第30話 お願いってことは……何か食べたいの?

「うーん。昨日は疲れたなあ」


「すぴー、すぴー、悪者、確保、ですう」


 盗賊を捕まえたことで、昨日の夕食の時に他のお客さんから質問責めにあったのだ。通信イヤーカフのことなどは秘密にして、ユキが上手く誤魔化していた。


 あれから盗賊達の取り調べは、どうなったのだろう。あとでギルドに行って、バルディさんが居たら聞いてみよう。


 朝食を食べて、ギルドに行ってみる。買い取りカウンターに、バルディさんが居たので聞いてみた。


「バルディさん、おはようございます。あれから盗賊達は、どうでした?」


「おう、おはよう。昨日はお疲れさん。ちょうど良かった。お前達に、報告しようと思ってたんだ」


 盗賊達の取り調べはゴルディ、バルディ兄弟で行ったようだ。盗賊達は諦めたのか、それとも怖かったのか……ペラペラ話したらしい。もし俺が取り調べされたなら、多分怖くて話してしまうと思う……。


 タブレット端末風魔道具の印は、アジトの宝物部屋の鍵穴を示しているという。銀のペンダントトップで鍵をかけた、部屋、建物、バッグなどは鍵以外で開かないし、壊したりも出来なくなるという魔道具セットだそうだ。今回は部屋に鍵がかかっているので、建物は壊せても部屋は絶対に壊れないらしい。


