第44話 俺が直しましょうか?

 午後からも、イベリスの町を探検だ。


 普段通らない住宅街や、ちょっとした広場など、色々見ながら歩いた。すると、ユキが何かを見つけた。


「ヤマトさん。あの建物の中に、石像があるです」


「ん? ああ、あそこは教会みたいだね」


 ユキが見つけたのは、教会のようだ。ドアが解放してあり、建物の中に祭られた石像が外からも見えていた。


「教会ということは、あの石像はフェリシア様なのです。ここから見てもわかるです。……全然似てないのです! ちょっと、文句を言ってくるです! ……マッタク」


「ちょっと、ユキ!? 待て待て! 文句って、何をどう説明すんのさ」


「どうって、そのままなのです。あたしの知ってるフェリシア様は、もっと美人なのです」


「何で美人だって知ってるの? って言われちゃうよ」


「それは、100年以上弟子をしてるのです。知ってて当たり前なのです」


 ユキは真顔で言っている。ミスに気づいてもらうために、ここは『探偵ヤマト』の出番だ。芝居がかった喋りと動きが特徴だ。


「……ユキくん。君は致命的なミスをしている」


「くん? ……あ! 探偵なのです。でも、何がミスなのです?」


「もし教会で今のやり取りをしたら、君はまたイヤーカフ事件の二の舞になる」


「イヤーカフ事件です? ……あっ!」


「そう! 気づいたようだね! 誰もフェリシア様の顔は、知らないんだよ。それを美人だとか、100年以上弟子をしてるなんて言ったら、さてどうなる?」


「うっ、残念な子狐なのです……ガーン」


「そういうことさ」


 危うく、またユキがへこむところだった。今、さらっと100年以上弟子をしてるって……。弟子としては、これが長いのか短いのかが、全くわからないのだが……。


「こんにちは。話し声が聞こえたので、お声をかけさせてもらいました。良かったら、お祈りしていかれませんか?」


「こ、こんにちは。あのー」


「ああ、突然すいません。私は、この教会の神父をしています」


 教会の前で話していたので、神父さんが声をかけてくれたようだ。年配の人族の男性だ。折角なので、教会の中を見学させてもらうことにした。


 お世辞にも立派とは言えない建物だが、掃除は行き届き悪い印象はなかった。


「こちらが、女神フェリシア様です」


 神父さんが、石像を紹介してくれた。ユキは微妙な顔をしている。神父さんの前で、そんな顔をしないで欲しい……。


「俺は田舎の村から出てきたので、ちゃんとした教会を見るのは初めてなんです。フェリシア様の像も初めてです」


「そうでしたか」


 すると小さな女の子が、神父さんのところに駆け寄ってきた。


「お父さん。また椅子が壊れちゃったの」


「わかったよ。後で直すよ。怪我した子はいないかい?」


「大丈夫だよ」


 そう言うと、子供は戻って行った。


「お父さん? 失礼ですがお孫さんじゃなく、お子さんですか?」


「はい。孤児院の子です。血の繋がりはありませんが、みんな私の子供です」


(孤児院かあ。やっぱり魔物がいたり、地球と比べると文明も発展してないし、病気とかで親が亡くなるケースも多いのかもな……。孤児院も異世界のあるあるだよな。ならば!)


「あのー、もし良ければ、俺が直しましょうか?」


「よろしいのですか? 正直に言うと、私には結構な重労働なのです」


「他にも、鉄製、革製のものなんかも、直せると思います」


「本当ですか!? 助かります。あなたは職人さんでしたか」


「いえ、言ってませんでしたね。冒険者をしています。ヤマトです」


「あたしも冒険者のユキなのです」


「すいません。てっきり職人さんかと。私は神父のマイルスです」


 その後、直し方を誤魔化しながら説明した。秘密の魔道具で直すので、直すものを1日預かりたい。なので、今日無くても問題無いもの、持ち運べるもの、素材が木、鉄、革、布、石であること。この条件で良いなら、幾つでも無償で直すと伝えた。


 マイルスさんは子供達を呼んだ。人族と獣人族の子供達だった。俺の言った条件を伝えると子供達は一斉に駆け出し、次々と俺の前に直したいものを運んできた。中には『よく運べたな!?』と思ったものもあり、子供達のパワフルさに驚いた。


 パワフルさというよりは、直したいものが多くて必死だったのかもしれない。集められたものは、何度も修理された跡があり、大事に使っているようだ。簡単には買い換えなど出来ないのが、わかっているのだろう。


