第15話 サムライ、ランクが上がる

 その日は何とかモヨーギ草を一束半程採取し、ゴブリンは五体、ホーンラビットを二羽倒せたムネカゲ。

 報酬として見るとまあまあ稼げたが、宿代を考えればギリギリどころか全く足りない。だが、それなりの成果を上げることが出来た為引き上げる事にした。

 

 森を抜け踏み慣らされた街道を歩き、あと少しで街へと到着しそうだと言う頃合に、街の方から鐘の音が鳴り響く。日の陰り具合からして、時間で言うと三時の鐘だろう。他の冒険者はまだ森の中をうろついているのか、その場を歩いているのはムネカゲただ一人だ。


「そうでござった。ホーンラビットを出しておかなければいけないでござるな。」


 ムネカゲはポンと手を打つと、辺りに誰も居ない事を確認し収納(葛籠)を出す。

 そしてその中からホーンラビットを二羽取り出すと、その後ろ脚を一羽ずつ持ち意気揚々と城門へと向かう。


 そして門兵に怒られる。

 何を怒られたかと言うと、「依頼なのは分かるが、そのまま持ち歩くのではなくせめて袋に仕舞ってからにするように!」と言う事だ。

 要は、死体をそのまま持って街に入るな!と言う事だ。


「すまぬでござる。その袋と言うのは、何処に売っているでござるか?」


「獲物用の麻袋は、ギルドで売ってたろ?今日は仕方が無い、そのままで許可するが、明日以降はそのままで街には入れさせないからな?」


 ギルドに売っているらしかった。


「畏まったでござるよ。今からギルドへと向かうので、その際に購入しておくでござる。」


 ムネカゲはそう言うと、ギルドカードを提示しトボトボと街へと入って行く。

 東門から冒険者ギルドまでの数百メートルの間、ムネカゲが奇異の目で見られたのは言うまでもないだろう。


 その後冒険者ギルドへと辿り着いたムネカゲは、無事依頼を完了し獲物用の麻袋大を購入し宿へと戻る。

 宿へと戻った後、部屋で装備を外しクリーンを掛けて、一階へと下りる。

 受付で麻布――所謂タオル――を二枚、銅貨四枚で借りると、裏庭の井戸へと向かい身体を清める。

 クリーンでも全く問題は無いのだが、たまには行水もしたいムネカゲだ。

 井戸へと到着したムネカゲはその場で褌一丁になり、釣瓶式井戸の桶を下に落とし、水をくみ上げると頭からザブンと掛ける。それを三度程繰り返し、水で濡らした麻布で身体を擦る。

 その後もう一度水を頭から被ると、乾いた麻布で身体を拭き道着と袴を着る。


「さっぱりしたでござる。たまには、行水もいいでござるな。」


 綺麗さっぱりとした後宿の中へと戻ると、受付横に置かれた籠の中へと使用した麻布を入れ、ついでに少し早い夕食を摂って部屋へと戻った。

 ちなみにここの宿の夕食は、ホーンラビットの肉の入った野菜スープと、黒くは無いがそれなりに堅いパン。それと何かの肉の腸詰であった。後、エール一杯銅貨5枚。



 翌日からも精力的に依頼を受けるムネカゲ。

 当面の宿代は、手持ちのお金で何とかなるので、他の冒険者よりかは焦りはない。コツコツと地道に依頼を熟していく。


 一日に稼げるお金は、日によって違いはあれど大体銅貨45枚前後と言ったところか。

 依頼達成で言えば、多い時で五。少ない時で三と言った感じだ。

 それでも着実に依頼を熟し、十日少々経った頃には何とかFからEへとランクを上げる事に成功する。


「おめでとうございます。今日から、ムネカゲさんはEランクになります。Eランクは冒険者見習いから、初級冒険者へと変わります。次のDランクへと上がるには、依頼総数が50回。その内、Eランクの魔物討伐回数が5回必要となります。無理をせず、着実に頑張って下さいね。」