 場所も状況もわかったので、準備が出来次第アジトに踏み込むようだ。盗賊達の捕縛と盗品の確保が終了したら、今回の盗賊二人を捕まえた報奨金が出るという。


「てな感じでな。報奨金は少し待ってくれ。あと踏み込む冒険者だが、Dランク以上に声をかけている。すまんが二人は参加できん」


「大丈夫です。元々俺は対人戦向きじゃないので、役に立てません。報奨金もボーナスって感じで、焦らず待ってますよ。ユキも良いよね?」


「はいです。バルディさんも、アジトに行くのです?」


「おう。本当なら兄貴の方が良いんだろうけど、ギルマスがホイホイ出かける訳にもいかんからな。兄貴が出るのは、緊急時のみなんだ」


「あたしは、バルディさんも強いと思うのです! 悪者退治を頑張るのです……ファイト」


「ハハハっ。悪者退治か。そうだな、頑張ってくるさ。ありがとよ」


 盗賊のことも聞けたので、依頼の確認をしに掲示板に移動する。するとヴァニラさんが、依頼を張り付けているところだった。


「ヴァニラさん、おはようございます」


「おはようです」


「おはようございます。この後、お二人のところに行くつもりだったんですよ」


「はい? 何かありました?」


「指名依頼がきてますよ」


「マジですか!?」


 受付に移動して詳しく話を聞く。指名してくれたのは、薬師ギルドのギルマスだった。


「そういえばサマシ苔の依頼の後で、ボーナスのお礼をしに薬師ギルドに行ったんです。その時に、今度指名するって言ってました」


「そうだったんですね。サマシ苔の依頼達成で、薬師ギルドの信用を得たんですね。ギルマスから指名されるなんて、凄いですよ!」


 ヴァニラさんに褒められた。彼女も最近は仕事でのミスも無く、前より生き生きしていて、それも併せて嬉しいと感じた。


 今回の依頼内容は、魔物素材の調達のようだ。薬師ギルドで詳しく聞いてから、受けるか決めて良いそうだ。まずは、薬師ギルドに行ってみることにした。


◇◇◇◇◇


「薬師ギルドに、ようこそ。ご用件を伺います」


「冒険者のヤマトといいます。依頼の件で来ました。ギルマスに伝えて頂けますか?」


「ヤマト様とユキ様ですね。お待ちしておりました。ご案内致します」


 前回も思ったが、薬師ギルドは対応が早い。すぐにギルマスの部屋へ案内された。


「ヤマト様、ユキ様。来てくれて、ありがとう」


「いえ。こちらこそ、指名依頼ありがとうございます」


「じゃあ早速、説明するわね」


 挨拶もそこそこに、ギルマスのエルダさんが説明を始める。


 今回の依頼は、東の森の奥に生息している魔物三種を討伐して、納品して欲しいとのことだった。


 討伐により魔物の部位欠損があった場合、回収出来るなら全て回収して欲しい。ベストは、全身が揃っている状態である。対象の魔物はオーク、ハイオーク、フォレストベアーで、各2体を納品して依頼達成となる。


「なるほど……。これってEランク冒険者には、ちょっと厳しくないですか?」


「そうね。最低でもDランクパーティー案件だと思うわ」


「ですよね……。どうして俺達を?」


 エルダさんの説明によると、冒険者ギルドに依頼に行ったら、Dランク以上の案件だと言われた。その条件で依頼しようと思っていたが、ちょうどDランク以上の冒険者に特別依頼が入っていて、みんな予定がつかないと言われてしまった。どうやら、盗賊のアジトに向かう案件のようだ。


 そこでエルダさんは、ゴルディさんに俺達のことを話したらしい。薬師ギルドに来た時にダンジョン産のオークとハイオークの睾丸を売ったことから、この依頼も受けられるだろうと。ゴルディさんは悩んでいたようだが、本人が受けるならかまわないと許可したようだ。


「そういうことだったんですね。依頼内容は、わかりました。でも、この量だと運ぶのに何往復か必要です。まとめて納品は難しいと思いますけど、大丈夫ですか?」


「そこは考えてるわよ。マジックバッグを貸し出すから、それに入れて来て欲しいの。今回の三種なら10体は入るはずよ」


 その他の依頼内容も併せてまとめると、依頼完了期限は受注から15日以内。


 各2体納品で、依頼報酬の大銀貨10枚、銀貨30枚が支払われる。これには、魔物の買い取り金額も含まれている。


 余分に納品出来た場合、オーク1体が銀貨3枚、ハイオーク1体が銀貨15枚、フォレストベアー1体が銀貨20枚での買い取り。


 各2体の納品が無い場合は、依頼失敗になる。1体でも納品出来たら、違約金は発生しない。ただし、納品出来た分の買い取りは半額になる。


「以上が依頼内容よ」


「期限があるんですね。初めて受けるタイプです」


「それはね、定期的に薬が必要な人も居るから、どうしても期限までに納品して欲しいの。あとはね、期限を決めないと見付けるまで帰って来ない冒険者も、たまに居るのよ……」


「なるほど……。この三種の魔物って、見つけにくいんですか?」


「そこまでレアな魔物ではないわ。ただ、生息地がある森の奥まで行くのに、徒歩で2日は必要なの。簡単に行き来する距離じゃないから、粘りたくなっちゃうみたいね」


「わかりました。ユキ、受けても良いかな?」


「はいです。あたしがバッグいっぱい魔物を討伐するです!」


「あら、ユキ様はお強いのね」


「はいです! あたしはお強いのです」


「自分にお強いって……。じゃあ討伐は、お強いユキ様に任せるよ」


「かしこまりーです」


「エルダさん、この依頼お受けします」


「ヤマト様、ユキ様、ありがとう。では準備をするから、もう少し待ってね」


 エルダさんは受付の人を呼び、契約書とマジックバッグを用意した。契約書にサインをしてマジックバッグを借りる。マジックバッグは、リュックのタイプだった。


 契約書を持って冒険者ギルドへ行く。受付にヴァニラさんが居たので、依頼を受けたことを伝えた。ここでも受付を済ませて、遠出の準備を始める。まずは、市場に買い出しに向かう。


