第26話 サムライ、存分に活躍する

 オークの集落近くへと身を顰めた討伐隊。

 現在位置は、集落の南東方面だ。


「よし、俺達は右へと回り込み正面からオークを倒す。レイホアのDランクはEランクを連れて南から西方面へと回り込め。クォーヴのDランクは、Eランクを連れて北東から北方面だ。行くぞ!」


 簡単に指示を出したバルトルドは、音を立てない様に移動を開始する。

 集落がかすかに見える程の距離を右回りに回る事少々。簡単ではあるが、門扉が見えて来る。その門扉の横には、見張りだろう木槍を持つオークが二体立っている。


「クォーヴの冒険者は、ここからもう少し奥へと回り込め。合図はドミニクスの派手な魔法だ。」


 門前に陣取った漆黒の剣、孤高の狼、深紅の瞳のメンバー。クォーヴの冒険者達は更に右回りで移動をする。


 正面門扉前で配置につき、三十分程が経った時。それまで静かだったバルトルドが口を開く。


「ドミニクス、派手にやってやれ!」


 バルトルドの言葉に、隣で待機していたドミニクスが頷き杖を前へと掲げる。


「我が内なる魔力を糧に、その力を開放せよ。求めるは、燃え盛る炎。求めるは、吹き荒ぶ竜巻。その力で全てを焼き尽くせ!ファイヤーストーム!!」


 その瞬間、目の前の簡易的な門を中心に凄まじい炎の竜巻が現れる。

 そしてその竜巻は生きているかの如く動き回り、見張りのオークや地面へと横になるオーク達を一瞬にして飲み込んでいく。


「行くぞ!」


 バルトルドが叫ぶ。

 草葉の陰に隠れていた近接メインの者達が、各々獲物を抜くと雄叫びを上げながら集落の中へと駆けていく。

 そして他の場所でも開戦したのだろう、遠方からも雄叫びの声が上がる。

 ムネカゲもバルトルド達の後に続き、集落へと突っ込んでいく。


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇ 

 

 オーク達は警戒していなかった。それこそいつも通りに肉を喰らい、地面へと横になっていた。

 そして突然、熱波がやって来る。「ブモォォォ!」と雄叫びを上げるも、その熱波によりそのオークは一瞬にして燃やし尽くされてしまう。オークの集落は大混乱となった。

 そこへ何処からともなく現れた人間達。その人間達は、武器すらまともに持っていないオーク達をバッサバッサと斬り倒して行く。逃げるオーク達。追う人間達。オーク達はただただ狩られるだけとなる。

 しかしそこにオーク達の救世主が現れる。そう、それは通常種のオーク達を統べる者だ。

 王が来た!王が人間を駆逐してくれる!その姿に、オーク達は「ブモォォォ!」と歓声を上げた。


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

 

 ムネカゲは、ダング達と共にオークを屠り続ける。周りには、後方から放たれた火魔法が掘立小屋へと命中。炎を上げて燃えている。

 その炎で薄っすらと見える立ち上がる事すらせず、未だ地面に座り込んだままのオーク目掛けて槍を突き刺し、慌てたのか無手のままで襲い掛かって来るオークに横凪の一撃を入れたり、兎に角目の前にいるオークを只管倒し続けていた。

 するとムネカゲ達の目の前に、いつしか見た革鎧を着、手には錆びた剣を持ったオーク達が現れる。そして、その革鎧を着こんだオークの後ろから、弓や魔法での攻撃も加わった。


「気を付けろ!メイジと、アーチャーが居るぞ!」


 誰が叫んだのか、そんな叫び声が聞こえて来る。

 ムネカゲは槍を両手で持つと、革鎧を着こんだオークへと目掛けその穂先を突き出す。

 槍はズブリと革鎧を突き抜け、オークの腹へとメリ込む。そのメリ込んだ穂先を半ば強引に右へと薙ぐと、オークが倒れた隙間を身体強化と瞬歩を使い駆け抜け、魔法が飛んで来た方角に居るであろうオークメイジの方へと肉薄。槍を振り回しメイジを集中的に攻撃し始める。

