第25話 サムライ、オーク討伐に向かう

 オーク集落討伐隊に参加した二日後。討伐隊は西の森へと出発する事となる。

 朝九時の鐘の音が鳴り響く頃、街の西門前の広場は、物々しい恰好をした者達で溢れ返っていた。これら全てがオーク討伐隊に志願した者達だ。その数、約百名程。

 内訳としては、領主の私兵である騎士団が五十五名。冒険者として参加した者達が四十一名だ。

 勿論、Eランク以上が推奨されている為、冒険者の中にFランクは居ない。と言うより、この街を拠点に活動する冒険者の殆どが、Fランクの駆け出しやEランクなのだ。Dランク以上ともなれば、余程街に愛着が無い限り迷宮都市や他の地域へと流れていく。

 そんな中で募集を掛けるのだから、冒険者の参加人数が少ないのは仕方が無い。と言うより、Dランク冒険者が二組参加しただけでも御の字だ。

 隣の町であるレイホアも似たような物だろう。

 ちなみに、この数字の中に、孤高の狼や漆黒の剣のメンバーは含まれていない。ムネカゲは含まれているが。

 そんな騎士団や冒険者が集まる中、ギルドマスターが壇上へと立つ。


「皆の者、よくぞ集まってくれた。募集の依頼書を見て貰った通り、西の森の深い場所にオークの集落が確認された。これを放っておくと、いずれ街道へとオークが湧いて来るだろう。そうなれば、被害は甚大。そうならぬ為にも、これを迅速に処理しなければならない。この討伐は、レイホアの町とも協力体制を敷き、両街合同で当たる事となる。参加する者達は無理をせず、迅速確実に事に当たって欲しい。諸君の活躍を期待している。」


 ギルドマスターの檄が終わると、見た事の無い男性が壇上へと上がる。

 その男は、仕立ての良さそうな、見るからに高貴な物だと分かる衣装を身に纏っている。


「諸君、私はこの街の領主、アデルベルト・クォーヴである。我が街と隣のレイホアの間にある森に、人に害成すオーク共が住み着いたと報告を受けた。オークが人里へと下りると、その被害は甚大。そうならぬ為にも、冒険者諸君は迅速にこれに対処して貰いたい。我が騎士団は、後方にて冒険者諸君の支援に当たらせる。後方は気にせず、頑張ってくれたまえ。」


 騎士団自体もオークの討伐をするものだと思っていた冒険者達の間からどよめきが起こる。

 それはそうだろう、冒険者の数よりも騎士団の数の方が多いのだから。

 だがそのどよめきは、次に壇上に立った者の声で掻き消える。

 その男は、身長180cmはあるだろう大男で、年の頃30代半ばくらい。全身銀色に輝く金属鎧を身に纏い、背中には両刃の漆黒の大剣を背負っている。


「諸君!俺はAランク冒険者「漆黒の剣」のリーダー、バルトルドだ。この度のオーク集落討伐隊を率いる事になった。よろしく頼む。」


 その瞬間、冒険者の間で歓声が沸き上がる。


「基本、ジェネラルやキングと言った上級種は俺達に任せて貰えればいい。諸君は、通常種のオーク、それと場合に寄ってはファイターやメイジ、アーチャーと言った中級種のオークを頼む。決して無理はしない様に。危ないと思ったら、即撤退し回復に心がけてくれ。以上だ!」


 ギルドマスター、領主、そしてバルトルドの檄の後、討伐隊は一路西の森へと向かって進み始める。

 先頭はバルトルド率いる「漆黒の剣」のメンバー5名。二番手に騎士団と資材や討伐したオークを運ぶための荷馬車隊。三番手にクォーヴの街の冒険者達だ。孤高の狼の面々も三番手でムネカゲと共に歩いている。


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 街を出て半日。日が真上から少々西へと傾きかけた頃、クォーヴとレイホアとの中間地点にてレイホアの町の冒険者や騎士団と合流する。

 そこから街道を外れ森に近い場所まで来ると、騎士団が手早く陣地を築き上げていく。

 

