第56話 このタメは!? ……アレだよなあ

「うーん。久しぶりの宿での朝だなあ」


「すぴー、すぴー、先輩、会えた、当たり、ですう」


 今日は36日前である。ユキが予想した通り、先輩達に会うことが出来た。情報といえば先輩達! と言えるほど色々知っているので、お陰で凄く助かった。


 先輩達の情報をもとに、今日は動こうと思う。その前に、まずはユキを起こして食事に行こう。


◇◇◇◇◇


「あら、おはよう。眠れたかい?」


「おはようございます。ぐっすり眠れましたよ」


「おはようです。今日からカルノーサを楽しむのです!」


「あら、ユキは朝から元気ねえ」


「はいです!」


 今日のユキは、朝から元気いっぱいだ。明日からのダンジョン挑戦に、ウキウキが止まらないようだ。朝食を終えて部屋に戻り、出かける準備を整えた。


◇◇◇◇◇


「まずは、ここだな」


「先輩達に教わったのです」


 最初に訪れたのは、冒険者ギルドだ。先輩達に、場所や情報を教わっている。早速、入ってみる。


「へえ、イベリスより大きいかも」


「ヤマトさん。あっちに掲示板があるです」


 掲示板を確認してみる。昨日先輩達が言っていた通り、町中の依頼が多いように感じた。町の外での討伐依頼も、そこそこ掲示されている。


「情報通り、ダンジョン関連の依頼は無いみたいだね」


「出張冒険者ギルドにあるって、言ってたのです」


 先輩達の情報通りだった。他にもダンジョンに入るなら、まずは冒険者ギルドでダンジョン講習を受けなくてはならないと教えてくれた。


 先輩達はダンジョンに入ることは絶対に無いのに、情報だけはしっかり得ている。本当に良い先輩達に知り合えて、良かったと思った。


 ダンジョン講習を受けるため、受付に向かう。人族の女性に、声をかけられた。


「こんにちは。冒険者ギルドへ、ようこそ」


「こんにちはです。あたし達はダンジョンに挑戦したいので、講習を受けたいのです」


「ダンジョン講習ですね。お二人は、ギルドに所属されていますか?」


「はいです。二人とも冒険者ギルド所属なのです」


「それでは、お二人のギルドカードをお願いします」


 ギルドカードを、受付の女性に渡した。


「ありがとうございます。ヤマトさんとユキさんですね。……えっ!? しょ、少々お待ち下さい!」


 受付の女性は、急いで上司と思われる人に話しに行ったようだ。俺達のギルドカードに、何か不備でもあったのだろうか……。


 まさか、スキルの偽装が解けたのか!? と焦ってステータスパネルを確認してみた。問題無く、偽装スキルは働いていた。


 ステータスはカードと繋がっているので、偽装が解けるとSランクと表示されてしまうのだ。色々なパターンを、実験済みである。


 少し待つと、上司と思われる人族の男性が来た。


「お待たせして、申し訳ありません。こちらに移動お願いします」


「ん? わかりました」


 特に焦った感じも無いので、問題は無かったようだ。男性に付いていくと、部屋の前で止まった。ここで講習をするのだろう。


 すると男性は、ドアをノックする。ドアを開けると、中には獣人族の女性が座って居た。やはり俺には何獣人なのかが、すぐにはわからない。俺がわかっていないことに気がついて、ユキが耳打ちしてくれた。この女性は、狼獣人族のようだ。


「お二人をお連れしました。あちらに、お座り下さい」


「……はい」


 そのまま男性は、女性の隣に立つ。この二人が講習担当なのだろうか。それにしては、威圧感が凄い気がする……。狼獣人の女性が、話し始める。


「呼び立てて、すまない。私はカルノーサ冒険者ギルド、ギルマスのシェリーだ」


「「えっ!? ギルマス!?」」


「私はサブマスのロダンです。よろしくお願いします」


「「サブマス!?」」


 部屋にいた女性はギルマスで、俺達を連れてきてくれた男性はサブマスだった。ここはギルマス部屋だったようだ。サブマスは密会玉を起動し、話し始める。


「お二人のことは、ゴルディギルマスから連絡を受けております」


 ゴルディさんは俺達がカルノーサに寄るので、よろしく頼むと連絡をしていたらしい。もちろん、オークションのことも伝えてあるようだ。


 受付に俺とユキの特徴を伝えておいて、ギルマスに連絡が行くようにしていたらしい。


「今日は、ダンジョン講習に来たんだったな。だが、その前に……」


(ん? このタメは!? ……アレだよなあ)


「……仕留めた獲物を、見せてもらえないか?」


「もちろん、お見せしますよ」


(やっぱりか。てか、ギルマスって人達は、タメを作らなきゃ話せないのかね……マッタク)


「なんとっ! ヤマトさんがタメに対応したのです……ヤルナ」


 謎にユキの評価が上がったようだ。その後、二人にキングとコライオンを見せると、これまた定番になった絶句である。少しすると、サブマスが話し始めた。


「……ギルマス。これは凄いですね」


「……ああ。良いものを見れたな。ヤマト、ユキ、ありがとう」


 俺が二匹をバッグにしまうと、サブマスは密会玉を解除した。ダンジョン講習は、ロダンさんが担当してくれるそうだ。三人で別の部屋へ移動して、講習を始めた。


◇◇◇◇◇


 現在カルノーサには、管理されている特殊ダンジョンが三つ存在している。主に食材になるものが、ドロップするダンジョンである。このダンジョンは、コアの破壊は禁止である。