「分かったでござるよ。」


 ムネカゲはそう言うと、新しくなったギルドカードを受け取る。

 今までマジマジとギルドカードを見た事は無かったが、ギルドカードには名前とランクが書かれている。


「後もう少しでござるな。」


 ムネカゲはギルドカードを見つつそう呟く。ランクが上がり、受ける事の出来る依頼が増えた。無論、今まで通り薬草やホーンラビットの討伐、ゴブリンの討伐も受ける事は出来るのだが、それでは何のためにランクが上がったのか分からない。ここはEランクの依頼を受けよう。そう思い、早速依頼の貼り出されているボードを見るムネカゲ。

 Eランクの依頼内容としては、オークの討伐やレッドボアやフォレストディアの討伐などがある。その他にも色々とあるのだが、戦闘バカなムネカゲの目には止まらなかった。


「とりあえず報酬の良さそうなオークにでもするでござるかな?しかし、そもそもオークとはなんでござろうか?ボアと言うのは猪と理解出来るでござる。ディアと言うのも鹿と認識できるのでござるが、オークは猪人間?猪の人間でござるか?意味が分からないのでござる。」


 こういう時にダングやアーベルが居ればな。と思うが、それでは何の為に自立をしたのかが分からない。ここは恥を忍んでも、受付嬢に聞くのが早いか?と、依頼票を取ると早速受付へと向かう。

 ちなみにオーク討伐の依頼報酬は、本来パーティー推奨案件であり、報酬は大銅貨4枚だ。討伐証明はオークの尻尾。

 何故尻尾?と思うが、そこはスルーだ。


「すまぬでござる。拙者、無知故に教えて欲しいのでござるが、オークとは一体どの様な魔物でござろうか?」


 受付には、いつも大体ムネカゲを担当している女性が座っている。名をシーラと言う。


「オークですか?オークとは、顔は毛が無いボアの様な頭をしており身体は太った人。二本足で歩き、場合に寄っては武器をも使いこなす魔物です。ゴブリン同様、男性は殺戮の対象であり、女性は繁殖の道具としてしか見ない醜悪な魔物です。見掛けたら、討伐する事を推奨しております。」


「なるほどでござるな。」


「後、オーク肉はホーンラビットと同様、食肉として街で食されておりますので、なるべく持ち帰って頂けるとギルドとしても助かります。」


 その言葉を聞きムネカゲは一瞬「人間を食べるのでござるか?」と思うも、「まあ、拙者の居た世界とは違うでござるからな。」と納得する。


「畏まってござるよ。」


 そう言うとオークの依頼を受けるが、流石に今日は帰って来たばかりのムネカゲ。オーク討伐には、明日向かう事となる。


 

 翌朝、六時の金が鳴り目覚めたムネカゲ。今日からは、オーク討伐がメインとなる。

 胴鎧を着こみ雷紫電を腰に履き、今日は久しぶりに羅刹天十文字槍らせつてんじゅうもんじやりを右手に持つ。


 「さて、行くでござるか。」


 気合を入れて宿を出るムネカゲ。

 いつも通り東門から出てニヴムの森へと向かう。

 今日は少し早い時間に出たからか、数組の冒険者が先を歩いている。

 大体四人から五人が一塊で歩いているので、パーティーを組んでいるのであろう。


「今日は人が多いでござるな。カチ合わない様にしないといけないでござる。」


 そう一人呟きながら街道を行く。


 森の入り口まで来たムネカゲ。既に他の冒険者達は森の中へと入った後だ。

 気配察知を使いながら、カチ合わない様慎重に奥へと入って行く。

 途中Fランクの冒険者だろうか、数組の冒険者がゴブリンやホーンラビットと言った魔物と戦っているのを避けつつ、奥へとやって来た。

 奥にも冒険者は居るらしく、既に戦闘をしている者達が居た。それらを避け、一人森をうろついていると、ムネカゲの気配察知に反応が出る。


「むむっ。この動きからすると人型が二。しかし、獣型と戦っている感じでござるな。」

 