「ヤマトさん。お願いがあるのです」


「ん? ユキがお願いってことは……何か食べたいの?」


「なんとっ! 何故わかったのです? ……フシギ」


「前のお願いが、サマシ苔ダンジョンの時の『ショウガン焼きが食べたい』だったからねえ」


「そういえば、お願いしたです。今回は野営の時に、ハンバーグが食べたいのです!」


「おお、良いねえ。じゃあ今日の夕食は、ハンバーグにしよう」


「ありがとうなのです!」


 ユキのリクエストに応える為にも、市場でしっかり食材を買った。幾つか新しい食材も見つけたので、買っておいた。別の料理に使える可能性もあるだろう。その後、宿に遠出の連絡をして森に向かった。


◇◇◇◇◇


 森に到着して、魔道具を取り出す。


「さて、森に到着。今回は、これを使おう」


「ランタンなのです。ヤマトさん、まだ暗くないのです」


「明るくする為じゃなくて、魔物避けにしようと思ってね」


 以前のゴミ運びで拾った、魔物避け(小)の機能が付いたランタンを準備した。目的地まで2日かかるようなので、余計な戦闘を避けるつもりだ。


「ユキに乗ったら数時間で着くかもだけど、森の中だと走りにくいでしょ?」


「はいです。走れないことはないですけど、平地より疲れるのです……キツイ」


「ですよねー。だから今回は、戦闘を避けて歩いて行こうと思ってね。あとヤック草とかも少し採取したいし」


「了解なのです」


 ランタンを点けて森を進む。予定通り、魔物は近寄ってこないことがマップでわかる。順調に進み、途中休憩を挟みつつ歩くと昼になった。昼食は保存食を食べることにした。食事を終えて、ここで一仕事しようと思う。


「さて、ちょっと作業するね」


「ん? 採取なのです?」


「違うよ。この辺では採取しない」


「この辺では?」


 今いる辺りは、まだ森の手前の方である。G、Fランクの冒険者が、採取に来れる距離なのだ。低ランクにとって常設依頼の採取は、大切な収入源である。自分自身も、そうだった。


 今回は森の奥が目的地なので、その辺りで採取をするつもりだ。そこまで行けば、低ランク冒険者が採取に来ることは無いだろう。


「なるほどなのです。じゃあ作業って何です?」


「夕食の仕込みをするのさ」


「うひょー! ハンバーグなのです!」


「そこでユキ隊員に指令だ。フォレラビを狩って、解体するのだ。今夜のハンバーグは、君の手にかかっていると言っても過言ではない!」


「なんとっ! 重大な指令なのです……ヤルゾ。ヤマト隊長、らじゃーなのです! 行って来るのです!」


 ユキは張り切って、獲物を探しに行った。俺は夕食の下準備にかかる。まず取り出したものは、マジックポーチだ。俺が冷蔵庫ポーチと名付けたものだ。昨日寝る前に、少しだけ実験をしてみた。


 冷凍出来る設定にして、カップに水を入れたものをポーチに入れる。時間を早める設定もして、少し待った。その後カップを確認すると、水は凍っていた。


 また別のカップに水を入れて、ポーチに入れる。今度はポーチを錬金袋に入れて、同じくらいの時間待つ。錬金袋からポーチを取り出し、カップを確認すると水のままだった。


 錬金袋は時間停止機能があるので、冷蔵庫ポーチの中身にまで作用するかを確認したかったのだ。この実験により、ポーチの中身にまで時間停止が及ぶことがわかった。つまり肉を漬け込んだりする場合は、錬金袋にしまってはいけないのだ。


 今夜の料理用に肉の漬け込みをしたいので、今から下準備がしたかったのだ。色々作業をしていると、ユキは15分程でフォレラビを2匹仕留めて来た。


「ヤマト隊長! 帰還したのです。ターゲットを2匹仕留めて来たです。これから、解体作業に入るのです」


「ユキ隊員、よくやった! 解体作業に移れ」


「らじゃーなのです!」


 その間に俺は、ハンバーグの下準備を進めるのだった。

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