第18話 サムライ、つかの間の休息を取る

 結果として、オーク三体はムネカゲが貰い受ける事となり、更にはオーガの右腕の持ち分であるオーク二体もムネカゲが運ぶ事となる。

 その理由として、アンナと呼ばれた女の子の革鎧は、オークに引き裂かれており使い物にならない。その為、少しでもお金が必要だろうと言う理由からだ。

 甘いと言えばそうかもしれないのだが、そこはこの世界とは違う世界からムネカゲだ。助け合いの精神は人一倍持っている。

 そして収納が使えると言う事が分かった所で、オーガの右腕のメンバーからは喜色の笑みが浮かぶ。


「すみません。」


 相変わらずリーダーであるクロードは、全ての所有権を主張している。謝って来たのは、ディオンだ。だがその顔はにこやかだ。


「気にする必要は無いでござるよ。どの道、拙者も持ち帰る必要があった訳でござるしな。」


「しかし、ムネカゲさんは凄く強いんですね。あのオーク相手に、一歩も引けを取らないどころか、瞬殺でしたし。しかもソロ冒険者。もしかして、上位ランクの冒険者ですか?」


 どう見ればそう見えるのかは分からないが、ディオンから見るとそう見えたのだろう。

 なので、「いや、拙者Eランクに上がったばかりでござるよ?」とのムネカゲの返答に驚く。


「ええっ!僕らと同じEランクなんですか!しかも、ソロで!?」


「まあ、確かに一人でござるな。パーテーと言うのには入ってないでござるよ。」


 いずれはダング達と共に迷宮へと挑みたいと思っているムネカゲ。なので、現状でパーティーを組むと言う選択肢は持ち合わせていない。


「どうしたらそんなに強くなれるのですか?」


「どうしたら……でござるか。拙者、幼き頃より、日々武術の訓練に励んでいたでござるよ。それ故、しっかりと型は身についていると自負するでござるよ。」


「型ですか?」


「そうでござる。一に訓練、二に訓練でござる。連携然り、型の訓練然り。体力作り然りでござる。いきなり大業を成そうとしても、それに伴う力が無ければ、何れどこかで失敗するのでござる。地道に訓練。これが強くなる為の秘訣でござろう。」


 と、まあ蘊蓄を垂れるムネカゲだが、最近朝の訓練を少々さぼり気味であるので、大きな事は言えない。


「なるほど。確かに、連携の訓練などした事は無いですね。ありがとうございます。」


「いえいえ、どういたしましてでござる。」


 そんな会話をしつつ最短ルートで森を抜けると、街道まで森の外周を歩く。

 街道へと戻った一行は、休憩を取った後街へと向かって歩き出す。

 そんな道中、クロードが話し掛けて来る。


「ムネカゲ。何なら、うちのパーティーに入れてやるぞ?」


 上から目線で。

 クロード達の年齢は凡そ15、6歳と言った所だ。対するムネカゲは24歳。どう考えても失礼極まりない。

 そんなクロードの言葉に、ディオンだけではなくアンナとロラまでもが攻め立て始める。


「クロード!ムネカゲさんに失礼だろ!」


「そうよ!あんた、何様のつもりなの?」


「クロード、最低。」


「な、何がだよ!Eランクで一人なんだろ!なら、うちのパーティーに入れてやって、一緒に依頼を熟せばいいだろう!」


 どんな理由なのだろうか。ムネカゲはその言葉を聞き苦笑する。


「それが失礼だと言ってるんだ!ムネカゲさんは、俺達みたいなパーティーに入らなくとも、一人で十分やっていけるんだよ!逆に、入って貰えませんか?くらい言えないのか!」


