第40話 みんなで食べましょう!

ぐうー


(……)


ぐうー


「……ん? ……あれ? 寝ちゃってたのか」


ぐうー


「何の音? ……うわっ! ユキ!?」


 隣のベッドにユキが座っていた。目に見えるほどの、どんよりとしたオーラを纏っていたのだ。


「ユキ、どうした?」


「お腹ペコペコなのです……グスン」


ぐうー


 さっきから気になる音は、ユキのお腹が鳴る音だったようだ。俺が寝てしまい、起きるのを待っていたようだ。


「ユキ、ごめん。でも、起こして良かったんだよ」


「移動で疲れてるのに、起こせないのです……」


「じゃあ、一人で食べに行っても良かったんだよ」


「お金持って無いのです……」


「オリガさんなら、お金は後からでも大丈夫でしょ」


「だって、あたしは大人なのにお金持って無いのは、恥ずかしかったのです……」


「そっかあ……。あれは! マジックポーチの中身!」


「食べたのです。でも少ないのです……」


「そうだった。入れ替えしなきゃだから、少ししか入れてないんだった……」


 ほとんどの荷物は、錬金袋に入れている。そのため、俺しか出し入れが出来ない。


 もしもの時のためにユキのマジックポーチに、食料を入れていた。しかし時間停止機能がついていないので、定期的に入れ替えが必要なため少量にしてある。


 ちなみに入れていたものは、パンと干し肉である。数日経つと悪くなるので、錬金で復活させている。錬金材料は、パン粉と調理用に細かくしたウルフ肉を使っている。フードロスを出さないように、気をつけているのだ。


「よし、一階に行こう。てか、時間大丈夫かな!?」


「たぶん、ギリギリ大丈夫だと思うです」


 健気に待っていた相棒の空腹は、限界だった。急いで一階の食堂へ向かった。


「あら! やっと来たね」


「すいません。俺寝ちゃってて。まだ大丈夫ですか?」


「もちろん。あんた達が最後だね」


 食堂には、一組しかお客さんは残っていなかった。


「おう、白狐びゃっこ隊。久しぶりだな」


「応援団先輩達でしたか。お久しぶりです」


 すると、レナードさんに声をかけられた。


「お前達、何食べる?」


 その時、思い出したことがある。


「あっ! レナードさんに、料理してもらいたい食材があるんです!」


「ん? 何だ?」


「これです」


 俺は、アマッタケをバッグから取り出した。


「はあ! またお前は、なんちゅうもんを出すんだよ! ホイホイ人前で出す食材じゃねえだろ!」


「ここに居るメンバーなら、問題無いですよ」


 応援団先輩達も、驚いたようだ。


「やっぱりヤマトくんとユキちゃんは、スケールの大きい人ね」


「俺、初めて見たかも……」


「マジか。アマッタケかよ。凄いな……」


 ちなみにビッフィさん、ジースさん、キーンさんの反応だ。三人とは冒険者ランクが上がった時のお祝いの席で、かなり親しくなった。


「作ってもらえますか?」


「わかった。1本を分けるから、そこまで量は出来ないぞ」


「折角なんで、ここに居る7人分お願いします」


「は? 流石に、1本を7人分は厳しいだろ……」


「ジャーン! 全部で5本あります。これなら、7人分になりませんか?」


「お前なあ……。売るとか、自分達だけで食べるとか、欲は無いのか?」


「みんなと食べた方が、美味しさが増すじゃないですか」


「……お前は、そういう奴だったな」


 レナードさんに、呆れられてしまった……。


ぐうー


「ヤマトさん、もう限界かもしれないのです……フラフラ」


「そうだった! ユキが空腹の限界だったんだ。レナードさん! 何か今すぐ食べれるものありますか!?」


「とりあえず二人は、これ食べて待っとけ」


 レナードさんは、すぐに料理を出してくれた。


「ハンバーグなのです!」


「まだ試作中だけどな。さっき作ったばっかりだから、まだ冷めてないだろ」


「ありがとうございます! ユキ、ご飯……だよ……って、もう食べちゃってるね」


「ううっ、生き返ったのです……ウマイ。はっ! いただきますせずに、食べてしまったのです……メンゴ」


「あらあら、泣く程お腹空いてたのかい? 大丈夫かい?」


 ユキは、やっとありつけた食事を泣きながら食べていた。そのため、オリガさんに心配されてしまった……。


「ユキは優しいから、俺が起きるのを待っててくれたんです。行儀悪くて、すいません」


「ごめんなさいです……」


「そんな事、気にすんじゃないよ! ほら、食べな!」


「「はい! いただきます」です」


 試作中だというハンバーグは、めちゃくちゃ美味しかった。これも近いうちにメニューに加わることだろう。ハンバーグをペロリと平らげて、ユキも落ち着いたようだ。


 少しすると、念願のアマッタケ料理が完成した。


「出来たぞ。アマッタケは、シンプルが一番旨い食材だからな」


 レナードさんが料理してくれたのは二品だ。


 一品目は、アマッタケ焼き。薄切りにしたアマッタケを、ショーユーと塩で軽く味付けしながら焼いたものだ。搾って使う柑橘も添えてある。初めてみる果物なので聞いてみると、スダッチだそうだ。友達のあだ名にありそうなこの果物は、すだちだった。


 二品目は、アマッタケとフォレラビのスープだ。アマッタケとフォレラビを、細かくして入れてある。味付けは、塩で整えたくらいだそうだ。


 どちらも香りが素晴らしい。それだけで旨いと感じるほどだった。


「レナードさん、ありがとうございます。みんなで食べましょう!」


「本当に、あたしらも食べて良いのかい?」


「いやいや女将さん。それを言うなら俺達でしょう。白狐隊、俺達まで良いのか?」


 アマッタケは高級食材のため、みんな気にしているようだ。


「さっきも言いましたけど、みんなで食べる方が更に美味しくなるんですよ。だから、一緒に食べて欲しいんです」


 みんな納得してくれたようだ。もしかしたら、俺に呆れて諦めた可能性もあるかも……。



「では、いただきます」


「いただきますです」


「あたしらも、いただこうか」


「ああ。ご馳走になろう」


「「「ゴチになりまーす」」」


パクっ


「……な、何だこれは!? 旨すぎる!」


「うみゃー! 口の中で香りと美味しさが、爆発するのです!」


 アマッタケは、途轍もない旨さだった。ユキの表現の通りである。噛む度に口の中で香りと旨味が、正に爆発的に広がるのだ。


「やっぱり美味しいわねえ。かなり久しぶりよね?」


「ああ。かなり前だったな。ウチの飯を気に入ってくれて、色々持ってきてくれたな」


「今の、あの子達みたいにね」


「そうだな。あいつは、まだ冒険者を続けてるのかな……」


 レナードさんとオリガさんは、前にも食べたことがあるらしい。今の俺達のように、この宿のファンの冒険者がいたようだ。やはりこの夫婦は、沢山の人に慕われているのだ。


「ああ、口の中が幸せだわあ」


「ううっ、ううっ、生きてて良かった……」


「旨い! おまえら、もう二度と食えないから、この味を記憶に刻んどけ!」


 ビッフィさんは笑顔で、ジースさんは泣きながら、キーンさんは記憶に刻んでいるのか、眉間に皺を寄せながら食べていた。三者三様である。


 ユキの空腹も落ち着き、突然開催されたアマッタケパーティーもお開きになった。帰り際に応援団先輩三人に、感謝のハグをされた。三人とも、かなりテンションが高かった。喜んでもらえたようで良かった。


 オリガさんに食事代を払おうとしたら「貰うわけないだろ!」と言われた。オーバーした部屋代も受け取ってもらえず、今日から10泊分の銀貨5枚を払い部屋に戻った。


◇◇◇◇◇


「めちゃくちゃ美味しかったね」


「はいです。空腹に染み渡ったのです」


 今回は危うくユキが餓死? してしまうところだった。ちょっと大袈裟だがユキにとっては、そのレベルの出来事だったのだ。


「やっぱりユキも、お金持ってた方が良いね」


「……また落とすかもなので、持たなくて大丈夫なのです」


「マジックポーチに入れておけば、大丈夫でしょ」


「それなら大丈夫……じゃなくて、マジックポーチも落とすかもなのです」


「ん? でも大人だから、お金持ってないと恥ずかしいんじゃなかった?」


「うっ……大人だけど持たなくて大丈夫なのです」


(……何か変な反応だな?)