 大きなテントが張られた後、Dランク以上のパーティーリーダーがそのテントに呼ばれる事になる。

 集まったのは騎士団長も含め総勢9名。


「さて、作戦会議を始めよう。」


 そう言って机の上に簡単なを広げたバルトルドが話を切り出す。


「調査をしたのは、確か「孤高の狼」だったよな?」


 バルトルドがそう言ってダングの方を見る。

 この二人、既にギルドで顔を合わせており、ある程度の情報共有をしている。ムネカゲはその場に居なかったが。


「ああ。俺達が調査した。」


「その時の様子をもう一度説明してくれ。」


「了解した。俺達が森へと入ったのは、丁度ここら辺りからだ。」


 そう言ってダングは地図を指差す。その場所と言うのは、クォーヴの街から丁度北西に位置する場所だった。


「ここから真っすぐ、西方面へと入った場所。大体ここら辺りか。ここから北と南に分かれて捜索した。」


 ダングは凡その位置を指で指し示めす。


「鐘の音が一つ鳴るくらいの場所で、多数のオークの気配がしたと報告を受け、その場所へと向かった。方角は北西だ。」


 ダングの指が地図をなぞる。


「大体、体感にして一時間程だろうか。木が無く、不自然に開け柵に囲まれた場所へと到着した。そこで目にしたのは、刈り倒した木で掘立小屋を作り、オーク達が何やら作業をしている姿だった。そして、そこにファイター、アーチャー、メイジが確認された。流石にそれ以上は近付けず、中の様子などは全く分からん。ちなみに、北西から北に掛けては切り立った崖だ。」


 ダングはそこまで説明すると、椅子へと座る。


「良く分かった。で、作戦だが、先ず日の高い内に仕掛けると、哨戒に出ているオークを討ち漏らす可能性が出て来る。なので、襲撃は夜だ。最小限の灯りで集落まで近づき、一斉に攻撃を仕掛ける。寝ているオークなど、ゴブリン以下だからな。その際、Eランク冒険者達はDランク冒険者と連携し、集落を囲み周りの雑魚オークを掃伐。その際のEランクへの指示は、各Dランクのリーダーが執れ。一匹たりとて、オークを逃すな。残ったCランク「孤高の狼」と「深紅の瞳」は、俺達と共にファァイター、メイジ、アーチャーを標的に。もしジェネラルやキングが居た場合、俺達はそっちの上級種へと対象を切り替える。こんな感じでどうだ?」

 

 作戦を聞かされた面々は頷き了承。


「良し。出発は深夜。開戦の合図は、ウチの魔術師にどデカい魔法をぶっ放させる。それが合図だ。冒険者はそれまでに腹ごしらえをし、全員に仮眠を取らせる。周りの見張りは、騎士団に任せればいい。騎士団はそれでいいか?」


「ええ、構いません。」


「ええ。その為の騎士団です。」


「後は、クォーヴのギルマスから、オークを全て運ぶ段取りがあると聞いている。各自、倒したオークに何かしら目印を付ける様周知してくれ。後々喧嘩にならんようにな。よし、それじゃあこれで会議を終わる。解散だ。」


 作戦が決まり、各々がテントから出ると、早速冒険者へと作戦が伝えられていく。

 その後軽く食事を摂り、各自が仮眠を取り始める。


 夜の帳が降り、辺りが暗闇に包まれた頃、森の入り口の前に冒険者達が集まる。その数、89名。

 漆黒の剣が五名。孤高の狼が四名。深紅の瞳が四名。クォーヴの冒険者が四十一名。レイホアの冒険者が三十四名だ。これが多いのか少ないのかと言われると何とも言い難いが、下手に実力の無い者を入れてしまうと他の者達に影響が出る可能性もある為、それを考えると多い方なのだろう。

 騎士団は陣地の守りに就いており、見回りの兵がテントの周りを巡回している。


「諸君、これからオークの集落へと夜襲を掛ける。Eランクの冒険者は、Dランク冒険者と協力し集落を包囲。打ち漏らしの無いように、各個撃破をお願いする。また、自分が倒したオークには、必ず何かしらの印を付けておくように。最終的に集落を陥落させたのち、ここまで運んだ後に揉め事とならない様注意をして欲しい。では出発!」


 流石に大声で叫べない為静かに頷くと、一行は松明に火を点け森へと入って行く。

 先頭は漆黒の剣と孤高の狼が進み、その次に深紅の瞳が続き、その後ろをDランク以下の冒険者が進む。

 で、ムネカゲはと言うと

 

「拙者、なぜここに居るのでござるか?」


「お前はこっちでいんだよ。力量差で考えても、後ろの奴ら寄りではなく、俺達よりなんだからな。」


 そう、ダング達と共に行動をしていた。


「それに、キングやジェネラルが居た場合、お前が居た方が断然楽だ。」


 そんな理由で。


「その様に強いのでござるか?そのキングやジェネラルと言うオークは。」


「まあ、漆黒の剣が五人で戦えば勝てる。って所か?俺達だと、ジェネラル一体を四人がかりって所だな。そこにファイターやらメイジなんかが居ると、結構キツイ。」


「なるほどでござる。まあ、拙者。何処でも良いのでござるがな。」


 そんな呑気な会話をしつつ、一行は暗闇の森の中をオークの集落へと歩く。

 ちなみにムネカゲの恰好は、貫き以外の鎧甲冑フル装備だ。流石に草鞋では来なかった。

 そして武器は右手に羅刹天十文字槍と腰に雷紫電と槿払だ。正に、戦に行きますと言った格好であり、かなり浮いている。


「おいダング。収納持ちってのは、そのおかし気な恰好をしている奴なのか?」


 ダングの隣を歩くバルトルドが、ダングと気軽に話をするムネカゲを見てそう聞いて来る。


「ああ、そうだ。名はムネカゲ。いずれのメンバーだな。」


 バルトルドから聞かれたダングはそう返す。

 

「なんでえ、もう唾つけられてんのか。収納持ちなら、是非うちにと思ったんだがよ。」


 バルトルドはそう言いながら「チッ」と舌打ちをする。


「まあ、バルトルドさんには悪いが、既にウチが先約済みだ。元々、命を助けられたのもあるしな。」


 収納持ちは、珍しくは無い。だからと言ってバルトルドのメンバーには収納持ちは居ない。

 それを知っているダングは、この世界にまだ馴染めていないムネカゲを、いいように利用される事に対していい感情を持ってはいない。なので、ダングはバルトルドに釘を刺す。


「牙狼と呼ばれるお前がそんな強そうに見えねえ奴に助けられたって?本気で言ってんのか?」


 ダングの言葉を聞いたバルトルドは、大袈裟に驚く。


「ああ、マジだよ。護衛依頼中に傭兵崩れの襲撃に遭ってな。危うく殺られそうになった所を、ムネカゲに助けられた。それにバルトルドさん、ムネカゲの見た目に騙されてんぞ。これでもこいつ、剛閃のコルネリスと互角に打ち合ったからな?いや、あの剛閃がかなり焦ってたぞ?」


 ダングの言葉に、ムネカゲは「剛閃のこるねりす?誰でござろうか?」と首を傾げる。

 そしてバルトルドはと言うと、ダングの言葉に大いに興味を示す。


「あの剛閃とか!?そりゃあ凄えな。猶更欲しくなった。」

 

「やらねえよ。」


 「拙者を物の如く言わないで欲しいでござる。」との抗議を無視した二人の会話は更に加熱する。


「その力がありゃあ、うちはSへと上がれるんだが?」


 漆黒の剣は現時点で王国最強の冒険者だ。そして目指すはやはりSランク。収納持ちな上に強いとなれば、Sへと一歩近付く。だからこそ欲しい人材だった。

 

「まあ、そうだろうと思うがな。だが、ムネカゲは東方諸島群出身だ。まだここいら辺りにも慣れてねえぞ?そんな中で、漆黒で役に立つとは思えねえがな。それに今は色々と勉強の最中だ。だから無理だな。」


 ムネカゲの身の上を知っているダングは、それを拒否するかの如くあれこれ理由を付ける。


「ほう?東方諸島群からか。ならここら辺の事には疎いだろうな。だが、それとこれは関係なく無いか?本人が来ると言やあいいこった。」


「あ~、それなら猶更無理だな。本人は、俺達と迷宮に行く気満々だ。その為、今クォーヴでランク上げに勤しんでいる訳だし。諦めなって。」


 ダングの言葉を聞き、バルトルドは「チッ」と舌打ちをする。

 

「まあ、それは今回の依頼が終わった後でだな。今は、目の前の仕事を片付けよう。」


 そう言ってバルトルドは真正面を見る。

 そこには、オーク達の集落が木々の隙間から見えていた。

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