第33話 これ売ると、お高いんでしょ?
「うーん。今日も雨音での目覚めかあ」
「ヤマトさん。おはようです」
「おはよう。今日も早起きだね」
「雨だと髪がクルンクルンで、気になって起きてしまうのです……ネムイ」
「雨音が気になって、とかじゃないんだね……」
ユキにとってはパーマっぽい髪型は、睡眠障害になるようだ。普段の爆睡を知っているだけに、少し可哀想だ。何か気を紛らす方法は、ないものか……。
「あっ! あれが使えるかも!」
「うわっ! ヤマトさんは、たまに急に大きな声を出すのです……ビビル」
「ごめんごめん。ちょっと思いついてね」
「何です?」
ステータスパネルを出して、あるものを錬金する。
「出来た! ……けど、あれ? 何か想像とは違うんだが……。まあ試してみなきゃ、わからんな。ユキ、これどう?」
俺はユキにニット帽を作りたかったのだが、出来上がったのは耳当て付きニット帽だった。
「ニット帽なのです! あれ? ヤマトさん、いつ買ったです?」
「買ってないよ。錬金用に端材を拾った時に、色々ゲットしてた物の一つだよ。錬金で直してみた。人族用みたいだから、耳の部分は穴を開けたら被れるでしょ? 髪のこと少しは紛れるかなと思って」
ユキは耳が出るようにナイフで穴を開けて、ニット帽を被ってみた。
「うひょー! クルンクルンが気にならないのです! ありがとうなのです!」
「それは良かった! 今度から雨の日は、これだね。イベリスに帰ったら、ちゃんと獣人用の帽子を買いにいこう」
「いらないのです。これが良いのです! この刺繍が最高なのです!」
「ん? 刺繍なんてあった?」
耳当て付きニット帽だったことで、寧ろ殆どの髪がカバー出来たようだ。ユキは髪が気にならなくなって、ニット帽を気に入ってくれたようだ。
ちゃんと見ていなかったが、ニット帽には刺繍がしてあった。茶色いニット帽に白い刺繍があった。フルールの言葉で『可愛い』と書いてある。簡単なイラストも小さく刺繍されていた。どうやら狐のようだ。
「マジか……。これって、可愛い子狐ってこと?」
「その通りなのです! 正にあたしのことを表していて、あたしが被るための運命の帽子だったのでしゅ! あっ、最後で噛んだです……ミスッタ」
「可愛い子狐って言葉に出会う確率が、異常に高過ぎるんだが……ナンデ」
予定外の刺繍には参ったが、ユキが元気になったので良しとしよう。朝食を済ませて、今日こそレイニーを見つけるべく探索に向かった。
◇◇◇◇◇
マップを確認するが、いつもの魔物ばかりだった。未確認でも魔物はマップで確認出来るが植物は無理なので、魔物をマップで確認しつつ植物のレイニーを探すことにした。
暫く探索すると、念願の初レイニーを発見した。
「ヤマトさん! あったです!」
「マジか! どれ?」
「あの花は、レイニーなのです!」
ユキが見つけたのは、地球でいうチューリップのような花だった。花の部分が透明な白色の花びらが集まって、しずくのような形をしていた。
「ついに発見かあ。これで、検索が使えるじゃん! ユキ、この花の名前は?」
「しずく花なのです」
花部分の見た目、そのままの名前だった……。早速、検索に登録した。採取しようとしたら、ユキに止められた。
「ヤマトさん、ちょっと待ってです!」
「ん?」
「しずく花は、土の下の球根まで取るのです。球根も素材なのです。あと花には甘い蜜があるので、溢さないように採取して瓶に移すのです」
「了解。気をつけて採取しなきゃだな」
ユキの指示通りに球根と蜜に注意して、無事採取が出来た。
「オッケー! 初レイニー確保!」
「やったのです!」
その後、午前中はレイニーを見付けられなかったが、依頼の魔物を1匹ずつ狩ることが出来た。もちろんユキが狩ってくれたのだが、昨日とは違い髪を気にする素振りもなく倒していた。ニット帽が、良い仕事をしているようだ。
昼休憩をする時に、ユキが雨で濡れたニット帽を絞っていた。どうやら戦闘の時は外套のフードを被らないので、結構濡れてしまうらしい。
「ユキ、タオルで髪乾かしなよ。でも、濡れるのは問題だな……」
「クルンクルンが気にならないので、濡れるくらい平気なのです。ちゃんと乾かすので、もーまんたいなのです!」
ユキはそう言うが、何か策を考えたいところだ……。
午後からもレイニー探索で、マップとにらめっこ中だ。そして遂に、魔物のレイニーを見つけた。
「ユキ! マップに名前無しの印がきた!」
「やったです! どっちです?」
「あっちの方だわ」
「れっつごー、なのです!」
二人でウキウキしながら、魔物の印に近づいて行く。初の魔物レイニーは……ハズレでした。
「ヤマトさん。あれはレイニーだけど、ハズレなのです……ザンネン」
「ハズレ?」
見つけた魔物は、レイニーではあった。鳥の魔物で、木の枝に止まっていた。見た目が真っ黒でカラスに似ている。
