第43話 くっ、ユキめ!
「うーん。今日は、冒険者ギルドに行かなきゃな。盗賊のアジトは、どうなったのかな?」
「すぴー、すぴー、串焼き、下さい、ですう」
ユキは盗賊より、お小遣いで買う串焼きの方が重要なようだ。
早速ユキを起こして、準備しよう。
◇◇◇◇◇
朝食を終えて、冒険者ギルドに向かった。中に入ると、買い取りカウンターにバルディさんが居たので聞いてみよう。
「バルディさん。おはようございます」
「おはようです」
「おう、おはよう。盗賊の件だな」
俺が頷くと、一緒にギルマス部屋へ移動した。盗賊の件の前にギルマスから、今回の指名依頼のことについて話があった。
「ヤマト、ユキ、薬師ギルドの依頼を受けてくれて助かった。無事に納品も出来たようで、感謝する」
「いえいえ、気にしないで下さい。無事に戻れましたし、しっかり稼げましたよ」
「そう言ってもらえると、ありがたい。それと、ちょっと待て……」
ゴルディさんは、そう言って密会玉を起動した。
「ん? 密会玉ですか?」
「商人ギルドのアーノルドギルマスから、お前達のオークション参加の連絡を受けたからな。その話がしたい」
「ああ、なるほど」
アーノルドさんからオークション参加のことや、日時が決まった時の連絡をすることを伝えられたようだ。さらに俺達が王都に向かう際の、護衛の手配も依頼したようだ。
「護衛の依頼は、断っておいたからな。二人だけの方が、都合が良いんだろ?」
「え!? その方が助かりますけど、アーノルドさんは大丈夫でしたか?」
「二人とも獲物を仕留めた冒険者だし、盗賊を捕まえたこともあるから、問題無いと伝えた。多少渋っていたが、納得した」
「なら、良かったです。ありがとうございます」
「それでだな……」
(……何!? そのタメは!? 怖いって!)
「……俺達にも仕留めた2匹を、見せてもらえないか?」
「へ? あっ、はい。勿論ですよ」
(変なタメ作るから、気の抜けた声が出ちゃったじゃん! ギルマスは見た目が怖いんだから、気をつけて欲しいもんだよ。まったく……)
「ぷっ、ヤマトさん、ビビってたのです……ククク」
ユキにバレていたようだ……。キングとコライオンを出して、床に置いた。二人とも、暫く無言だったが、バルディさんが話し始める。
「……凄いな。思わず黙っちまったよ。こんな綺麗な状態で、仕留めるなんて……。兄貴なら出来るか?」
「……無理だな。勝てたとしても、傷だらけのコライオンだろうな。キングも、青で討伐する自信は無いな」
二人の反応を見てると今更ながら俺達は、とんでもないことを仕出かしてしまったようだ。別に悪いことをしてる訳じゃないのに、やっちまった感があるのは何故だろう……。
「ありがとう。大事な品物だ。しまってくれ」
2匹をバッグにしまった。ギルマスが話を続ける。
「オークションの日程は、まだ決まって無い。この2匹の状態での出品はアリッサム王国では初になるから、かなり人を呼ぶそうだ」
「そうなんですね。あのー、ちなみに王都アリッサムって、何処にあるんですか?」
ギルマスに説明してもらった。王都アリッサムは、イベリスから西の町カルノーサを経由する。カルノーサまでは歩きで15日ほど、馬車を使っても12日ほどらしい。
馬車は、あくまでも荷物が運べて歩かなくて良い、というくらいの感じなのだという。そう考えると車というのは、凄い便利だったんだと思った。
さらにカルノーサから歩いて10日ほどで、王都アリッサムに着くようだ。イベリスからは、結構遠いことが判明した。
もしユキに運んでもらうとしても、ユキの疲れも考慮して10日はかかるだろう。しかもユキには、毎日走り続けてもらうことになる。疲れてヘロヘロだろう……。それは流石に可哀想だ。多分、乗っているだけの俺も、かなり疲れてしまうと思う。
「なるほど……。オークションの日程によっては、かなり急がないと間に合わない感じかもしれないですね……」
「2、3日で開催日は決まるだろう。多分40日後くらいになると、アーノルドギルマスは予想していた」
「え!? そんなに先ですか?」
アーノルドさんの予想によると、今回は特別なオークションになるからだそうだ。普段のオークションでは遠くの町からの参加者は、王都にいる代理人が出席する。通信魔道具で連絡を取り合い、入札するスタイルだ。
しかし今回は競り負けたとしても、滅多に見られないものが見られるので、代理人ではなく本人が出席することが予想される。
王都までは、イベリスからでも25日ほどかかる。イベリスよりも、さらに距離がある町もある。それを踏まえて、40日の予想だそうだ。
沢山の人が参加した方がオークションも盛り上がり、出品者も商人ギルドも利益になるので、長い移動や資金準備の期間が必要だと、アーノルドさんは予想したようだ。
「まあ、数日で決まるだろうから、もう少し待っててくれ」
「わかりました」
「本題は盗賊の件だったな。俺達も2匹が見たくてな。先にオークションの話をしてしまった。すまん」
「いえいえ、全く問題無いですよ」
そこからギルマスは、今回の盗賊の話を始めた。
俺達が薬師ギルドの依頼に出た次の日に、バルディさんがリーダーとなり、Dランクパーティー3組、Cランクパーティー2組を連れて、盗賊のアジトに向かった。総勢22名だ。
