第24話 七人の鎧姫

 アネモネを討ち取ったレグルスは、残りの女騎士たちも次々に斬り伏せた。一度怯んだ彼女たちを倒すのは造作もなかった。


「そっちも片付け終えたようだな」


 振り返ると、広場にはセレナとホルスが立っていた。その足下には力尽きた山猫の爪の構成員たちが転がっていた。


「ほとんど彼女一人の活躍でしたが」


 ホルスは苦笑交じりに言った。見たところ大きな負傷をした様子もなさそうだ。


「それにしても、まさかアネモネ隊長を倒してしまうなんて……信じられないわ。彼女の剣技を破った人は今までいなかったのに」


 セレナは呆気に取られていた。

 辺りを見渡すが、これ以上の増援が来る様子はない。今の戦闘で山猫の爪は事実上の壊滅状態に陥ったと見てよさそうだ。


「……何てことをしてくれたんだ」


 呆然とした声が地の底から響いてきた。見ると――地面に倒れていたルクウェルが怨嗟の眼差しを向けていた。


「……君たちは自分が何をしたのか理解しているのか? アネモネ――騎士団の部隊長を討つということの意味が……!

 彼女……アネモネ=バレットハートは騎士団長の娘だ。彼女を討ち取った以上、騎士団長の逆鱗に触れることになる。……そうなれば君たちだけでは済まない。下層街の全員が根絶やしにされてしまいかねない」

「だったら、その騎士団長とやらも討てばいいだけの話だ」

「…………君は何も分かっていないッ!」


 ルクウェルは沈痛な面持ちで呟いた。


「騎士団長フレイア=バレットハートは英雄大戦を戦った七人の鎧姫たちの一人だ! 彼女に敵う者など誰一人いない!」

「…………何だと?」


 レグルスの心音が高らかに跳ねた。

 英雄大戦を戦った七人の鎧姫たちの一人。それはつまり、千年前――エルスワース王国を滅ぼした者たちということだ。


「ウルスラだけではなかったのか」

「この国は女王ウルスラと騎士団長フレイアの二人の鎧姫によって支配されている。大陸全土を制圧した彼女たちの力は圧倒的だ。部隊長など比べ物にならない。我々がいくら束になろうと敵うはずもない。……彼女たちは、鎧姫は皆、想像を絶する化け物だ」


 ルクウェルは呻くように呟いた。


「神に対して戦いを挑もうとする者なんていない。怒りを収めるために出来るのは、生贄を捧げることと、静まるように祈りを捧げるくらいだ。

 だから我々は戦わず、服従することを選んだ。生き延びるために。なのに……君たちのせいで何もかも台無しだ……」


 全てを諦めたかのように力なく項垂れるルクウェル。その萎んだ姿を見下ろしながら、レグルスは言った。


「むしろこちらには好都合だ。七人の鎧姫たちのうち、二人がこの王都にいる。大陸中を探し回る手間が省ける」

「話を聞いていたのか!? 相手は大陸全土を制圧する力を持った女騎士たちだぞ! 君たちごときが何をしようとも――!」


 ルクウェルがその先の非難の言葉を紡ぐことはなかった。開いた口の中に魔剣の剣先が差し込まれたからだ。


「がっ……!?」

「女王だろうと、騎士団長だろうと関係ない。ビキニアーマーを着た女騎士たちはただの一人も残さずに討ち取る」


 レグルスは冷たい眼差しで、ルクウェルを見下ろして告げた。


「それが俺に課された使命だ」

「…………っ!!」


 大きく見開かれたルクウェルの瞳は、明確な恐怖の感情に満ちていた。理解できない化け物の姿を目の前にしたかのように。

 レグルスはルクウェルの口内から魔剣を引き抜いた。家畜のような悲鳴が上がる。顔色一つ変えずに付いた血を振り払うと、鞘に収めた。

 そして視線を切ると、背を向けて歩き出した。


「ば、化け物め……!」


 背後から聞こえてきた怨嗟と畏怖の入り混じった声に、振り返ることはなかった。

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