第27話 何だか怪しげなセリフだなあ

「うーん。今日は青空市かあ。朝から外がガヤガヤしてるかも」


「すぴー、すぴー、目利き、完璧、ですう」


 ユキも青空市が、楽しみなようだ。さて、ユキを起こして朝食だ。青空市を楽しまなければ!


「オリガさん、おはようございます」


「おはようです」


「二人とも、おはよう。ご飯食べたら、早速行くのかい? 場所は、中央広場だからね」


「はい。わかりました」


「今日から5日間だからね。行商人の入れ替わりもあるし、ゆっくり楽しみな」


 青空市は、5日間もあるそうだ。遅れてイベリスに到着する客や行商人もいるようで、少し長めの期間があるらしい。これは毎日顔を出した方が、良いかもしれない。午前中は青空市に行き、午後からは受けられそうな依頼を受ける感じで過ごそうかと思う。


◇◇◇◇◇


「うわあ。人が凄い多いわ」


「ヤマトさん。迷子になってはダメなのです」


「ユキこそ大丈夫? 屋台も沢山出てるし、迷子になるんじゃない?」


「なんとっ! あたしを食いしん坊みたく言わないで欲しいのです! ……プンプン」


「じゃあ今度から野営の時に、おかわりしないんだね」


「はうっ!? ……ヤマトさん! あそこの行商人さんの品物が気になるのです! さあ行きますよー」


「話を逸らすとは……ヤルナ」


 中央広場には、行商人、屋台、客、沢山の人が来ていた。気になる商品があれば、その都度行商人さんに聞いてみた。今持っている魔道具より良いものもあったが、今のところ不便は無いので、持っていない新しいものを探すことにした。


 ユキの魔力感知に反応したものも、すでに持っているものばかりで、新しいものは見付からなかった。すると、人族の男性行商人に声をかけられた。


「あっ! あなたは、あの時の!」


「……えー、何だか怪しげなセリフだなあ」


「行商人さん。ナンパはお断りなのです」


「え!? ナンパって言葉あるんだ」


「はいです」


 どうやらフルールにも、ナンパという言葉はあるらしい。


「あのー、そういうのじゃないです……。狐獣人さん、僕のこと覚えてないですか? イベリスから西の森で、ゴブリンに襲われそうなところを助けてもらったんです!」


「イベリスから西なんて、俺達行ったこと無いよね?」


「はいです。行商人さん、あたしに似た可愛い子狐と勘違いしてるのです?」


「いえ、あなたに間違い無いです。確か助けてくれた時に『ヤマトさんじゃなかったのです。何処にいるのです』って言ってました。お礼をする前に、走って行っちゃって……」


「……これはユキだね」


「……はいです。でもイベリスの西って……あっ! 初日なのです! ヤマトさんを探して走り回ってた時なのです!」


 ユキが、やっと思い出したようだ。転生初日に、イレギュラーで俺が遅れて転生したことで、ユキは数時間イベリス近郊で俺を探して走り回っていたのだ。


 その時に、俺がゴブリンに襲われてると思って、人違いで行商人さんを助けたらしい。ナンパか押し売りかと思ったが、ユキが忘れていただけのようだ。


「ユキさんというんですね。ということは、あなたがヤマトさんですか。見付かったんですね。良かった。あっ、俺はマシューです。あの時は本当に、ありがとうございました」


「こちらこそ、何か疑ってすいません」


「マシューさん。忘れてて、ごめんなさいです」


「いえいえ。あっ、あの時にこれを拾ったので、預かっていたんです。どうぞ」


 そう言うとマシューさんは荷物から、一つの革袋をユキに渡した。


「なんです? ……あっ! ヤマトさん、これ!」


「ん? 何さ? ……お! これは」


 その革袋の中身は、お金だった。ユキが何処かで落とした、あのお金だったのだ。


「命の恩人のお金ですから、大切に保管してました。使ってないですよ!?」


「「マシューさん! ありがとう」です」


 優しい人が居たものだ。また会うともわからない人の落としたお金を、使わずに持っているとは。地球でなら警察に届けて、落とした人も警察に確認することで見付かることもある。しかし、ここは異世界。守衛や衛兵に届けたところで、持ち主に返ってくることは、まず無いだろう。


 そんな優しいマシューさんから、何か買いたいと思った。早速ユキに魔力感知してもらうと、気になるものがあるという。


「是非マシューさんから、買い物したいです」


「ありがとう。気に入るものがあると良いですが……」


「じゃあ、これはどういうものですか?」


「これは通信魔道具で、装備するタイプですね。耳に装備します」


 ユキが気になったものは、イヤーカフだ。耳の外側に挟んで装備する。種族を問わず装備しやすいものらしい。少し離れた場所でも声が届く、装備する魔道具だという。


 イヤーカフに集中すると魔力が流れて、その間に発した声が発信されるようだ。受信側は自動で受信されるようで、ずっと魔力を流している必要は無い。受信した声は、装備した人にしか聞こえないという。


 これは地球でいうトランシーバーに、イヤホンの機能が付いているもののようだ。2個1組で銀貨16枚だそうだ。


「良いですね。あれ? それも同じものですか?」


「これは……恥ずかしながら仕入れでミスをしまして、ハズレをつかまされました。4個1組で仕入れたんですが、2個壊れてまして……。これはもう、ただのアクセサリーですよ……」


「ユキ、どう?」


「その2個もアリなのです」


「りょーかい」


 壊れた方も、ユキの魔力感知に反応があるようだ。2個あれば十分なのだが、直せるなら買っても良いと思った。マシューさんには沢山買い物をすることで、ユキのお金のお礼がしたいのだ。イヤーカフの素材がわかるか聞いてみたところ、銀で出来ているとのことだ。


