第7話 サムライ、初めての街に戸惑う

 街へと入った統景は、その光景に圧倒される。

 そもそも統景の住んでいた世界の街は、木造建物が殆どであった。しかしこの街は、木造家屋もあれば煉瓦造りの建物もある。テンプレ的に言えば、中世紀ヨーロッパの街並みと言った感じなのだが、そんな外国の事情など統景が知るはずもない。

 そして住んでいる住人達を見てさらに驚く。

 ダング達の様な金髪深彫り顔の者達に紛れ、頭に耳が付いており臀部から尻尾の生えている者や、小さな子供くらいの身長であるにも関わらず、鼻髭顎髭がもじゃもじゃと生えた者。細身の体に耳先が尖った者達など、多種多様な人が通りを歩いている。もっとも驚いたのは、蜥蜴人間が歩いていた事だろうか。

 耳と尻尾の付いているのは獣人。低身長で髭モジャなのはドワーフ。細身で耳先が尖っているのがエルフ。そして蜥蜴人間は、ドラコニアンだ。

 そんな奇怪な者達を眺めていると、エミール達の馬車と灼熱の双翼が門を潜り合流する。そしてダングが今後の予定を打ち合わせに、エミールの元へと向かう。


 打ち合わせの終わったダングが戻って来ると、その内容を話し始める。


 「とりあえず、先ずは宿へと行く事になる。宿の名前は、「鈴鳴り亭」だ。その後、不必要な馬を売りに行く。馬車の関係上、この街には最低2日は滞在する事になりそうだ。必要な物があれば、明日買いに行く事となる。ムネカゲの登録も明日だな。」


 ダングの言葉に、カズン、アネッテ、アーベルが頷く。統景もその場の雰囲気で頷くが、半分以上理解していないのは言うまでもないだろう。

 そうして街の中心部へと移動を開始する事少々。通りの左側に建つ煉瓦造り三階建ての立派な建物の前で止まる。


「カズン達は少し待っていてくれ。俺とエミールさん、ハッセの三人で行って来る。」


 そう言い残すとダングは馬から降り、手綱をカズンへと預けるとエミールと共に建物の中へと入って行く。ちなみに、ハッセと言うのは「灼熱の双翼」のリーダーの事だ。

 カズン達と共に宿の前で待っていると、部屋が空いていたのだろうダング達が建物から出て来る。

 建物から出て来たエミールは幌馬車へと向かうと御者の男と何やら話し込み始め、ハッセはハッセで仲間の元へと駆け寄り説明をし始める。そんな二人を見ていると、ダングが宿の説明をし始める。


「一応部屋は取れたが、二人部屋となる。部屋割りは俺とムネカゲ、カズンとアーベル。アネッテは灼熱のエッバと一緒の部屋だ。荷物を置いたら先ずは馬を売りに行くから、宿の裏庭に集合だ。」


 その言葉に、全員が頷く。


「それと、アーベル。申し訳ないが、裏庭で馬の番をしてくれ。流石に金が掛かるから、全頭を厩舎に預ける訳にもいかねえしな。荷物を置いたら、直ぐに交代する。」


「りょーかい。」


 ダングはそう言うと、カズンから手綱を受け取り建物の脇から裏へと回る。統景達も馬から降りると、手綱を持ちダングの後を追う。

 裏庭へと回ると小間使いの男の子がおり、その子が指示しエミールの馬車は馬車用の倉庫へと入れられ、馬車を牽く馬三頭は厩舎へと入れられる。

 残った二十頭の馬は、手綱を柱へと結わえてあり、見張り番としてアーベルと灼熱からオリヤンが残ることとなる。

 馬を預けた統景達は表玄関へと再び戻ると、宿の中へと入って行く。

 宿の中はかなり広く、正面に受付があり右手側にはいくつものテーブルが据えられている。ここは統景でも直ぐに理解出来た。食事をするところだと。

 そして受付左手側には階段がある。その階段を上がり、二階へと向かう。

 二階の部屋は左右に計10部屋あり、扉に番号が振られておりその番号が鍵にも書かれている。その鍵と同じ番号の部屋へとそれぞれが入って行く。統景の部屋は、裏庭側の奥から2番目の207だ。

 部屋に入ると右手側に木製のベッドが2つ並んでいるのだが、統景は「ベッド」と言う物を知らない。なので、ダングが頭を抱える様な事を言い始める。


「ダング殿。毛皮の下敷は床へ敷けば良いのでござるか?しかし、この床だと一人分しか敷けないと思うのでござるが……。それと、荷物はこの床の間の様な高座に置いて、この白い布を掛けておけばよいのでござろうか?」


 それを聞いたダングは、額に手を当て、首を後ろへと傾ける。内心、「マジかーっ」と言う感じなのだろう。


「そこからか……。アーベルと交代しなきゃならねえから、手短に説明するぞ。先ずその白い布が掛かっているのがベッドだ。要は、ところだな。荷物は逆に床へ置いておけばいい。間違っても、外で使う毛皮敷きを敷いて寝るような真似はするなよ?」


 ダングは「やれやれ」と溜息を吐く。


「そうでござったか。無知故、手数を掛けるでござる。では、床に荷物を置いておくでござる。ああ、外に行くのに、お金は持って行った方がいいでござるか?」


 これから馬を売りに行くと言っていたので、お金が必要となるかもしれないとそう聞いたのだが。


「金は必要無い。だが、宿に置きっぱなしもマズい。こういう時こそ「収納」に入れておくといいだろう。特に、ムネカゲの場合は、スリに遭う可能性が高いからな。用心に越した事はない。」


