論、折角出したオークを積んだ荷馬車毎、再び収納へと入れる事になったが。


 その夜、流石に酒は出なかったのだが「折角なので」と言う事で、バルトルドが倒したオークを二体捌き、その肉を大盤振る舞いする事となった。ちなみに出したのは通常種のオークだ。

 焚火を囲んでオーク肉を焼く。味は素材の味ではあるが、大仕事をした後に大勢で食べる肉と言うのは、それだけで特別なスパイスとなる。冒険者の輪の中に騎士団も加わり、オーク肉はあっという間に参加した大方200名近い者達の腹の中へと納まった。


 そんなどんちゃん騒ぎから一夜明け、テント類を片付けた後に一路街へと戻る事となる。

 来た時同様、漆黒の剣が先頭を歩き、騎士団が二番手。資材、荷馬車隊が次を行き、最後に冒険者達が続く。

 ただ一つ違うのは、何故か孤高の狼の面々とムネカゲが先頭を歩いている事だろうか。

 なぜそうなったのか。その理由は、

 

「よう。お前、ウチのパーティーに入らねえか?ジェネラルをソロで倒すお前さんなら、即戦力として活躍出来るだろうよ。」


 まあ、要は、そう言う事だ。バルトルドの下心からだ。


「拙者でござるか?有難い話しではござるが、拙者パーティーは組まぬでござる。」

 

 しかし、ムネカゲは即答して断る。


「ほぅ?それは「孤高の狼」ともって事か?」


 ムネカゲの返答に、バルトルドが眉を顰めてそう聞き返す。

 

「いや、ダング殿には何れは世話になるでござるよ。しかし、それにはまずランクをDに上げる必要があるでござる。それまでは、拙者、一人でコツコツと依頼を受けるのでござる。」


 まあ、糞真面目だと言われればその通りなのだが、それがムネカゲだと言われれば納得出来る。


「んなら、そのまま孤高で一緒にやるつもりなのか?」


「そのままでござるか?それはまだ考えてはいないでござる。当面は……と言った感じでござろうか。」


 バルトルドとムネカゲのやり取りを、ダングはその後ろで黙って聞いている。


「んならよ、ダングに飽きたら、ウチで一緒にやればいい。」


 その言葉にダングが突っかかる。


「飽きたらって、なんだそれ。」


「ん?お前んところでやってたら、いずれ飽きが来るかもしんねえだろ?そしたら、次はウチの番だ。ウチは、飽きねえぞ?」


 そう言うと、バルトルドは「ガッハッハ」と笑う。

 そんなやり取りを、ダングのすぐ後ろで聞いていた者が居た。そしてその者は、ここぞとばかりに口を開く。


「いやいや、少し待って頂きたい!ムネカゲ殿。是非、我が主。街の領主である、アデルベルト・クォーヴ伯にお会い頂きたい。話に聞くところによると、Eランクにも関わらずメイジやアーチャーを即斬で倒し、オークジェネラルを単独で撃破したと言うではありませんか。ムネカゲ殿の力を是非、我が騎士団で。いえ、その力はクォーヴ伯にこそ相応しい。領主の為に使うべきなのです!」


 騎士団長の言葉に、バルトルドは「ゲッ!騎士団も狙ってんのか!」と驚き、ダングは額に手を当て「やっぱりか……」と天を仰ぐ。カズン達は「やれやれ」と言った感じか。


「確かにジェネラルは倒したでござるが、拙者。何処にも入るつもりは無いでござるよ。強いて言うのであれば、迷宮に興味があるのでござる。であるからして、当面はDランクへと昇格する事を目標に。その後は、ダング殿と共に迷宮へと行くのでござる。」

 

 ムネカゲは首を少し後ろめに傾けると、目線は前を向いたままでそう答える。

 そのムネカゲの言葉に、バルトルドは「いや、お前、帰ったらDランクになるだろ……」と呟き、騎士団長は「絶対に諦めません!」と息巻く。ダングはと言うと、ホッと胸を撫で下ろしていた。


 そんな会話がなされつつ、一行は昼を過ぎる頃にクォーヴの街へと戻って来た。

 しかし、クォーヴの街に入る手前で何故かその歩みを止める。そして騎士団の一人が街へと駆けり、それを見送る様に見た騎士団長とバルトルドがムネカゲの方を向き、口を開く。


「ムネカゲ殿。ここで暫くお待ち下さい。今、大型の荷馬車が参ります。」


「大型の荷馬車でござるか?」


「ああ、その荷馬車が来たら、オークキングとジェネラルを乗せる。そして街へと移動だ。」


 ムネカゲは、何故そのような事をするのか、理由が分からなかった。

 そんなムネカゲの気持ちを良く知るダングが、その理由を教えてくれる。


「えっとな。昨日西門にこれだけの人数が集まった事で、大体の事情を住民達は知ってしまったんだよ。だから、もう危険はないと知らしめるためにも、キングとジェネラルを荷馬車に乗せ、凱旋する必要がある。分かったか?」


「なるほどでござる。」


 ダングの言葉に納得したムネカゲ。

 その後、街から大型の荷馬車が三台到着すると、その荷馬車の上へとキングとジェネラル二体を乗せ、再び街へと向けて歩き始める。


 

 ダングの言う通り、オーク集落の件が既に広まっていた為、その討伐が成功したとの触れは、直ぐ様街中へと拡散。街の中がお祭り騒ぎとなった。

 そして、王都の有名Aランク冒険者である「漆黒の剣」のメンバーに、街の住人は手を振り、そして名前を叫ぶ。

 その後ろをムネカゲは進む。


「凄い熱気でござる。」


「まあな。オークが街道に現れると、相当な被害が出るからな。それを未然に防いだんだ。住人からしてみると、喜ばしい事だろ。」


「そう言うもんでござるか……。」


「そう言うもんなんだよ。」


 ムネカゲ達は街の熱気に包まれたまま、大通りを進む。

 凱旋はギルドへと到着するまでの間続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る