第16話 サムライ、忘れていた事に気付く

 本来の予定よりも多くの獲物を仕留めて来たムネカゲ。

 あまりにも早く依頼を達成してしまったので、もう少し粘ろうかと森をウロウロとする。

 結果、これまたムネカゲの知っている猪とはサイズ感の違う、体長2m越えのレッドボアを一頭倒した所で街へと戻る事に。


 街へと戻る最中、ムネカゲの頭の中では「どうやってギルドに持って行こうか?」と言う事でいっぱいだった。

 そもそも麻袋の大きさは、米袋と同じくらいの大きさだ。普通はこの麻袋に入る分だけを切り取って持ち帰るのだが、それをムネカゲは知るはずも無い。

 それ故に、頭の中で(レッドボアを背負って帰る……と言うのは、また門兵殿に怒られるでござるな。しかし、それが出来たとしても、オークや鹿はどうすれば良いのでござるか?そもそも依頼はオークの討伐でござる。オークを出さないと言う訳にはいかないでござるよ。となると、ここは素直に葛籠つづらから出した方が良いでござろうか?いやいや。それは、カズン殿に止められているでござるよ。しかし困ったでござる。)と、全くいい案が浮かばなかった。


 そうこうしていると、街の城壁が見え始める。

 いつもの様に城門でギルドカードを見せ、門兵に「今日は収穫なしか?まあ、そんな日もあるさ。」と言われるが、ムネカゲは心ここにあらずと言った感じに聞き流す。

 そして滔々、ギルドへと到着してしまう。何の解決策も無いまま。


「あぁ~、どうすればいいでござろうか?全くいい案が浮ばないでござるよ。」


 頭を掻きむしるも、いい案など出て売るはずも無く、ムネカゲは肩を落とした状態でギルドへと入る。



 まだ時間が早いからか、ギルド内に人は少ない。

 とは言え、既に依頼を終えたのであろう数組の冒険者達が、ギルド併設の酒場で酒を飲んでいる。

 こんな中で報告しないといけないのか。と、ムネカゲは溜息を吐く。

 重い足取りのまま受付へと来たムネカゲは、いつもの受付嬢――シーラと対面し、再び深い溜息を吐く。


「はぁ~~~~~~。」


 その溜息を聞き、何かあったのでは?と勘付くシーラ。


「ムネカゲさん、何かありましたか?」


「あ~、いや……。ちょっと言い辛いのでござるが……。」


 歯切れの悪いムネカゲ。

 その様子を見たシーラは、何となく察する。


「では、奥の方でお話をお聞きしましょう。こちらへどうぞ。」


 そう言って先導してくれるのは、カウンターを越えた先にある奥へと続く通路だ。


「奥でござるか?」


 ムネカゲは「何故奥へ?」と疑問に思いつつ、シーラの後へと続く。

 そうして連れて来られたのはギルドの裏側で、以前腕試しをした時の様に左に訓練場。右に倉庫が立つ場所だった。


「こちらへどうぞ。」


 シーラの案内の元、訓練場ではなく倉庫の方へと向かう。

 倉庫の入り口扉を入ると、そこには大きな作業台が幾つか置かれた場所で、壁には大きな包丁ややっとこ、のこぎりなどの道具が掛けられている。


「ここは……?」


「ここは解体倉庫です。冒険者の方が持ち込まれる魔物を解体する場所ですよ?」


 シーラの話では、収納スキル持ちや魔法袋を持つ冒険者が魔物その物を持って来るため、ギルドとしても解体する場所が必要なのだと言う。それがこの解体倉庫だそうだ。


「収納持ちは数が少ないですが、それでも中には収納持ちの方もいらっしゃいますし、魔法袋自体は高価な物ですがそれなりに普及はしてます。そのお陰で、街に肉が供給できるのですけれどね。そう言った方はあまり目立ちたく無いと言われる方が多くいらっしゃいますし、受付で魔物は出せませんので直接倉庫へとご案内するんです。ムネカゲさんも、収納か魔法袋を持っていらっしゃるんでしょ?」


