第45話 ユキが、さらっと言っちゃいました

「ただいまです」


「あら、おかえり。今日は早いのね」


「オリガさん。今日は教会に行ったから、これからヤマトさんが大忙しなのです!」


「ん? 教会行ったから、ヤマトが忙しい? ……そうなんだね」


 宿に帰って早々で、またユキの脈絡の無い話に混乱するオリガさん。俺がきちんと説明した。


「そういうことかい。あんた、そんな便利な魔道具持ってたんだね! あたしも頼もうかね」


「いつでも言って下さい」


「おい。20人分の仕込み、手伝うぞ」


 レナードさんからの、ありがたい申し出だった。


「え!? でもこれから、夜の仕込みがあるんじゃないですか?」


「今日は昼が割りと暇でな。もう終わった。お客さんもいないし遠慮すんな。ほら、やるぞ」


「ありがとうございます!」


 市場で新しい野菜も見つけてきたので、試したい料理があったのだ。正直に言うと、後で厨房を貸して貰おうかと考えつつ、その時レナードさんに助けてもらおうかなあと、ちょっと考えていたのだ……。本当図々しくて申し訳ないが、かなり嬉しい申し出だった。


 レナードさんと一緒に、20人分の料理の仕込みを始めた。


 ユキは予告通りに、応援してくれた……。


「ヤマトさん。子供達のためなのです! ……ガンバ」


「こういうとこも、ユキはブレないねえ」


◇◇◇◇◇


「ふう、終わったあ。レナードさん、ありがとうございました」


「このぐらい問題無いから、気にすんな。しかし、また面白いもん考えたな」


「市場でジガイモ見つけて、ピンときたんです」


 市場で見つけた新しい野菜とはジガイモ、地球のジャガイモだったのだ。これで作ったのは、フライドポテトとポテチだ。これも異世界あるあるなので、ジャガイモを見つけたら絶対作ろうと思っていたのだ。


 フライドポテトの作り方は、ジガイモの皮を剥いて切る。今回は、くし切りと細切りの2パターンにしてみた。


 切ったジガイモを、1時間ほど水に浸ける。勿論、冷蔵庫ポーチで時短した。その後タオルなどで水気をしっかり取り、小麦粉をまぶす。


 それを油で揚げる。数分揚げて一度取り出し、油の温度を上げて二度揚げする。最後に塩をかけて、外はカリッと中はホクホクの、フライドポテトの完成だ。


 ポテチの作り方は、ジガイモの皮を剥き薄切りにする。こちらは、10分程度水に浸ける。水気をしっかり取り、少し乾燥させる。そして、油で揚げて塩をかければ完成だ。


 という記憶を、前に村で聞いた料理をアレンジしたということにして、レナードさんに料理してもらった。俺みたいな素人料理人が二度揚げなんてしたら、焦がす未来しか見えなかったのだ……。


 自分達で食べるなら、多少焦げても問題なく食べるのだが、今回は子供達に美味しく食べてもらいたいので、プロの力をガッツリ借りました……メンゴ。


 俺はというと、ハンバーグとショウガン焼きの下準備を進めて、焼くまで頑張ってみた。と言いつつも、レナードさんも焼いてくれたのだが……。


 ハンバーグはフォレラビとオークを使い、ショウガン焼きはボアを使った。フォレラビは以前から出掛けた時にコツコツ狩っていた肉を使い、ボアはサマシ苔ダンジョンのドロップ品の在庫だ。オークは、エルダさんからのお裾分けを使わせてもらった。


「しかし、明日の昼食を今から焼いておくなんて何考えてんだと思ったら、時間停止のマジックバッグを持ってるとはな……。ヤマト、お前本当はどっかの貴族か何かなのか?」


「違いますよ!? これは、たまたま助けた人が貴族で貰ったんです」


 レナードさんは元冒険者なので、俺レベルの冒険者が持つマジックバッグではないと、わかっている。そのため、俺を貴族と勘違いしたようだ。


 今回は20人分の料理を予定していたのだが、レナードさんが「子供達のおかわりにも応えてやれ」との助言で、かなり多めの量を用量した。


「ユキ、おやつ食べる?」


「え!? おやつです! 食べるです!」


「レナードさんとオリガさんも、少しつまみません?」


「あら、いいのかい?」


 多めに作ったので、フライドポテトとポテチを少し食べることにした。フライドポテトには、ケチャップも用意した。


パクッ


「おお、ポテチだ。フライドポテトも完璧!」


「美味しいのですう。このおやつは、ウマウマなのですう」


「あら、これ止まんないわね。美味しいわ」


「うん、良いな。フライドポテトは、ウチでも付け合わせに使える。ヤマト、使っても良いか?」


「勿論ですよ。ハンバーグに付け合わせるのが、おすすめです」


「ハンバーグか……。もう少しで完成なんだがな」


 レナードさんは俺が教えたショウガン焼きに続いて、ハンバーグもレシピ改良中のようだ。完成が楽しみだ。


「そういえば、あんた達何で教会に行ったんだい?」


「ゆっくりイベリスを見て回ってて、たまたま教会に寄っただけですよ」


「あたし達は、もうすぐ王都に行くのでイベリスを見てるのです」


「え!? 王都……そうかい。あんた達も冒険者だからね。イベリスを出るんだね」


「……はい。まだ王都での依頼の日にちが決まってなくて、2、3日で決まる予定なので、その時にちゃんと二人にも言おうと思ってたんですけど……。ユキが、さらっと言っちゃいました。何か、すいません」


「はっ! 日にちが決まってから、ちゃんと言う約束だったのです。ヤマトさん、言ってしまって、ごめんです……ショボン」


「大丈夫だよ。二人には、元々言う予定だったんだし」


「お前らなあ。言うタイミングを、ミスったってなってるけどよ。そもそも俺達みたいな、ただの宿屋夫婦にイベリスを出る報告をする方が珍しいんだぞ。冒険者ってのは、いつの間にか町を出てる奴が殆どなんだ」


 元冒険者の言葉だし、説得力がありまくる。どうやら俺達は、変わり者の冒険者のようだ。


「そうなんですね。でも俺達はお世話になった人達には、伝えるタイプなんです」


「そうなのです! お世話になった人には言うのです!」


「わかったわかった。ちゃんと決まったら、教えてくれ」


「はいです!」


 こうして予定外のタイミングだったが、二人にイベリスを出ることを伝えられた。


「そうだ。さっき言ってた、直したいものって何ですか? まだ夜のお客さんが来るまで、少しありますよね? 直しましょう!」


「あら。本当に、いいのかい?」


「勿論です」


 するとオリガさんは、椅子を持ってきた。


「これなんだけどね。前に食堂で使ってたんだけど、ちょっとガタガタしててね」


「了解です」


 椅子をバッグに入れて、さらっと錬金して出した。材料はゴブリンの木槍だ。


「はい、どうぞ」


「は!? これ新品じゃないのかい? あんたが持ってたものと、取り替えたのかい?」


「違いますよ。さっきの椅子です」


「……たまげたね」


「折角なら、椅子とテーブル全部直しましょうか?」


「レナード。ヤマトがそう言ってくれてるけど、どうする?」


「ヤマト。直すことで、お前にマイナスになることは無いのか? 沢山直しても問題無いのか?」


 レナードさんは、俺が無理をしてると思っているのかもしれない。


「マイナスですか? まあ、直すのに材料は使ってます。でも、売れもしないし、捨てるのにもお金がかかるので、いつも直す時の材料にしてます。なので、俺にとってマイナスなことは何もありません。あっ! 出来れば俺が直したことは、秘密にして欲しいくらいですかね。知らない人からの修理依頼とか困るので」


「そうか。なら、安心して頼めるな。勿論、お前達が直したことは言わない。お願いできるか?」


「勿論です。ユキ、テーブルと椅子運んで」


「かしこまりーです」


 食堂のテーブルと椅子を、どんどんバッグに入れていく。錬金にセットすると、同じデザインのテーブルや椅子は、まとめて錬金出来ることが判明した。


 以前、回復ポーションの錬金で複数作成というコマンドがあったのを思い出し、試しにまとめてみたら出来たのだ。俺は、まだまだ錬金袋Sランクを、使いこなせていないようだ。


 まとめて錬金が出来るのならばと、この食堂は木製の食器類を使っているので、それも直すことを提案して了承してもらえた。


 今度はレナードさんに、鉄製の鍋やフライパン、包丁なども直すことを提案した。ただし完全に新品になるので、使いこんだものが良いのなら、おすすめしないということは言っておいた。


 レナードさんは幾つかは残しておいて、傷みが大きめな道具を直すことにした。


「よーし。だいたい直せましたかね?」


「「……」」


 何故か二人は無言だ。


「あれ? 二人とも大丈夫ですか?」


「ああ、すまん。大丈夫だ」


「レナード。食堂を始めた頃のようね」


「ああ、そうだな。ヤマト、ユキ、ありがとう」


「二人とも、ありがとう」


「いえいえ。恩返しが出来て良かったです」


「お世話になった人には、お返しするのです。この結果は、二人があたし達に優しくしてくれたからなのです。これからも、色んな人に優しくして欲しいのです」


 急に始まる、ユキの女神モードだ。


「あら、あんたはいつも子供っぽいのに、今日は随分と大人っぽいこと言うんだね」


「そんな、可愛いなんて照れるですう……エヘヘ」


「あら、いつもと一緒だったね……」


あはははっ


 最後に結局笑いになるのが、ユキなのだ。みんなで笑いあって、少しすると夜のお客さんが入ってきた。


「いらっしゃい」


「あれ!? 女将さん、テーブルと椅子、買い換えしたんかい?」


「違うよ。綺麗に磨いたのさ。新品みたいだろ?」


「へえー。凄いもんだなあ。益々この食堂が好きになるよ」


「そりゃ、ありがたいね。今日は、どっちにする?」


 お客さんにも好評のようだ。オリガさんは接客中なので、レナードさんに少し部屋で休んでから夕食を食べに来ることを伝えて、部屋に戻った。


 部屋では、コツコツと教会で頼まれたものを錬金していった。途中で夕食を食べに一階へ行くと、オリガさんが「お客さんが、みんなビックリしてるし、喜んでくれてるよ」とコッソリ教えてくれた。


 食事を終えて部屋に戻り、残りの錬金を終わらせた。ちなみにユキは俺の錬金を応援していたのだが、途中で寝てしまった。


「すぴー、すぴー、ファイト、ですう」


「教会のみんなが、喜んでくれると良いなあ」


「すぴー、すぴー、きっと、喜ぶ、ですう」


「本当に寝てるんだよね? ……俺も寝よう」


 明日に備えて眠りについた。

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