第41話 同じリアクションだ……

「うーん。久しぶりの、ホームでの朝って感じだなあ」


「すぴー、すぴー、香り、旨味、爆発、ですう」


 ユキはアマッタケの味を、夢でも味わっているようだ。


 今日はエルダさんと一緒に、商人ギルドに行く予定だ。オークションの受付なんて初めてなので、本当にありがたい。


 ユキを起こして準備をしよう。エルダさんを、待たせてはいけない。


◇◇◇◇◇


「おはようございます。ヤマト様、ユキ様、ギルマスを呼んで参りますので、お待ち下さい」


「はい。ありがとうございます」


 いつもながら素晴らしい対応に、頭が下がる。すぐにエルダさんが来てくれた。


「ヤマト様、ユキ様、おはよう」


「おはようです」


「エルダさん、おはようございます。今日は宜しくお願いします」


「気にしなくて、いいのよ。私は、あの子のリアクションが見たいの。ふふふ」


(ん? あの子?)


「早速、商人ギルドに行きましょうか」


 エルダさんと一緒に、商人ギルドに向かった。商人ギルドは近くにあって、徒歩3分ほどだ。


「ちなみに、あそこの建物は職人ギルドよ」


「近くに、三つもギルドがあるんですね」


 エルダさんにプチ情報を教えてもらいつつ、商人ギルドへ入る。


「エルダギルマス、おはようございます」


 受付の職員さんが、エルダさんに気付いたようだ。


「おはよう。あの子は部屋に居る? 来客中かしら?」


「いえ。一人で、いらっしゃいます」


「良かった。今日は、お客様をお連れしたの。行っても良いかしら?」


「もちろんです。どうぞ」


「じゃあ、お邪魔するわね。ヤマト様、ユキ様、行きましょう」


「えっ!? は、はい」


 エルダさんは、よく来ていると言っていたが、ギルマスに確認もせずに勝手に行っても大丈夫なのだろうか? 受付の職員さんも慣れた感じで、あっさり通してくれた。


 ギルマス部屋に着き、エルダさんはノックをしてドアを開けた。


「アール。お客様をお連れしたわよ」


「母さん。もう子供じゃないんですから、ちゃんとアーノルドと呼んで下さい! お客様ですか?」


「えっ!? 母さんって……」


「あら、言ってなかったかしら? 私の息子よ」


「「えーっ!」」


 商人ギルドのギルマスは、エルダさんの息子さんだった。確認も取らずに、ギルマス部屋に来れた意味がわかった。


「母が、すみません。私はイベリス商人ギルド、ギルマスのアーノルドといいます」


「……あっ、冒険者のヤマトです」


「あたしも冒険者のユキなのです」


 まさか親子でギルマスとは、驚いて一瞬止まってしまった。


「アーノルドに、お二人に謝ってもらおうと思って」


「謝る?」


「お二人は青空市で、盗品を売られた被害者よ」


「お二人でしたか! その節はギルド員が大変失礼しました。私も不在で、重ね重ね申し訳ありませんでした」


「いえ。サブマスさんがしっかり応対してくれて、とても丁寧な謝罪もしてくれましたし、もう大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


 商人ギルドのギルマスだけあって、とても丁寧な人だった。いや、エルダさんの息子さんだからだろうか。


「じゃあ、本題ね。今日は秘密のお話しがあるの」


「! わかりました。少々お待ち下さい」


 アーノルドさんは、エルダさんの言葉にピンと来たようだ。部屋に鍵をかけて、密会玉を起動した。


「こちらへ、お座り下さい」


 密会玉が置いてあるテーブルに移動して、ソファーに座った。アーノルドさんが、話し始める。


「お二人は冒険者なのですね。母が一緒に来るとは、余程のことなのでしょう。ここ数日を振り返ると考えられるのは、レイニーですね。……まさか、青いですか?」


 流石は商人ギルドのギルマスだ。的確な推理だった。


「やっぱりアーノルドは、自慢の息子ね。ヤマト様。を出してもらえる?」


「ん? わかりました」


(あれ? 全部出さないのかな?)


 レインリザード青の革を、テーブルに出した。


「おお! まさか本当に青とは……素晴らしい! レインリザードの青がオークションに出れば、イベリスからは10年以上振りになりますよ! しかも、解体も綺麗で傷が無い! これは高値になりますよ!」


 アーノルドさんは、かなり興奮している。


「ヤマト様。他も出してもらえる?」


「え!? まだ有るのですか!?」


 テーブルには載りそうもないので、床にキングとコライオンを出した。


「……」


「アーノルドさん?」


「……はっ! 一瞬、意識が飛んでしまった」


「親子で、同じリアクションだ……」


「ふふふ、これが見たかったの! この子は昔から真面目で、こんなリアクション初めてだわ。可笑しな顔してるわね」


「昨日のエルダさんと、同じ顔なのです」


「え!? 昨日の私も、こんな顔していたの!?」


「はいです」


 エルダさんはアーノルドさんにドッキリを仕掛けて楽しそうだったのだが、昨日の自分の顔と同じだとわかって、少しへこんでしまったようだ。「こんな変な顔していたなんて……」と、ブツブツと呟いている。