 マイルスさんに教会のことを聞くと、やはり生活は厳しいらしい。教会本部からのお金と、寄付金で遣り繰りしているようだ。


 食材なども市場からの寄付も含めて、何とかしている。ちなみに料理は、元々はマイルスさんがしていたようだが、高齢になりボランティアの方が手伝ってくれているという。


「……すいません。かなりの量になってしまいました」


「問題無いですよ」


「子供達にも運ばせましょう」


「大丈夫ですよ。マジックバッグがあるので」


 集められたものを、どんどんバッグに詰め込んだ。


「すげー」


「何で、そんなに入るの?」


「重たくないの?」


「そんなに入れて、椅子壊れない?」


 子供達は、マジックバッグに興味津々だ。


「これはマジックバッグなのです。見た目以上に沢山入って、入れたものも壊れないし、重たくもないのです。とても便利な魔道具なのです! ……ドヤア」


 ユキが子供達に、ドヤ顔で話している。バッグに詰めてるのは俺なのに……。


「かっけー」


「お姉ちゃん、頭良いー!」


「可愛いなんて照れるですう……エヘヘ」


「可愛いなんて、言ってないよー」


「お姉ちゃん、おもしろーい」


あはははははっ


 みんな爆笑しているし、可愛い発言とドヤ顔は不問にしよう。


 かなりの量を、バッグに詰め込み終わった。


「さて、それじゃあ明日持って来ますね」


「ありがとうございます。宜しくお願いします」


「あっ、そうだ。明日の昼前に持って来ますので、一緒にご飯食べませんか? みんなの分も、俺が用意しますので」


「え!? 食事もですか!? それは、とても助かりますが……そこまでして頂いて、大丈夫ですか?」


「問題無いですよ。これでも一応冒険者なんで、そこそこ稼ぎはありますから。それに、この町の人には沢山助けてもらいましたから、俺も誰かに返したいんです」


「……ありがとう。本当にありがとう。ううっ」


 神父さんが、泣いてしまった。まだ何も直してもいないし、食事もしてないのに、感動したようだ。俺が修理と食事の提供を申し出ただけで感動してしまうとは、やはり教会や孤児院の運営は大変なのだろう。


 でも子供達は、訳がわからず心配そうにしている。どうしよう……。


「みんなのお父さんは、悲しくて泣いてる訳じゃないのです。嬉しい時も泣くことがあるのです。だから心配無いのです!」


「お父さん、そうなの?」


「ううっ、みんな大丈夫だよ。お姉さんの言った通り、嬉しいんだよ」


「お姉ちゃん、すげー」


「やっぱり、頭良いー」


「だから、可愛いなんて「言ってないよー」ぐぬぬ。最後まで言えなかったのです……ヤルナ」


「お姉ちゃん、面白すぎー」


あはははははっ


 ユキのお陰で助かった。教会にいるせいか、急な女神モードである。


 明日の昼食は、何人分必要かを確認する。今いる子達の他にも大きい子達もいるようで、今は仕事に行っているらしい。まだ未成年なので、きちんと働ける訳ではないのだが、孤児院にいるため特例で働けるようだ。


 この子達も15歳になると孤児院を出なくてはならないので、今のうちから稼いで独り立ち出来る体制を整えているようだ。


 ボランティアで料理を作りに来てくれる人にも声をかけてもらうように、マイルスさんに頼んだ。3人で交代で作りに来てくれているようだ。


 子供達が14人、ボランティアさんが3人、マイルスさん、俺達2人で合計20人分だ。


 教会のみんなに別れを告げて、いつもの市場に向かった。


◇◇◇◇◇


「やっぱり異世界の教会あるあるは、必須だよなあ」


「あるあるだったのです?」


「うん。教会と孤児院を助けるってのは、あるあるなんだよ。でも、あるあるだからやるんじゃなくて、イベリスの人達に沢山助けてもらったから、何か返したいのも本当だよ」


「なるほどです。女神像を直すあるあるは、無いのです?」


「それは無いかなあ」


「ぐぬぬ。やっぱりフェリシア様に似てないのです……チガウ」


「どうしても、納得出来ないのね……」


 ユキは、あの石像を直したいようだ。でも、説明しても残念認定されるだけなので、我慢してもらおう。ユキの機嫌が直るように、明日の昼食の話をしよう。


「明日は何を作ろうか……。やっぱり子供にはハンバーグかな」


「うひょー! ハンバーグなのです! でも、ショウガン焼きも食べてもらいたいのです……ナヤム」


「ショウガン焼きも、人気あるよなあ……。じゃあ、こうしよう!」


 ハンバーグは、いつもより小さく作って、ショウガン焼きも枚数を少なくして、一皿に盛ることにした。それに野菜と、パン、スープをつければヤマトスペシャルランチの完成だ。


「なんとっ! 夢のような昼食なのです! あの子達も喜ぶと思うのです!」


「よーし。じゃあ、そのメニューで買い出ししよう」


「らじゃーなのです!」


 メニューも決まり、しっかりと買い出しを済ませた。新たな野菜も見つけたので、明日が楽しみだ。


「でも、20人分は大変だなあ。錬金もあるし、気合いを入れなければ!」


「ヤマトさん、あたしは応援を頑張るのです! ……ファイト」


「お、おう。応援宜しく……」


 宿に戻って、色々と作業を進めよう。

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