第8話 サムライ、魔法を習う

 部屋へと戻った統景は、早速カズンから魔法を習う。

 ちなみに既に外は暗く、部屋に灯りは無いので蝋燭を大銅貨1枚で購入した。費用は無論統景持ちだ。


「先ず魔法を使うに辺り、ムネカゲ殿が言う雷魔法と言うのをワシは使うことが出来ない。何故なら、ワシが扱えるのは、火魔法、水魔法、風魔法の三属性だからだ。それ故に、魔法を教える事は出来れど、雷魔法そのものを教える事は出来ない。」


 魔法使いのカズンは三属性を扱えるが、雷魔法は扱えないらしい。


「左様でござるか。致し方ないでござる。」

 

「と言う事で、雷魔法が使えると言う事であれば、魔法の適正があると言う事だ。なので、基本的な所を教えようと思う。」


「基本でござるか?」


「そうだ。この世に、魔法が使える者は決して少なくはない。冒険者のみならず、国の魔法師団に然り。中には飲食店の店主が使えると言う場合もあるくらいだ。」


「では、何故ダング殿やアーベル殿は魔法とやらを使う事が出来ないのでござるか?」


 少なくないのであれば、ダングやアーベル、アネッテも魔法が使えて当然だと思う統景。


「それは、魔法の適正と言うものが無いないからだ。魔法には属性と言う物がある。例えばワシは、先程も言ったように火、水、風の三属性が使える。その他で言うと、土属性、氷属性、雷属性、無属性、光属性、闇属性とある。大体の場合、1つ属性があれば良い方だな。ちなみに、土属性を持つ者はそれなりに居る。光属性に関しては適正者は少なく、氷や雷、無や闇属性に関しては名前のみ知っていると言った所か。これら属性に対する適性が無ければ、魔法を使う事は出来ない。ちなみにだが、属性の適性が一つでもあれば使えるものもある。それがこれから教えるトーチ、ウォーター、クリーン、ディグ、ライトの魔法だ。所謂、生活魔法と呼ばれるものだ。これらは、どの属性でも良いから一属性さえ持っていれば使える基本的の魔法だ。何故一属性でも持っていれば使えるのかは知らぬ。そう言うものだと思っておけばよい。」


「分かったでござるよ。しかし、属性に対する適正でござるか。以前アーベル殿は『魔法を使う事は出来ないが強化は出来る』と言っていたでござる。拙者は、その意味が分からなかったのでござる。」


 街へと向かう道中で、確かにアーベルはそう言っていた。そして、多分ではあるが、統景自身もそれを覚えている。


「アーベルが言うのは身体強化の事で、自身の魔力を体内に巡らせ一時的に身体能力を上げるものだ。これは魔法と言う訳では無く、魔力を感じる事さえ出来れば誰でも出来る芸当だな。脚力を上げたり、腕力を上げたりと強化は様々だ。更に言えば、適性が無くとも魔力の放出さえ出来れば、訓練次第では魔力を使った攻撃技を使う事も可能となる。」


「魔力の放出でござるか?」


「うむ。魔力を飛ばすと言えば分かりやすいか?例えば剣に魔力を集め、それを斬撃として放出する。これが出来れば、前衛の戦士でも遠距離攻撃が可能となる。ただ、武器との相性と言う物があるので、中々そこに行きつく者はおらんがな。ちなみにウチで言えば、ダングだけが出来る。アーベルとアネッテはまだまだだな。」


「なるほど。その様な事が出来るのでござるか。」


「うむ。で、先程の話に戻るが、身体強化にも欠点はある。自己の体内魔力を身体に巡らせるわけだから、いつまでも強化出来るわけでは無い。魔力が切れれば、自ずと強化は解除されてしまう。」

 

「体内魔力でござるか。」


「うむ。稀人のムネカゲ殿は知らないだろうが、この世の中に住んでいる者。いや、この世界の生きとし行ける物には、多かれ少なかれ体内魔力と言う物が必ずあると言われている。人に然り、魔物に然り、木や植物に然りだ。魔法とは、自己の体内魔力に現象を乗せ、適性のある属性を発動させるものだ。その際、適切な魔力を体内で練るのだが、それを魔力操作と言う。その魔力操作が出来、尚且つ属性の適性がなければ魔法を使う事は出来ない。」