 反応に現れたのは、獣と戦う人型の反応。

 冒険者にしては二人と言うのはおかしい。しかし、ムネカゲの様に一人で森に入る者も居るので、絶対におかしいとまでは言えない。


「とりあえず行ってみるでござるか。」


 ムネカゲは気配を消すと反応のあった方へと向かう。



 そこでは、先の尖った長い木の棒を持った身長2m程の小太りな者と、短い木を持った同じく身長2m程の小太りな者が、角が異様に大きな鹿と戦っていた。

 その槍擬きと棍棒を持つ者の顔を見て驚くムネカゲ。


「いやはや、真に猪の頭なのでござるな。」


 武器を片手に鹿と対峙していたのは、受付嬢の言う通り毛が無い猪の頭に太った人間の身体と言う、摩訶不思議な生き物であった。


「あれがオークでござるな。しかし、何故鹿と戦っているのでござろうか?」


 それはオークがフォレストディアを食料として見ているからであるのだが、ムネカゲにはそれが分からない。とは言え、目の前に肉が居る事は分かる。


「まあいいでござる。一挙両得とは、このことでござるな。」


 ムネカゲは、目の前の戦闘が終わるのを待った。


 オークは鹿目掛けて槍擬きを突き出し、棍棒を振り翳す。それを鹿は軽やかに避けると、その大きな角でオークを突き刺そうと飛び掛かる。

 しかしオークは二体だ。槍擬きを持っているオーク目掛けて飛び掛かった隙に、棍棒を持ったオークが鹿目掛けて棍棒を振り下ろす。

 鹿はその一撃を避けきれず、背中へと一撃を喰らい地面へと倒れ込む。その隙に槍擬きを持ったオークが、その背中へと向けて突きを放つ。


「キューッ」と言う可愛らしい声を上げてのたうち回る鹿。トドメ言わんばかりに棍棒をその鼻先へと振り下ろすオーク。

 クリーンヒットした鹿は、そのまま力なく地面へと横たわる。

 オークは喜び、鹿を喰らう為に武器を地面に投げ、口を開け迫る。


「ここでござる!」


 無防備となったオークへと一足飛びに間合いを詰めるムネカゲ。

 羅刹天十文字槍を下から救い上げる様に振り上げると、一体目のオークの首頸動脈を切り裂く。

 そのままの勢いで槍から手を離すと、倒れ行くオークの背を飛び越えつつも、すぐさま腰の雷紫電の柄へと手を掛け鯉口を切る。

 「ブヒッッ!?」と驚くオークの首筋へと、その抜き放った刃で斬り付けようとし、力が入り鞘へと刃が擦れ火花が散る。

 その時だ。雷紫電の刃先からバチバチッという音と共に、刃全体がスパークする。そして聞こえて来る例の音。


 ≪ピコーン!武技:雷斬りらいぎりを会得した≫

 

 「うぉっ!何か覚えたでござるよ!?」


 唐突に響くスキルを覚えた時の音に、少し手元が狂ってしまうムネカゲ。しかしスパークした刃に斬られたオークは白目を剥き、その斬り口を焦げ付かせながらその場へと倒れ込む。


「危なかったでござる。何かを覚えるのは有難いでござるが、戦闘中に鳴るのは止めて欲しいでござるな。」


 ムネカゲは刀を見る。既に刃のスパークは治まっている。


「まあ、検証は帰ってからでござるな。今は、血抜きが先でござる。」


 一体目のオークの血抜きは問題なさそうだ。今現在も、血がピューピューと吹き出している。

 問題なのは二体目のオークと鹿の方で、動脈を斬られたた訳では無いので、血の出が悪い。

 ムネカゲは刀を鞘へと戻し、腰のナイフを抜くと、オークと鹿の喉を掻っ切る。そして吹き出す血飛沫。


 暫く血が流れるのを待っているムネカゲは、ここでふと気付く。

 これをどうやって持って帰ろうかと。

 先ずオークだが、体長が2mを越えておりそれが二体。鹿の方も、ムネカゲの知っている鹿と刃違い、体長が3m程ある。しかも、角が大きすぎるのだ。麻袋になど入るはずも無い。


「むむっ。困ったでござるな。ダング殿達から、なるべく目立たぬようにしろと言われていたでござるが……これは、仕方が無いでござる。」


 ムネカゲは収納へとその三体を仕舞う事にした。

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