第4話 サムライ、分け前を貰う

 ダング達と行動を共にする統景。

 先導するのは、ダングのパーティーメンバーの斥候担当、金髪サラサラヘアのイケメン、アーベルだ。歳の頃も身長的にも、統景と同じくらいだろう。そんなアーベルは革鎧を身に着け、腰には二本のダガーを差している。

 

 アジトへと向かうのは、「気高き狼」からダングとアーベル。もう一組のパーティー「灼熱の双翼」から二名。それと統景の五人だ。

 残りの五人は商人の護衛と荷物の積み直しの為に残っている。倒れた馬車は、車軸が折れ使い物にならないらしい。


 丘を登り道なき道を歩く事四半刻三十分。平坦な場所へと出ると、目の前に木の柵で囲まれたテント群が現れる。ここが賊のアジトのようだ。

 

「ここだな。早速だが、手分けをして探すぞ。」


 ダングの一言で、統景以外の三人が頷きバラバラに散る。

 一人取り残された統景は、何をすれば良いのか分からないまま当分突っ立っていたが、他の者達がテントへと出入りしていうのを見て、とりあえず手っ取り早い一番手前に建っているテントへと入った。

 テントは革製であり、テントの中心にはそれなりに真っすぐな木の棒が立っている。所謂、三角錐型のワンポールテントの様な作りだ。

 そのテントの中には布ではなく革で作られた背嚢、床敷きの毛皮、薄手の布が置かれており、見る限り然程重要そうなものは無い。


 テントの中を一頻り見回した統景は、地面に置かれた背嚢を開けてみる。

 背嚢は統景が背負っている風呂敷を袋状にし大きくしたような物で、両肩で背負える物だ。バックパックに似た物と言えば分かりやすいか。

 その中身は、干した肉が入った小袋、黒く堅い物が入った小袋、衣類が数点と木製のコップに皿、スプーン。皮製の水筒が入っている。

 

「これは背負子の様な物でござるかな?明日以降の食料をどうしようかと思っていた所でござるし、この干した肉は丁度良かったでござる。この黒く堅い物も食べられるのでござろうか?こちらの皮の袋の中身は……水でござろうか?何かが入っているでござるな。後、この下敷きと布は、寝るのに丁度良さそうでござる。」


 統景は槍を置き、背嚢を脇へとずらすと、下敷きとなっていた毛皮と薄い布を軽く叩きはたき、何となくで折り畳むと背嚢の中へと無理やり仕舞い込む。

 戦利品をせしめた統景は、背嚢の肩紐に腕を通しウキウキとテントの外へと出た。

 戦国の鎧甲冑に革製の背嚢。見た目的にかなり違和感がある。

 しかし、そんな可笑げおかしげな格好になっているとは終ぞ知らない統景は食料が手に入った事で意気揚々だ。

 テントを出て辺りを見回すと、「気高き狼」と「灼熱の双翼」の四人が齷齪あくせくと動き回っているのが目に入る。

 柵の入り口付近には集められた武器防具、樽が3つ、大きな麻袋が2つ、中くらいの麻袋が3つ、統景が背負っている背嚢と同じものが19個、後は金や銀色に光る物が入った小中の袋が3つに、何だかよく分からない道具類が置かれている。

 これだけの荷物を持って行くつもりなのだろうか?と思っていると、ダング達が一抱えの武器を抱えて戻って来る。


「こいつら、傭兵崩れだったのかもしれないな。」


「馬に乗り、各テントに背嚢とくれば、その可能性が高いだろうな。だけど、これ全部は持って行けないだろ?」


 鹵獲して来た物を見つつ、ダングとアーベルがそう話す。


「ああ、武器防具類は、使えそうな物以外このまま放置だな。酒樽は勿体無いが、依頼中に飲める訳でもねえし持ちきれない武器にぶっ掛ける。黒パンと干し肉の入った袋は持ち帰ろう。」