 アーノルドさんも「これは夢か……。夢だな」とブツブツと呟いていて、まだ正常では無いようだ。


 ここでも、親子で同じような状態だった。


◇◇◇◇◇


「ヤマト様、ユキ様、お待たせして、ごめんなさいね」


「お二人とも、申し訳ありません」


 暫く待っていると、二人とも正気に戻ってくれた。


「いえいえ、気にしないで下さい」


「ぷっ、二人とも面白い顔だったのです……ククク」


 ユキの余計な一言で、またへこみそうだった二人だが何とか持ちこたえてくれた。


 アーノルドさんが仕事モードに復活して、キングとコライオンについて話してくれた。


 オークション制度が導入されてから、アリッサム王国でキングが出品されたことは二度しかない。しかも、共に赤だった。傷も多いものだったようだ。


 俺達が討伐したキングの青は、アリッサム王国初のものになるようだ。しかも傷がほぼ無しの奇跡の状態だと、またアーノルドさんは興奮していた。


 このような初物を以前は、王様に献上していたらしい。しかしオークション制度が導入されて、献上は廃止になっているそうだ。


 コライオンは、アリッサム王国で過去に三度オークションに出ている。


 一度目は前足が一本のみ。


 二度目は全身だが、前足と後ろ足が一本ずつ欠損していて、体にも大きな穴がある状態だった。


 三度目は、しっぽのみ。


 全身で欠損部位無し、傷も眉間のみという状態はアリッサム王国初だと言われた。


 オークションについても説明してくれて、昨日エルダさんに聞いた通りだった。一つだけ追加情報があり、出品物の落札額の一割が商人ギルドの取り分になるとのことだった。


「ヤマト様、ユキ様、この三点をオークションに出されますか? 受付期限が今日までなので、今決めて頂きたい」


「はい。受付お願いします」


「かしこまりました」


 そう言うとアーノルドさんは、ランクを鑑定する魔道具を取り出し調べ始めた。勿論、全てAランクである。


「全てAランクとは、これは国宝級だ……」


 次にアーノルドさんは、通信魔道具を準備した。


「今から王都アリッサムにある、商人ギルド本部のグランドマスターに連絡をします」


「「グランドマスター!?」」


「はい。商人ギルドのトップです」


 商人ギルド本部にいる、グランドマスターが受付をするらしい。トップが連絡を受けることで、情報漏洩を防ぐ目的があるのだそうだ。通信魔道具も、秘匿回線を使用するタイプだという。


「こちらイベリス商人ギルド、ギルマスのアーノルドです」


『こちらフォノーじゃ。秘匿回線とはオークションのことかの? アール、頑張っておるな』


「父さんまで……。もう子供じゃないんですから、ちゃんとアーノルドと呼んで下さい! まったく……」


「父さんって……」


「フォノーは私の夫よ」


「「えーっ!」」


『なんじゃ、エルダもおるのか? 相変わらず綺麗な声じゃのお』


「あなた。アールの前で恥ずかしいわ」


「二人とも、いい加減にして下さい!」


 商人ギルドのグランドマスター、通称グラマスはエルダさんのご主人だった。この家族は、超エリート一家だったようだ。


「グラマス! 仕事の話です。イベリスより三点、オークションに出品します」


『そう怒るな。出品了解じゃ。品物を教えてくれるかの?』


 アーノルドさんは、品物とランク、状態をフォノーさんに伝えた。


「……以上の三点です」


『……』


「ん? グラマス聞いてますか? ……父さん!?」


『……はっ! 一瞬、意識が飛んでおった。アールよ。わしも、もう歳じゃ。悪い冗談は、危険じゃぞ』


「態々、秘匿回線で冗談は言いませんよ。全部本当です」


『……え!?』


「ぷっ、また同じ反応なのです。顔が見えないのが残念なのです……ククク」


 この家族は、かなりの似た者家族のようだ。


 オークションの出品者として、名前を登録した。オークションの時は出品者の名前は伏せることが出来るとのことで、伏せることにした。出来るだけ、目立つことは避けたいのだ。


 こうして、オークションの受付は終わった。色々情報が多くて少し疲れた。主に、この超エリート一家のことなのだが……。


 今日で受付が終了し、出品物の種類や数を集計する。それによって、開催日時が決まるらしい。


 今回はキングとコライオンが目玉になるとのことで、色々な人に参加してもらうことが予想される。なので、連絡や集まるための期間がいつもより必要になる。開催は、かなり遅くなるだろうとのことだった。


 日程が決まるまで品物をギルドに預けるか聞かれたが、自分で持っている方が安心なので断った。俺のバッグが時間停止機能付きなので、劣化もしないと説明したらアーノルドさんも納得してくれた。


 オークションは商人ギルドに品物を渡せば、王都アリッサムに行かなくても良いという。直接オークションを見たいのなら、現地に行って参加も可能とのことだ。


 俺達はイベリス以外の町に行ったことがないので、折角なら色々な町も見て回りたい。自分達で品物を運び、オークションも見たいとアーノルドさんに伝えた。「その方向で手配します」と了承してくれた。


 その後、他のレイニーの買い取りをお願いした。レインボーフラワー1本と、レインマイマイの殻10個、全てAランクだ。


 レインボーフラワーは銀貨20枚での買い取りだった。1本がこの金額とは、やはりレイニーは高価だ。


 しかしレインマイマイの殻は、1個銅貨2枚鉄貨5枚だった。レイニーという付加価値はあるが、討伐が簡単なので安いようだ。


 アーノルドさんは、職人ギルドなら銅貨3~4枚の買い取りになるだろうと教えてくれた。商人ギルドの儲けにならないのに、教えても大丈夫か聞いたのだが「ヤマト様達とは、これから先も良いお取り引きをさせて頂きたいので」とのことだった。流石は商人ギルドのギルマスだ。目先の利益より、大きいものを見ているらしい。


 アーノルドさんから、銀貨20枚を受け取った。オークションの日程が決まったら、冒険者ギルドのギルマスに連絡をくれるそうだ。何故ギルマスなのか尋ねると、これも情報漏洩防止のためだと言われた。


 これで商人ギルドの用件は終わり、エルダさんと薬師ギルドに戻った。

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