第26話 レナードさん、今から時間ありますか?

 ウルフ案山子の設置を終えて、夜までゆっくり過ごした。今は畑で待機中だ。


「まさか、2日続けて見張りとはね」


「ヤマトさん。ショウガンのためにも頑張るのです!」


「てか、村人さんのためだからね……」


 昨日は、今くらいの時間にボアが現れた。今日はユキも起きている。


 すると、マップに変化があった。ボアが2匹、山を降りようと動いている。しかし、ギリギリのところで山からは出て来ない。ウルフは動いていない。


 暫く様子を見ていたが、ボアはそれ以上畑の方には近付かずに山の奥に戻って行った。本物のウルフにも動きはなかったので、どうやらボアが出てこないとウルフも出てこないのだろう。


「ウルフ案山子は、成功かな!」


「はいです。ボアはウルフがいると思っていたのです。これでショウガンに、平和が訪れるのです!」


「だから、村の平和だからね……」


 ウルフの臭いが、ボアを遠ざけたのだろうか。ボアとの距離的に、見た目はあまり関係無いように思えた。もし臭いが正解なら、今回のウルフの皮がどのくらい効果が続くのかが問題だが。その後、ボアが動きを見せることは無かった。


◇◇◇◇◇


「うーん。まだ眠いな……」


「すぴー、すぴー、ショウガン、平和、ですう」


 昨日と同じようにテントを出して、少しだけ寝ることが出来た。ちなみにダブルベッドは、大活躍中である。少しの時間でも、快適に寝ることが出来るのだ。ユキを起こして、朝食にしよう。


 朝食の準備をしていると、ロウさんがやってきた。


「おはようございます。見張りお疲れ様でした。効果は、どうでした?」


「ロウさん、おはようございます。効果ありましたよ。バッチリです!」


「それは良かった! あの……お疲れのところ申し訳ないのですが……。お願いがありまして……」


 昨日ロウさんは、ボア肉のショウガン焼きが美味しかったことを、村長さんに話したらしい。村長さんはショウガンを使った新しい料理を食べてみたいとのことで、ロウさんは味を思い出しながら作ってみた。しかし、全く上手くいかなかったようだ。


 お願いとは、ショウガン焼きの作り方を、教えて欲しいということだった。案山子の検証が終わったら、俺達はすぐに帰ってしまうと思い、朝からやってきたようだ。


「わかりました。ちょうど朝食を作るところだったので、大丈夫ですよ。じゃあ、ここを片付けて村長さんのお宅に伺いますね」


「ありがとうございます! 先に戻って、親父に報告します!」


 ロウさんは、ダッシュで家に帰って行った。テントを片付けて、村長さんの家に向かう。


 村長さんの家に着くと、中には村の女性達と料理好き男性が犇めき合っていた……。


「うわあ……。めっちゃいるし」


「みんなショウガン好きなのです! ヤマトさん! ショウガンの未来のためにも、頑張るのです! ……ファイト」


 ユキはショウガン好き仲間が沢山集まったと、しっぽブンブン状態になった。


「ヤマトさん、ユキさん。朝から申し訳ありません。案山子の件も、ロウから聞きました。ありがとうございました」


「いえいえ。少しでも、ボアが寄ってこない対策をした方が良いと思いまして。上手くいって良かったです」


 村長さんにウルフ案山子は成功したが、どうやらウルフの臭いで寄り付かないようなので、時間が経つと効果が無くなるかもしれないことも話しておいた。また、ボアとウルフが出てきた山も教えておいた。報告が終わり、依頼完了のサインをもらう。


 ここからは料理教室? の時間だ。とは言っても、俺が説明しながら仕込みをするだけなので、あっさり終わった……。


 これだけでは何なんで、ボア肉とオーク肉は、作ったことがあること。ウルフ肉は硬くなるので、玉ネッギをすりおろして漬け込むと、いけるかもしれないこと。キャベッツの千切りを付け合わせにして、焼いたタレを付けて食べると美味しいことも話しておいた。


 みんな早速作ってみると、家に帰って行った。昨日村長さんに渡したボアとウルフは肉にして、みんなに配られたらしい。なので、あとは野菜と調味料を揃えれば、何とかなると言っていた。


 ユキのお腹が鳴りそうなので、そのままショウガン焼きを作らせてもらうことにした。もちろん村長さん一家の分もだ。一緒にショウガン焼きを堪能した。


「ヤマトさん。とても美味しい料理を教えてもらい、本当にありがとうございました。この料理を広めても、よろしいでしょうか?」


「ええ、もちろん大丈夫ですよ」


「ありがとうございます。これでショウガン焼きが広まれば、この村のショウガンも売れて村も潤います」


「村長さん! もっとショウガン好き仲間を増やすのです! あたしも応援するのです! ……ガンバ」


「ユキさんも、本当にありがとうございます」


 この時は特に何も考えず、ショウガン焼きが広まれば色んな町で色んなアレンジのショウガン焼きが作られるかもなあ、くらいにしか思っていなかった。


 だが数ヶ月後、ロウさんが屋台を始める。その後ショウガン焼きはヒット料理になり、ロウさんは町に店舗を構えるのだ。その名も『ヤマト屋』だ……。その話しは、また別の機会に。


◇◇◇◇◇


 村での依頼を終えて、イベリスに向かって歩いている。村を出る時に料理を教えてくれたお礼として、村で育てたショウガンと玉ネッギとトメィトを村長さんに沢山頂いた。トメィトは初遭遇の野菜だ。地球のトマトだった。


 明日が青空市なので、バッチリ間に合いそうだ。最近はユキの獣変化に乗っての移動ばかりしていたので、イベリスまでの帰り道はゆっくり歩くことにした。


 途中で昼になったので、昼食を作り置きで済ませた。マップで近くの森にフォレラビを見つけたので、肉の補充もした。俺がハンドガンで倒して、ユキに解体してもらった。


 ユキはショウガン絡みの依頼を無事に終えて、元のテンションに戻ったようだ。


「ヤマトさん。明日の青空市は、何か探すものはあるです?」


「そうだなあ。回復の指輪の素材に指輪を試したいから、安い指輪かな。あとは、まだ持ってない素材とか、ユキが気になるものかな」


「かしこまりーです」


「魔力感知に反応なくても、ユキが欲しいものあったら言いなよ。稼いだお金の半分は、ユキのものなんだから」


「あたしは美味しいものが食べられたら、それで良いのです」


 今のところユキは、食べ物以外に興味は無い。最初、稼いだお金は生活費的なものを少しよけて、残りを半分にしようとしたのだが、ユキは「また落とすかもしれないから」と言うので、俺のバッグに全額入れることにしたのだ。半分にしてバッグにしまっておこうとしたのだが、それも必要ないと言われた。全額自由に使って欲しい、とのことだった。


 その後、夕方前にイベリスに到着した。ギルドに依頼完了の報告をしに行くと、受付にマリーさんが居た。


「マリーさん、戻りました。依頼完了の受付お願いします」


「ヤマトさん、ユキさん、お疲れ様です。二件とも完了したんですね! ……やっぱり集落があったんですか。被害が出る前に対処出来て、良かったです。本当に、ありがとうございました」


 受付をしてもらい、報酬を受け取った。今回の報酬は、ボア討伐が銀貨2枚。ゴブリン討伐と集落の調査で銀貨4枚。集落の破壊で、さらに銀貨6枚。二件の合計で銀貨12枚だった。


「お二人とも、今回も急な依頼をすみませんでした……」


「大丈夫なのです。ショウガン村を救えて、良かったのです!」


「は、はあ……」


「勝手に、村の名前決めちゃったよ……」


 ユキが勝手に命名したショウガン村は、ショウガン焼きの大ヒットにより、数年後に本当にショウガン村になるのであった……。


 ギルドへの報告も終わったので、宿へ戻ろう。


◇◇◇◇◇


「あら、二人ともおかえり」


「オリガさん、ただいま。無事に戻りました」


「ただいまです! オリガさん、あたし達はショウガンを守ったのです!」


「え? そ、そうなんだね……」


 ユキの意味不明発言に戸惑うオリガさんに、ちゃんと説明した。すると、この話しに食い付いたのはレナードさんだった。


「おい。そのショウガン焼きっての、俺にも教えてくれよ」


「はいです! ヤマトさん、レナードさんにもショウガン焼きの素晴らしさを伝えるのです!」


「お、おう」


 またテンションの上がったユキは、しっぽを全開で振っている。俺はレナードさんに、ショウガン焼きのレシピを教えた。


「あっ、そうだ。レナードさん、今から時間ありますか?」


「ん? 夜の分の仕込みも終わってるし、大丈夫だぞ。どうした?」


「実は試したい料理があるんですけど、俺そこまで料理が得意じゃないから、助けてもらえたらと……」


「ほお。試したい料理か。面白そうだな! 良いぞ。どんな料理だ」


「なんとっ! ヤマトさんオリジナルの新作なのです!?」


「まあね。上手く出来たら、めっちゃ美味しいよ! あっ、オリガさん。レナードさんお借りしても大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。どんな料理か楽しみだね!」


 早速レナードさんに、料理の説明をする。面白い料理だな、と言ってくれた。この辺りには無い料理のようで、一安心だ。オリジナル料理と思わせておいて、普通にある料理だったら恥ずかしい思いをするところだった。


 食材をバッグから取り出す。マジックバッグだとバレバレたが、二人は冒険者相手の商売をしているので、特に詮索はしないでくれる。俺も二人のことは信用しているので、問題ないだろうと思ったのだ。


 使うのはトメィトだ。これを村からお礼に貰って、新しく作りたい料理が頭に浮かんだのだ。まずは、切れ目を入れて軽く茹でる。取り出して皮を剥き、細切れにして鍋へ。そこに玉ネッギも微塵切りして入れて、調味料を加えて煮込む。ドロドロに溶けるまで煮詰めると、ケチャップの完成だ。地球のものとは多少の違いはあるものの、十分ケチャップの味がする。これでソースの完成だ。


 しかし、何で作り方を知ってるんだろうか? 謎だ。まあ、気にしないでおこう。


 そしてメインはというと、ハンバーグを作ろうと思う。まだハンバーグのような料理を見たことが無かったので、食べたかったのだ。


 本当は牛肉を使いたいのだが、カラーブルは簡単には手に入らないので、フォレラビとオーク肉を混ぜようと思う。どのくらいの分量で混ぜようかと考えていたら、流石はレナードさんだ。食べたことが無い料理なのに、バランスを考えてくれた。やはり本物の料理人だ。


 肉と玉ネッギを微塵切りして、パンを削ってパン粉を作り混ぜる。調味料を加えてこねていく。卵やミルクも手に入らないので、無しにした。何とかなると信じたい。形を作り、ペチペチと空気を抜く作業をして焼いていく。焼き上がりに、ケチャップをかけて完成だ。


「出来たー! レナードさん、ありがとうございます。俺一人じゃ大変で、なかなか作ろうとしなかったんです。でも、どうしても食べたくなっちゃって」


「俺も新しい料理は楽しみだから、気にするな。夜のお客が来る前に、みんなで夕食にするぞ」


「はいです! お腹ペコペコあんど新作楽しみなのです!」


「へえー。見たこと無い料理だね」


「「「「いただきます」」」です」


パクっ


「おー! ハンバーグだあ! 旨い!」


「新作も、美味しいのですう」


「ほお、旨いな。この溢れる肉汁が良い。これはウチでも、出せるレベルだぞ」


「本当に美味しいねえ」


 四人とも大満足の夕食だった。


「そうだ、あんた達。明日は青空市だからね。朝から賑やかになるよ」


「はい。ちゃんと間に合って、良かったですよ。楽しみだったんで!」


 今はお金もそこそこ貯まったので、青空市で多少使うのも大丈夫だろう。


 明日を楽しみに、今日は休むとしよう。

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