第46話 ウチの子狐が、何かすいません……
「さてさて、錬金忘れも無いのを確認したし、食事も準備オーケーだし……よし、教会に行くか」
「あの子達の喜ぶところが、早く見たいのです……ワクワク」
今日のユキは珍しく、起きてからの行動が早かった。いつもなら、起こしてから食事に行くまでに結構もたつくのだが、今日はテキパキ動いていた。まあ、相変わらず起こすのは俺だったのだが……。
ちなみに起こす時のしっぽを握る力は、二割増しにしておいた。有言実行という名の、器の小さい男炸裂である……。
そのお陰でユキがテキパキ動いたのかは謎だが、朝食を終えてから午前中は忘れ物がないか、ゆっくり確認が出来たのだ。
朝食の時、宿夫婦に改めてお礼を言われた。むしろ、料理を手伝ってくれたことに感謝した。
お陰で、準備万端で教会へ行ける。
◇◇◇◇◇
教会へ向かう途中で、ふと思ったことがある。
「あっ、そうだ。マイルスさんに錬金のこと、っていうか『直す魔道具』のことは、秘密だって言っとかなきゃな」
「その方が良いと思うです」
「だよねえ。もうすぐイベリスを離れるとしても、面倒な人達にバレたくないからさ。後々、大変そうだし。でも、子供達にも秘密を守ってもらうのは難しいかな?」
「ヤマトさん。そのことは、あたしにおまかせなのです! ……フフフ」
「おっ、流石は子供達に人気の面白いお姉ちゃんだねえ。上手くいきそう?」
「もーまんたいなのです!」
ユキが、上手く説明してくれるようだ。すでに子供達からの人気もあるし、何より誤魔化し名人に頼むのが間違いないだろう。
そんな話をしつつ歩いていると、子供達の声が聞こえた。
「お姉ちゃーん! お兄ちゃーん! いらっしゃーい!」
まだ少しだけ教会まであるのだが、子供達が外に出て待ってくれていたようだ。修理も昼食も、楽しみにしてくれているのだろう。
「こんにちは。お待ちしてました。今日は宜しくお願いします」
「こんにちは。お出迎えありがとうございます。今日も、みんな元気ですね」
子供達と一緒に、外でマイルスさんも待ってくれていた。早速教会に入り、昨日会っていないボランティアの方々と、仕事に出ていた大きな子達に挨拶をした。今日は、全員集合している。
ちなみに、仕事は休みを取ったそうだ。マイルスさん直々に、みんなの職場に行って休むことを伝えたらしい。神父さんだからなのか、それともマイルスさんだからなのか、とても誠実な人だ。
みんなが集まったところで、まずはマイルスさんに、俺が魔道具で直したことやマジックバッグのことは、秘密にして欲しいとお願いした。理由は、良くない連中に知られると面倒事に巻き込まれそうなので、という感じに伝えた。
マイルスさんは了承してくれて、今日集まったみんなに伝えてくれた。ボランティアの三人と大きな子達は、すぐに了承してくれた。しかし小さい子達は、簡単にはいかない。
「なんでー」
「直してもらったこと、言いたいよー」
困った……。その時、ユキが動いた。
「みんな集まるのです。ここからはバレてはいけない、秘密のお話しなのです」
ユキが小声で話すので、子供達も小声になった。
「お姉ちゃん、秘密のお話しってなあに?」
「よく聞くのです。あたしとお兄ちゃんはーーーーー」
(ん? 小声過ぎて、よく聞こえない……。何を話してるんだろ。大丈夫かな?)
