第28話 独り言に思われるとか考えもしなかったよ……

 続いてイヤーカフの錬金だが、素材が銀なので今回買った銀のイヤリングを使う。錬金にセットしたところ、素材の量は1組のイヤリングの片方で間に合った。


 壊れたイヤーカフを直して、Aランク品にした。さらにBランク品のイヤーカフも、Aランク品に錬金した。今回の錬金で、買ってきた銀のイヤリングDランク2組を全部使った。青空市の残り日数で、また錬金用の素材を見つけたいところだ。


 完成したイヤーカフは、4個全て同じ性能になった。元々4個1組で仕入れたものだと、マシューさんが言っていた。パーティーで使うことが、前提だからなのだろうか。


通信イヤーカフ Aランク

 落下防止(大) 通信距離(大)


 どのように使えるのか、試してみようと思う。ユキにイヤーカフを装備してもらい、宿の外に行ってもらう。俺も装備して、通信を試してみる。イヤーカフに集中して、話してみた。


「こちらアルファ。ブラボー応答せよ。どうぞ」


『こちら、ぶらぼーなのです。聞こえるです。どうぞなのです』


 折角なので、無線連絡風の地球ごっこで会話してみた。イヤーカフに集中するのも難しくなく、快適だった。


『あるふあ、大変なのです。どうぞです』


「ん? ブラボーどうした!? 問題か? どうぞ」


『周りの人から、独り言の可哀想な子狐に見られているのです……グスン。どうぞです』


「……あ! ブラボー今すぐ帰還しろ! どうぞ」


 フルールでの通信は、一般的ではない。通信魔道具はあるのだがギルドなどにしか無いため、一般の人には馴染みが無いのだ。


 地球でなら携帯電話で話している人も居るので、独り言に思う人も少ないと思う。それでもイヤホンマイクで話している人を、一瞬独り言に見えてビックリすることもあった。携帯電話など無いフルールなら、完全に独り言状態だったことに、気がつかなかった……。


 ユキが部屋に戻ってくると、半べそだった。


「ユキごめん! 地球だと似たような通信魔道具を殆どの人が持ってたから、独り言に思われるとか考えもしなかったよ……」


「周りの視線が痛かったのです……ショボン」


「これじゃあ、町中では使いにくいね。そもそもダンジョンとか、依頼で行くような森とかで使う想定なんだろな。でも町中で使えたら、便利かもしれないしなあ。毎回、残念な人に見られたくないし……。うーん……一応やってみるか」


 このままでは通信の度に残念な人に思われてしまうので、イヤーカフもSランクにしてみることにした。


 今まで錬金したSランク品は、Aランク品より飛び抜けた機能が付く場合が多いので、声を出さなくても通信出来る機能に期待している。試しに、装備していないイヤーカフを一つ錬金してみた。


通信イヤーカフ Sランク

 落下防止(大) 通信距離(特大) 念話機能


「やっぱり付いたか……。錬金袋Sランクは、有能過ぎる……コワイ」


 早速装備して試してみる。


『ブラボー聞こえるか? どうぞ』


「え!? ヤマトさん……あたしは、もうダメかもしれないのです……。幻聴が聞こえるのです……グスン」


『幻聴じゃないよ。Sランク品にしたら、声出さなくても通信出来る機能が付いたのさ』


「なんとっ! あたしもSランクにして欲しいのです! もう可愛そうな子狐はイヤなのです!」


 もう一つSランクにして、ユキが装備する。


『こちら、ふらぼーなのです。声を出さなくても良いなんて、ナイスなのです! どうぞ』


『こちらアルファ。町中でも使えるようになったね。どうぞ』


 これで、町中で内緒の相談も可能だ。はたして、使う場面があるのかは謎だが……。偽装スキルでAランクに書き換えて、念話機能を見えなくしておく。


 錬金や通信実験をしていたら、結構な時間が経っていた。そろそろ夕飯の時間だ。


 一階に降りると、オリガさんに何を食べるか聞かれた。


「ユキ、次はどっちだっけ?」


「Aセットなのです!」


「あいよ。Aセット二つ!」


 ここでの食事は何を食べても美味しいので、毎回二種類なのに悩んでしまうのだ。そこでユキが編み出したのは、メニューを見ずに交互に頼む作戦だった。流石は食いしん坊キャラのユキだけあって、順番は絶対に間違えないし忘れないのだ。本人は、食いしん坊キャラを否定するのだが……。


 レナードさんが、出来上がった料理を持って来てくれた。


「はいよ。Aセット二つ、お待ち」


「これはっ!」


「なんとっ!」


「作ってみたら、旨くてな。早速メニューにしたぞ」


 今日のAセットは、ボア肉のショウガン焼きだったのだ。


「どうだ?」


「う、旨い! 俺のレシピより、美味しいですよ!」


「美味しいのですう」


 レナードさんは昨日の夜に教えたレシピを、次の日の夜にメニューにしたのだ。俺の教えたレシピをアレンジして、約1日でメニューに出来るまでのものにしたのだと思う。その一工夫で、料理の出来は全く違うのだと感じた。やっぱりレナードさんは、凄い料理人だと思った。