 特殊ダンジョンでのドロップは、100%ではない。また、ごく稀に複数ドロップすることもある。これは特殊ダンジョンの、特徴の一つである。


 各ダンジョンには受付があり、入る時に入場証が必要である。入場証は各ダンジョンにある出張冒険者ギルドで、講習修了証を提示することで買うことが出来る。講習修了証は、この講習が終わると発行される。


 入場証は自分以外に、もう一人一緒に入れる。ダンジョン講習修了証が無い人でも、入場証を持つ者が責任を持つなら入ることが出来る。これは、荷物持ちに人を雇う人が多いので出来たルールだ。


 入場証の購入は、日数やダンジョン内で野営をするかによって価格が変わる。ダンジョン内の階段周り半径50メートルが、セーフゾーンである。


 野営可能な入場証を持たずに野営をした場合は、罰金が発生し180日間の入場禁止になる。野営をしていなくても、戻りが遅くなると同じ罰になる。


 出張冒険者ギルドには掲示板もあり、ダンジョン関連の依頼が掲示されている。基本的に常設依頼が殆どだが、通常依頼も多少ある。この通常依頼は普段の依頼とは違い、依頼書を剥がして事前受付する必要はない。


 納品する時に、剥がして持って行くことになる。なので、ダンジョンから戻って来たら他の人に依頼が完了されていたり、入る時には無かった依頼が増えていたりする。


 特殊ダンジョン以外の、カルノーサ管轄ダンジョンにも受付がある。特殊ダンジョン指定されていなければ、コアを破壊し制覇して構わない。


 ダンジョンには、転送部屋と呼ばれる特殊な部屋がある。しかし、全てのダンジョンにあるものではない。


 主に階段などの、フロアを移動する場所の近くにあることが多い。この部屋には魔道具が設置してあり、そこにアイテムを使用すると別のフロアに移動することが出来る。


 アイテムはダンジョンで獲得出来るもので、形状は様々である。一回使いきりのもの、数回使えるもの、ずっと使えるもの、決まった場所にしか行けないものなど、ダンジョンによって数パターン存在する。


「以上が、ダンジョン講習になります。何か質問は、ありますか?」


「ダンジョン内で、時間ってわかるんですか? たまたま戻るのが遅くなって、罰金になっちゃいそうなんですが……」


「カルノーサにある特殊ダンジョンは、全てフィールドタイプなので空があります」


「空?」


「はい。空といっても、ダンジョンが作り出した空なので本物ではありません。ですが、本物の空とリンクしていて、時間経過で暗くなります」


「なるほど……。じゃあダンジョンの中なのに、外のような作りだと?」


「そういうことになります。野営不可の入場証の方々は、夕方になるとダンジョンを出ます。完全に暗くなると、罰の対象になりますので」


 俺達が入ったことがあるのは、サマシ苔ダンジョンだけだ。あのダンジョンは洞窟タイプだったので、フィールドタイプは初めて入ることになる。


 空があるなら、自分達で判断して狩りの止め時もわかりやすそうだ。


 ちなみにフィールドタイプのダンジョンも、あるあるの一つである。めちゃくちゃ広いなんてこともあるので、確認してみる。


「野営が出来るってことは、階層は結構広いんですか? それとも、次の階層に行くのが大変とか?」


「いえ、階層によって多少の違いはありますが、そこまで広くは無いです。階段を下りるタイプなのですが、下りるとすぐ近くに下の階層への階段があります。なので移動も、それほど時間はかかりません」


「ん? では、何で野営を?」


「野営は別の目的があります。夜限定で、レアドロップがあるのです」


「レアドロップですか!?」


「はい。特別な食材が出ます」


「なんとっ! ヤマトさん! 絶対に野営は必要なのです! ……レアレア」


「そうだね。野営可能な入場証を買わないとね」


 レアが出ると聞いた瞬間に、野営をすることが確定した。


「転送部屋って、ダンジョンが作ったものなんですか?」


「そうです。転送部屋はセーフゾーンと同じく、ダンジョンが作り出した便利な機能です。ダンジョンの栄養になる人間を集めるための、言わば餌です。餌だとわかっていても、死ななければダンジョンの栄養にはなりません。なので、存分に活用して下さい」


 異世界知識的に転送部屋は、地球のエレベーターのような機能だろう。深い階層に行くのには、かなり便利だ。


 他にもダンジョンの情報を、色々と教えてもらった。ダンジョン講習を終了し、ギルマス部屋に戻った。


「終わったか。お疲れ。二人のギルドカードを返す。裏面を見てみろ」


 ギルマスからギルドカードを受け取り、裏面を確認した。


ダンジョン講習修了証(カルノーサ)


カルノーサダンジョン入場証(プラチナ)


「あれ? これって、もう入場証が発行されてます?」


「ああ、凄いものを見せてもらった礼だ」


「良いんですか!?」


「二人には、カルノーサでも活躍してもらいたいからな」


「ありがとうございます! ちなみに、プラチナって何ですか?」


 ロダンさんが、説明してくれた。


「プラチナとは、最上位のランクです。何日でも入場出来て、野営も可能なランクです。なのでお二人は、この先カルノーサで入場証を買う必要はありません」


「「えーーーっ!」」


 プラチナとは、永久無料でカルノーサのダンジョンに入れるものだった。キングとコライオンを狩ったことで、こんなことまで起きるとはラッキーでしかない。これも、幸運スキルSランク様のお力だろう。


 これで、冒険者ギルドでの予定は終了だ。二人にお礼をして、冒険者ギルドを後にした。

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