 肉薄されたメイジは、慌てふためき距離を取ろうと後退する。しかし、そこへアネッテが参戦。逃げるオークメイジの背後から斬り付ける。そうこうしていると、ダング達がファイターと肉薄。素早さのあるアーベルや漆黒、深紅のメンバー立がメイジ相手に立ち回り始める。

 ムネカゲは残りのメイジを他の者に任せると、もう一方のアーチャーの方へとターゲットを変える。

 そのアーチャーの方はと言うと、漆黒の剣のアーチャーと深紅の瞳のアーチャーとの遠距離対決となっている。数は二対十。そんな劣勢の遠距離対決の中に飛び込むムネカゲ。

 一部のオークアーチャーが標的をムネカゲへと変更してくるが、暗闇の中で放たれる矢を勘を頼りに羅刹十文字槍を巧みに操り叩き落とすと、身体強化と瞬歩を使い一瞬で肉薄。アーチャーの心臓目掛けて槍を一突き。倒れるアーチャーに蹴りを入れ槍を引き抜くと、そのままクルリと右回転し隣のアーチャー目掛けて槍を薙いだ。槍の十文字がオークアーチャーの左目に刺さり柄がオークアーチャーの顔にメリ込む。ムネカゲはそのまま槍を手前に引くと、強引にアーチャー二体を引き摺り倒した。

 倒れるアーチャーには目もくれず、ムネカゲはアーチャーの背後へと回り込むと、慌てて向きを変えようとするアーチャーの首筋へと穂先を滑らせる。

 それと同時にトスッ、トスッと言う音が鳴り、額に矢を生やしたアーチャーが倒れる。

 ここまで数が減れば、アーチャー二人に任せても問題ないだろうと、ムネカゲは標的を変えようとして気付く。今までにない気配が暗闇の中、こちらへと向かって来ている事を。

 

 それは三体のオーク。二体のオークの身の丈は、ムネカゲの倍。鉄鎧を身に纏い、その手には刃こぼれも無く錆びてもいない両手持ちの大剣を握り締めている。そしてもう一体。これがデカかった。身の丈は4m以上あるだろうか。二対と同じく鉄鎧に身を包み、肉切り包丁を大きくしたような片刃の剣を握り締めている。

 そしてこの三体のオークが現れると、周りのオーク達から「ブモォォォ!」と歓声の様な鳴き声がし始める。

 

「何でござるか?」


 ムネカゲはその三体が何なのか分からなかった。ただ、今までとは違い確実に強い事だけは分かった。そこに誰からともなくムネカゲを呼ぶ声が。


「ジェネラルとキングだ!おい!そこの変な恰好の奴!お前じゃ太刀打ちできねえ、下がれ!」


 ムネカゲはその言葉を聞き、「変な奴とは失敬でござる。」と内心ぼやきながらも、目の前の三体から目を離せないでいた。何故なら、その三体はムネカゲへと視線を向けており、その殺気もムネカゲへと向けられていたからだ。

 ムネカゲは羅刹十文字槍を構えると、臨戦態勢を取る。その姿を見たオークキングが吼える。


「ブボォォォォォォォオオオ!!」


 その叫び声が合図となり、オークジェネラル二体とオークキングがムネカゲ目掛けて武器を振り翳し肉薄してくる。

 そしてその三体が、武器を振り下ろそうとしたその瞬間。ジェネラル一体にダングが。キングへはバルトルドが肉薄。それぞれが剣を盾にし、その攻撃を受け止める。


「グウッ!」


 ダングは苦しそうな表情でとなり、バルトルドはまだ余裕な表情だ。

 そしてもう一体の攻撃は、ムネカゲが一歩後ろへと後退した事で、地面へとその刃先がメリ込む。


「おい!キングは貰うぞ!」


「ジェネラル一体は俺が貰うぞ!」


 ダングとバルトルドがそう言って来る。


「ああ、構わぬでござるよ。」


 ムネカゲはそう言うと、腰を落とし槍を構える。

 ジェネラルは地面から剣を抜くと、再度振り被りムネカゲへと振り下ろす。ムネカゲはそれを半身で避けるとその反動を利用し槍を横に薙いだ。しかしジェネラルは剣を盾にする事で受け止める。

