第5話 サムライ、自らと世界を知る
統景は今までの事の次第をダングへと話した。
「なるほど。ムネカゲ殿は戦争で負け、敗走中追手に遭い、戦闘中雷に打たれ、気が付けば草原に居たと。」
ダングは眉を顰めながら統景へと聞き返す。
「そうなのでござる。そしてダング殿からここが『
ダング、カズン、アネッテの三人は、統景の話を聞き顔を見合わせる。そして、三人の中でも年長者であるカズンが、何かを思い出したかのように口を開く。
「もしかすると、ムネカゲ殿は稀人なのではないか?」
「稀人?」
その言葉に首を傾げる統景。
「うむ。以前古い文献を読んだ際、稀人の話を読んだ事がある。その稀人と言うのは、突然現れ『別の世界から来た』と話したと言う。そして、この世界に存在し無い仕立ての良い服を着ており、髪と目はムネカゲ殿の様に黒色をしていたと書かれていた。そしてその稀人は事あるごとに、「ステータスオープン」と唱えていたそうだ。稀人であれば自分にしか見えない四角い枠が見えるそうだが、本人にしか見えないのでそこに何が書かれているのかは分からぬらしい。」
流石は魔法使いのカズン。そう言った文献を読み漁っていたのであろう。
その話を聞いた統景は、首を傾げつつ「すてーたすおーぷん?」と呟く。
「うぉっ!?」
突然目の前に現れたステータスの画面に驚き、大声を出してしまう統景。無論、「気高き狼」の三人にはその画面は見えていないのだが、「やはり稀人か。」「カズンの言う通りか。」「すごーい!稀人なのね!」と、その声で統景が稀人だと三人は認識してしまう。
目の前に現れたステータス画面を見る統景。
名前:黒瀧 統景
年齢:24歳
称号:異世界からの稀人
職業:剣士
取得スキル:刀術、槍術、騎乗、雷魔法、雷耐性、強運、気配察知、瞬歩、身体強化、投擲
固有スキル:言語翻訳、収納、鑑定
エクストラスキル:武魔の才
そう表示されている。
「えっと……拙者、カズン殿が言われる、稀人らしいでござるな。」
統景は恐る恐ると言った感じで三人の方を向く。
すると、目の前の画面も統景の目線を追うように移動する。
「ところで、これを消すにはどうすれば良いのでござろうか?」
目の前に表示され続ける鬱陶しいステータス画面。一旦消したいが、その消し方が分からない。
「実際、ワシ自身に見えている訳では無いので分からぬが、「消したい」と念ずれば消えるのではないのか?」
三人の中でも一番物知りそうなカズンの言う通り、頭の中で「消えろ!」と願うと今まで目の前にあった画面がスッと消える。
「うぉっ!消えたでござる。カズン殿、かたじけない。」
「いや、消えてよかった。ところで、ムネカゲ殿。稀人と分かった所で、二、三、注意点がある。」
そう言うカズンの表情が険しい物となる。
統景はそのカズンの方を向き、真剣な表情で聞く体制を取る。
「その文献にはな、こうも書かれておった。「稀人は言語翻訳と言う能力を持っており、この地上に住まうほぼ全ての種族の言葉を理解する事が出来る。更には収納と言う能力により、無限に物を入れる事が可能。そして鑑定により全ての物の良し悪しを判別する事が出来る。」とな。この事を国が知れば、確実にムネカゲ殿を利用しようとするだろう。」
そこまで聞いた統景は、「確かにそんな名前のものがあったでござるな」と呟く。
「ちなみにその文献と言うのは、既に滅びたとある国の歴史書なのだが、その稀人は国に捕らえられ死ぬまで酷使されたそうな。そうなりたくなければ、ムネカゲ殿は東方諸島群の出身と名乗るのが良いだろう。あそこには、ムネカゲ殿の様な黒目黒髪の人種が多いと聞く。更に言えば、人前でのスキル使用は控えた方がいいだろうな。」
統景はカズンの言う事に「なるほど。」と頷く。
「それにその恰好。幾ら東方諸島群出身と言えども、流石に目立ちすぎる。余計な揉め事に巻き込まれたくなければ、街に着いたら色々買い替えた方が良いだろう。」