「ということなのです」
「うん。わかったー」
「秘密にするー」
何を話したのかわからないが、どうやら上手くいったようだ。ユキが戻って来たので、聞いてみる。
「ユキ、何を話してたのさ」
「シーなのです」
「「「「「「シーなのです」」」」」」
ユキは、口の前に人差し指を立てる動作をして言った。子供達も真似をする。
「秘密なのです」
「お、おう。了解」
子供達との秘密の話が、まとまったようだ。何を話したのか気になるが、秘密を守ってくれそうなので良しとしよう。
合言葉的な「シーなのです」は、みんなで決めた「話しちゃ駄目だよ」のサインなのだろう。本当は「シー」だけだと思うのだが、ユキ口調の「なのです」まで言ってる子供達が実に微笑ましい。
秘密は守られそうなので、まずは直した椅子を一脚見てもらった。昨日のオリガさんと同じく、新品と取り替えたのか? と聞かれた。直したものだと説明したら、とても驚いていた。
大きなものもあるので、場所を確認し移動して出していった。
ちなみに直したものは、椅子、テーブル、私物を入れる箱、カラーボックスのようなもの、食器類、ベッド、これらはゴブリンの木槍が錬金材料だ。
鍋、フライパン、燭台、ランプ、これらは鉄屑で錬金した。他には革や布で錬金した、袋や衣類、タオルなどがある。
変わったところでは、石臼があった。小麦を挽くのに使っていたが、壊れた部分があり使う度に苦労していたらしい。これは、ゴブリンの石斧で直すことが出来た。
昨日預かったものを、全て返し終わった。ここで、少し気になったことがある。子供達の靴や服が、結構傷んでいるのだ。昨日預かったものにも、衣類は多かった。
マイルスさんに今日は魔道具を持って来ているので、すぐ直せることを伝えて、子供達の靴や服だけはあるもの全部直したいと申し出た。
マイルスさんは、また泣きそうになるが子供達が心配するので、グッと堪えていた。やはり子供達は、元気に飛んだり跳ねたりするので、衣類の痛みは激しいらしい。早速直してきた衣類に着替えてもらい、他の衣類を持って来るように子供達に伝えた。
あとは昨日いなかった大きな子達には、衣類以外にも何かあれば直すことを伝えた。
子供達は一斉に駆け出して、すぐに着替えて戻ってきた。衣類をどんどん直して、靴も一旦脱いでもらって、すぐに直して渡した。
大きな子達も、衣類以外に色々持ってきた。仕事に使う道具などもあり、綺麗になるととても喜んでいた。木や鉄が素材だったので問題無く錬金することが出来た。
「これで直すのは終了かな。そろそろ昼になるから、食事にしましょうか」
わーい! ご飯だー ジュルリ
小さい子達が、喜びの声を上げる。ウチの子狐も、混ざっていた気がする……。
みんなで食堂に移動して、食事の準備だ。バッグから調理済みの料理を出したので、冷めた料理なのかと、みんな少しガッカリしていた。でも湯気が上がっていて、出来立てだとわかると驚いていた。
時間停止のマジックバッグだと説明すると、小さい子達は興奮気味だ。
「お兄ちゃん、かっけー」
「凄く、いい匂いがするー」
「すぐ準備するから、子供達もう少し待っててね」
はーい! わかったー はいです
(おい、子狐よ。君は大人じゃなかったのかね? 小さい子達をまとめてくれたし、まあ良いか)
バッグから料理を出して、一皿盛り付けをした。それを真似してもらう形で、ボランティアの三人に手伝ってもらった。みんなに配膳してもらい、食べようと思ったら子供達から疑問の声がでる。
「お兄ちゃん、これなあに?」
「見たこと無い、ご飯だよ」
ハンバーグもショウガン焼きも、まだ一般的ではない。料理が冷めないように、さっと説明した。
皿の左にあるのはハンバーグという料理で、フォレラビとオークの肉を使っている。かかっているソースは、トメィトを使ったケチャップというもの。付け合わせはジガイモ料理で、フライドポテトとポテチという名前。フライドポテトは、お好みでケチャップを付けて食べる。
皿の右にあるのはショウガン焼き。キャベッツの千切りを敷いて、その上にボア肉のショウガン焼きが乗っている。肉だけじゃなく、タレが染みたキャベッツもおすすめの料理だ。
みんなに説明したのはここまでだが、この他にスープとパンとサラダが付いて一人前だ。
スープは、フォレラビと色々な野菜を使ったものだ。これはレナードさんのレシピなので、みんなも食べたことがある一般的なスープだ。
最後にパンと色々な野菜を使ったサラダを添えて、ヤマトオリジナルランチの完成だ。
「お兄ちゃん、すげー」
「初めてのご飯だけど、おいしそー」
「さあ、冷めないうちに食べましょう」
いただきまーす!
