第23話 サムライ、調査に同行する

 翌朝、ムネカゲと孤高の狼の面々は、九時を告げる鐘の音が鳴ると共に宿を出た。

 ムネカゲの装備は、右手に羅刹天十文字槍らせつてんじゅうもんじやり、腰に雷紫電らいしでんだ。

 ギルドからの支給品――食料三日分とヒールポーション一人三本――は、それぞれの背嚢へと仕舞われている。

 無論、カエデは宿でお留守番だ。一応、木剣を渡してあるので、訓練ならぬ身体慣らしをしておくようにとは伝えてある。


 西門を潜り、街道脇の森を目指す。

 森の入り口まで来ると、そこから中には入らず森の際に沿って歩く。

 凡そ一時間程歩いた辺りで、ムネカゲは右を見る。


「大体ここら辺でござるな。ここから森に入れば、戦闘があった場所近辺に着くでござるが……どこかにある筈でござるよ。」


 そう言うとムネカゲは、足元の草を見る。つい先日ここら辺を出入りしたので、踏み倒された草があるはずだ。


「おお、あったでござる。ここから森を出たでござるよ。」


 暫くして、踏み倒された草を見つけたムネカゲは、そこから森へと入って行く。

 途中、ゴブリンやホーンラビットの気配があったがそれらを無視し、踏み倒された草を目印に約一時間少々歩いた一行は、目的の場所へと辿り着く。

 そこは、流れたオークの血が地面にこびり付いたまま残されていた。


「よし、ここから調査を始める。メンバーを二手に分けるぞ。俺とムネカゲ。カズン、アーベル、アネッテの三人だ。基準は、まあオークが群れていた場合の戦力的なものだ。俺達は北へと向かう。カズン達はこのまま東へと向かってくれ。集落があるとすれば、最深部の手前くらいだろう。くれぐれも、見つけても戦闘はしない様に。いいな?」


 ダングの言葉に、全員が頷く。


「よし、んじゃ行こうかね。」


 ムネカゲはダングと共に、北へと向かって歩き出す。

 木々の隙間を縫うように歩き、反応があればそちらに向かい、遭遇したレッドボアを倒しつつ進む。

 しかし、その日は何も見つからなかった為、二人は一旦戻る事に。


 丁度以前戦闘のあった場所へと戻ると、カズン達も戻って来ていた。


「今日の所は、これで終了にしよう。森を出て、適当な所で野営だ。」


 ダングがそう言うと全員で来た道を戻り、森から出て少し離れた場所で野営の準備をする。と言っても、テントなど建てずその場に雑魚寝なのだが。

 夜が更けて来ると、見張りを立てる。最初はムネカゲ一人で、その後カズンとアーベル。最後にダングとアネッテだ。しかし、その日は何事も無く夜が明ける。


 翌日、空が白みがかって来ると、全員で軽い朝食を摂り調査二日目がスタートする。

 森へと入り、戦闘のあった場所まで行くと、再び二手に分かれて調査をする事に。

 ダングとムネカゲは、今日は北西寄りに向かい、カズン達三人は北東を調査する事となる。

 そして調査開始から凡そ三時間程歩き、昨日よりも奥へと来た頃だ。ムネカゲの気配察知に、大量の二足歩行生物の反応が現れる。


「あ~、ダング殿。嫌な感じの反応があるでござるよ。」


「やっぱ、集落か?」


 ムネカゲの嫌そうな顔に、ダングも釣られて嫌そうな顔になる。


「まあ、そうでござろうな。二足歩行の何かが、大量に居る感じでござるよ。しかも、この反応の方向はこっちでござる。」


 そう言ってムネカゲが指した方向は北西側だ。


「とりあえず行ってみるか。」


「そうでござるな。」


 二人はその反応のある場所へと歩き始める。

 今度は気配察知で周りを警戒しつつも、魔物とぶつからないように、慎重に歩く事一時間。木々が開けた場所にそれはあった。


「ああ……確実に集落だな。」


「でござるな。」


 目の前には無理矢理木を引っこ抜いたような広場が広がり、その広場の周りには簡易的な柵が設けられている。広場の奥は切り立った崖だ。

 そして、その引っこ抜いた木を使ったのだろう、柵の中には簡素な掘立小屋のような建物が幾つも立っている。よく見ると、その掘立小屋の周りを肌色をしたオークが歩いている。その数は「いっぱい」としか言いようがない。

 

「これは流石に数が多いな。キングが居る可能性もある。」


「そうなのでござるか?」


 何を基準にダングがそう言うのかは分からないムネカゲ。しかしそれを分かっているダングが集落の方を指差す。

 

「あそこに革鎧を着たオークが居るだろ?」


「ああ、居るでござるな。」


「その奥を見て見ろ。杖を持ったオークと、弓を持ったオークが見えるか?」


 ムネカゲが言われた方を見ると、確かにダングの言う通り右手に杖を持ったオークと、弓を持ったオークが見える。


「居るでござるな。」


「あれは、オークメイジとオークアーチャーだ。あの二種類が居る時点で、オークジェネラルが居るのが確実だろう。そのオークジェネラルが居ると言う事は、オークキングの居る可能性がかなり濃厚だ。」


「なるほど。納得したでござるよ。」


 その後静かにその場を離れた二人は、元来た道を戻りつつ、目印となるよう木に印を付けていく。

 その道中、哨戒に出ていたのであろうか、オーク二体と遭遇しこれを討伐。ムネカゲの収納へと即座に入れてその場を離脱。

 日が暮れかかる頃に、漸く集合場所である場所へと戻る事が出来た。


「集落を発見した。今日はこのまま今朝の野営地まで戻り、一晩を明かしたら明日帰還するぞ。」


 ムネカゲ達頷き、急ぎその場から離れていく。

 野営地へと戻ったのは、完全に日が暮れた頃だった。


 前日同様の順番で見張りをした翌日。野営跡を綺麗に片付けた一行は、街へと急足で戻る。

 


  街へと戻った一行は、その足でギルドへと向かう。

 ギルドに入り、受付で「調査の報告だ!」とダングが言うと、二階へと通される。

 先日同様会議室へと案内され、ギルドマスターファリベール、受付嬢シーラが来ると報告が始まる。

 

「で、調査の結果は?」

 

「ああ、それなんだがな。森の北西へ進んだ場所に、オークの集落を発見した。距離的には、鐘の音一つと少々くらいだな。集落は、木を引っこ抜いて作られていて、その木を使ったんだろう掘立小屋が建っていた。俺とムネカゲが確認したところだと、ファイター、メイジ、アーチャーが確認できた。」


「やはり集落があったか。」


 ダングの話を聞き、会議室の雰囲気が重苦しい物へと変わる。


「ああ。オークの数からして、上にジェネラルが居ると思った方がいいだろう。キングに関しては今の所、憶測でしか語れねえが可能性はあるだろうな。」


「街道よりかは離れてはいるが、数が増えたオークがいつ街道へと出て来て人々に襲い掛かるかは分からぬ。これは、レイホアのギルドと協力して早めに潰すべきだの。」


 クォーヴからレイホアは、歩いて大凡一日程で到着する。そのクォーヴ、レイホア間の街道上にその森があるのだ。現状ではまだ街道へオークが現れたという報告は無い。無いが、いつ現れるかは分からない為、早めの対応が要求される。


「よし、王都のギルドへと要請をしよう。Aランクの漆黒の剣あたりが来てくれればいいのだがの。後、孤高の狼は当然だが討伐に参加してくれるのであろう?」


 ギルドマスターはそう言うと、ダングの方を見る。


「まあ、乗り掛かった舟だ。参加はするさ。ムネカゲはどうするんだ?」


 自分に振られた腹いせか、ダングはニヤリと口元を歪めながらムネカゲの方を見る。


「せ、拙者でござるか?」


 唐突に振られたムネカゲは、飲もうとしていた紅茶――あれ以来、紅茶が気に入っている――から慌てて口を離す。


「拙者はどちらでも良いでござるよ。まあ、オークでかなり稼がせて貰っているでござるから、懐は温かいのでござる。」

 

 実際、着るもので散財はしているが、オークを狩るようになり宿代以上の収入にはなっている。まあ、その理由は収納をバラしたからでもあるのだが。

 なのでムネカゲ的には、参加でも不参加でも問題は無いのだ。


「なら参加だな。ムネカゲが居ると、戦闘が楽だし。」


「だな。」


「まあ、収納持ちだから、戦闘後の回収にも便利だしな。」


 アーベルの言い方はどうかとは思うが、確かに収納が使えるのであれば、更に稼ぐ事も可能ではある。


「ギルマス。確か、ギルドに多大に貢献した者は、依頼数云々を抜きにしてランクを上げる。って項目あったよな?」


「ああ、確かにあるな。」


「ならよ、オーク討伐で倒したオークを全て持って帰れるとしたら、それはギルドに多大に貢献したって事にならねえのか?」


 ダングが何を言いたいのか分からないムネカゲは、紅茶を啜りながら首を傾げる。


「まあ、キングやジェネラルを丸々持ち帰れるのであれば、それはギルドとしても多大なる貢献をしたとして認めざるを得ないだろう。その価値は計り知れないからな。なるほど。そう言う事か。」


 ギルドマスターはひとり納得すると、ムネカゲの方を見て溜息を吐く。


「良かろう。もし、そこのムネカゲが参加するのであれば、ランクをDに上げようでは無いか。日頃の貢献もあるしな。ただし、その条件は、倒したオークを全て持ち帰る事。特に、キングやジェネラルと行った上級魔物が居た場合は、それを優先的にだ。それでいいか?」


「ああ、それで構わねえよ。って事で、ムネカゲ。良かったな。」


 ダングはニカッと笑いながらムネカゲの方を見る。

 ムネカゲは、オークを収納に入れて持って帰る。と言う所しか意味が分からず、首を傾げ「どうも、でござる?」と一言発し紅茶を啜る。


「大体いつの予定になりそうなんだ?」


「そうさの。これから本部へと連絡し、Aランクを招集。後はレイホアにも連絡し、冒険者を集め、それからとなるので凡そ七日後くらいだろうかの?」


 ギルドマスターは指を折り、日数を数え始め、そう返答をする。


「なら俺達は宿でゆっくりと休ませてもらう事にする。何かあったら、「海風亭」にいるから連絡はそっちに。」


「分かった。ああ、後ランクの件だが、いつでもいいから更新しておくように。既に書類は回してある。」


「了解。つか、いいのか?こんな簡単な依頼でランク上がって?」


「それまでに積み上げた物を忘れてはおらんかな?」


 ギルドマスターは、「やれやれ」と言わんばかりにそう言う。


「まあ、上げて貰えるなら有難く上げて貰っとくよ。」


 ダングはそう言うと、「さて戻るか。」と席を立つ。カズン達もそれに倣い席を立つと、会議室を出て行く。

 その姿を見たムネカゲは、最後まで紅茶を飲み干すとダング達の後を追ってギルドを後にした。

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