そう言われ改めて自分の恰好を見ると、戦国時代の甲冑に着物だ。ダング達と見比べてみても、確かに悪目立ちする事間違いない。
「畏まったでござるよ。ただ、何処で何を買えば良いのでござろうか?」
色々買った方がいいと言われても、そもそも何を買えば良いのか分からない。仮に買うものが分かったとしても、土地勘の無い街でそれらを買う場所など分かるはずも無い。
するとダングが「今後次第だが、ギルドに報告した後なら俺達が連れて行ってやる。」と言ってくれた。
貴族ではなく、稀人と分かったからか、既に敬語ではなくなっている。
「それは助かるでござるよ。にしても、拙者が稀人と分かってもダング殿達は、拙者を利用しようとは思わないのでござるか?」
先程の話しのように、国に見つかれば強制的に使役される事は確実だろう。それは冒険者とて同じで、収納持ちや鑑定持ちは喉から手が出る程欲しい逸材だ。何せ、重い背嚢を持たなくても良くなるうえに、先程の盗賊のアジト襲撃の時のように捨てる事なく持ち帰れるのだから金になる。
だが、ダング達三人は頭を振る。
「そりゃあ一瞬それも考えたがな。だが、命の恩人に対して、それは義理に欠くだろ?まあ、仲間になってくれるってなら有難いがな。」
ダングはそう言い、笑う。
「仲間に」と言われて、一瞬統景の頭の中で「それもいいかもしれない」と思うも、まだ出会ったばかりの「孤高の狼」だ。ここは慎重にと頭を振る。既に自身の事を喋っている時点で、あまり意味は無いのだが。
その後、スキルの使い方やこの世界の事を教えて貰う統景。
先ず言語翻訳に関しては既に能力が発揮されているらしい。所謂パッシブスキルと言うやつだ。読み書きをする際、自動的にこちらの言語へと変換される便利なスキルだ。ちなみに聞いた言葉も、自動で統景の知る言葉に翻訳されているし、統景が喋る言葉も自動で翻訳されている。
次に収納だが、統景が「収納」と言うと、地面に何故か竹で編まれた
葛籠の大きさは、推定縦1m、横70cm、深さ40cm程の大きさで、蓋を開けて中を覗くと底が真っ暗で何も見えない。
統景は恐る恐るその中へと黒パンの入った袋を入れてみる。袋が葛籠の中へと入った途端にパッと消えた。
不思議に思いながらも、今度は何も持たずに葛籠の中へと手を入れる。すると、頭の中に「黒パンの入った袋」と浮かんで来る。
「これは便利でござるな。」
気を良くした統景は葛籠の中に大袖、草摺、鉢金を仕舞う。これで装備は鎧、小手、貫きだけとなった。
ついでと言っては何だが、着物を着替えようと背嚢の中に入っていた洋服を取り出した統景であったが、サイズが統景には合わなかったのと、チュニックにズボンであった為再び収納送りとなった。まあ、チュニックとズボン姿に、鎧は全くと言っていい程似合わないのだが。
尚、お金を収納に入れようとした統景だったが、ダングに止められた。なんでも街へと入る際にお金が必要になるので、小袋に入れて背嚢へと入れておいた方がいいそうだ。
統景はその助言を受け、干し肉の入った小袋を空け、その中にお金を入れる事にした。
そして鑑定だが、人に対しては使えなかった。だが物に対しては使える様で、知りたい物を見て、鑑定と念じるなり言うなりすればその情報が目の前に現れる。
例えば、統景の持つ槍だが
名:
※名工「
穂先、柄、石突共に、鍛造された丈夫な鋼で作られた十文字槍。
と出る。
「ほう、面白いでござるな。」
「まあ、鑑定にしろ収納にしろ、スキルを持っている奴はムネカゲ殿以外にも居るには居る。だが数は少ないし、両方を持っている奴は多分居ないだろう。しかも魔法袋と同じ様に無限に物が入らないらしいし、鑑定出来ない物もあったりするそうだ。だからこそ、全てを持つ稀人の能力と言うのは珍しいのだがな。」
そうカズンが説明してくれる。