 カズンの説明に、統景は何となくではあるが魔法と言うものを理解する。


「さて、蘊蓄はこれまでにして、早速訓練をしようか。先ずは、己の身体の中に流れる魔力を知る事からだ。」

 

「己の魔力でござるか?」


「そうだ。魔力とは、己の体内を巡る力の様な物だ。先ずはベッドの上に座り、目を瞑り魔力を感じる事から始めよう。」


 統景はカズンの言う通りベッドの上へと座ると、胡坐をかいて座り目を瞑る。

 そして暫くすると≪ピコーン!スキル:瞑想を会得した≫と、例の音が聞こえてきた。統景はその音を聞き、一瞬身動ぎみじろぎするがそこは敢えてスルーし瞑想を続行する。


「身体の中に流れる血とは違う、何かが流れるのを感じるのだ。それは心臓から出て全身を駆け巡っている。先ずはその流れを感じろ。」


 目を瞑り瞑想状態の統景に、カズンが静かに声を掛ける。

 その声を聴きながら、統景は無の境地へと入る。

 

 心臓の鼓動に合わせて血管が脈打ち、血液が体内を掛け巡る。その血管の側に何か別の管の様な物があり、それが血管と同じように身体の中を掛け巡る。その管の様な物は、何処か暖かく力強い。これが魔力なのだろうと、統景は気付く。


「何となくでござるが、分かったような気がするでござる。」


 統景は瞑想を続けたままそう呟く。ここまで、凡そ10分程だろうか。


「早いな。ならば次だ。その魔力を右手の人差し指に集めるようイメージをするのだ。イメージとは、頭の中でそうなるように思い描くと言う事だ。」


 統景が稀人と言う事もあり、カズンは分かりやすく教えてくれる。実際は、言語翻訳があるので、統景はそれなりに理解はしているのだが。

 その統景は言われるがまま、右手をスッと上げると人差し指を上に向ける。そして体内に巡る多分魔力であろう物を人差し指に集まる様イメージする。

 すると、その人差し指の先がほんのりと暖かくなってくるのが分かる。


 ≪ピコーン!スキル:魔力操作を会得した≫

 

 この時、統景は目を瞑っているので見えてはいなかったが、カズンには統景の人差し指の先に魔力が集まっているのが見えていた。所謂、魔力の放出である。

 

「流石は稀人といった所か……早いな。良し、そのまま小さな炎が灯るようイメージしつつ、こう唱えるのだ『魔力を糧に灯火となれ』だ。これが生活魔法のトーチ灯火だ。」


 この言葉を聞き統景は、何故か竈の中に入れられた藁と薪を思い描いた。その竈に火打石を叩き合わせ、燃えやすい藁へと火の粉を落とす。そして燃え上がる藁。藁は茫々と燃え盛り薪へと着火。薪を燃え上がらせる炎となる。そんなイメージをしたところで、言われた通りの文言を唱えようとして≪ピコーン!スキル:無詠唱を会得した≫≪ピコーン!魔法スキル:燈火ともしびを会得した≫と、連続して頭の中に響き渡る。


「むっ。魔力を糧に灯火となれ?」


 出鼻を挫かれた統景は、とりあえず言われた通りに詠唱する。

 立て続けに鳴り響くいつもの音声。内心「何が起きた?」と訝しむ統景。ただ、トーチを覚える事が出来たのは、素直に嬉しかった。

 しかし周りは喜ぶどころではなく、慌てふためくカズンの声が聞こえて来る。

 

「お、おい!待て、中止だ中止!目を開けて指先を見て見ろ!」


 カズンの声が聞こえ、統景が目を開け指先を見ると、その指先から真っ赤に燃え上がる炎が噴き出ていた。しかも、熱くない。


「何をイメージしたのかは分からんが、それはやり過ぎだ!あの蝋燭の炎くらいの火でいいから、先ずはそれを消せ!」

 

 カズンは炎から逃げる様に身を逸らしす。ダングはダングで、驚きベッドから落ちこちらを見ている。

 しかし消せと言われても、どうやっていいのか分からない統景。

 

