第57話 俺にはアレがある!

 冒険者ギルドでの予定を終えて、次の行動を考える。


「無事に、講習は終わったね。てか、今すぐにでもダンジョンに入れちゃうんだよな……」


「入場証まで手に入ったです。しかもプラチナなのです……ビビッタ」


 ダンジョンに入れる状態になったが、今日一日は情報収集や町を見ることに充てようと思う。


「でも今日は、とりあえず町を見て回ろうか」


「はいです。ダンジョンは、明日からって決めていたのです」


 早くダンジョンに行きたいユキも、納得しているのようで良かった。


 まずは、定番の市場からだ。やはり特殊ダンジョンがある町なので、並ぶ食材はダンジョン産ばかりである。ある程度ドロップ品の見当もつくので、色々と見て回り少しだけ買い物もした。


 次にお店を何軒か回り、どの辺りで買い出しするのかを確認出来た。気になる店に全て寄ると、あっという間に時間が無くなるので、ここでも少しだけ買い物をして確認メインで見て回った。


 今度は何処を見ようか考えていたら、ユキが動いた。


「ヤマトさん。あそこの屋台から良い匂いがするです」


「ん? ……確かに良い匂いだね。でも昼御飯には、まだ早いよ」


「ダンジョン講習が長かったので、お腹ペコペコなのです……グウー。あたしのお小遣いで買うので、寄っても良いです?」


「良いけど、買い過ぎないようにね。この後、昼御飯もあるんだから」


「らじゃーなのです。あたしは出来る子狐なのです! ……エヘン」


 ユキには移動中も、10日で銅貨3枚を渡している。カルノーサに着くまで使うところが無かったので、お小遣いはたっぷり残っている。一気に使いきるのだけは、やめて欲しいところだ。


「いらっしゃい」


「串焼き一本下さいな、です」


「はいよ! 鉄貨3枚だよ」


 ユキはマジックポーチから、お気に入りの巾着袋を取り出して料金を支払った。


ドンッ


「いたっ。ん? 子供なのです。謝りもしないで、行っちゃったです……マッタク」


 市場や屋台は結構な人で賑わっているので、子供がユキにぶつかってしまったようだ。ユキは文句を言いつつ串焼きを受けとり、食べながら不思議な顔をしている。


「ユキ、どうした? 思ってた味と違ったの?」


「いえ、美味しいのです。でも、何か違和感があるです……あっー!」


「うわっ、何!?」


「あれ? どこ? ……ヤマトさん、巾着袋が無いのです……グスン」


「え? 今、買い物したんだから、ポーチに入れたでしょ。ちゃんと見た?」


「ちゃんと見たけど……無いのです。また、お金失くしてしまったのです……。しかも、プレゼントの巾着袋なのです……。ごめんなさいです……ううっ」


「わ、わかったから! とりあえず落ち着いて。泣かないでよー」


「ううっ、ううっ……」


 このままでは、ユキが号泣してしまいそうだ……。今買い物したから、旅の途中で失くした訳ではない。足元や屋台も確認したが、見つからない。


「どうする……そうか! 俺にはアレがある!」


「ううっ、アレって何です?」


 俺はステータスパネルを開き、検索に『ユキの巾着袋』と入力した。


「よし、出たぞ! 移動してる。ユキ行こう!」


「ううっ、何処に行くです?」


 ユキの手を引き、マップに表示された印に向かう。道中ユキに、検索のことを説明した。


◇◇◇◇◇


「ここだ。しかし、この建物は……」


「ボロボロなのです……アブナイ」


 マップスキルの検索で追ってきたユキの巾着袋の印は、所謂スラムと呼ばれる町の中でも廃れた場所だった。その中の一つの建物に、ユキの巾着袋はあるようだ。ドアを開け、二人で中に入る。


「ん!? 誰だ!」


「あっ! あたしの巾着袋なのです! ……カエシテ」


「あれ? さっき屋台で、ユキにぶつかった子じゃない?」


「あっ! そうなのです!」


 巾着袋は、さっきぶつかった子が持っていたようだ。この子はユキと同じ、狐獣人族の男の子のようだ。


(これは拾った訳じゃなく、スリにあった感じだよなあ。どうしようかな……)