「そうか。そこは一応、料理人の意地だ。教えてくれて、ありがとな」


 そう言ってレナードさんは、1枚のメモを俺に渡して厨房に戻って行った。そこには、レナードさんのショウガン焼きレシピが書いてあった。


「ユキ。レナードさんの、ショウガン焼きレシピ貰っちゃったよ。これで野営でも、この味が食べられるよ」


「やったのです! でも、ヤマトさんのショウガン焼きがあったからなのです。ぐっじょぶ、なのです!」


 これで野営でも、より美味しい食事が楽しめそうだ。


「いらっしゃい。4人かい?」


「おう。ここ使うぜ」


 新しくお客さんが入ってきて、テーブルに着いたようだ。オリガさんが注文をとる。


「いつもありがとね。今日は、どっちにする?」


 どうやら、常連客のようだ。


「ん? 女将さん。この良い匂いは何だい? 初めてだと思うんだが」


「これは新作だよ。食欲をそそる良い匂いだろ。味も絶品だよ」


 常連さん4人は、Aセットを注文していた。


 俺達が食事を終えて二階へ戻る時に、さっきの常連さん達のショウガン焼きがテーブルに運ばれたようだ。


「「「「う、うめーーーーー!」」」」


「あの人達も、ショウガン焼きの虜かもね」


「ショウガン焼きは、世界を救うのです……あーめん」


「変な宗教作んないでよ……」


 ショウガン焼き教が爆誕しそうなので、全力で止めようと誓ったのだった……。


 それから暫く部屋でゆっくりしていたら、オリガさんが訪ねて来た。まだ夕飯のピークは終わっていないから、忙しいはずなのに何故だろう。


「オリガさん、どうかしましたか? まだ夕飯時ですよね?」


「休んでるとこ、ごめんね。あんた達に、お願いがあって」


「お願い? 何ですか?」


「実は……」


 オリガさんのお願いとは、ショウガンを持っていたら分けて欲しいとのことだった。


 新作のショウガン焼きが大ヒット中だそうで、追加で仕込みをしたのだが、ボア肉はあるがショウガンが無くなってしまったようだ。追加で仕込みをした分でも足りなくなりそうで、今日の残り時間もちそうにないらしい。


 もう市場は終わっているので、買い出しには行けない。そこで野営用に俺達が持っているかもと思い、訪ねて来たということだった。


 オリガさんから見えない位置に移動して、錬金袋のバッグを装備する。以前ユキがブチギレした時に市場で買ったショウガンを、革袋に入れた。


「これ使って下さい」


「ありがとう。助かるよ。明日代金を払うから」


 そう言うと、オリガさんは急いで一階に戻って行った。


「ユキ。ショウガンが減っちゃったけど、ちゃんと残してあるから怒んないでよ」


「なんで怒るです? 困っている人を助けるのは、当然なのです! そんなことで、あたしは怒らないのです」


「えー、あの時ブチギレしたユキは、何だったんだよ……リフジン」


 美味しいショウガン焼きを食べた後だったからか、ユキは優しい女神モードだった。何か解せぬ……。


◇◇◇◇◇


 一夜明けて朝食の時に、宿の夫婦にめちゃくちゃ感謝された。ショウガンの代金を貰い、朝食もご馳走してくれた。


 今日は青空市の2日目だ。中央広場に行ってきたが、新しい行商人は居なかった。マシューさんと軽く話をして、冒険者ギルドに行き討伐依頼を受けた。


 依頼を完了し受付を終えて、宿に戻った。今日は特に変わったことも無く、1日を終えた。


◇◇◇◇◇


 青空市3日目だ。今日も中央広場に行く。数人新しい行商人が居たので、覗いてみた。幾つか素材用に購入した。


鉄の指輪 Bランク 銅貨1枚鉄貨5枚


銀のイヤリング Bランク 銀貨1枚銅貨6枚


鋼のナイフ Cランク 銅貨7枚鉄貨7枚


 やはり行商人が違うと値段も変わるので、マシューさんから買った鋼のナイフよりランクは低いのに、値段は少し高かった。こういうことも含めて、良い品物を安く見つけるのも青空市の醍醐味なのだろう。


 またマシューさんと話したが、今回の青空市は、かなり良い売り上げになったようだ。どうやら、俺達が沢山買い物していたのを見ていた人がいて「あの行商人は良い品物を扱っているようだ」と噂していたらしい。その噂が広まって、沢山のお客さんが買い物をしてくれたようだ。


 お陰で商品も殆ど無くなったので、明日の朝イベリスを発つことにしたと言われた。また色んなところを巡って、仕入れをしてくるらしい。


 ということで、今日の夜は一緒に食事をする約束をした。昨日と同じように近場の討伐依頼をこなして、夜はマシューさんと可愛い子狐亭で食事をした。


 オリガさんにマシューさんを紹介すると「あんた良い人だね」と言ってくれて、マシューさんの食事代も泊まり客の値段で会計してくれた。


 ちなみに食べたのは、ボア肉のショウガン焼きだ。2日前に新メニューになったショウガン焼きは、お客さんからのリクエストも多く、今日もAセットのメニューになっていた。


 この食事をしたことで、マシューさんが仕入れ先でイベリスの宿の話を広めることになる。可愛い子狐亭は各地から人が集まる超人気店になるのだが、それはまだ少し先の話である。


◇◇◇◇◇


 青空市4日目だ。今日も中央広場に行くが、新しい行商人は居なかった。マシューさんを含め、初日から参加していた数人は、イベリスを発ったようだ。


 その後、依頼をこなして1日が終わった。ついに明日は、青空市の最終日だ。

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