「どうやって消せばいいのでござろうか……。」


「指先に集まった魔力を散らせばいい!」


 統景は言われた通りに指先から魔力が消える様にイメージする。すると今まで燃え盛っていた炎がスッと消えた。

 その後、難なく蝋燭の炎程度の火を灯す事が出来た統景は、ウォーターとクリーン、ライトの魔法を覚えた。ディグについては、部屋では出来ないので後日と言う事になる。


「ムネカゲ殿の雷魔法に関しては、ここで練習とはいかぬので野営の時にでも試してみるといい。だが最初に言った通り、ワシは雷魔法を知らぬので教える事は出来ないと思う。まあ、稲光をイメージしながら、そのイメージに合った詠唱をすればあるいは発動すると思うぞ?」


 と、カズンは適当な事を言い始める。そして、カズンは気になる事を統景へと投げ掛ける。


「時に、ムネカゲ殿。ワシは長らく魔法使いとしてやって来たが、ムネカゲ殿程早く魔力操作にしろ、魔法にしろ覚えた者を見た事が無い。人の内情を知りたいと思うのは甚だ礼儀に欠くが、何故そこまで早く習得で来たのか、その理由を教えては貰えないだろうか?」


 カズンにそう言われた統景は考えるが、そもそも統景自身が何故なのか理解していないのだ。説明など出来るはずも無い。


「実の所、拙者にも良く分からないのでござるよ。ただ、稀に頭の中に『ピコーン!スキルを会得した』と鳴るのでござる。それが関係しているのかは分からぬでござるが、逆にカズン殿なら何か知っているのでは?と思っていたのでござるが……。」


 そう言う統景の言葉に、カズンは「むむむっ」と唸る。


「失礼でなければ、その「ステータスオープン」の中身を教えてもらえないだろうか?」


「いいでござるよ。魔法の事を教えて貰ったお礼でござる。」


 統景は二つ返事で了承すると、「ステータスオープン」と唱える。


 

 名前:黒瀧 統景

 年齢:24歳

 称号:異世界からの稀人

 職業:剣士

 

 取得スキル:刀術、槍術、騎乗、雷魔法、雷耐性、強運、気配察知、瞬歩、身体強化、投擲、瞑想、無詠唱

 魔法スキル:燈火、清水、清潔、光源


 固有スキル:言語翻訳、収納、鑑定


 エクストラスキル:武魔の才


 目の前に現れた四角い表示の中をカズンへと伝えていく。

 これにはダングも興味を持ったのか、カズンと共に統景の話を聞き入る。

 統景が全てを語った後、カズンの顔から生気が消える。


「無詠唱……。そんなの使えるの、賢者くらいだぞ。」


 どんよりと肩を落としたカズン。そこからカズンの独り言がブツブツと続く。ダングが優しく肩を叩く。

 暫くブツブツ言ったカズンは、気を取り直して質問を始める。


「もういい。無詠唱については、聞かなかったことにする。それで、先ず称号の「異世界からの稀人」なのだが、説明書きは無いのか?」


「ん~、説明書きは無いでござるな。」


 そう言いながら統景は、画面の称号の部分を指で突く。

 すると称号の部分に吹き出しの窓が現れる。


「あっ、何か出て来たでござるな。何々?『異世界からの稀人:他の世界から何かしらの理由で転移して来た者の事。この世界の者よりも成長が早い。』だそうでござるな。」


 それを告げた途端、二人が顔に手を当てる。

 その二人の顔を見てはいない統景は、必死に画面を指で突きながら更なる爆弾を落とす。


「あ~、もう一つのエクストラスキル?でござるが、武魔の才とは『武技、魔法の才能が高く、スキルを覚えやすくなる。』と書かれているでござるな。だからでござろうか?魔法とやらを覚えるのが早かったのは?」

 

 ここまで来ると、もうぐうの音がでないのだろう。二人共、肩を落とし項垂れている。


「稀人と言うのは、色々な面でワシらと違うのだな。」


「だな。こりゃぁ、国が囲いたがるのも納得だ。」


「であるな。ワシも40数年生きてきたが、稀人に出会うのは初めてだからな。どういう理屈で、そのような称号やスキルがあるのか。ああ、稀人だからか。」


 カズンも、ダングも、統景を無視して話し始める。

 その場に居ながら置いてけぼりを喰らう統景。この後、半刻程その状態が続いた。

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