パクっ
「ハンバーグ、美味しい!」
「ショウガン焼きも、うまーい」
「どっちも、美味しいよー」
みんな喜んでくれている。
「初めて食べる料理だけど、美味しいわね」
「私達でも作れるかしら?」
ボランティアさん達にも好評だった。
大きな子達もマイルスさんも、みんな笑顔がいっぱいだ。大人数での食事は、とても賑やかだ。やっぱり食事は、みんなで食べると美味しさが増す。
楽しく食事を続けていたが、何故か子供達が悲しげな顔をしている。
「美味し過ぎて、もう無くなっちゃった……」
「僕も食べちゃったよ……」
元気な子供達は、食欲旺盛だった。もう食べ終わってしまって、悲しげな顔だったようだ。
肉だけじゃなく、野菜も食べて欲しかったので、一つ一つの量は少なめにして種類を増やして一皿にした。それでも一皿に盛り付けると、しっかり一人前ある量だったのだが、みんなペロリと完食したようだ。
「みんな、ちゅうもーく!」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「おかわりあるよ」
やったー! 食べたーい! おかわりなのです
「……」
「ん? お兄ちゃん?」
「あ、うん。でも食べ過ぎは良くないから、お腹いっぱいにならないくらいのおかわりにしてね。約束出来ない子は、おかわりさせません!」
わかったー 約束するー はいです
(ウチの子狐が、何かすいません……。完全に小さい子達の仲間になってる……)
「じゃあ、おかわりの人はお皿持ってきて」
はーい!
結局大人も含めて、全員がおかわりに並んだ。こんなに喜んでもらえて、作った甲斐がある。大人と大きな子達は、自分で食べたい量をおかわりしていった。
しかし小さい子達は、食べ過ぎないようにするのに困っていた。
「うーん。ハンバーグもショウガン焼きも食べたいけど、約束があるからなあ……」
「僕も同じだよ……」
「私も……。困ったなあ……」
「フフフ、あたしに良い作戦があるのです……ニヤリ」
「お姉ちゃん、作戦ってなあに?」
「それは……ハンバーグもショウガン焼きも少しずつ、みんなで分ければ両方食べられるのです! ……キマッタ」
ユキがみんなでシェアする作戦を、大袈裟な動きで子供達に伝えた。
「すげー」
「お姉ちゃん、天才!」
「お姉ちゃん、可愛い!」
「可愛いなんて……言ったです?」
「言ったよー」
「それはそれで照れるです……キャー」
「やっぱりお姉ちゃん、おもしろーい」
あはははははっ
食いしん坊ユキお姉ちゃんの作戦は、子供達に大好評だった。みんなでシェアして、小さい子達は両方の料理を少しずつおかわりしていった。
◇◇◇◇◇
食事を終えて、みんなで片付けをした。
「ヤマトさん、ユキさん、今日は本当にありがとうございました。とても美味しかったです」
「どういたしまして。喜んでもらえて、良かったです」
マイルスさんに、お礼の言葉をもらった。その後ボランティアさん達にレシピを教えて欲しいと言われて、今日出したヤマトオリジナル料理全てのレシピを教えた。
今日の予定は終了なので、ここでユキとは別行動することにした。ユキは、子供達と遊んでから帰るようだ。
帰り際マイルスさんに、小さな革袋を渡した。中身は銀貨10枚だ。みんなのために使って欲しいと言ったら、予想通り泣いてしまった。金額がどのくらいが適切なのかがわからなかったが、寄付というのは気持ちなので問題無いだろう。
俺は教会を出て町を見て回り、宿へ向かった。
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