第52話 ユキ、正座!

 順調な旅が続き、5日が経った。今日は50日前である。


 ただ移動するだけも暇なので、気分転換に途中で見つけた森に入り、狩りや採取をすることもあった。


 多少到着予定日が遅れることになると思うが、まだ日程に余裕はある。折角の旅なのに、移動で疲れただけだと勿体ないと思ったのだ。


 さらに『地球ごっこ』も取り入れたのだが、これは失敗だった。周りに人が居ない時に、某ロールプレイングゲームのような動きをしてみたのだ。


 俺の真後ろをユキが歩いて、俺が直角に曲がるとユキも同じ場所を同じように直角に曲がるのだ。他の人に見られると、あまりにもアホな動きなので、一回で止めました……。


 でもユキは意外と気に入ったらしく、いつか教会の子供達と遊ぶと言っていた。町の中を謎の集団が、カクカク歩く日が来るかもしれない。


 どうして俺は、ユキに変なことばかり教えてしまうのだろう……。


 この5日間で起きたことは、旅の2日目の野営時の出来事ぐらいだった。


 何があったかというと、野営の準備をしていたら馬車が止まり、隣で野営させて欲しいと声をかけられたのだ。


 特に断る理由も無いので了承した。この馬車は乗り合い馬車で、イベリスに向かっているという。


 夕食後に馬車のお客さんから声をかけられて、少し話をした。王都と、カルノーサから来た人達だった。用事や仕事があって移動している人や、単純に旅をしている人達が乗り合わせていたようだ。


 他にも護衛の冒険者が三人居たが、依頼中なので見張りをしたり交代で寝たりしていた。


 この人達から町のことを色々聞くことが出来て、とても有意義な時間だった。俺達が旅の初心者だと話すと、旅のマナーとして誰かの近くで野営をする時は、声をかけることなどを教えてもらった。


 お客さんの中に行商人をしている人がいて、俺達の隣で野営をしたのには理由があることを教えてくれた。


 行商人は俺達のマジックテントが魔物避けの機能があるタイプだとわかったらしく、御者にここでの野営を進言したらしい。


 旅をしていたら、他人の魔物避けを利用することも普通のことなのだそうだ。もちろん隣で野営をすることを拒否されたら、離れるのがマナーだそうだ。


 たとえ魔物避けが効かなかった場合でも、人数が多い方がいざというときに助け合えるので、特に乗り合い馬車は誰かの近くで野営をすることが多いようだ。


 その2日目以外は、近くに誰かが来ることも無く、ユキと二人で気楽な野営をしていた。


 そして今日も順調な旅が出来て、何事もなく野営の時間になった。いつものように準備して、通りから見えないように料理をする。食事を終えて片付けをして、眠りについた。


◇◇◇◇◇


「すー、すー」


「すぴー、すぴー、ですう」


「すー、すー」


「すぴー、すぴー、……はっ! 曲者なのです!」


 ユキが何かを察知して起きた。しかし、俺は気がつかずに眠っていた。


◇◇◇ SIDE ユキ ◇◇◇


「ヤマ……」


 いや、起こさなくてもあたし一人で、もーまんたいなのです。ヤマトさんにはゆっくり休んでもらって、後で報告すれば良いのです。あたしは出来る子狐なのです……フフフ。


 起こさないように、テントを出るのです。



 さてと、全部で四人なのです。ゆっくりテントに近づいてくるです。もう少し近づいたら、一気に確保するです。曲者は、絶対に逃がさないのです……フンス。


 ……あ! 思い出したのです。悪者に使う決め台詞があったです。


 悪者が「きさま何者だ!」とか言うです。


 そしたらあたしは、ある時はくノ一おユキ、またある時は暗殺者セクシーユキ、しかしてその実体は……女神フェリシア様の弟子、ユキなのです! ……キマッタ。と言うです。


 ヤマトさんに教えてもらった、地球の決め台詞なのです。ついに使う時が、きたのです! 


 ……あれ? でも、ヤマトさんが起きちゃうので、今日は言っちゃダメダメなのです……ザンネン。


 おっと、そろそろなのです。ヤマトさんが起きないように、小声で言うのがポイントなのです!


獣変化けものへんげ


◇◇◇◇◇


「すー、すー、……ん? 何の音だろ? ……あれ? ユキが居ないな……。トイレかな……。えーと……一応マップ見るか……」


 何かの物音に気付き目が覚めたのだが、寝起きで頭が回らない。マップでユキを確認すると、近くに居た。トイレかと思ったのだが、ユキ以外に四人いる。ここでやっと目が覚めた。


「えっ!? 誰かいる! この動きは……戦ってる!?」


 急いでテントを出て確認する。マップを見ると、ユキと四人が同じところに固まっていた。そこから動きは無く、どうやら終わったようだ。ユキの元へ急ぐ。


「ユキ! どうした!? 何があった!?」


「あ! ヤマトさんが起きちゃったです。うるさかったです? ……メンゴ」


 ユキは人に戻り、四人をロープで縛っていた。ユキに、詳しく話を聞いた。




「という訳なのです」


「……」


「ヤマトさん? どうしたのです?」


「……ユキ、正座」


「へ?」


「ユキ、正座!」


「は、はいです!」


 ユキは俺の前に正座をした。俺は静かな口調で話しかけた。


「俺はユキより弱いし足手まといになるかもしれないけど、一応パーティーのリーダーなんだよ。ちゃんと起こして教えてよ」


「……はいです」


「ユキが簡単に負けるとは思わないけど、万が一ってことがあるかもしれない。もし怪我をしてもユキは自分で治せるけど、回復が出来ない状況になるかもしれない」


「……」


「俺を休ませてくれようとした気持ちは嬉しいよ。でも、これは違う」


「……ううっ」


「近くに居たのに助けることも出来なかったなんてことになって、最悪の事態になったりしたら、俺は悲しいし立ち直れないよ……。ユキは、大事な相棒なんだから。だから、もう二度としないで。俺は怒ってるんだからね」


