第29話 ユキ、軽く脅してくれる?
「うーん。今日で青空市も終わりかあ」
「すぴー、すぴー、あるふあ、どうぞ、ですう」
ユキは通信イヤーカフを、気に入ったようだ。今日で宿代の前払い分が終わったので、朝食を食べた時に食事代と追加で10泊分の代金をオリガさんに渡した。
今日は青空市の最終日。ここにきて新しい行商人は、来るのだろうか……。それでも予定通りに、中央広場へ行くことにする。
◇◇◇◇◇
「初日と比べたら、かなり空いてるね」
「見た顔の行商人さんばかりなのです」
それでも広場を一周してみる。すると、一人だけ新しい行商人を発見した。
「あのー、すいません。俺達毎日来てたんですけど、昨日も居ましたか?」
「いえ、昨日の夜にイベリスに着きまして、何とか今日1日だけ参加出来たんです……」
悲しい顔をする行商人に話を聞くと、イベリスには遅くても青空市3日目の夜には着く予定だったそうだ。だが、途中でトラブルがあって、到着が遅くなってしまったようだ。今日1日だけだが少しでも売りたいので、少しはサービスしますと言われた。
早速ユキの魔力感知に、反応があった。革のポーチと、銀のペンダントトップだ。その他にも、素材に使えるものが幾つかあった。
革のポーチ 銅貨3枚
銀のペンダントトップ 銀貨1枚銅貨2枚
鉄の指輪 銅貨2枚
銀のイヤリング 銅貨7枚
銅のブレスレット 銅貨5枚
銅の指輪 銅貨3枚
新しく銅のアクセサリーを見つけた。一応、錬金素材用に買うことにした。合計で銀貨3枚銅貨2枚のところを、銀貨3枚で売ってくれた。行商人は、複数売れたことを喜んでいた。
その後ギルドで討伐依頼を受けて、東の森に向かった。
◇◇◇◇◇
森の中に入り、マップで魔物を探す。今日の討伐対象はウルフだ。しかし、なかなかウルフが見つからず、うろうろしつつマップとにらめっこしていた。その時に気がついた。
『ユキ、リアクションしないで。ここから少し念話でよろしく』
『はいです。何かあったです?』
『森に入ってからマップ見続けてるんだけど、ずっと付いてくる奴が二人いる。そう見えるだけかな?』
『うーん……色んなところを歩いていたので、たまたまでは無いと思うです。それは怪しいのです。どうするです?』
どうやらつけられているようなので、ユキに作戦を伝えた。ここからは作戦を決行する。まずは二手に別れて、魔物を探すフリをした。すると二人は、俺の方に付いてきた。ユキに通信して状況を説明する。ユキは二人に気付かれないように、二人の後ろに回り込んだ。
『ヤマトさん。いつでもいけるです』
『了解。それじゃあ、カウントいきまーす。3、2、1、ゴー!』
俺とユキは、二人に向かって走り出した。マップからも二人がパニック中なのが、何となく伝わる動きをしていた。ユキが
「お二人さん。俺達に何か用でも?」
「「……」」
どうやら、話す気は無いらしい。ここは、ユキに任せよう。俺達を知っててつけて来たのか、たまたま俺達だったのかわからないので、名前がバレないように一応念話で話す。
『ユキ、軽く脅してくれる?』
『かしこまりーです』
「がるうー!」
「「ひいっ!」」
「もう一度だけ聞く。次は威嚇だけじゃ済まないから、そのつもりで。俺達に何か用か?」
「わ、わかった! 話す! 話すから!」
二人はユキの威嚇に怯えて、話をする気になったようだ。俺もショウガンの畑で体験したが、これはマジで怖いのだ……。
二人から話を聞くと、やはり盗賊だった。ということは、たまたま狙われたのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。
男は魔道具を俺に渡した。地球のタブレット端末のようなものだ。画面には印が二つあり、一つは今いる場所にあった。この魔道具は、ある持ち物の場所を表示する魔道具だという。それは、俺が持っている銀のペンダントトップだった。まだ鑑定していなかったので、確認してみる。