 なんて言う事は無い。考えるだけ無駄だったと言う事だ。


「そ、そうなのでござる。拙者、小さいでござるが、収納が使えるのでござるよ。」


 取り繕ったような言い訳をするムネカゲ。

 実際は小さくも無く、逆に制限も無く入る収納なのだが、ムネカゲはそれを知らない。


「冒険者ギルドは、そう言った個人の能力については秘匿しておりますのでご安心を。ではこちらに出して下さい。」


 そう言われたムネカゲは安堵し、受付嬢に言われるがまま、倉庫の床へと葛籠から獲物を出し始める。


「オーク二体に、フォレストディア、それとレッドボアですね?ムネカゲさん、ディアとボアの討伐依頼は受けてませんでしたよね?事後でも良いので、受けておきますか?」


「お、お願いするでござるよ。」


 挙動不審のムネカゲ。

 とは言え、依頼達成個数が2つ増えた。

 

 査定をする間にディアとボア討伐の依頼を受け、待つ事暫し。

「お待たせしました。」と言って渡されたのは、お金の入った麻袋だった。


「合計銀貨18枚、大銅貨9枚、銅貨6枚となります。内訳をご説明しますね。先ず、オークの討伐報酬が二体分で銀貨1枚。フォレストディアの討伐報酬が、大銅貨4枚。レッドボアの討伐報酬が大銅貨3枚となります。そして買取額ですが、オークの肉が二体分で銀貨3枚。オークの睾丸が二体で銀貨10枚。フォレストディアの肉が銀貨2枚。角は大銅貨3枚。皮が大銅貨4枚。レッドボアの肉が銀貨1枚。皮は大銅貨3枚です。後は、各種魔石の合計が大銅貨2枚と銅貨6枚ですね。これで依頼達成数は4となります。お疲れさまでした。」


 早口で告げられた内訳。ムネカゲ的には、オークと鹿、猪でそこまでの報酬となるとは思ってもみなかった為、驚きの余り空いた口が塞がらず、後半の殆どを聞いてはいなかった。

 ただ分かった事は、オークを狩るとお金になる。と言った所か。睾丸が何故高いのかと言う疑問は残ったが。


 

 その後、ムネカゲはオークを重点的に狩るようになる。

 日に大体一体から二体を狩り、場合に寄っては鹿や猪を狩る事五日目。

 それは突然に訪れる。

 いつもの様にギルドの倉庫でオークを出し、清算して貰った時だ。


「ムネカゲさんは、いつも同じ服を着ておられますよね?その変わった服では、動き辛くありませんか?それに、これだけ稼いでいらっしゃるのに、その……着替えはお持ちでは無いので?」