「……ううっ、はいです。……ううっ、うわああん、やばどざーん、ごべんなざいでずうー。もう、じないでずうー。うわああん」


「わかったよ。もう正座しなくていいよ」


 そう言って、ユキの頭を撫でた。俺は四人の前に行き、しゃがみこんで顔を覗き込む。


「お前ら、俺の相棒を泣かせやがって!」


「は? それは、お前が説教したからだろうが」


 俺はバッグからショットガンを取り出し、近くの木を撃った。


ドンッ バキッ ドスンッ


「聞いてたろ? 俺は怒ってるんだ。お前らが来なければ、相棒が泣くこともなかったんだよ!」


「……」


「目的は何だ。話さないなら……」


 俺はショットガンを四人に向けた。


「ま、待て! 話すから落ち着け! いえ、落ち着いて下さい!」


 中途半端な睡眠での寝起きで頭が回らず、しっかり考えて話すというよりは、気持ちが言葉として出てきたという感じだろうか。


 ユキには静かな口調で淡々と話してしまって、いつもの俺では無くて怖くて泣いてしまったかもしれない……ハンセイ。


 でも、話したことに嘘は無いので、ユキにも俺の気持ちや考えが伝わっただろう。


 ユキが泣いたのはお前らのせいという、冷静に考えると理不尽な理由で脅された四人は、追加で脅しをかけることなくペラペラと話した。正直なところ、怒ったり脅したりも精神的に疲れるのだ。


 地球でも、こんな感じにキレたことは無い。転生してフルールに適応するのに、多少性格も変わったのだろうか?


 四人の話では、こいつらは盗賊だという。また盗賊かよと、げんなりした。しかも俺達が捕まえた、あの盗賊の一味らしい。


 この四人は、あのアジトが潰されたことを調べに、イベリスに来ていた。冒険者ギルドのサブマスと、冒険者パーティー複数で、アジトを潰したという情報は掴んだ。


 アジトの場所がわかったのも、リーダーが捕まって魔道具を使われたからということもわかった。


 だが、誰にどのようにしてリーダーが捕まったのかは、わからなかった。


 その後も、情報収集をしていたのだが、これといった情報を得られなかった。


(なるほど。とりあえず、俺達がアジトのリーダーを捕まえたことは、知らないんだな。じゃあ、何故狙われたんだ?)


 このまま帰っては、ボスに何をされるかわからない。必死に情報収集をしていたら、オークションが行われることが発表された。これについて調べ、お宝の情報を得ることが出来たら、それを手土産に帰ることが出来ると考えた。


 そして、ここ最近で商人ギルドへの出入りが多い俺達の情報を掴み、詳しく調べた。ギルマスに会いに来ていたこともわかった。更に職人ギルドで、レインマイマイの殻を売りに出したこともわかった。


 これらの情報で、俺達がレイニーを持っている可能性があると考えた。しかも商人ギルドのギルマスに頻繁に会いに来ていることから、オークションに関係しているものだと予想した。


 何を持っているかまでは、わからなかったので、寝込みを襲い荷物と情報を得るつもりだった。


 襲う機会をうかがっていたのだが、野営で近くに馬車がいて断念したり、日中に急に変な動きで歩いていたりして、もしかしたら尾行に気付かれているのかもと思い、かなり慎重に行動した。


 数日様子を見たが、気付かれていないようなので今日決行した。


(……変な動きって、カクカク動いてたやつだよね。まさか、盗賊抑止になっていたとは……マジカ)


 狙われた理由はわかった。しかし、ギルマスに会っていたとか、レインマイマイの殻を売りに出したとか、何故わかったんだろう。もしかしたら、ギルド職員に盗賊の仲間がいるのだろうか。


 確認してみると「仲間は居ない。俺の話術で引き出したんだ」という。それが本当なら、その話術を何か良いことに使えなかったのか……。


「話はわかった。とりあえず、お前達をどうするか考える。大人しくしてろ」


「なあ、俺達盗賊から足を洗う。だから見逃してくれ! いや、下さい。これからはで真面目に生きていきますから、お願いしますよ」


「ん? ?」


「……あ」


 ゆっくりショットガンを向けると、ペラペラ話し出した。どうやら一人は盗賊のボスのところに、俺達がオークションの関係者かもしれないという情報を持って先に戻ったらしい。


 こんな凡ミスをするこいつは、本当に話術で情報を引き出したのだろうか……。


「はあ……。じゃあ、お前らを処理しても、また盗賊に追われるのかよ……ムカツク」


 無事にカルノーサ、そして王都にたどり着けるのだろうか……。

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