「落とすかも以外に、何か理由あるんじゃない?」


「ギクッ……オロオロ」


「ユキ。何を隠してんのさ?」


「……お金を持ってると、食べることに使ってしまうです」


「そっかあ……。いざという時のお金だから、それを使うのはマズイなあ」


 どうやらユキは、お金を持つと使ってしまうので、持ちたくないようだ。フェリシア様のところで修行していた時も、買い物のお使いに出て、残ったお金で食べ物を買ってしまったりしていたらしい。もちろん、説教コース確定である……。


 天界? というのか、あちらの世界で俺は転生の間しか知らないので、買い物が出来る店や町などがあったのだろうか……。


 そういえば転生した時、フェリシア様が俺にもお金を持たせてくれたのは、ユキが使ってしまう可能性があると考えたのかもしれない。今回は使うのではなく、落としたのだが……。


 ユキは、どうしてもお金を持ちたくないようだが、今回のようなことがまたある可能性もあるので、お金は持っていて欲しい。


「うーん……あ! そうだ。ユキが使えるお金を持てば良いんだ!」


「ん? どういうことです?」


「地球ではね。『お小遣い』ってのがあるんだよ」


「地球の話なのです! ……ウレシイ」


 ユキに、お小遣いのことを話した。


「ヤマトさん! あたしは子供ではないのです! ……プンプン」


 説明に失敗したようだ……。子供メインで話してしまったので、ユキさんの機嫌を損ねてしまったようだ。大人でも、お小遣い制の人はいることを再度説明した。


「もう、ヤマトさーん。ちゃんと説明してくれないから、早とちりしちゃったのですう……テヘッ」


 ということで、ユキのお小遣い制を導入した。


 ユキのお小遣いは、革袋に入れてマジックポーチにしまうことにした。革袋は大きさが違うだけで、全て同じデザインなので、ちょっとわかりにくい。今度、財布が売ってないか探そうと思う。


 金額は、10日毎に銅貨3枚渡すことにした。1日計算だと鉄貨3枚使える。でも食いしん坊のユキのことだ、数日で無くなってしまうだろう。敢えて少なめに渡すのは、お金の使いすぎを気を付けるようになってもらうのが狙いだ。


 そして、いざという時のお金は革袋に銀貨3枚、銅貨20枚を入れた。それを、食料が入った革袋に入れる。数日で食料を錬金し直すので、その時に使っていないか確認することにする。


 もし、その時にお金が減っていたら、ユキは次のお小遣いは貰えないという罰にした。


「フェリシア様も転生の時に、色々学びなさいって言ってたし、これも勉強……じゃなくて修行だね」


「また修行なのです……ショボン。……でも! あたしは出来る子狐なのです! ……フンス」


(何だか、娘にお金の使い方を教えてるみたいだよ……。俺、前世でも独身なんだけどなあ。てか、ユキは女神の弟子なんだし、かなり長く生きてるんじゃね? もしかして、俺より年上なんじゃないか!?)


「ユキって何歳なの?」


「へ? いきなり何を言ってるです? 15歳なのです」


「いや、設定の方じゃなくて、本当の歳は?」


「チッチッチッ。ヤマトさん。れでぃーに歳を聞くのは、マナー違反なのです……キマッタ」


「……あ。俺が教えたやつか」


 ユキに教えた、地球の無駄知識を使われてしまった。何か、ごちゃ混ぜのような気もするが……。人差し指1本を左右に動かす動きも完璧である。何で俺は、余計なことばかり教えてしまうのだろう……。


 明日からは、ゆっくりするつもりだったが、オークションのことで色々と行くところが出来た。今日は、もう休んで明日に備えよう。

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