「素材は普通の鳥魔物と、変わらないか劣るのです。味も美味しくないのです」
「そっかあ。雨の日にしか出ないのに、残念な魔物だね……。名前は何て言うの?」
「雨宿り
「ん? アマヤ
「違うです。雨宿り
「……言いづらいわ。何か名前も残念だね」
この鳥魔物は名前の通り、雨の日に雨宿りをする魔物のようだ。レイニーは晴れの日には、何処を探しても見つからない。雨の日以外で、一度も見つかったこともない。昔から何人もの人が謎を解くために探索したのだが、痕跡すら見つかったことが無いようだ。謎が多い魔物、それがレイニーだ。
その中でも雨宿り鳥は、ただ雨宿りをするだけという謎しかない魔物だそうだ。しかも素材も肉も不人気とは……。狩るのは簡単そうだが、ここはスルー一択である。
検索に登録して、他のレイニーを探した。そろそろ今日も野営の準備かと考えていたら、ユキが別のレイニーを見付けてくれた。
「ヤマトさん! 今度は大当たりなのです! ……ヒャッホー!」
「お、おう。そのテンションで、大当たりってのが凄い伝わったよ。今度は何?」
「あの茸なのです。名前はアマッタケなのです!」
「アマッタケね。よし、登録完了。どれどれ……ん? あの見た目は、松茸じゃないか!?」
近くで確認してみると、これは間違いなく松茸だった。ユキに聞くと、フルールでも高級茸だという。雨宿り鳥でガッカリしただけに、アマッタケは一発逆転の発見だった。早速採取してバッグにしまう。これで新鮮なまま保存出来る。さて、このアマッタケどうしようか……。
「ユキさんユキさん。これ売ると、お高いんでしょ?」
「はいです。かなり良い稼ぎになるです」
「でもでも、美味しいんでしょ?」
「香りも味も最高だと聞いたです。でも食べたことは無いのです……ショボン」
「じゃあ、食べよう!」
「え!? 売らなくて良いのです?」
「だって美味しいなら、食べたいじゃん!」
「いやっほーい! あたしも食べたかったけど、稼ぎは大事なので言えなかったのです。ヤマトさん! ありがとうなのです! ……サンキュー」
ユキのテンションは爆上がりで、外套を着ているのにしっぽブンブン状態なので、凄いことになっている。どうやって食べようかレシピを思い出そうとしたが、別の案が浮かんだ。
「アマッタケは俺の素人料理じゃなくて、プロに頼もうと思うんだけど」
「プロ? ……あっ! レナードさんなのです!」
「正解! その方が、美味しく食べられそうでしょ」
「ナイスアイデアなのです!」
「レナードさんとオリガさんにも食べてもらいたいし、1本じゃ足りないよな……。ならば、マップ確認! ……あった! もう1本発見!」
「なんとっ! なかなか見つからないアマッタケも、マップ検索ならイチコロなのです。……あっ! ヤマトさん、アマッタケは魔物にも美味だったのです! 食べられちゃうのです!」
「マジか!? 魔物なんぞに食わせてなるものか! ユキ、
「かしこまりーです!
ユキに
「ユキ、ヤバイ! アマッタケに、ハイオークが近づいてる!」
「むきー! 絶対に負けないのですー!」
ユキは更に加速して、アマッタケを目指す。森の中なので木を避けながらなのに、平原で乗った時より速い。食べ物が絡むと、ギアが上がるようだ。流石は、食いしん坊キャラのユキさんだ。
「見えた! あのハイオークだ。でも、間に合わない!? 取られる!」
「さあ、せえ、るう、かあーーーーー!」
ユキは今までに聞いたことがない大声で叫び、ハイオークに迫る。凄まじいスピードからジャンプ一閃で、ハイオークの首を落とした。綺麗に着地を決めて、アマッタケのところへ歩いて近づく。
「間に合ったのですう……ルンルン」
「お、おう。ユキ、グッジョブ」
(ビビったー! スピードはヤバイし、あの叫び声とかジャンプとかメッチャ怖いし! 俺は自分を誉めてあげたい。よくチビらなかったと。大人としての尊厳を守ったぞと。グッジョブ!)
ユキから降りて震える足がバレないように隠しつつ、アマッタケとハイオークを回収した。その後マップを確認すると、近くにしずく花があったので、それも採取して今日の探索を終了した。
野営の準備をしてテントの中にいる時に、少し寒いと感じた。雨が続いているせいか、気温が下がっているのだと思う。探索中は温度調整された外套を着ていたから、わからなかったようだ。
「震えるほどではないけど、少し寒いな。……あっ、魔道具あるじゃん!」
「どうしたのです?」
俺は魔道具を取り出す。
「少しだけ寒いけど、これあったじゃん! って思ってね」
「ん? あっ、魔道寒暖機なのです!」
これも、ゴミ拾いで見つけたものだ。夜の間は魔道寒暖機を使って、快適な温度で寝ることにした。
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