第53話 グラマスに報告だな
とりあえず夜が明けるまで、このまま起きていることにした。ユキと今後について話そうと思う。が、説教したばかりなので、ユキが落ち着くまで少し待つことにした。
「ヤマトさん。もう落ち着いたのです。さっきは、ごめんなさいです……」
「うん。じゃあ、この後どうするか一緒に考えようか」
「はいです」
このまま、カルノーサへ向かったとしよう。狩りなどの寄り道をしたことも踏まえて、順調に移動出来たとしても9日か10日はかかるだろう。
イベリスに戻るなら6日だ。寄り道した分進んでいないので、もしかしたら5日で戻れるかもしれない。
しかしイベリスに戻ると、かなりのロスになるのでカルノーサでの滞在は短くなってしまう。
「困ったなあ。時間のロスも嫌だけど、またイベリスに戻って守衛さんに引き渡すとなると……守衛長さんとかゴルディさん達にも会うことになるし……。ちょっとハズイよね」
「……はいです。良いことをしたのに、すぐにみんなに会うのは何だかハズイのです……ビミョー」
「だったら、四人連れての移動で面倒だけど、カルノーサに向かおうか」
「賛成なのです」
「あとは、グラマスに報告しなきゃな」
「まだ夜中なので、寝てると思うのです……スヤスヤ」
「そうだね……。昼間に報告しよう」
盗賊を四人も連れて移動とは、かなり面倒だ。途中で逃げようとしたりするはずである。それを見張りながらとは、ここからの数日は最悪な旅になるだろう……。
◇◇◇◇◇
夜が明けて食事を済ませて、出発の準備をする。今日は49日前だ。荷物をバッグにしまっていた時に、思い出したことがある。
「そうだ! これを使おう」
「ん? 何を使うです?」
俺はバッグから、荷車を取り出した。
今更ながら、バッグよりも大きなものを出し入れしてる様が、某アニメキャラのようだ。特に、しゃべり方には注意が必要である。俺にしかわからないことだが……。
「おお! これなら四人を歩かせるより、見張るのが楽だと思うです……ナイス」
「しっかり縛って、荷物のように運んでやる! これなら、逃げる隙も無いだろう……ガッハハハ」
「……ヤマトさんが、悪者みたいな笑い方なのです。怒らせてはいけないのです……ブルブル」
逃げ出さないように手足をしっかり縛り、四人を荷車に乗せた。刃物などの逃げることに使えそうなものは、回収しておいた。
俺が荷車を引き、ユキは後ろから荷車を押しながら、盗賊達を見張る。この状態で1時間ほど歩き、休憩することにした。
「ふう、逃げる隙が無い良い作戦だと思ったけど、四人運ぶのは流石に疲れるね……」
「次は、あたしが引くです?」
「うーん……ユキが見張ってる方が安心だから、俺が引くよ」
「りょーかいなのです。じゃあ、休憩回数を増やすのです」
「そうだね。その作戦でいこう」
水分補給などを済ませて出発した。何度も休憩を挟みながら数時間荷車を引き、少し早めの昼休憩をすることにした。
昼食の準備をしていると、目の前に馬車が停まった。
「ヤマトさん! ユキさん! お久しぶりです!」
馬車には、知り合いの猫獣人の姿があった。
「あっ! ジャバさん! お久しぶりです」
「おひさなのです」
「……それ、何ですか?」
「ああ、これは……」
ジャバさんに状況を説明した。オークション関係のことは、話していない。
「それは、大変でしたね……。じゃあ、私がイベリスに連れて行きましょうか?」
「え!? そんなこと頼んでも良いんですか? まだイベリスまでは、結構ありますよ」
「馬車だと3、4日ですし護衛も居ますから、問題ないですよ。報酬を弾めば、しっかり見張ってくれますから」
ジャバさんは仕入れの帰りで、護衛の冒険者も連れていた。これは、かなり嬉しい申し出だ。
「お願いしようかな」
「お任せ下さい」
「じゃあ、少し早いけど昼ご飯の準備中だったんで、一緒に食べません? 少しだけ時間もらえれば、料理作りますよ」
「良いんですか!? しかも料理って……」
「はい。温かい料理ですよ」
「本当ですか!?」
普通は町などに寄らない限り、パンや干し肉で食事を済ますものだ。そこに料理での食事の誘いとは、嬉しいものだろう。
ジャバさん達は、護衛の冒険者を含めて四人だ。全部で六人分の料理を作ろう。盗賊達の見張りをジャバさん達に頼んで、いつも通りテントを出して、通りから隠れながら料理を始めた。
ジャバさんといえば、ミーソを買うきっかけになった人だ。ここはミーソを使った料理、野菜たっぷりオーク肉のミーソ炒めを振る舞おうと思う。
前回はミーソを少し焦がしてしまったので、そこに注意しながら調理を進めた。今回は焦がさずに、バッチリ出来た。これに、ミーソスープを付けて完成だ。
「みなさん、お待たせしました。出来ましたよ」
「「「ありがとうございます!」」」
護衛の冒険者は1人が見張りをして、交代で食べるようだ。
「おお! ミーソスープですか! 私に合わせてくれたんですか? ありがたい。ん? この料理にもミーソ使ってますか?」