 他にもマシューさんに色々商品を教えてもらい、欲しいものが沢山手に入った。全部で買い物金額は銀貨24枚銅貨3枚だった。助けてくれたお礼に、銅貨3枚値引きしてくれた。マシューさんは、青空市の初日でこんなに売れて嬉しいと言ってくれた。少しはお礼が出来ただろうか。


 その後、別の行商人さんの商品を見て何点か素材用の品を購入し、青空市の初日は大満足だった。


 買い物が終わると、もうすぐ昼だったので屋台で食べることにした。


「そろそろ昼だから、屋台で食べようか」


「はいです。お腹ペコペコなのです」


「じゃあユキがチラ見してた、あそことあそこの屋台に行こうかな」


「うっ、チラ見がバレていたのです。食いしん坊キャラなのです……ハズイ」


 ユキがチラ見していた屋台で、美味しい昼食を済ませた。保存食として追加で注文して、バッグにしまっておいた。


◇◇◇◇◇


 冒険者ギルドに移動して、掲示板で依頼の確認をする。


「やっぱり午後からだと、時間的に難しいかあ」


「明日も青空市に行くです?」


「行くよ。5日間全部ね。でも明日からは新しい行商人さんが居たら見るくらいだから、昼までは居ないと思うよ。だから明日からは、依頼を受けられるかな」


「なるほどです。じゃあ今日は、宿に戻って買ったもの直すです?」


「そうだね。そうしようか」


 今日は依頼を休んで、買ったものを吟味することにした。


◇◇◇◇◇


「あら、おかえり。早かったのね。青空市は、どうだった?」


「楽しかったですよ! 良いものも買えました」


「オリガさん! 奇跡的な出会いがあったのです!」


 いつもながら突拍子もないユキの発言に困惑するオリガさんに、マシューさんとの出会いを説明した。


「へえー。凄く良い人も居たもんだね!」


 やはりマシューさんの行動は、ビックリすることのようだ。部屋に戻って、買ったものを錬金することにしよう。


通信イヤーカフ(2個1組) Bランク

 落下防止(中) 通信距離(中) 銀貨16枚


壊れた通信イヤーカフ(2個1組) Dランク

 銀貨3枚


鉄の指輪 Eランク

 鉄貨5枚を2個で銅貨1枚


銀のイヤリング(2個1組) Cランク

 銀貨1枚を2組で銀貨2枚


銀のイヤリング(2個1組) Dランク

 銅貨8枚を2組で銅貨16枚


木のカップ Bランク

 保温保冷機能(中)

 銅貨1枚鉄貨5枚を2個で銅貨3枚


鉄鍋 Cランク

 保温機能(小) 銅貨7枚


鋼のナイフ Bランク 銅貨6枚


 以上が、マシューさんから買ったものだ。壊れているものを売る人は珍しく、イヤーカフも通信機能は壊れているが見た目は問題無いので、アクセサリーとして安く売る予定だったようだ。今回買った、鉄の指輪、銀のイヤリング、鋼のナイフは錬金用の素材として購入した。


 当初、鋼のナイフは鉄屑で錬金するつもりだったのだが、錬金不可だったのだ。地球で鋼とは鉄を精錬して作るものだが、フルールでは鋼鉱石から作られるものだとユキに教わった。なので、鋼の品物を錬金するために、鋼のナイフは素材として持っておくことにした。


 木のカップと鉄鍋は、また野営で役に立つことだろう。素材もあるので、錬金しておいた。


木のカップ Aランク 錬金素材 ゴブリンの木槍

 保温保冷機能(大)


鉄鍋 Aランク 錬金素材 鉄屑

 保温機能(中)


 マシューさん以外の行商人さんから買ったものは、鉄の指輪Dランク1個が鉄貨8枚、銀の髪飾りCランク5個で銀貨4枚だ。髪飾りといっても地球でいう、小さめのヘアピンのようなものだった。


 念願の指輪が手に入ったので、回復の指輪に錬金が出来るか確かめることにする。回復の指輪に鉄の指輪をセットすると、錬金可能だった。予想通りに、指輪という分類があった。


回復の指輪 Aランク

 装備者に対してヒールの魔法が使える。使う度に、10パーセントの確率で壊れて消える。


「よし! やっぱり指輪で分類されてたな。でも、まだ壊れる確率が、一割あるのか……。これも、Sランクにしちゃうか」


「指輪直ったです?」


「うん。指輪の分類で大丈夫だったよ。でも使ったら壊れる可能性があるから、Sランクにしたら、どうなるかなあと思ってさ」


「良いと思うのです。前のボス部屋の時みたく、回復ポーションが飲めない時には便利な指輪なのです。あたしが予想するに、Sランク品は壊れずにヒールが使えると思うのです! ……アタルヨ」


 ユキもSランクにすることに、賛成のようだ。早速、鉄の指輪を素材に錬金してみる。


回復の指輪 Sランク

 装備者に対してハイヒールの魔法が使える。使っても壊れない。


「お! 使っても壊れないって」


「あたしの予想通りなのです! ……アタリ」


「ヒールじゃなくて、ハイヒールになったわ」


「なんとっ! ハイヒールになるのは、読めなかったのです……ハズレ」


 偽装スキルで、Aランクに書き換えることも忘れない。左手の人差し指に、装備することにした。


 あとは、イヤーカフの錬金だ。どんな使い心地なのかも、気になるところだ。

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