銀のペンダントトップ Bランク
位置情報発信(隠蔽)
鑑定してみると、位置情報発信の機能があり隠蔽で見えなくされていたようだ。これがユキの魔力感知に、反応したらしい。折角の隠蔽も、錬金袋Sランクの鑑定には全て丸裸なのだ。
この銀のペンダントトップは、鍵なのだそうだ。先程のタブレット端末風魔道具の、もう一つの印が鍵穴を示しているという。
これを俺に売った行商人のトラブルというのは、こいつらのことだったようだ。乗り合い馬車を襲ったのだが、護衛に返り討ちにあい逃げた。その時に、ペンダントトップを落としたようだ。それを拾った行商人が、どういう品物かも調べずに売り物にしたようだ。
盗賊達はタブレット端末風魔道具の印から、イベリスにたどり着いた。しかし数人に顔を見られていたので、騒ぎになる可能性も考えて町には入らなかったようだ。誰がペンダントトップを持っているのかもわからなかったので、魔道具の印が町を出るのを待っていたらしい。そして、今に至るということだった。
「なるほど。あの行商人に、とんでもないもの売られちゃったな」
「イベリスに戻って、こいつらを守衛さんか、ギルドに引き渡すのです。まだ行商人も居るはずなので、あいつもギルドに報告なのです」
作戦が無事に成功し、盗賊の目的も聞き出すことが出来た。イヤーカフの念話機能があっての成功だろう。早速、役に立って良かった。
盗賊二人を、ロープで縛り連れていく。逃げ出しそうな素振りも若干あり、注意しながら歩いていた。さっきの威嚇で観念したと思ったのだが、そこは盗賊の意地なのか逃げるチャンスを狙っているようだ。
しかし途中で、今日の獲物だったウルフを見つけてユキが人の姿で5匹を瞬殺すると、盗賊達はとても素直になった。
◇◇◇◇◇
イベリスの門が見えたので、ユキに盗賊を任せて俺が先行して守衛に説明することにした。顔見知りの守衛さんが居たので、状況を説明した。すると守衛さんが指示を出して、二人がユキのところへ走り、もう一人が冒険者ギルドへ向かった。俺と守衛さんは、中央広場に例の行商人を確保しに向かった。その後、商人ギルドへ行き状況を説明した。
行商人は拾ったものを、どういうものか確認もせず売ったことにより、商人ギルドからお叱りを受けた。俺が払ったペンダントトップの代金は、返還された。
「沢山買ってくれたのに、御迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……」
トラブルのせいで参加が遅れたので、少しでも売り上げが欲しくて、拾ったものを売り物にしてしまったようだ。
代金も返ってきたし、行商人も厳重注意されていたし、さらには商人ギルドからの丁寧な謝罪もあって、今回は許すことにした。
その後守衛さんと門に戻ると、盗賊二人は門の詰所にある牢屋に入れられていた。そこにはユキとバルディさんが居た。
「おう、戻ったか。お前達は凄いな。今度は盗賊か」
「何だか、イベントがよく起こる人生みたいです……」
盗賊の取り調べは、冒険者ギルドが担当するようだ。バルディさんに銀のペンダントトップとタブレット端末風魔道具を渡すと、今日は帰って良いと言われた。後日、呼び出しがあるようだ。
冒険者ギルドへ討伐依頼完了の受付をしに行くと、マリーさんに声をかけられた。
「ヤマトさん、ユキさん、お疲れ様。無事で何よりです。大変でしたね……」
「マリーさん、無事戻りました。まあ、怪我もしてないし問題無いですよ」
「マリーさん! あたし達は悪者を捕まえたのです……エヘン」
「そうですね。でも、無理はしないで下さいね」
「はいです」
そのまま討伐完了の受付をしてもらい、青空市の屋台で昼食を食べることにした。何軒か回って食事をして、保存食も確保した。あとは宿に戻って、買った物を吟味することにした。