「そうよ!あんたがリーダーやるよりも、ムネカゲさんがリーダーをやった方がいいわ!」


「何でそうなるんだよ!リーダーは俺にしか出来ねえだろ!」


「私、ムネカゲさんがリーダーの方がいい。」


 森を抜け魔物が出ないからいいものの、全く警戒していない四人。

 よくこれでEランクに上がれたな……と、ムネカゲは内心思うが、まあ、ホーンラビットや逸れのゴブリンくらいなら数を熟せば上がれるのか。と納得する。


「あ~、拙者。パーテーに入るつもりは無いでござるよ。早くDランクへと昇格し、ブロスへと行くでござる。」


 サッサとランクを上げ、ダング達の待つブロスへと行きたいムネカゲ。

 やんわりと断ったのだが、それに突っかかるクロード。


「折角誘ってやってんのに、何だよそれ!」


「クロード!失礼だろ!ムネカゲさん、すみません。」


 ディオンがクロードを羽交い絞めにし、再び謝って来る。


「気にしてないでござるよ。」


「ブロスへは、やはり迷宮ですか?」


 ディオンはクロードの口を手で塞ぎながらそう聞いて来る。クロードはフガフガと文句を言っている。


「そうでござるな。そう約束をしたでござるよ。」


 ムネカゲは空を見上げると、ダングやカズン。アーベルにアネッテの事を思い浮かべる。

 四人と別れて、まだ半月少々しか経っていないのだが、久しく会っていないような気がする。


「それは、仲間と……ですか?」


「ん~、まあそんなところでござるな。さて、城壁も見えて来た事でござるし、さっさとギルドへ卸しに行くでござるよ。」


 ムネカゲはそう急かすと、街へと速足で進み始める。



 城壁を抜け、ギルドへと立ち寄り、倉庫でオークを出して職員が気が付く。ムネカゲが出したオークの内の一体が、オークファイターじゃね?と。

 そこからギルドは騒然となる。


「これは何処で倒したのですか?」


「それは西の森の奥の方でござるが?」


 そのオークは、アンナを襲っていたオークだ。確かに他のオークとは違い、革鎧を着ていたのでおかしいとは思っていた。しかも、木で出来た槍とは違い、ちゃんとした剣――と言っても錆びており、刃もボロボロだが――を持っていた。


「これは大変な事になるかもしれません。ムネカゲさん。場合に寄っては、現地までの案内をお願いするかもしれませんが、よろしいですか?」


「それはいいでござるが、何が大変なのでござるか?」


 ムネカゲにとって、オークが革鎧を着ているからそれが何?と言う状況だ。はっきりと言って貰えないと分からない。


「オークファイターが出たんです!」


「おーくふぁいたー?」


「ええ、ファイターが居ると言う事は、もしかするとオークの集落がある可能性があるんです!」


 そう言って力説するシーラ。

 

「なるほど?」


 半分も理解していないムネカゲ。何となくで返事をする。


「何れにしても、これから調査の為に高ランク冒険者を西の森へと派遣します。その際に、ムネカゲさんかオーガの右腕の方には案内役として同行してもらう事となりますので。よろしいですね?」

 

「まあ、拙者は構わぬでござるよ。」


「俺達も大丈夫です。」


 クロードはディオンに口を塞がれてフガフガ言っており、返事を返したのはディオンだ。


「では後日、日程が決まりましたらご連絡致します。近場の依頼であれば結構ですが、街を数日明けるような依頼は控えて下さいね?」


 ムネカゲは頷くと、報酬を受け取り宿へと戻る事に。

 その際、クロード以外のメンツから再度お礼を言われた。

 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 オークを狩るようになり資金的にゆとりの出来たムネカゲは、呼び出しがあるまでの間久方振りの休息を取る事にする。

 と言っても、別段これと言ってやることは無いのだが。

 ただこの街に来てから一度も街を見て回った事が無いので、適当に街をブラブラと回って見ようかと思ったのだ。

 一日目はギルドのある大通り近辺をブラつき、二日目は宿でのんびりと。三日目は港の方へと行ってみようと、足を向けたその昼過ぎにそれは起こった。

 