「はい。野菜たっぷりオーク肉のミーソ炒めです。ジャバさんがミーソを売ってくれたから、出来た料理です」
「焼けたミーソの匂いが、良いですね! いただきます」
「どうぞ」
パクっ
「旨い! ヤマトさん、凄く旨いです!」
「良かったです!」
護衛の冒険者達にも好評だった。途中で見張りを交代して、全員食事を済ませた。
それから、盗賊達のことを話す。荷車を馬車に繋いで、運ぶことにした。荷車は、そのままジャバさんに預けるので、売るなり捨てるなりしてもらう。
それと盗賊の報奨金は、ジャバさんと護衛の三人で受け取って欲しいと伝えた。俺からの依頼の報酬という意味合いだ。護衛の冒険者は、報酬を貰えるなら盗賊の見張りの追加依頼も問題ないと言ってくれた。
ただ捕まえたのが俺達なので、報奨金の受け取りで後で問題になるのは困るという。
なのでジャバさんに、ゴルディさん宛の手紙を渡すことにした。盗賊の報奨金を運んでくれたみんなに支払うことを書いておくので、問題になることは無いと伝えると了承してくれた。
ここで冒険者たちは護衛に戻り、ジャバさんだけに話をした。ちゃんと手紙を書いて渡すのだが、予め冒険者ギルドにも連絡をすることを伝えた。
連絡手段については言えないと伝えたのだが、ジャバさんは「それで大丈夫です。二人を信用してますから」と言ってくれた。
ジャバさん達は出発の準備を始めて、俺はゴルディさんへの手紙を書いた。そしてもう一つ、あるものをメモに書いた。
ジャバさんに手紙を渡し、さらにポテチも渡した。ポテチはジガイモのお菓子と説明して、教会の屋台の宣伝も忘れない。
「ジャバさん、面倒な仕事を増やしてすいません」
「いえいえ、問題ないですよ。寧ろ報奨金をありがとうございます」
「あと、これをどうぞ」
先ほど書いたメモを差し出した。
「ん? これは何でしょう?」
「さっきの料理のレシピです。ミーソを使う料理なら、ヴァニラさんが作れるでしょ?」
「レシピ!? ありがとうございます! ヴァニラとお母さんにも、食べさせてあげたかったんです!」
二人も喜んでくれるだろうか?
「護衛のみなさんも、イベリスまで宜しくお願いしますね」
「任せてくれ。報酬を貰うんだ。しっかり見張って守衛に引き渡すぜ」
「ありがとうございます」
「では、私達は行きますね。ヤマトさん、ユキさん、道中気をつけて。また会いましょう!」
「はい! ジャバさんも気をつけて!」
「ジャバさん。またね、です!」
ジャバさんと護衛の冒険者達は、盗賊四人を連れて出発した。
「さてと、グラマスに報告だな」
グラマスに報告するため、テントはそのままにしておいた。早速テントに入り密会玉を起動して通信魔道具を使う。
「こちらヤマトです。グラマス、いらっしゃいますか?」
『こちらフォノーじゃ。ヤマト様からの連絡とは……何かあったかの!?』
グラマスに盗賊のことを報告した。
『なんじゃと! お二人は無事かの!?』
「無事です。品物も無事ですよ」
『品物なんぞ、どうでもいいのじゃ。お二人が無事なら問題ない』
商人ギルドのトップが品物はどうでもいいとは、なかなかの発言だ。今回のオークションの、目玉のはずなのだが……。それだけ俺達を心配してくれる、優しい人なのだろう。
『お二人に何かあれば、エルダが悲しむからのう。お二人は、エルダのお気に入りの冒険者じゃからの』
前言撤回。ただの、奥さん大好き爺さんだった……。
グラマスに、盗賊が話したこと、知り合いの商人にイベリスに連れていってもらっていることを伝えた。グラマスはアーノルドさんに連絡して、商人ギルド職員と職人ギルド職員を一応調べるようだ。もしかしたら、盗賊と繋がりがある可能性もある。
一人が盗賊のボスに連絡に戻っているようなので、オークションが狙われる可能性も出てきた。その辺りも、グラマスが対応してくれるそうだ。
それからアーノルドさん経由で、ゴルディさんに連絡と伝言を頼んだ。今回のことと、盗賊の引き渡しと報奨金のことだ。
「伝言まで頼んでしまって、すいません」
『構わんのじゃ。どのみち盗賊は、イベリスの冒険者ギルドに引き渡されるじゃろ。今のうちから情報共有しておいた方が、連携もしやすいからのう。伝言くらい、手間にもなんぞい』
「ありがとうございます。では、宜しくお願いします」
『了解じゃ。お二人も、また盗賊に狙われるかもしれんでの。道中気をつけてのう』
「わかりました。気をつけます」
グラマスとの通信を終えた。これで盗賊のことが、アーノルドさんとゴルディさんにも伝わるだろう。
「これで情報は伝わったし、あとは偉い人達にお任せしよう」
「はいです。あたし達はカルノーサに集中出来るのです……ジュルリ」
ブレないユキさんは健在だ。魔道具とテントを片付けて、出発の準備をする。
今日は盗賊のせいで、あまり進んでいない。いつもより疲れも溜まってしまったし、良いことなしだった。
それでも少しでもカルノーサに近づくために、西へ向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます