第55話 ここだよなあ……
何事もなく移動して、今日は40日前だ。寄り道をせずに歩いていたら、到着予定の日だ。もちろん到着出来ずに、野営の時間を迎えたのだった。
「やっぱり15日じゃ、着かなかったね」
「想定内なのです」
「だね。色々寄り道したもんなあ。まあ、そこまで急がなくても
「はいです。ダンジョンは逃げないのです! ……ジュルリ」
ユキのことを知らない人が聞いたら、ダンジョンに対してジュルリ発言は、超危険人物である……。
野営の準備を進めていたら、隣に馬車が止まった。
「すいません。隣で野営良いですか?」
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
乗り合い馬車のようだ。夕食後に乗客と少し話したら、カルノーサから出発して2日目だという。ということは、歩きだと3日かからないくらいだと思う。乗客達との話を終えて、テントに戻った。
「もう少しで、カルノーサに着けるみたいだね」
「楽しみなのです」
「じゃあ明日からは、寄り道しないで歩こうか」
「りょーかいなのです」
明日からの移動に備えて、眠りについた。
◇◇◇◇◇
あれから移動を続けて、今日は37日前の昼休憩中だ。野営の時の乗り合い馬車の客に、話を聞いた3日後である。
「あと数時間歩けば、到着出来るかな?」
「遅くても夕方前には、着ける感じだと思うです」
「寄り道しないで来たし、そのくらい迄には着きたいよね」
昼休憩を終えて、歩くこと数時間。するとマップに、水の表示が現れた。
「ん? マップに水が出た。……川? じゃなくて湖かな?」
「ヤマトさん! 遠くに町の壁が見えてきたです!」
「マジで!? ……おお! 見えたあ」
周りに木が茂ってる道を抜けると、見晴らしが良い場所に出た。大きな建物などが無いので、肉眼でも遠くの町を確認することが出来た。予定通り夕方前に、到着することが出来そうだ。
「あ! さっきのは湖じゃなくて海だ! 潮の香りがする!」
「なんとっ! 海があるなら、お魚が沢山食べられるのでし! あ、噛んだです……ハズイ」
俺は新しい町に、ユキは新しい食材にウキウキしながら歩き、ついにカルノーサの町の門に到着した。
「うわあ、結構並んでる人が多いね」
「やっぱり、イベリスより大きな町だからだと思うです」
「俺達は、左に並んで良いんだよね?」
「はいです。ギルドカードがある人と、住民は左でオッケーなのです」
初めてイベリスに着いた時に、ユキに教わったことだ。カルノーサは大きな町なので、左右どちらも長めの列が出来ていた。
列は長めだったが、左の列はカードの確認のみなので進みは早い。それほど待たずに、町に入ることが出来た。
「よーし、着いた! あれから盗賊も来なかったし、良かった良かった」
「無事に着いて、一安心なのです。なので、待ってろダンジョンなのです! ……ジュルリ」
「……今日は行かないけどね。まずは宿だよ」
「ガーンなのです。でも宿は大事なのです!」
町に入る時に、守衛に聞いておいた。カルノーサは東西南北の4ヶ所に門があり、各門の近くに宿は集まっているとのことだった。俺達が入ったのは東門だ。まずは近くの宿を、探してみる。
「そうだ。イベリス出発の時にオリガさんが、カルノーサにも良い宿があるって言ってたよね?」
「言ってたですけど、名前はわからないのです」
「行けばわかるって言ってたっけ? とりあえず探すか」
「はいです」
◇◇◇◇◇
「ここだよなあ……」
「ヤマトさん! 絶対ここなのです!」
その宿は、すぐに見つかった。オリガさんが言っていた宿と思われる建物の前で、テンションが正反対の二人がいる。
何故なら、その宿の名前は『
「また狐だよ……。俺は狐に憑かれてるのか!? ……いや、狐を連れてるのか……ブツブツ」
「ヤマトさん? 何をブツブツ言ってるのです? 早く入りましょうです。部屋が空いて無かったら、別の宿を探さないとなのです」
「お、おう」
とりあえず、入ってみることにした。
「いらっしゃい。食事かい? 泊まりかい?」
「「えーっ!? オリガさん!」」
そこには、オリガさんがいたのだ。
「でも、なんで……」
「オリガさんがワープしたです……マジカ」
「あら、あんた達もしかして、ヤマトとユキかい?」
「はい……?」
「姉さんから手紙で聞いてるよ」
「「姉さん!?」」
「あたしは双子の妹のオルガだよ。この宿の女将さ」
「「えーーーっ!?」」
「姉さん、あたしのこと言ってなかったんだね。それは驚くね。あははっ」
なんとカルノーサの宿、白狐の女王亭には、オリガさんの双子の妹のオルガさんが居たのだ。オリガさんは俺達を驚かそうとして、宿のことを詳しく教えてくれなかったのだろう……。
オリガさんは手紙で、宿に面白い二人組の冒険者が来たと、俺達の名前と特徴をオルガさんに教えていたようだ。冒険者なので、カルノーサに行くこともあるだろう。もし宿に泊まりに来たら、宜しく頼むと書いていたそうだ。
「二人とも、よく来てくれたね。泊まりで良いのかい?」
「はいです! 絶対この宿が良いのです!」
「それは、嬉しいねえ」
