第34話 そんなん出来るかあ!

「うーん。今日も雨ですなあ。3日目か……。でも魔道寒暖機のお陰で、快眠だったぞー」


「すぴー、すぴー、アマッタケ、間に合った、ですう」


 ユキは昨日の、ハイオークとのアマッタケ争奪戦の夢でも見ているのだろう。ニット帽を被って寝たので、久々に髪が気にならずに爆睡出来ているようだ。折角の爆睡中なのだが、今日もレイニー探索をしたいので、申し訳ないが起こすことにしよう。


「ユキ。朝だよ」


「すぴー、すぴー、ですう」


「何か久しぶりだなあ、この起きない感じ。どうやって起こすか……。よし。こうしよう。……えいっ」


「はにゃ! あたしのクルンクルンを見るとは何奴! あっ、ヤマトさん、おはようです」


 ユキのニット帽を脱がせて起こしてみた。頭に寝汗をかいているようだ。魔道寒暖機を使って快適な温度にしていたつもりだが、やはりニット帽だと暑かったのだろうか……。


「ユキ、ニット帽だと暑いんでしょ? 頭に汗かいてるよ。ニット帽もびちょびちょだし」


「うきゃ! ニット帽返してです! ……ハズイ」


「ちゃんと汗ふいて、風邪引かないようにね」


「……はいです」


 ユキは寝汗でニット帽がびちょびちょなのが、恥ずかしかったようだ。普段のだらしない寝姿は、平気なのだろうか……。今日も凄い体勢で、服が捲れ上がってたりもしていたのだが……ナゾダ。


 少しだけ不機嫌だったユキだが、朝御飯を食べると、いつもの元気なユキに戻っていた。やっぱりユキは、食いしん坊キャラなのだ。


 食事を終えて準備をする。ユキは濡れたニット帽を、生活魔法のクリーンで綺麗にして乾かしていた。生活魔法は実に便利だ。これでユキも準備万端で、レイニー探索へ出かけられる。


 早速マップを確認すると、すぐ近くに名前の表示が無い魔物が複数固まっていた。


「おお! 魔物が5匹も固まって居るよ。名前無しだから、レイニーかな?」


「たぶんレイニーなのです。奴だと思うのです」


「見当ついてるんだね」


「はいです。ヤマトさん行きましょう」


「了解」


 まだ見ていないのに、ユキには魔物の正体がわかるようだ。歩くこと数分で到着した。


「これが正体か。ユキ合ってた?」


「はいです。固まっているのは、こいつらだと思ったのです。名前は、レインマイマイなのです」


 そこには、サッカーボールサイズの大きなカタツムリがいた。ユキによると、本体を倒すと溶けて消えるそうだ。殻と魔石だけが残って、その殻は美術品などになるらしい。殻はキラキラしていて、白色で透明感のある感じだ。確かに、美術品になりそうな輝きをしている。


 早速ユキに本体をサクッと倒してもらい、5個の殻と魔石をゲットした。少しずつだがレイニーの素材も増えて、買い取りが楽しみだ。


 またマップを確認すると、少し遠くに今度は単体で名前無しの印が二ヶ所あった。近くの方から確認に向かう。


◇◇◇◇◇


「あれかな? レイニーかい?」


「はいです。あれは雨羊あめひつじなのです。めちゃくちゃ水を弾く毛が特徴で、肉も美味しいのです」


 そこには、水色の毛をした羊がいた。地球では、白や茶色の印象があるので、かなり違和感がある。でも、凄く綺麗な水色をしている。


「あれなら俺でも倒せるかな?」


「大丈夫だと思うです。ヤマトさんが倒すです?」


「うん。まだ雨の日に、銃を使ってないからさ。一応、試しておきたくてね」


「なるほどなのです。ヤマトさん、ファイト!」


 俺はハンドガンを構え、狙いを定める。素材を無駄にしたくないので、狙うはヘッドショットだ。


パシュっ


「よしっ! 完璧!」


「お見事なのです!」


 一発で決めることが出来た。やっぱり命中補正の恩恵は、かなり大きい。雨の日でも、問題無く銃を使えることもわかった。


「ヤマトさん。ここで解体しても良いです?」


「待って。もう一つ名前無しの印があったから、それも確認しに行こう」


「そうだったのです。雨羊です?」


「あっ、検索に登録してなかった……。登録して……よし出来た。ん? 名前無しだ」


「またレイニーかもしれないのです。まだ見つけていないレイニーが、何種類かいるのです」


 もう一つの魔物の印を確認に向かう。


「うわあ、これまた綺麗な色だなあ」


 そこには、とても綺麗な青色のトカゲがいた。大きさは2メートルほどある。


「レイニーなのです。名前はレインリザード。こいつを狩るには、ちょっとコツが必要なのです」


「コツ?」


「まあ、見てて下さいです」


 そう言うとユキは隠密スキルを発動して、レインリザードに近づいていった。


(ん? 隠密だよね? コツなんて言うわりには、いつもユキが使う方法じゃん)


 何故ユキは、コツがあるなんて言ったのか謎だ。隠密状態でレインリザードの前まで行き、大きく右手を振りかぶった。


(そうそう。そこで気づかれずに、短剣でグサッでしょ。なんだよ、コツなんて勿体ぶった言い方して。……あれ? 短剣持ってない!?)


 ユキは短剣を持たずに、素手で振りかぶっていたのだ。その右手を握り締め、力一杯レインリザードの頭に振り下ろした。


ゴツンっ


「ゲンコツかよ!」


 思わずツッコミを入れてしまった……。


 ゲンコツを食らったレインリザードは、気絶しているようだ。ユキはレインリザードをひっくり返して、短剣で胸を一突きした。


「ヤマトさん。こんな感じで狩るのです。やってみるです? ……ニヤリ」


「そんなん出来るかあ!」


 またツッコんでしまった……。ユキの言い方からして、からかわれたようだ。今朝のニット帽の仕返しかもしれない……。


 仕返しのために態々こんな狩り方をしたのかと思ったら、本当にコツが必要らしい。何故こんな狩り方なのか、理由を聞いてみた。


 ユキによると、それはレインリザードの体質が関係しているという。


 レインリザードは興奮状態になると、青色から赤色に変化する。そして、死んだ時の色で固定される。そのため普通に戦闘して倒すと、赤色に固定されてしまう。赤色も綺麗なので素材として人気があるのだが、青色は更に人気で、かなり高額になる。


 雨の日にしか手に入らず、青色は素材ゲットが難しいことで特別感があり、これを持つのがステータスなのだそうだ。貴族や大きな商会の会長など、お金持ちに人気らしい。


 また、毒や麻痺などの状態になると、紫色になる。その紫色は、あまり綺麗ではなく不人気なので、買い取りされないことが多い。


 ユキが使った方法でも、失敗することはある。一撃で気絶させないと、興奮の赤色になったり、目眩状態で紫色になったりもする。一撃で確実に意識を刈り取るのが、コツだそうだ。


 他の方法は、気づかれる前に弓で仕留めたり、魔法で仕留めたりとあるようだ。しかしこれも色が変わったり、成功しても皮に傷が多いなど、買い取りが下がってしまうということだった。


「なるほどなあ。気づかれずに、一撃で仕留めるのがポイントか……。俺なら出来るかも!」


「……ヤマトさんは、ゲンコツする前にバレて赤くなるです」


「流石にゲンコツは無理だよ。でも俺には、これがある!」


「ハンドガンなのです……あ! さっき雨羊で見たのです」


「そう。ヘッドショットを決められたら、俺でも出来そうじゃない?」


「アリだと思うです」


「よーし。どっかにレインリザードいないかなあ」


 俺はマップを確認した。


「ああ!」


「きゃん! また、いきなり大きな声を出すです……ビビル」


「アマッタケが出た!」


「なんとっ! 何処です! 急ぐです! ヤマトさん早く教えてです!」


「あっち! 近いよ」


「うおー! ダッシュなのですー!」


 ユキのダッシュに付いていけずに置いていかれたが、無事に3本目のアマッタケを確保出来た。今回は魔物との争奪戦にはならずに、少しホッとした。


◇◇◇◇◇


 今は昼休憩中だ。午前中にレイニー素材が結構取れたので、少しゆっくりしている。


 昼ご飯前に、ユキには魔物を解体してもらった。雨羊は、魔石と肉と水色の毛がいっぱいの皮に分けられた。レインリザードは皮と魔石だ。肉はウルフよりも硬く食用には向かないので、廃棄にするのが基本のようだ。


 休憩を終えて、また探索に出る。レインリザードをハンドガンで狩りたいのだが、見つかるのはレインマイマイと、しずく花だった。しっかり回収して、またレインリザードを探すが、今度は雨宿りどりしか見つからない……。


 暫く探していると、遂にレインリザードの印が現れた。名前無しも、レインリザードの近くにいる。急いで向かうと、そこにはデカイ魔物がいた。


 その魔物は、レインリザードに近づいていく。レインリザードは体を赤く変化させて、興奮状態だ。


「へえ。赤く変化しても綺麗だな」


「ヤマトさん! 呑気なことを言ってる場合じゃないのです!」


「ん? どうしたの?」


「あの魔物は、レインリザードの天敵なのです! 名前はレインリザードイーターウォーターフロッグ、通称ウォーターフロッグなのです」


「名前ながっ! ……蛙っ呼ぼう。てか、イーター? あいつレインリザード食べるの!?」


「はいです」


「ヤバイじゃん!」


 折角見つけたレインリザードが、デカイ蛙に食べられてしまう。ユキが倒しに行こうとした瞬間に、大きな音が響いた。


パンッ


 ウォーターフロッグは、バラバラに破裂していた……。


「は!? 何が起きた? 攻撃を受けた?」


 近くには、レインリザードしかいない。マップで確認しても、周囲に魔物も人もいない。レインリザードは威嚇するばかりで、攻撃したようには見えなかった。何が起きたのか、さっぱりわからない。でもユキが、答えをくれた。


「……自滅したです。ウォーターフロッグは、体の中身が殆ど水で、皮がかなり薄いのです。移動する時に、木の枝に引っ掛かって破れたです……」


「……ちょっと悲しい魔物だね」


「……はいです」


「ちなみに、こいつの素材は?」


「魔石以外使えないのです。自滅が多いので、討伐報酬も無いのです」


「そっか……。雨の日にしか出現しないのに、自滅エンドか……。じゃあ、せめて魔石は使わせてもらおう。悲しき魔物に合掌……」


「合掌なのです……ナムナム」


 魔石を回収して、バッグにしまった。


「……あ。もしかしたら、あの皮使えるかも?」


「え? 何に使うです?」


 バラバラに破裂した蛙の皮を、1枚バッグに入れた。それを錬金にセットしてみた。


「おお、使える! 蛙よ。お前は俺には使える素材だぞ」


「何に使えたです?」


「レイニーという分類で、錬金可能だったよ。これで、他のレイニー素材をAランクに出来る」


「なんとっ! これは錬金には、お得な素材なのです……モウケ」


 レイニー素材錬金用に、バラバラに破裂した蛙の皮を回収した。


 対峙していたレインリザードは、まだ興奮状態で赤色だった。こうなると、なかなか青色に戻らないらしいので、ここを離れることにした。

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