第22話 サムライ、調査依頼を受ける

 翌朝、朝食を摂り、アネッテにカエデの事を頼んだムネカゲは、ダング達と共にギルドへと向かう。

 本来、呼び出しが来るのだが、そこは待っていてもやる事も無い為、こちらから出向く事に。

 とは言え、ダング達は昨日の夕方クォーヴに到着し、ギルドにはまだ顔を出していないので、それに同行するだけなのだが。

 アネッテはカエデと共に、街へお買い物。ダング達から言わせれば、ギルドでの面倒臭い話を避けやがった。と言う事らしい。ムネカゲ的には、それで助かっているのだが。


 宿を出て大通りを歩きギルドへと到着する。

 今日は朝早いからか、それなりに冒険者達が建物内に残っている。

 多少混雑するギルド内で、冒険者の波を掻き分け受付へとやって来たダングが、シーラでは無い受付嬢へと話し掛ける。


「孤高の狼のダングだ。ブロスのギルドからの依頼で、調査の為に来た。どうすれば良い?」


「孤高の狼の皆様ですね。話はお聞きしております。二階へどうぞ。」


 そう言って受付嬢は二階へと上がっていく。

 ダングは後ろを振り返り、ムネカゲやカズンへと目配せすると、受付嬢の後に付いて行く。無論、ムネカゲ達もだが。

 通されたのは三人掛けのソファーがコの字に置かれた応接室だった。

 ダングと共にソファーへと座り、待つ事暫し。応接室の扉が開くと、先程の受付嬢がお茶を持って来てくれた。


「ギルドマスターが参りますので、もうしばらくお待ち下さい。」


 そう言って、お茶の入ったティーカップを置くと部屋を出て行く。

 ムネカゲ的には、お茶=湯呑なのだが、出されたのはティーカップだ。ティーカップは白色をしており、外側に指を入れるのだろう取っ手が付いている。そして中に入っている液体は、緑色かと思いきや茶色と言うか赤茶色と言うか、ムネカゲの知っているお茶とは違った色をしていた。


「これは何でござるか?」


 そんなティーカップを眺めながら、隣に座るダングへと問い聞く。


「んあ?中身か?紅茶じゃねえか?うん、紅茶だ。」


 ダングは一口口を付けてそう言う。


「こうちゃ?お茶ではあるのでござるな?」


 そう言いながらティーカップを持つと、一口啜るムネカゲ。

 そのお茶は香りが良く、飲むとスッと口の中にその香りが広がる。


「うむ。このこうちゃとやらは、美味いでござるな。」


 紅茶を気に入り、啜るように――何せ熱い――飲んでいると、応接室の扉が開き、老齢の男性が入って来る。


「やあ、待たせてすまぬな。」


 その老齢の男性は、身長160cmくらいだろうか。頭は白髪であるにも掛からわず、身体はガッシリとしており、若かりし頃にはその筋肉でバリバリ言わせていたであろうと分かる。

 

「いやいや、そんなに待っては無いな。」


 ダングは手をひらひらと振りそう答える。


「そうか?で、今回の依頼。孤高の狼が、受けてくれた事感謝する。何せ、集落の可能性があるからな。腕の立つ者でしか頼めぬ。」


「いや、そこまで言う程腕は立たないがな?」


 ダングはそう言うと、老齢の男性の方を見る。


「何を言う。そろそろBへと上がろうと言う者が。この度の依頼を完遂すれば、Bへと昇格するのであろう?」

 

「まあ、それは場合だろうな。無かったら、評価のしようが無い。それに、街としてみれば無い方がいいだろ?」


「無論、無いに越した事は無いが、あると困るからの。その場合は、王都のAランクを呼ばざるを得ないだろうが。まあ、それも含め、危険な依頼ではある。有ろうが、無かろうが、Bへの昇格は確実であろうて。」


 ムネカゲ以外は会話の意味を理解しているのだが、そのムネカゲはと言うと何のことかさっぱり分からないでいた。

 老齢の男性は、そこでムネカゲの方を見る。

 

「ところで、隣の男は何者なんだね?もう一人は、女性であったろ?」

 

「ああ、今アネッテは別行動だ。隣に居るのは、ムネカゲ。今回、オークファイターを単独で討伐したEランク冒険者だ。訳あって、知り合いでな。どうせ召集されるなら一緒に行こうかと、連れて来たって訳だ。」


 ダングがムネカゲを紹介する。ムネカゲは「でござるよ。」と軽く会釈をする。


「ほう、例の噂の冒険者か。何でも、収納持ちだそうじゃないか。」


 初老の男性がそう言うと、ダングとカズン、アーベルの目が吊り上がり、「お前、バラしたのか!?とでも言いたげに」キッとムネカゲを睨む。


「いや、流石にオークを運ぶのに、麻袋では入りきらなかったのでござるよ。受付のシーラ殿の話では、収納持ちは少なからず存在し、魔法袋を使用している冒険者もそれなりに居ると言われたのでござる。ならば、拙者も問題無いのでは?と思ったのでござるよ。」


 三人に目線で詰め寄られたムネカゲは、洗いざらい吐く。


「はぁ。まあ、お前の事だから?いずれそうなるとは思っていたが……案外早かったな。」


 ダングの言い方が酷い。

 ダングの言葉をフォローする様に、カズンが口を開く。


「うむ。まあ、ギルド内だけの話であれば、収納がバレた所で問題は無いな。外で使わなければ問題は無い。」


「まあ、そうだな。それよりも、いつ出発すればいんだ?」


「オーガの右腕を招集し、当日の起こった事を再度聞く。それから準備をして行動に移るとして、明日招集。明後日出発でどうだろうかな?」


「俺達はそれでいいぞ。ムネカゲは……大丈夫だろ?」


 初老の男性との会話から、ムネカゲへと振られる。


「問題はないでござるよ。」


「ならば、明日の九時の鐘がなる頃にギルドへと来るように。」


 初老の男性がそう言うと、ダング達は「分かった。」と言い席を立つ。それに釣られてムネカゲも席を立と、部屋を出て帰路に着く。

 ちなみに、カエデの為の買い物に行ったアネッテは、夕方まで帰って来なかった。

 そのアネッテが帰って来た時には、二人の両手に大量の荷物が抱えられていたのは言うまでもないだろう。


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 翌日、指定の時間にギルドへと向かうと、受付前にオーガの右腕の面々が待っていた。


「ムネカゲさん!」


「ムネカゲさん!」


「ムネカゲさん!」


 顔を合わせた瞬間に、ディオン、ロラ、アンナに名前を呼ばれる中、クロードからは「チッ。」と舌打ちが出る。

 

「四日ぶりでござるな。その後、大丈夫でござったか?」


 そう女の子二人に問い聞く。

 ロラとアンナはオークに犯されそうになっており、それがトラウマとなってはいまいかと、気にはなっていたムネカゲ。


「ええ、何とか大丈夫そうです。」


「私もまだ頑張れます。」


 しかし、ムネカゲの心配は杞憂に終わる。


「大丈夫なのであれば良かったでござる。」


 これ以上、穿りほじくり返すのは二人にとって宜しくは無いと思ったムネカゲは、そう言うとこの話を終わらせる。


「おう、ムネカゲ。こいつらがオーガの右腕か?」

 

 そんなやり取りをムネカゲの背後から見ていたダングが、「お前、紹介しろよ」的に言って来る。


「そうでござる。リーダーのクロード殿。ディオン殿。ロラ殿にアンナ殿でござる。」


 ムネカゲの紹介に、各々頭を下げる四人。


「で、こちらがCランクの「孤高の狼」のリーダーのダング殿。魔法使いのカズン殿。斥候のアーベル殿とアネッテ殿でござる。この度の調査の為に呼ばれた、拙者の知り合いでござるよ。」


 今度はダング達を紹介する。

 Cランクと聞き、更にはムネカゲの知り合いだと聞いた四人は、委縮してしまう。


「と言う訳で、色々話を聞く事になると思うが、よろしく頼む。」


 ダング以下三人が「よろしく」と言った所で、二階からシーラが降りて来る。


「準備が出来ましたので、皆さん二階へお上がりください。」


 そう言って二階へと案内されると、昨日とは違い長い三人掛けテーブルが四角に並べられた部屋へと案内される。


「奥に孤高の方々が、手前にオーガの右腕の皆様が。ムネカゲさんは、そちらにお座りください。」


 と席を指差し指定される。

 孤高のメンバーは、ダング、カズン、アーベル、アネッテの順で座り、アネッテの隣にムネカゲが座る。オーガの右腕の方は、クロード、ディオン、アンナ、ロラの順だ。


 席に座り暫くすると、先日話をした老齢の男性が部屋へと入って来る。

 そしてムネカゲの真正面へと座ると、その右隣へシーラが座る。


「初めましての者も居れば、昨日振りと言う者も居るが、一応名乗っておこう。クォーヴの冒険者ギルド、ギルドマスターのファリベールと言う。」


 初老の男性の名は、ファリベールと言うらしい。

 

「それぞれ自己紹介は必要かね?」


 ギルドマスターはそう言うと、ダングとクロードの方を見る。


「いや、それはさっき済ませた。早速本題に入ろうか?」


 ダングの言葉にクロードも頷く。


「では、早速本題へ入ろう。事の起こりは、四日前。そこのムネカゲが持ち込んだオークから始まる。ムネカゲの持ち込んだオークの内、四体は通常のオークであったのだが、残りの一体がオークファイターであった。この事から、もしかすると森の何処かに、オークの集落があるのではないかと推測した。そこで今回、ブロスの街からCランク冒険者である孤高の狼の面々に調査を依頼した訳だが、ここまでは良いか?」

 

 ギルドマスターの言葉に、一同が頷く。


「調査に辺り、その当日の事を詳しく知りたい。オーガの右腕から当日の事を詳しく話して貰えるかね?」


 ギルドマスターから振られたクロードは、当日の事を話し始める。


 オーガの右腕は、ランクが上がりオーク討伐依頼を受けて森へと入る。

 森入り口に向かって左斜めに歩き奥へと進む。大体二時間程行った所でアンナがオークの反応を見つける。

 近付いてみると、オークは五体。四体は通常のオークと分かったが、もう一体の革鎧を着ているオークをファイターだと知思わなかったそうだ。

 三人は「逃げよう」と判断したが、クロードの「やれる!」の判断でオークへと攻撃を開始。しかし、オークに攻撃が通じず、次第に劣勢へと追いやられる。

 そこへムネカゲが助けに入り、何とか難を逃れる事が出来た。


「以上です。」


 クロードの説明が終わると、ギルドマスターはその確認の為に、ムネカゲへと顔を向ける。


「それで間違いは無いかね?」


「そうでござるな。拙者、オークと遭遇する所までは知らないでござるが、割って入った所からであれば概ね間違いはござらんよ。」

 

 ムネカゲもまたオークの反応を探して奥へと入り、そこで奇妙な反応を見つけたから近寄った。そして襲われる女の子二人を見て即座に割って入ったのだ。


「場所は覚えているのかな?」


「大体なら。」


 クロードは自信なさげにそう答える。


「皆を送る際に森から出た場所なら覚えているでござるよ。そこから真っすぐに森へと入れば、戦闘のあった場所に辿り着けるはずでござる。」


 戦闘終了後、アンナとロラに街まで送ってくれと言われ、真っすぐ森を抜けた。その際の景色は未だに覚えている。


「なら、道案内はムネカゲだけでいんじゃねえか?逆にオークが群れて襲って来た場合、オーガの右腕を庇いながらの戦闘は無理だろうしよ。」


「そうだな。ムネカゲなら儂らに付いて来る事は可能。だが、オーガの右腕を庇いながらは、流石に無理がある。」

 

「まあ、リーダーとカズンが言う通りだな。四人には申し訳ないが。」


「あたしもそれでいいと思う。」


 四人共が、オーガの右腕は足手纏いだと遠回しに言う。

 それを聞いたクロードは歯噛みをし、他の三人はどこかホッとした表情となる。


「では、明日調査へと行って貰いたい。食料とポーションに関しては、ギルドで準備させて貰った。後程、受付で受け取るように。では、これにて終了とする。」

 

 こうして調査の打ち合わせは終わった。

 会議室を出たムネカゲ達は、受付で必要物資を受け取ると宿へと戻った。

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