オルガさんに、料金を説明してもらった。一人部屋が一泊、銅貨4枚。二人部屋は一泊、銅貨7枚。食事は一食、銅貨1枚。泊まり客は鉄貨7枚。
食事は二種類からの選択で、食べた時に払う。食べない連絡はいらない。可愛い子狐亭と同じシステムだった。
オルガさんに二人部屋を二泊でお願いし、銀貨1枚銅貨4枚を支払った。二階の部屋に案内されて、夕食まで少し休むことにした。
「ヤマトさん。どうして二泊だけ払ったです? 暫くカルノーサに、居る予定なのです」
「それはね……」
ユキに理由を説明した。今日は37日前で、ここから王都までは順調にいって10日かかる。しかし、数日遅れることが予想されるので、12日前に出発予定とする。なので、カルノーサ滞在は最大で25日間になる。
明日はカルノーサの町やダンジョンのことを調べて、準備に充てようと思う。明後日からは、ダンジョンに入る予定だ。
まだダンジョンのことを調べていないので、毎回宿に戻る方が良いのか、ダンジョンに潜ったままの方が良いのかわからないので、とりあえず二泊分だけ払ったのだ。
「なるほどなのです」
「という訳で、明日は情報収集と町を見て回ろう!」
「おーなのです!」
明日の予定も決まり、少し休んでから一階に食事に向かった。
◇◇◇◇◇
「あら、来たね。ここに座っておくれ」
「はいです」
「ありがとうございます」
オルガさんに、カウンター席に案内された。
「いつもはAとBを選んでもらうんだけど……イベリスでも同じだったろ?」
「はい。同じでした」
「今日は食べてもらいたい料理があるんだけど、それでも構わないかい?」
「ん? はい、大丈夫です。ユキも良い?」
「もーまん……じゃなくて、大丈夫なのです」
「ありがとうね。すぐ用意するからね」
そう言うとオルガさんは、厨房に声をかけた。少しすると人族の男性が、料理を運んで来てくれた。
「お待たせしました。どうぞ」
「おお、これは!」
「ショウガン焼きなのです!」
「レナードさんからレシピが届きまして、ウチでもメニューにしました。考案者のヤマトさん達に食べてもらいたくて、今日はワガママを言いました。すみません」
レナードさんはショウガン焼きのレシピを、親族が経営する宿屋にも伝えていたようだ。
「「いただきます」です」
パクっ
「うん。美味しいです! レナードさんと同じ味です!」
「美味しいのですう……ウマウマ」
「良かったです! あっ、僕はオルガの夫のニードです。宜しく」
ニードさんは、どちらかというと物静かなタイプのようだ。厨房に戻って行き、オルガさんが来て食事をしながら話をした。
ニードさんは元々イベリスで、レナードさんと一緒の食堂で働いていた。レナードさんは冒険者を辞めて、食堂で働いていたようだ。
レナードさんがオリガさんと結婚して独立し、ニードさんもオルガさんと結婚してカルノーサに移住したのだそうだ。
四人は仲の良い親族のようだ。オルガさんと色々な話が出来て、楽しい食事だった。この宿の食事も人気なようで、頻繁にお客さんが来ていた。
食事を終えて料金を支払い、部屋に戻ろうとしたら、声をかけられた。とても懐かしく感じる声だった。
「おう、
「え? ……あっ!」
「応援団先輩なのです!」
「久しぶりだな」
そこには、応援団先輩達三人の姿があった。
「みなさん、お久しぶりです! カルノーサに居たんですね」
「ヤマトくんとユキちゃんも、イベリスを出たのね」
「はいです。ダンジョンが待っているのです! ……ジュルリ」
「ジュルリって……ああ、食材狙いか」
「そうです。もう、ユキのジュルリが止まらなくて」
「やっぱり、お前らは面白いな」
先輩達も食事が終わったところだったので、少し話をすることにした。先輩達は、他の宿に泊まっているようだ。オルガさんに許可を得て、俺達の部屋に移動した。
先輩達はイベリスでの町中の依頼が減ってきたので、カルノーサに移動したという。乗り合い馬車で来たようだ。冒険者なら護衛として移動すれば、稼ぎにもなり一石二鳥なのだが、先輩達は魔物が苦手なので無理なのだ。普通に客として乗ったそうだ。
カルノーサはダンジョン狙いの冒険者が殆どなので、町中の依頼は選び放題だという。
カルノーサでの依頼のことや、ダンジョンのこと、町のことなど、色々教えてもらった。
明日色々調べようと思っていたことの大半が、先輩達の情報でクリア出来た。お陰で明日は、時間を上手く使えそうだ。
イベリスを出る前にお礼をしようと先輩達を探したが、居なかったので探していたことを伝えると「やっぱり、変わってんな」と言われてしまった。
イベリスでのことと、今日のこともお礼を言い、渡したかったポテチを渡すことが出来た。一応、イベリスの教会の屋台の宣伝もしておいた。
三人はポテチを味見して美味しかったらしく、手が止まらなかった。殆ど無くなってしまって悲しい顔をしていたので、おかわりを渡して久しぶりの集まりは、お開きになった。
先輩達の情報をもとに、ユキと明日の予定を話し合った。ある程度の予定を決めて、今日は休むことにした。
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