 ダングの言葉を聞き統景は「なるほどでござる」と感心し、背嚢からお金の入った袋を取り出すと、サッと葛籠つづらへと袋を仕舞った。


「言い忘れたが、宿代は各自自腹だ。宿の料金は、一泊二食付きで銅貨60枚。まあ、馬を売れば、纏まった金も入るし問題は無いだろう。」


「畏まったでござるよ。」


 荷物を置いた統景とダングは、交代の為に宿の裏へと急ぐ。

 裏庭には既に全員が揃っており、アーベルとオリヤンも荷物を置いてきた後だった。要は、統景とダングが一番最後だったのだ。

 

 「ではみなさん、商業ギルドに向かいましょう。」


 エミールの言葉で、一人二頭の手綱を持ち表通りへと向かう。

 表通りへと出た一行は、そのまま宿の前を通り過ぎ、更に中心部へと向かって歩く。

 統景は、今までその背に乗って来た馬の手綱を持っている。そしてふと思う。


「馬を全て売った後、移動はどうするのでござるか?」


 統景はダングの方を向きそう問い聞く。


「移動は馬車になるだろう。幌馬車があれば……だが。まあ、それもこれから分るだろう。」


 これから分るだろうと言う事は、先程エミールが言っていた「商業ギルド」と言う所で分かると言う事だろう。


 「なるほど。畏まってござるよ。」


 統景はそう返事をすると、その後は黙って皆の後を付いて行く。

 暫く後に、目的地である「商業ギルド」と言う場所へと到着する。

 商業ギルドも煉瓦造りであり、統景の世界で言う所の商家の屋敷が三階建てとなった感じの、大きな建物であった。

 統景達はエミールに言われるがまま、馬を連れその建物の裏手へと回る。エミールはと言うと、建物正面から中へと入って行く。

 裏手へと回り、待つ事暫し。裏手の扉からエミールと、見知らぬ男性が出て来た。


「馬はこれか?」


「ええ、二十頭の馬です。」


「ふむ……。」


 見知らぬ男性は馬を一頭一頭見て回り、そして腕組みをして考える。


「一頭当たり、金貨一枚だな。幌馬車は金貨三枚なら中古であるぞ?」


 その瞬間、孤高の狼と灼熱の双翼のメンバーから「よっしゃ!」と声が挙がる。


「ダングさん、ハッセさん、それでいいですか?」


 エミールはダングとハッセの方を向き、確認を取る。


「ああ、それで構わない。」


「こっちもそれでいい。」


 ダングとハッセから了承を得たエミールは、ホッと胸を撫で下ろす。


「ではそれでお願いします。」


「おう、んじゃ、馬車は明日用意しておく。残りの金は今から準備するから待ってってくれ。」


 男はそう言うと、裏口の扉から建物の中へと入っていく。

 暫くして戻ってきた男の手には、丸まった紙の様な物とお金が入っているであろう小袋が握られていた。


「これが馬車の売買証明だ。明日これを持って来てくれ。んでこっちが残りの金だな。」


 そう言って丸まった紙の様な物とお金の入った小袋をエミールへと渡した。


 商業ギルドを出た一行は、そのまま宿へと戻る。

 宿へと戻ると早速分け前の分配が始まるのだが、統景には元々二頭分が入る事になっている為、金貨2枚を受け取り終了。ダング達が分配しているのを眺めていた。


 分配も終わり三人は一旦部屋へと戻る。そしてそろそろ腹も空いてきた頃、統景の居る部屋にカズンとアーベルがやって来た。


「飯行こうぜ。」


 と。二人は旅の装いからラフな服へと着替えている。無論、ダングも鎧を脱ぎ、チュニックにズボンと言う格好となっている。

 統景はと言うと、鎧や貫を外し着物姿のみと言った格好だ。着替えがないので、これは仕方がない。

 カズン達と連れ添い、一階へと降りる。

 受付の奥の食堂へと入り、適当なテーブルに陣取ると、女給の若い女の子がやって来る。


「今日は、パンと野菜スープ。ホーンラビットのグリルだよ。お酒はエールが銅貨5枚。ワインなら銅貨8枚だ。」


 本日のメニュー的な事を伝えられ、酒を頼むのかどうかを聞いて来る。


「エールを。」


「ワシもエールを。」


「んじゃ、俺も。」


 ダング達はエールを頼み、テーブルに銅貨を積み上げる。


「では、拙者も同じ物を。」


 エールが何なのか分からないが、三人が頼むならと統景も同じ物を頼む。

 そしてゴソゴソと腰の印籠から出される、先程受け取った馬の売却金である金貨1枚。

 その瞬間、ダングが慌てふためく。


「馬鹿っ!こんな所で、金貨なんぞ出したら迷惑だろ!とりあえず、俺が立て替えておいてやるから、部屋に帰ったら銅貨5枚な!」

 

 そう言いながら懐の小袋から銅貨を支払うダング。


「す、すまぬでござる。」


 そもそも分配後に収納へと仕舞わず、印籠の中へと金貨を入れていた統景。収納を使用していないので、お金の入った小袋を出してもいなかったのだ。まあ、小銭が必要だと言わなかったダングも悪い。

 その後、無事にエールが届き、夕食が運ばれて来る。初めて飲んだエールは、酸っぱ苦い飲み物だった。

 夕食の方はと言うと、黒パンほど堅くはないがそれに近いパンと、葉物と根菜だろう物が入ったスープ。味付けは塩と素材の味だ。そして日中、アーベルが言っていたホーンラビットを焼いた物だ。これも味付けは塩のみ。

 そんな夕食を摂り部屋へと戻る統景達。その道中で統景は、カズンに魔法の事を聞いてみる。


「カズン殿。お手が空いていたら、この後魔法について教授願えぬでござろうか?」


「後は寝るだけだ、構わないぞ。」


 カズンは二つ返事で了承。部屋へと戻ると、早速手解きを受ける事に。

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