タブレット端末風魔道具のお陰で、盗賊のアジトは簡単に見つかった。アジトを囲み、一気に奇襲をかけて制圧した。盗賊達は、殆ど反撃出来ずに捕まった。流石はバルディさんと、俺達より上位ランクの冒険者達だ。
全部で14人の盗賊を確保した。制圧は完璧だったがリーダー格の盗賊は、その中には居なかった。捕まえた盗賊に確認すると、俺達が捕まえた時に魔道具を渡してきたあの盗賊が、このアジトのリーダーだったようだ。
そのリーダーに聞くと幾つか拠点があるらしく、このアジトは宝物庫だった。あのペンダントトップで宝物部屋の鍵を開けると、中には殆どものが無かった。
そのことをリーダーに伝えると、部屋の中に別のペンダントトップで鍵をかけたマジックバッグがあると言った。しかし、そんなものは無く、ただのバッグがあったことを伝えると「あいつら、騙しやがった!」と言ったそうだ。どうやら宝物庫と聞かされて、ダミーのアジトを拠点にさせられていたようだ。
本当のリーダー格の盗賊は、たまに宝物部屋に盗んだものを納めに来ていた。しかし、フリをしていたようだ。この騙された盗賊は、何故マジックバッグを確認しなかったのか? ペンダントトップで鍵がかかっているものは、開くわけがないので確認しなかったようだ。盗賊にしては、お粗末なことである。
結局このアジトにいた盗賊達は、いわば捨て駒、蜥蜴のしっぽ切り、だったようだ。
「結果として、盗賊達の親玉を捕まえられなかった。ヤマトとユキが盗賊を捕まえて掴んでくれた情報だったのに、すまない」
そう言って、ゴルディさんとバルディさんが頭を下げた。
「えっ!? 二人とも頭を上げてください! 何人も盗賊を捕まえたんです。ちゃんと結果が出てるじゃないですか」
「情報をもらったのに、申し訳なくてな……」
「俺達は、たまたま盗賊を捕まえただけですから。アジトを一ヶ所潰せたことを、喜びましょうよ」
「そう言ってもらえると、色々と本当に助かる。ありがとう」
また二人は頭を下げた。俺はオロオロするしか出来なかった。
「ぷっ、ヤマトさんが、オロオロしてるのです……ウケル」
(くっ、ユキめ! 他人事のようにしてやがる。明日起こす時に、いつもの二割増しでしっぽを握ってやる!)
実に器の小さい男である……。
「それで報奨金なんだが、バルディ頼む」
「ヤマト、ユキ、盗賊2名の確保及び、アジトに繋がる魔道具の確保により報奨金、銀貨50枚だ」
「え!? そんなに」
「アジトの宝物部屋に何か残っていれば、もう少し出せたんだがなあ」
盗賊のアジトにあったものは、お金になるものは売られて今回集まった冒険者パーティーと、俺達への報奨金の一部に当てられているらしい。なので宝物部屋に宝が残っていたら、もっと多くなっていたようだ。銀貨50枚でも、十分すぎる額なので大満足だ。
二人にお礼をして、冒険者ギルドを出た。
◇◇◇◇◇
「さてと、今日の予定は終了だな。どうしようか?」
「ヤマトさんに、おまかせなのです」
「じゃあ……町を見て回ろうか。もうすぐイベリスを離れることになりそうだし、ちゃんと見てなかったからさ」
「りょーかいなのです! もしかしたら、穴場の屋台があるかもなのです……ジュルリ」
「ユキは、ブレないねえ」
今まで行ったことがない方へ、歩いてみた。
「そうだ。王都に行く日にちが決まったら、宿の二人にもちゃんと言わなきゃなあ」
「二人には、凄くお世話になったのです。レナードさんは料理のレシピをくれたし、オリガさんはヤマトさんが宿代をミスった時も、部屋を取っておいてくれたのです!」
「うっ、今度からは宿代ミスに気を付けなきゃな……。みんながみんな、オリガさんみたく優しくないだろうし……」
そんな会話をしつつ、色々見ながら歩いているとユキが反応した。
「クンクン。ヤマトさん、あっちからいい匂いがするです」
「ん? これ、なんか知ってる匂いな気がする。……何だっけ?」
「行ってみるです!」
「はいよー」
匂いの方へ行ってみると、屋台があった。並んでいるものを見て、匂いの正体がわかった。
「そっか! 焼き芋の匂いか」
「ヤマトさんは、これ知ってるです?」
「地球のと同じかは、わかんないけどね」
「いらっしゃい。焼きサマイモだよ。甘くて美味しいよ」
見た目サツマイモは、サマイモというようだ。甘くて美味しいと言う辺り、焼き芋と同じとみて間違いないだろう。
「ヤマトさん。これ食べたいのですが、あたしはお小遣いで買うのです?」
「俺も食べたいから、二人の稼ぎから出すよ」
「ありがとうです……ヤッター」
ユキも少しはお金の使い方に、気を付ける心が出てきたようだ。感心感心。早速、2本買って食べてみた。
「「いただきます」です」
パクっ
「あまっ。うまっ。なんだこれは!?」
「あまいのですう。ホクホクなのですう……シアワセ」
焼きサマイモは、とても甘かった。そして、めちゃくちゃ旨かった。甘さにしつこさはなく、ホクホク感とネットリ感もあった。地球でもなかなか無い感じの、焼き芋だった。
その後ユキのセンサーが、何軒かの屋台を発見し、そのまま屋台巡りで昼食を終えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます