第42話 んじゃ、あとでね

 今度は薬師ギルドで、しずく花の買い取りだ。Aランク品は1本銀貨2枚を4本で銀貨8枚だった。同じく薬に使うヤック草などと比べると、かなり高額買い取りである。


 エルダさんから買い取り金をもらい、今日のお礼を伝える。 


「エルダさん。今日は色々と、ありがとうございました」


「いいのよ。楽しかったわ。しずく花の買い取りも出来たし、また沢山の人に薬を届けられるわ。ヤマト様、ユキ様、ありがとう」


「あたしも楽しかったのです!」


「また指名依頼をお願いするかもしれないから、その時は宜しくね」


「はい。勿論です」


「そうそう。お二人に渡すものがあったの」


 エルダさんが職員さんを呼ぶと、大きな革袋を三つ持ってきた。


「昨日、納品してもらったオーク、ハイオーク、ベアーの肉よ。食べても売っても、自由にしていいわ」


「え!? 大事な素材じゃないんですか?」


「これは薬の材料には、ならない部分よ。いつも職員で分けて持ち帰るの。今回は沢山納品してもらったから、お裾分けよ」


「そうなんですね。ありがとうございます! 野営で料理するので、助かります!」


「エルダさん。ありがとうなのです! いっぱい食べるのです! ……あ! 食いしん坊なのです……シマッタ」


「あははっ。ユキ様、沢山食べてね」


「はいです!」


 これで、薬師ギルドの用件も終了だ。お土産までもらってしまった。


 次は、すぐ近くにある職人ギルドに入り、受付に向かう。人族の女性に、話しかけられた。


「こんにちは。ご用件は?」


「素材の買い取りを、お願いします」


「了解しました。こちらに、移動お願いします」


 職人ギルドは他のギルドより、若干フランクな感じだった。特に嫌な感じは無いので、問題無い。買い取り査定の部屋があるようで、そこに案内された。少しすると、担当だろう人族の男性職員が来てくれた。


「お待たせしました。早速、品物をお願いします」


「はい。これを、お願いします」


 カウンターに、レインマイマイの殻を10個出した。


「レインマイマイの殻ですか! ありがとうございます。今回の雨では、入荷が少なかったので、ありがたいです」


 職員さんは、手際よく魔道具でランクを鑑定していった。全てAランクなので、とても驚いていた。


 1個銅貨5枚と査定された。アーノルドさんの予想よりも、高い査定だった。理由としては、今回の雨は入荷が少なかったこと。さらにAランクは、ほとんど入荷しなかったことが、高い査定になったようだ。


 勿論この金額で了承して、銀貨5枚を受け取り部屋を出た。帰りにもう一度受付に寄り、とある店の情報を聞くと一軒のお店を紹介された。


 職人ギルドを出ると、時刻はちょうど昼時だった。


「もう昼だね。屋台で食べようか」


「はいです。今日は色々出かけて、お腹ペコペコなのです」


 何軒か屋台を回り、気に入ったものを保存食に追加しておいた。また皿や鍋を使ったので、そろそろ買い足しが必要だ。


 今回の野営でも料理をしたので、そこそこ保存食がバッグの中に増えた。俺のバッグに入れておけば悪くならないので、これからもコツコツ増やすつもりだ。


◇◇◇◇◇


 昼食を済ませて、とある店の前に居る。


「ここだな」


「ここは何の店なのです?」


「仕立て屋さんだよ」


「ん? ヤマトさん、服でも作るです?」


「違うよ。とりあえず入ろう」


 店に入ってみた。小柄な人族の女性が、応対してくれた。


「いらっしゃいませー」


「すいません。職人ギルドで、こちらは魔物素材も扱うと聞いたんですが、大丈夫ですか?」


「はいー。ウチの店は全員ドワーフなんでー、魔物素材からの仕立ても、お手のものですよー」


 小柄な女性は人族ではなく、ドワーフ族だったようだ。初めて会う種族だが、異世界知識的にゴツイ人を想像していた……。


 帰り際に職人ギルドの受付で聞いたのは、魔物素材を扱える仕立て屋だったのだ。店員さんに作りたいもの、使いたい素材、出来たものの使い方を説明した。


「なるほどなるほどー。作れますよー。でもー、今は素材が無いので、入荷するかが問題ですー……」


「素材の持ち込みは、駄目ですか?」


「えー!? 持ってるんですかー?」


 バッグから素材を取り出した。


「おー! これなら作れますよー」


「ヤマトさん。本当に作るです? あたしには、お気に入りがあるのです」


 俺が店員さんと相談していたのは、ユキのニット帽だ。雨羊あめひつじの毛を使えば、防水のニット帽が出来ると思ったのだ。


 ユキは戦いの度に濡れたニット帽を絞っていたのが大変そうだったので、雨羊を討伐した時に考えていたことだ。


「また雨になったら、色々大変でしょ? 防水のニット帽なら、少しは便利じゃない?」


「確かに便利です……でも、お気に入りなのです!」


「だったらー。お気に入りと、同じデザインに出来ますよー」


「なんとっ! 同じデザインで濡れないのです……ベンリ。ヤマトさん! 作って欲しいのです!」


「お、おう。とりあえず、ニット帽を見てもらおうか」


「かしこまりーです」


 ユキはデザインがお気に入りなので、同じデザインなら防水のニット帽が良いようだ。ユキはリュックからニット帽を取り出し、店員さんに熱弁していた。


「……ということなのです! ふう、疲れたのです」


「なるほどなるほどー。お気に入りのポイントは、バッチリわかりましたー」


 ユキは店員さんに、お気に入りのポイントが伝わりホッとしている。


 よくよく聞くと、形や色がお気に入りという訳では無くて、あの刺繍が入っていることが大事なことだったようだ。刺繍は絶対に白というのも、拘りの一つだ。つまり、可愛い子狐の刺繍が、譲れないポイントだったのだ……。


 それから、付加する能力の話や料金の話をして、商談成立である。


「じゃあー、採寸始めますねー」


「はいです」


「お願いしますー」


 店員さんが店の奥に言うと、小柄な女性とゴツイ男性が出てきた。男性のドワーフは、想像通りの見た目だったことに、少しホッとした。


 受付してくれた女性が、その二人に色々説明してくれて、採寸が始まった。その隙に受付してくれた店員さんに、別の品物も注文してみた。作れるというので、追加で素材を渡した。


 無事に採寸が終わり、出来上がりは3日後の午後とのことだ。採寸してくれた二人にも声をかけ、店を出た。


「ふう、採寸なんて初めてなので、耳の辺りが少しくすぐったかったのです」


「お疲れさん。あとは冒険者ギルドで、盗賊の報奨金の確認で終わりかな」


「慣れないことをしたので、小腹が空いたのです……グウー」


(おっ! これはチャンスかも)


「じゃあ冒険者ギルドは明日にして、ここからは別行動にしようか」


「ん? なんでです?」


「ユキは屋台に行って、何か食べたら? 小腹が空いたんでしょ? お小遣いあるから、一人で行けるじゃん」


「はうっ! ついに、お小遣いデビューなのです……ドキドキ」


「俺は保存食で食器が減ったから、買い足して来るよ。夕飯までには宿に集合ね」


「りょーかいなのです!」


「んじゃ、あとでねー」


 お小遣い制を決めてから、いつかは別行動をしてユキにお金の使い方を学んでもらおうと思っていたのだ。まさかこんなにすぐに、チャンスがあるとは思わなかったが……。


 今までは基本的に、町中でも一緒に行動していた。自称、可愛いボディーガードさんは、1ヶ月間町にいて安全だと思ってくれたのだろう。


 1ヶ月と言ったのだが、フルールに月という単位はない。以前ユキに地球の暦の話をしたのだが、フルールには年しかないようだ。ちなみに1年は、360日である。1日は24時間だし、地球と殆ど変わらない。


 ついでに誕生日のことも聞いたのだが、月がないので何月何日という表現は無いという。じゃあ、どうやって年齢を数えるのか聞いたら、ギルドカードをよく見ると年齢のところに数字が書いてあった。


ヤマト 15歳(と33日) 人族


 どうやら俺の誕生日は、転生した日のようだ。この数字が360日になると、次の日には16歳(と1日)に変わるようだ。ユキも同じ設定だった。同じ村で同じ日に生まれた、幼馴染みとのことだ。


 15歳になるまでは、親が自分のカードの日にちで生まれた日を覚えておいて数えるらしい。たまに間違えて覚えていてカードを作りに行ったら、まだ14歳だったというのがフルールのあるあるの一つらしい。


◇◇◇◇◇


「さてと、そろそろ宿に戻るかな」


 あれから俺は、いつもの店で食器や革袋などを買い足してきた。それから市場に行って、新しい食材探しや足りなくなってきた食材、調味料の買い足してもしてきた。


 マップで宿を確認したが、まだユキは帰っていないようだ。先に帰って待つとしよう。


「あら、一人かい? ……何かあったのかい!?」


「いえ、大丈夫ですよ。実は……」


 オリガさんに、心配されてしまった……。別行動の理由を説明した。


「そういうことかい。ちょっとビックリしちゃったよ。いつも一緒だからね」


「驚かせて、すいません」


「しかし、不思議な二人だよ」


「え?」


「同じ15歳なのに、あの子は子供っぽいし、あんたは大人っぽいし」


「……あはは」


 奥義『笑って誤魔化す』が炸裂した……。答えに困った時は、これが一番だ。ユキが戻ったら食事に来ることを伝えて、部屋に戻った。


「さてさて。ユキさんは、何処にいるかね?」


 マップを確認すると、やはり屋台が多いところに居た。三軒を行ったり来たりしている。この感じだと、まだ買い物をしていないのだろうか? それとも、何回も買い物をしているのだろうか?


 その後買い物が終わったのか、広場のあたりで動きが止まっていた。


「お、買い物して食べてる感じかな? 何だか待つのもソワソワするな。これが親の気持ちか!? ……だから俺、独身だって」


 心配なのか、やたら独り言が多い。少しするとユキが帰ってきた。


「ただいまです」


「おかえり。美味しいものあった?」


「はいです。でもヤマトさん。お小遣いは難しいのです……ナヤム」


 ユキは屋台を巡って、候補を三軒に絞ったらしい。ウルフ肉の串焼き、1本鉄貨1枚。フォレラビ肉の串焼き、1本鉄貨3枚。オーク肉の串焼き、1本鉄貨6枚。


 ウルフ肉は安いが硬い。オーク肉は美味しいが高くて少ない。でもお小遣いの使い過ぎを気をつけて、満足感も欲しいならフォレラビ肉もアリ。こんな感じで悩んだ結果、次に決める時の目安に味を知りたくなり、全部1本ずつ買ったという。


「そっかあ。全部かあ……。まあ修行だからね。次のお小遣いまで、上手に使うのが目標だよ」


「ヤマトさん。あたしはお小遣いでも、出来る子狐を目指すのです! ……ヤルゾ」


 こうして、ユキのお小遣いデビューは終了した。お金の使い方に悩むことから、覚えていけば良いと思った。


 少し部屋でゆっくりしてから、夕食を食べに向かった。


 明日は冒険者ギルドで、盗賊の報奨金の確認をしよう。あとはオークションの連絡待ちと、ニット帽完成待ちだ。


 暫くは依頼を受けずに、ゆっくり過ごそうと思う。

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