そして背嚢に入れたお金だが、銅貨が一番低く10枚で大銅貨1枚に。大銅貨10枚で銀貨1枚に。銀貨10枚で大銀貨1枚となり、大銀貨10枚で金貨1枚の価値となるそうだ。その上に白金貨や大白金貨と言うのがあるらしいが、余程の金持ちでなければ扱う事は無いとの事。冒険者や一般人が使うお金は、精々金貨くらいしか扱わないそうだ。
ちなみに、握り拳程の平たい黒パンが2個で銅貨1枚。中指と人差し指を合わせたくらいの大きさの干し肉が、10束で銅貨5枚。冒険者などが使う安宿の料金は、一泊2食付きで大体銅貨にして50枚から60枚が相場だそうで、素泊まりだと銅貨30枚くらいだそうだ。銅貨20枚~30枚が食事代と言う事だろう。高いのか安いのかは分からないが。
そんな統景の分け前は、金貨10枚、大銀貨2枚、銀貨2枚、大銅貨3枚、銅貨4枚だったのでそれなりのお金となる。
「なるほど。となると、拙者が頂戴したお金は、相当高額であった訳でござるな。忝ないでござる。」
この世界の通貨を教えて貰った後、今度はこの国の事を教えて貰う事となる。
先ず現在地はキリアと言う国なのだが、北にキルキアとタランド。東にドラクスとメニリア。南にヘルトリアとブリディア。南西にオルスタビア王国と四方を囲まれている。
更には、その周りにはキリアの様な細々とした小国が多数点在しており、今は正に小国群が群雄割拠する戦国時代となっているそうだ。
ちなみに、キルキアとタランドはキリアとほぼ同じ広さの国土を持つ。メニリアの国土はキリアの三分の一。ドラクスがキリアの三分の二程。ヘルトリアとブリディアがキリアの半分程の国土だ。
隣接する国の中でも南西のオルスタビア王国が国土が広く、いち早く南部を平定し領土を拡大させて王国を名乗った。
キリアはそのオルスタビア王国と同盟をする事で、周りの小国への牽制とした。
キルキアは王国とも接している為、不用意にキリアへと攻め込む事が出来ない。その間にキリアは隣国の小国メニリアへと戦争を仕掛けた。
攻め込まれたメリニアは、ドラクスへと援軍を要請。その要請に応えたドラクス軍がメリニア国内へと援護を出したため、現在国境付近で睨み合いが続いているのだとダングは説明する。
「今はまだ冒険者に招集が掛かっていないのが救いだな。だが、最近北のタランドの動きがきな臭くなって来たらしい。軍備を整えているらしく、メニリアと呼応してキリアに攻め込んで来るんじゃないかと冒険者達の間で噂されている。」
ダングがそう言うと、今まで大人しく周囲を警戒していたアネッテが口を開く。
「そうよね〜。招集が掛かると、Dランク以上は半強制になるし。キルキアとタランドより北西の方では、戦争が頻繁に起きていて、冒険者まで駆り出されているって話しらしいじゃない。」
「ああ。仮にタランドが動くとなると、キリアでも冒険者に声が掛かる可能性は高いからな。」
アネッテの言葉に、カズンが答える。ダングは「怖い怖い」と呟き肩を顰めた。
その後、ダング達が何故エミールの護衛をしているのかと言う話となり、依頼内容を教えて貰う。
端的に言えば、元々国境近くの町で商売をしていたエミールが戦争に不安を覚え、他国へと移動する為に「孤高の狼」と「灼熱の双翼」に護衛を依頼したのだそうだ。
「ワシらにも渡に船だった訳だ。そして現在、エミールさん家族の護衛がてら、隣のオルスタビアへと向かう途中と言う訳だ。戦争に巻き込まれたくはないからな。「灼熱の双翼」の奴らも、ワシらと考えは一緒よ。」
「そうそう、冒険者として魔物と戦うのはいいけど、人間同士の殺し合いは嫌だからね。」
「そうだな。まあ、王国に行けば迷宮もあるし、そこで稼げばいいしな。で、ムネカゲはどうするんだ?」
既に敬語ではなくなっているダングの言葉に、カズンとアネッテの顔が統景の方を向く。
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