 そうシーラに言われた事で気が付く。

 そう、服を仕立てるのをすっかり忘れていた事に。


「動き辛くはないでござるよ。逆に、シーラ殿の着ている服の方が、拙者には動き辛そうに思うでござる。それに毎日クリーンで綺麗にはしているでござるよ。」


 そして、いつの間にか継ぎ接ぎが増えて来ている事に気付く。

 ちなみに名前は最近ようやく覚えた。


「この街で仕立てようと思っていたのでござるが、すっかり忘れていたのでござる。何処か良い仕立て屋を知らぬでござるか?」


「でしたら、ギルドの制服を仕立てているお店をご紹介致しましょう。」


 そう言ってシーラは羊皮紙に何やら地図と文章を書き始める。


「こちらを持って、この地図の場所へと行って下さい。ギルドの紹介だと言って頂ければ、良くしてくれるはずです。」


「忝い。明日伺ってみるでござる。」


 ムネカゲは地図を受け取ると、一礼してギルドから出た。



 翌日、受付嬢シーラに教えて貰った仕立て屋へと向かう事に。

 その場所と言うのは領主の館のある区画にあり、周りは町中とは打って変わり豪華な屋敷が立ち並ぶ場所であった。

 その豪華な屋敷が立ち並ぶ一角に、これまた高級そうな煉瓦造りの店が立ち並んでいる。

 売っているのは、高価な砂糖を使った菓子や、一般市民では手の出ないであろう紅茶や香辛料。そして仕立て屋も数件並んでいる。


 その中の一軒に、シーラから教えて貰った仕立て屋があった。


「すまぬでござる。」


 そう言いながら店へと入るムネカゲ。

 ただ、店の従業員らしき人達からは、白い目で見られる。何故なら、見た事の無い服装であり、継ぎ接ぎだらけの格好だからだ。


「いらっしゃいませ。どの様なご用件でございますか?」


 対応した男性店員は、どこか鬱陶しそうにムネカゲを見る。


「冒険者ギルドの紹介で、服を仕立てて貰いたく伺った次第でござる。」


 ギルドの名を出したからか、それまでの剣呑な態度が改まり、先程よりは物腰が柔らかくなる。

 とは言っても、その目は「お前、金持ってんのか?うちは高いぜ?」と言う目だ。


「ギルドからのご紹介でございましたか。これは失礼致しました。それで、どのような服を仕立てましょうか?」


「今着ている物と同じ物が欲しいのでござるよ。」


 その瞬間、男性店員の目が引き攣る。


「その、今お召しになられている物と同じ物をですか?」


「そうでござる。必要なら、置いて行くでござるが?一応、毎日クリーンで綺麗にしているので、汚くはないでござるよ?」


 ムネカゲはそう言いながら、店員の目の前で「クリーン」と唱え、服を綺麗にして見せる。


「ああ、ただそうなった場合、何か着る物を買わないといけないでござるな。流石に裸で宿へと戻る訳にはいくまい。」


 勝手に一人で話を進めるムネカゲに、男性店員の目元が更に引き攣る。


「え、ええ。そうですね。仕立てると言う事であれば、そちらのお召し物をお預かりする事となります。しかし、当店。お貴族様のお召し物を仕立てる店。それなりに費用が掛かりますが……。」


「幾らでござるか?」


 その瞬間、店員の目がキラリと光り、その金額が告げられる。


「そうでございますね。そちらの上着は生地の厚い物を使用致しますので、一着銀貨50枚は掛かるかと。下のお召し物はデザインが複雑ですので、こちらも銀貨50枚は頂戴したいかと。上下合わせて、金貨一枚と言った所でしょうか?」


 男性店員は、「どうだ!冒険者風情の貴様には払えまい!」と言わんばかりに目を細める。

 しかしムネカゲは、その金額を聞き顔がパァーっと明るくなる。


「全然問題ないでござるよ!では、三着程お願いするでござる。ああ、色の指定は出来るでござるか?出来れば、上は白で。下は紺でお願いしたいのでござるが?いや、全く同じと言うのは、やはり芸が無いでござるな。下は黒が二枚と紺が一枚。上は白が一枚と黒が一枚。もう一枚の色は、仕立て屋さんにお任せするので、良さそうな色をお願いするでござる。」

 

 即答で問題無いと言うムネカゲに、男性店員は唖然とする。


「で、では、そちらで承りましょう。ただ、当店前金制となっておりますが?」


「問題ないでござるよ。」


 そう言って背嚢を下ろし中から小袋を取り出すと、その中から金貨を三枚取り出すムネカゲ。

 

「これで良いでござるか?ああ、仕立ての服が出来上がるまでの間、着る服が無いでござる。何か用立てては貰えぬでござろうか?」


 その手から渡される金貨に、男性店員はぐうの音も出ない。


「……畏まりました。」


 結局、更に金貨一枚を支払い、ムネカゲの嫌いなチュニックとズボンを購入。ついでに、その恰好に草鞋は似合わないと言う事で、革製のブーツを買わされる。合計金貨4枚、銀貨5枚の支払いとなった。


「では、仕上がりには、五日程頂きます。六日目にこちらの札をお持ちになって頂ければ、お渡し致しますので。」


 引換の札を預かり、ムネカゲは仕立て屋を後にした。


 ちなみに、雷斬りのスキルは宿へと戻り確認した。

 

 雷斬り:居合からの斬撃に雷を纏わせる。雷斬りで斬られた者は、その傷口を焼かれ体中に電流が流れ、暫く感電状態となる。

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