 宿から出たムネカゲは港へと向かう為、街の南へと向かって歩き出す。

 途中、屋台でオーク肉の串焼きが売っていたので、怖いもの見たさで購入。銅貨5枚を支払った。

 初めて……では無いのかもしれないが、オーク肉と知って食べるのは初めてであり、恐る恐る口に入れるムネカゲだったが、口へ入れた瞬間に広がる油と塩のコラボレーションにムネカゲは感嘆の溜息を漏らす。


「これは美味いでござるな。これがあの猪顔の魔物の肉とは思えないでござる。」


 そう言いながら串肉を平らげたムネカゲは、その串を口に咥えたままで港へと向かう。

 港には停泊したばかりの船から荷が卸されており、周りの商店では魚や肉、野菜などを売る店が立ち並んでおり、昼だと言うのに人でごった返していた。

 そんな雑踏の中で色々な店を見て回り、稀に何の魚かは分からないが干物を売っているお店を見つけては、懐から小袋を出して購入したりと通りをブラつく。

 そんな中、ふとムネカゲの気配察知に引っ掛かる反応が。ムネカゲから付かず離れず付いて来る気配が一つ。


「むむっ。スリの類でござろうか?」


 少し気にはなるものの、今の所は害が無いので放置していると、とある店の前でその反応が動き始める。

 ムネカゲが店の商品――干物だが――を見ていると、その反応はじわじわとムネカゲへと近付いて来る。

 そしてムネカゲの後ろへと気配が来た所で、スッと懐へと手が伸びる。


「バレバレでござるよ。」


 その伸びた手を左手で掴み引き寄せると、身形が貧相でボサボサ髪の子供が釣れた。


「んっ!?」


 その子供は掴まれた手を振り払おうと藻掻くが、ムネカゲの握力は結構高い。

 振りほどけないと思った子供は、ムネカゲの手に噛み付こうとする。だが、子供に噛み付かれるほど軟なムネカゲではない。掴んだ腕をパッと離すと、噛み付いて来る頭を右手で抑え、足を引っかけてそのまま後ろへと倒す。倒れた子供は背中を強打したらしく、息が詰まっていた。


「童、人の物を取ってはならぬと、親御に教わらなかったのでござるか?」


 ムネカゲは子供の腕を持ち起こしてやるが、その子供はケホケホと咳き込んでいる。

 そんなムネカゲの様子を見ていた店の店主が、ムネカゲへと声を掛けて来る。


「旦那、そりゃゴロツキ街のスリですぜ?衛兵に突き出した方が、この街の為ってもんですよ。」


 ゴロツキ街とは、所謂スラムだ。ムネカゲの住んでいた場所でも、貧困に喘ぐ老若男女がボロボロのあばら家などに住んでいた記憶がある。


「なるほど。しかし、まだ未遂でござろう?であるならば、見逃しても構うまい?」


 ムネカゲは懐から小袋を取り出すと、その中に入っている大銅貨を一枚取り出す。


「これをやるから、何か買って食べるでござるよ。後、スリはダメでござるからな?もう二度とスリをせぬように。」


 そう言って子供の掌に大銅貨を握らせると、「行くでござるよ」と子供を放す。


「旦那、そりゃ甘いってもんですぜ?奴らに旦那の気持ちは伝わらねえって。それよりも、放逐した事で、明日は誰かがスリの餌食になっちまう。衛兵へ突き出すのが最善なんですがねぇ。」


 店の店主はそう言うと、「やれやれ」と頭を振る。


「まあ、それはそうでござるが、子供をその状態にしたのは、そもそもが大人の責任でござるよ。腹いっぱい飯でも食えば、もしかすると改心するかもしれぬでござる。ところで、主人。そこの干物を10枚程頂けぬか?」


「へい、ありがとうございます。大銅貨二枚でございます。」


 なんやかんや言っても、商品を買ってくれる人にはニコニコとするのだろう。今の今まで文句を言っていた店の主人も、干物を買った事でその顔が綻んだ。

 ムネカゲは購入した干物を麻袋へと入れながら、「ああ、そろそろ白米が恋しいでござるな~」と思うのであった。

 

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