 ムネカゲは槍を引き、一足飛びで前へと出ると、石突をバットの様に振るいジェネラルの足元へと叩き付ける。ジェネラルは足を挙げてそれを回避。そのまま槍を踏みつぶす勢いで足を下ろす。ムネカゲは再度槍を引くと、一旦距離を取る。

 一進一退の攻防の中、先に動いたのはムネカゲだった。

 槍を∞字に振り、ジェネラルへと間合いを詰める。ジェネラルはその∞の動きに剣を合わす事が出来ず、ただ単なる突きを放つ。ムネカゲは、その突き出された剣に槍を絡めて剣の軌道を自らの身体から外すと、その場で爪先半回転し槍をジェネラルの脇腹へと薙いだ。

 ジェネラルは咄嗟に身を捻り、穂先を避けようとするが、それは叶わず穂先はオークの鉄鎧をも貫通。脇腹へと斬り込んだ瞬間に槍を捻り肉を抉る。

 

「ブモォォォォッ!」


 怒り猛るジェネラル。抉れたか所から、臓器が見え隠れする。

 そこから痛みと出血によるものなのか、ジェネラルの攻撃は散漫となり、大振りの攻撃が多くなってくる。

 ムネカゲはその攻撃をスウェーで躱し、バックステップで躱しと、ジェネラルを翻弄し始める。

 そして途中で羅刹天十文字槍をパッと手から離し、雷紫電の柄へと手を掛けると武技を発動させる。


「雷斬り!」

 

 振り下ろされた大剣の下を潜り抜けてからの居合斬り。ジェネラルの右手が斬り飛ばされ焦げた匂いが辺りに立ち込める。

 手首から先を斬られたジェネラルは、激しく雄叫びを上げようとするが、雷を纏った刃で斬られた為、感電しており声を上げる事が出来ない。

 しかし、流石はジェネラルと言った所か。感電しているにも関わらず、痺れる左手で右手首をなんとか抑え、そして一歩、二歩とゆっくり後退りする。

 しかし、一瞬とは言え動きが止まってしまうと言うのは、大きな隙となる。


 「流石に、見逃すと言うのは無いでござるよ。」


 ムネカゲはジェネラルへとそう言い放つと、そのまま刀を左側へと寝かせ肉薄。左下からの斬り上げを繰り出す。

 感電し動きの遅いジェネラルはそれを避ける事すら出来ず、胸に斜めの傷を作る。しかしムネカゲの手は止まらない。斬り上げからの袈裟斬り。袈裟斬りからの横一文字斬りと三連コンボを繰り出す。更にはその反動を利用してクルリと一回転しつつその場で跳躍すると、ジェネラルの眼前で右回りの横一文字斬り。ジェネラルの両目を切り裂く。


「ブモォォォッ!」

 

 両目を着られたジェネラルは、右手首を抑えていた手を目元へと移し、そのまま後ろへと倒れ込む。

 地面へと着地したムネカゲは、トドメとばかりにジェネラルの横へと歩み寄ると、暴れるジェネラルの腕を足で踏みつけ、首へと雷紫電の刃をズプリと埋め込む。

 ジェネラルは「ゴボッ」と短い声を発し痙攣する。刀を抜いた後、傷口からは血が流れ始め、口からは泡交じりの血が流れ始めた。


「終わったでござるな。」


 ムネカゲはそう言うと、刀に着いた血糊を振り払い。鞘へと仕舞うと周りを見渡す。

 粗方のオークは既に討伐されており、ダングの方も、もう少しで片が付きそうであった。

 問題のキングの方はと言うと、バルトルド対キングの戦いから漆黒の剣対キングの戦いへと移り変わっており、そのキングも既に満身創痍。決着が付くのは時間の問題であった。


「これにて討伐戦は終了でござるかな。」


 ムネカゲはそう独り言ちると、地面に放り投げた羅刹天十文字槍を拾い、ダングと漆黒の戦いを眺めるのであった。

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