「拾ってくれて、ありがとうなのです!」


「「え?」」


 俺と男の子の声がハモった……。ユキはスリにあったことが、わかっていないのだろうか。それとも、急に始まる女神モードだろうか。


「それは、あたしの大切な巾着袋なのです。失くして困っていたのです。本当に、ありがとうなのです!」


 ユキが男の子に近づくと、男の子は素直に巾着袋を渡した。するとユキは、巾着袋から銅貨を1枚取り出して男の子に差し出した。


「これは拾ってくれた、お礼なのです」


「え?」


 男の子は戸惑いながら、銅貨を受け取った。


「ユキ。もう落とさないように、ポーチにしまうんだよ」


「はいです」


「ちょっと、この子と話をするから、外で待っててくれる?」


「ヤマトさん……」


「大丈夫だから」


「……はいです」


 ユキは渋々、建物の外に出た。ユキの反応を見るに、スリにあったことはわかっているようだ。その上で、拾ってくれたと言ったのだろう。この子のために……。


「俺は冒険者のヤマト。相棒はユキだよ。君の名前は?」


「……ガブ」


「ガブ。君が何をしたのか、俺もユキもわかってる」


「……うん」


「でもユキは、拾ってくれてありがとうだってさ。何故こんなことをしたのか、話してくれる?」


「うん。ちゃんと話すよ……」


 ガブは、何故スリをしたのかを話してくれた。


 ガブはダンジョンの荷物持ちで収入を得て、スラムで生活していた。ある日ダンジョンを出るのが遅くなり、180日の入場禁止になってしまう。


 ガブ自身は、講習修了証も入場証も持っていない。それでも、入場禁止と罰金は発生する。責任は雇い主にあるので、罰金は払ってもらえた。


 ダンジョンに入れなくなり、収入が無くなってしまった。少しだけ貯めていたお金も底をつき、今回初めてスリをしたという。


「そっか……。でも、初めてで良かった。俺達が何も言わなければ、守衛に引き渡さなくても大丈夫だ」


「……ありがとう」


「ガブの両親は?」


「どっちも居ない」


「……そっか。じゃあ、孤児院とか頼らなかったの?」


「それは……」


 どうやら、ガブの生い立ちが関係しているという。


 ガブは今11歳。スラムに来て一年ほどだという。以前は父親と二人で、きちんとした家に暮らしていた。物心ついた時から、母親は居なかった。


 父親は仕事を休みがちで、ガブはダンジョンの荷物持ちの仕事をしながら、何とか生活していた。ある日、家に帰ると父親が居なくなっていた。


 荷物持ちの収入では足りなくて、家にあるものを売って生活していた。しかし、それも続かず家賃が払えなくなり、スラムに流れてきた。


 父親のことを、周りの人の噂で聞いた。ガブをおいて、女性とカルノーサを出たとわかった。ガブは大人を信用することが、出来なくなったようだ。


「だから、孤児院の大人も信用出来ない。ルーシィも同じ意見だから」


「ん? ルーシィって?」


「一緒に暮らしてる女の子だよ」


「え!? 二人だったの?」


「違う。三人だよ」


「……マジで」


 ガブは三人で、スラムで暮らしているようだ。この建物ではなく、もう少しマシな建物で暮らしているという。


 ここへは、巾着袋を隠そうと思って来たそうだ。一緒に暮らしている二人にも、スリのことは内緒にしたかったからだ。


「もうわかってるだろうけど、スリはダメだよ」


「うん。わかってる。もう絶対しない……。ごめんなさい」


「俺とユキは15歳に成り立てだけど、一応成人してるし大人でしょ? でもガブを、守衛に引き渡さない。お父さんに裏切られた気持ちが、大人を信用出来ない原因なんだよね。でも、俺達みたいな大人も居るんだよ。だから、少しは大人を信用出来ないかな?」


「俺が悪いことしたのに、ユキさんは真逆の扱いをしてくれた……。俺のためだよね?」


「そうだね。ガブを、犯罪者にしたくなかったんだと思うよ。ちなみにだけど、ガブはユキと同じ狐獣人族だよね。でもユキは、ガブが他の獣人族でも人族でも、助けたと思うよ。ユキは優しいからね」


「……ううっ」


 ガブも大人に対して、少しは心を開いてくれたと思う。ユキの女神モードが、この子を救ったのだ。


「……ちゃんと、ユキさんに謝りたい。助けてくれた、お礼も言いたい」


「わかった。ユキ! 聞いてるんでしょ?」


 マップを見ながらガブと話していたのだが、ユキはドアにピッタリくっついていた。話しも全部聞いていただろう。ゆっくりドアが開いた。


「……はいです」


「ユキさん! ごめんなさい。助けてくれて、ありがとう。俺、もう絶対しないから……ううっ」


「わかったのです。信用出来る大人も、ちゃんと居るのです」


「うん。……あ! これ返します」


 ガブは、ユキに貰った銅貨を差し出した。


「……一度あげたものなのです。いいのです」


「でも……」


「ユキ。返してもらったら? ガブも気にしちゃうからさ」


「……わかったです」


 ユキは銅貨を受け取り、巾着袋にしまった。


「ガブ、大人がみんな良い人とは限らないけど、中には信用出来る大人も居るからね」


「うん。でも、ルーシィが……」


 今度は、ガブと一緒に暮らしてる子供達に会いに行くことにした。ルーシィも大人を信用出来ないようなので、ゆっくり話す必要がありそうだ。


 さっきの建物より、若干マシな建物の前に来た。ドアを開け、中に入る。


「ここだよ。ルーシィお客さんだよ」


「えっ!? ガブ、お客さんって……誰! その人達は、何しに来たの!?」


「オギャー、オギャー」


「あっ、リリィごめんね。大きな声を出しちゃった。よし、よし」


「「えっ!? 赤ちゃん!?」」


 ガブと暮らしていたのは、ガブより年下と思われる人族の女の子ルーシィと赤ちゃんだった。


 まずは今日のことを、隠さずに全部話すことにした。ガブも、それで良いと言ってくれた。ルーシィも、少しは大人を信用出来るようになれば良いのだが……。

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