 黒く硬い物体は、黒パンと言う物らしい。


「背嚢はどうする?」


 灼熱の双翼の男――名前をバルブロと言うのだが――そのバルブロがダングへとそう問い聞く。

 

「背嚢は人数分だけ持ち帰ろう。道具類を背嚢に入れればいいし、干し肉と黒パンの袋は、各々が抱えればいいだろう。それに、武器を背嚢に刺せば、多くの武器が持って帰れるしな。金とかその他は後で山分けだ。」


 ダングがそう言うと、三人は頷き行動を開始する。

 それぞれが武器を選別し、使えそうな武器を寄り分ける。背嚢の中身は、統景の背嚢の中にあった物と同じ様な物が入っていた。それらの中から食料だけを詰め直し、道具類や金色銀色に光る袋を背嚢へと詰め込み、持ち帰る武器類を袋の蓋部分へと刺していく。残った武器は一番近いテントへと投げ入れている。

 ダングは各テントを倒した後、酒の入った樽を転がし武器を放ったテントへと運ぶ。そして地面に転がる直刀で酒樽を叩き割り、テントの中の武器防具へと向けて蹴り飛ばしていた。

 そんな四人の行動の理由が分からない統景は、その場に突っ立ったまま見ている事しか出来なかったが。


「よし、粗方片付いたな。それじゃあ、馬車に戻ろう。野営の時に分配だ。」


 ダング達は回収した背嚢を背負い、食料の入っている麻袋をそれぞれ持つと来た道を戻り始めた。無論統景も、槍を片手に食料の入った麻袋を持たされたのは言うまでも無い。



 馬車へと戻ると、鹵獲品を馬車へと乗せる。

 先程の逃走中に車軸が折れ転倒した馬車は、この場に捨てて行くのだそうだ。

 なので、先頭の馬車に積み込まれていた荷物が、二台目の馬車の中にギュウギュウ詰めにされている。

 準備が整うと、一台目の馬車に御者とエミールの家族、二台目の馬車へ御者二人が座り、護衛であるダング達は盗賊が乗っていた馬へと跨り馬車を取り囲み出発する。

 無論、統景もその場の勢いに任せ騎乗し、後ろを付いて行く事に。余った馬は、最後尾の馬車へと繋がれている。ダング曰く「馬も売れば金になる」そうだ。

 

 馬に跨り半刻程すると、風景が林間から平野へと変わる。

 既に日も暮れており、辺りは夕闇となっている。

 林から離れた場所へと馬車を停めると、「気高き狼」と「灼熱の双翼」メンバーがサッと野営の準備に取り掛かる。

 本来ならば盗賊のアジトにあったようなテントを建てるのだろうが、既に日が暮れている為エミール達のテント以外は建てないようだ。

 

 統景達がアジトへと乗り込んでいた際、護衛で残っていた者達が集めたのであろう枯れ木で焚火を起こす。

 馬車と馬はその焚火の周りへと配置済みだ。

 鹵獲して来た物の中から、干し肉と黒パンを取り出し配って行く。簡単な食事を摂った後、お待ちかねの分配タイムが始まる。


「先ずは武器類から選ぼうか。と言っても、大したものは無いんだがな。」


 そう言いながらダングは武器類を広げる。

 統景には何が良い物なのかは分からない。そもそも家宝の刀と槍があるので、他の武器は必要無い。


「拙者は、この刀と槍があるので必要無いでござる。皆で分けて下され。」


 統景がそう言うと「ならば」と、鹵獲して来た武器類を単純に二等分して分けるダング。

 その後も道具類やお金、宝石・貴金属を分けて行くが、統景にしてみると元の世界の「銭」しか知らないので、見た事のないお金の価値が分かるはずもなく、更には道具も何に使うか分からず、宝石・貴金属の価値も分からない。