◇◇◇◇◇
「あんた達、今度は盗賊を捕まえたんだって。大したもんだね!」
「はい。何か巻き込まれちゃいました……」
(また、情報早いし。てことは……)
食堂の中を見渡すと、見知った顔があった。やっぱり、町内応援団先輩達だった。あの人達って、情報収集は早いし、気がついたら居るし、何だか忍者っぽいと思ってしまう。実は先輩方は、凄い冒険者のような気がしてきたのだが……。
部屋に戻って、今日買った品物を確認することにした。
革のポーチDランクは、ユキの魔力感知に反応があったものだ。鑑定では特殊な能力は無いので、壊れているのだと思う。早速、錬金して確かめる。
マジックポーチ Aランク 錬金素材 革の切れ端
容量拡張(中) 保冷機能(大)
「マジか!?」
「うきゃ!? ビックリしたです! 何事なのです?」
「おっと失礼。革のポーチを錬金したら、マジックポーチだったのさ」
「なんとっ! 確か銅貨3枚で買ったのです……ラッキー」
しかも料理の時にあったら良いなあと思っていた、保冷機能まで付いていた。これでショウガン焼きを漬け込む時などに、冷蔵庫代わりに使える。錬金袋のマジックバッグでは時間が停止しているので、漬け込みが進まないのだ。
しかし何故、壊れたマジックポーチではなく革のポーチと鑑定されたのだろう。予想だがマジックポーチの機能は壊れていたが、革のポーチとしては問題無く使えるので、ただの革のポーチと鑑定されたのだと思う。俺の鑑定ではわからなくても、ユキの魔力感知はお宝が見つけられるのだ。流石はチートユキさんだ。
その他は、錬金用の素材になるものだ。
鉄の指輪 Bランク
銀のイヤリング Dランク
銅のブレスレット Cランク
銅の指輪 Cランク
今回買ったものでマジックポーチの機能は、凄く嬉しいものだった。これは料理用に使うつもりだ。俺の中ではマジックポーチではなく、冷蔵庫ポーチと呼べる逸品だ。
「どうせなら、Sランクにしちゃうか。面白い機能付くかもしれないし」
「マジックポーチです?」
「そう。このマジックポーチは、料理に便利な機能なんだよね。Sランクにしたら……」
「もっと便利な機能が付くかもなのです! もしかしたら、ヤマトさんオリジナル料理に繋がるかもしれないのです。これはSランクにするべきなのです! ……ジュルリ」
「お、おう。やっぱりユキって、食いしん坊キャラだよなあ……」
マジックポーチ Sランク
容量拡張(大) 保冷機能(特大)
時間経過(中) ポーチ内仕切り
「お! これは……」
時間経過(中)の説明を確認してみる。通常通りの時間経過から、4倍速く時間が経過するように設定が出来るようだ。60分がポーチの中では15分で済むようだ。これなら、漬け込み作業の時間短縮が出来る。
さらに、保冷機能が特大になったことにより、冷凍も出来るようになったようだ。すぐには思い付かないが、料理に役立つこともありそうだ。
今ここにネット環境があれば、すぐに調べていたことだろう。実に残念だ。多少の自炊経験と、テレビ番組や小説知識を思い出せたら、何か新しい料理に使いたいものだ。
ポーチ内仕切りとは、仕切られたそれぞれに時間経過、保冷機能を個々に設定出来るようだ。片方は冷蔵で、片方は冷凍に設定したり出来る。これはもう、冷蔵庫そのものになったようだ。
「どうなったのです?」
「新しい機能が付いて、便利になったよ。今はまだ、新作を思い出せないけど……ゴメン」
「なんとっ! それならこの先、チャンスがあるかもなのです! ……キタイ」
マジックポーチのランクをAランクに書き換えて、機能もAランクと同じ状態に偽装しておく。
こうして若干のドタバタもありつつ、良い品物や素材を沢山ゲット出来た5日間の青空市は終了した。
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