 結果、「要らないでござる」の一言から、統景にはお金を多めに分配される事となった。

 これは先程の会話から、ダングが統景の事を「何処ぞの国の元貴族」だと認識しており、誤魔化したりすれば後が怖いと思い込んでいるからこその措置だ。

 その結果、統景が手にしたのは、金色に輝く丸い物が10枚。銀色に輝く丸い物が22枚。茶色い丸い物が34枚。それと賊が乗っていた馬二頭と、統景の背負っていた背嚢丸ごと。それとは別で食料の入った小袋――一袋に10個入った黒パンと干し肉――をそれぞれ二つずつと水筒を2つ貰う事に。これが多いのか少ないのかすら分からないが、くれると言うのだから有り難く受け取る事に。

 ちなみに、金色に輝く物が金貨。銀色に輝く物が銀貨。茶色い物が銅貨だそうだ。


「では、有り難く頂戴するでござる。」


 統景はそれらを背嚢へと仕舞う。

 

「では見張りをしよう。最初は「灼熱の双翼」から三名。その後「気高き狼」から三名。最後は残った者が三名だ。ムネカゲ殿はゆっくりと休んで下さい。」


 ダングがそう告げると、「気高き狼」と「灼熱の双翼」のメンバーが頷く。そして各々が三々五々散ると、地面に布を敷き横になり始める。

 


 統景は眠れなかった。

 今日一日と言う時間の中でかなり濃い時間を過ごした為、頭の中で色々な事がグルグルと回っていた。

 戦で味方が敗れ、敗残兵となり敵方に追われ、神社で戦いとなり怪我をし、もうダメかと思った所に雷が落ち、気付けば見ず知らずの場所にいた。

 そして出会ったダング達は、どう見ても統景と同じではなかった。

 顔の形や髪の色、着ている服や身に着けている装備品。どれを取っても、統景とは違い過ぎるのだ。そして極めつけはここが丹波の国ではなく、「キリアと言う国のほぼ中心。タートンからトレロへと続く街道」だと言う事だろう。


「拙者の身に何が起こったのでござろうか……。」


 統景は鹵獲した皮敷物へと横になり、夜空を見上げて独り言ちる。

 空には大きな黄色く光る月と、小さな赤く光る月が並んで見える。この時点で、統景の居た世界とは全く違うと理解出来る。

 ふと統景は右手を見る。


「確かあの時、スキルを獲得したとか言っていたでござるな。」


 盗賊との戦闘中、頭に響いた≪ピコーン!スキル:瞬歩を会得した≫と言うのが気になる。もう1つ会得したのは、身体強化と投擲だった。


「投擲は何となく分かるのでござるが……瞬歩とは何でござろうか?それよりも、そもそもスキルとは何でござろうか?それに、拙者、そんなに高く飛び上がる事など出来なかったと思うのでござるが。」


 一足飛びで大体一歩半程の踏み込みが可能なのだが、瞬歩を会得した際はその一歩が二歩半以上の踏み込みだった。更に言えば、槍を投げるにあたり飛び上がった際、どう考えても飛びすぎな程の跳躍をしていた。普通に考えればおかし気な事だ。


 そんな統景の頭上には、既に2つの月が真上を過ぎ傾きかけている。この時点で統景の居た世界とは違うのだが、統景はそれに気付いていない。

 統景は徐に上半身を起こすと、焚火が焚かれている場所へと足を向けた。


 丁度見張りの交代後だったようで、見張りにはダング、カズン、そして「気高き狼」の女性メンバーのアネッテが居た。

 アネッテは赤毛のショートヘアで、整った顔をした若い女性だ。革鎧に、短めの剣を両腰に下げている。


「あ~、すまぬでござる。少々眠れないので、お邪魔するでござるよ。」

 

「ええ、どうぞ。しかし眠っておかないと、明日辛いのでは?」

 

「いや、戦では夜襲に備え、寝ずの番をする事もあったでござる。一日くらい寝ずとも問題はないでござるよ。」


 そう言いながら統景はダングの隣へと腰を下ろした。


「ところでダング殿にお聞きしたい事があるでござる。」


 統景はそう切り出すと、自身に起こった事を語り始める。

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