第25話 めっちゃ怖いじゃん……

「うわあ。やっぱり集落があったんですね……。しかもこの数……。村が襲われる前に依頼して、正解でした……」


 ユキが連れてきてくれたのは、村長の息子のロウさんだった。ロウさんに、ゴブリンの集落を確認してもらった。


 この数の魔物は普通の人にとっては、最大級の脅威なのだ。この前のダンジョンでこれ以上の数を見てたからか、俺は「まあまあいるなあ」くらいに思ってしまっていた。冒険者に、慣れてきたからだろうか。


 しかし、この数を危険と思い続ける気持ちを持っていないと、痛い目を見ることになるだろう。何せ俺は弱いのだ。ユキが強くても、勘違いしないようにしようと改めて思ったのだ。


「村に被害が出る前に討伐出来て、良かったです。では確認してもらったので、集落ごと焼き払いますね」


「わかりました。お願いします」


 ロウさんに少し離れてもらい、ユキに魔法で焼き払ってもらった。しっかり燃えるまで待つことになる。周りの森に燃え広がらないことも、確認しなくてはならない。


「ところでヤマトさん。さっき戻った時に、ショウガン焼きの匂いがしたのです」


「流石はショウガン命だねえ。昼食の準備してたんだよ」


「なんとっ! 今日はショウガン焼きなのだす? あっ、噛んだのです……ハズイ」


「ちょっと落ち着きなって。ロウさんは、昼は食べました?」


「いえ。食べようと思った時に、呼ばれたので……」


「じゃあ、一緒に食べましょう。集落が燃えるまで、時間かかりますし。準備しますね」


 バッグからテーブルと、二口魔道コンロを出して焼いていく。椅子は二脚しかないので、地べたで食べることにした。


「マジックバッグだあ。凄い……」


「これは頂き物なんです。それに冒険者なら、結構持ってる人はいますよ」


 食事の準備をすると、バッグのことがバレバレなのだが仕方ない。なので、特別なものと思われないように誤魔化してみた。


 村人は成人してカードを作る時くらいしか、町に行かないらしい。まあ、バレないだろう。色々聞かれる前に、さくっと三人分の料理を完成させた。


「お口に合うか、わかりませんが」


「初めて見る料理です。ショウガンの匂いが、とても良いですね!」


「ボア肉のショウガン焼きです」


「なんとっ! あの憎きボアが、大好きなショウガン焼きなのです……フクザツ」


「まあ、食べてみなって。ロウさんも、どうぞ」


「「いただきます」です」


パクっ


「「う、うまーい」なのです」


「良かった良かった。俺も食べよう。いただきます」


 ユキもロウさんも、満足してくれたようだ。昼食を食べている間に、集落も無事に燃え尽きたようだ。周りの森にも燃え広がらずに済んで完璧だ。ロウさんにも確認してもらい、一応ユキに魔法で集落と周りの森に水をかけてもらった。その後、三人で村に戻った。


◇◇◇◇◇


「ヤマトさん、ユキさん。ゴブリンの討伐、ありがとうございました」


「無事に討伐出来て、良かったです。ロウさんに確認してもらったので、こちらに依頼完了のサインを頂けますか?」


 村長宅に戻り、ゴブリンの集落討伐のサインをもらった。


「引き続きボアとウルフの討伐も、お願い致します」


「わかりました。それでは、畑の方に行ってきます」


 次はボア討伐の依頼を進めよう。まずは畑の方に行って、周りの確認をしようと思う。


 畑に着くと作業している村人さんが数人いたので、話を聞いてみた。どうやらボアは夜に畑を荒らすらしく、昼間は出てこないらしい。


「じゃあ、このあたりで野営して待つしかないかな。テント出そうか……あ! テント使えないや」


「どうしてです?」


「魔物避けが作動しちゃうから……」


「それじゃあ、憎きボアが現れないのです……ガーン」


 仕方がないので、その場で待機することにした。畑で作業していた村人達も家に帰り、辺りは徐々に暗くなってきた。作り置きしていたもので夕食を済ませて、ボアが来るのを待つ。


◇◇◇◇◇


 真っ暗になったが、ランタンなどは使わずに待機している。明かりでボアが寄ってこないことを避けるためだ。俺は暗闇の中で、マップとにらめっこ中だ。ちなみにユキは、獣変化けものへんげをして気配察知の感覚を高めて待機していた。つい先ほどまでは……。


「すぴー、すぴー、ボア、ショウガン焼き、おかわり、ですう」


 獣変化のまま寝ている……。このパターンは初めてだ。夢の中でボア肉のショウガン焼きを、食べているらしい。


 俺も少し眠くなってきたが、依頼達成のためにも頑張ろう。すると、マップに変化があった。


「すぴー、すぴー、はっ! 来たのです!」


 畑の少し先に、小さめの山がある。そこからボアが2匹、こちらに向かって来ていた。ユキも気配を察知して、起きたようだ。初めて野営をした時に、寝ていても魔物に気付くと言っていたのは本当だったようだ。


「やっと起きたかあ」


「うっ、ごめんなさいです。お腹いっぱいで、寝てしまったのです……メンゴ」


 今度はボアが出てきた山とは別の山から、ウルフの群れが出てきた。全部で6匹だ。


「ウルフも出てきた。これで何処から来てるのかは、わかったな」


 もう少しでボアが畑に着く。基本戦うのはユキなのだが、一応ハンドガンを装備しておく。そのユキはというと、今にも飛び出しそうな体勢だ。


「ユキ、ちょっと待って」


「何でです!? あたしが、ショウガンの敵であるボアを滅するのです……ニクイ」


「とりあえず、ウルフが来るまで待って」


 ショウガンの敵討ちのためか、ユキの目は血走っている。何とか宥めて待機してもらう。ボアが畑に到着して、ショウガンを食べ始めた。ユキは歯を食いしばり耐えていた。


「そんな親の敵みたいに、なんなくても……」


「がるうー」


「うわっ! めっちゃ怖いじゃん……」


 ユキに威嚇されてしまった……。何故すぐにボアを討伐しないのかというと、ウルフが来たらどういう反応をするか見たかったのだ。戦うのか、逃げるのか。この前のダンジョンでは、同じフロアに二種類ともいたが争ったりはしていなかった。何なら一緒に襲ってきた。


 ダンジョン講習で、ダンジョンが作り出した魔物と野生の魔物とは違うと教わった。なので、野生の魔物の行動を確認したかったのだ。


 ウルフが畑に近づいて来ると、ボアは気付いたのか出てきた山の方に逃げ出した。ウルフも、それを読んでいたのだろう。予め二手に分かれていて、挟み撃ちの格好になった。マップだと上空から見ている感じで、とてもわかりやすい。


「なるほどね。ボアは逃げるのか。ウルフはやっぱり群れで狩るのが上手いんだな」


「ヤマトさん! まだなのです!?」


「オッケー、だいたいわかった。ボアだけじゃなくウルフも倒してね」


「りょーかい、なのです! 待ってろ憎きボアめー!」


「……ちゃんとウルフも倒してよ」


 ユキは獣型のまま走りだし、あっさり魔物達に追い付いた。俺はマップで、どんどん魔物の印が消えていくのを見ながら、歩いてユキのところに向かう。俺が到着する前に、魔物の印は全て消えていた。俺は、そっとハンドガンをバッグにしまった。


「やっぱり、ユキは強いねえ」


「ヤマトさん! ショウガンの仇を討ったのですー!」


「わかったから、少し静かにね。まだ夜中なんだから」


 ショウガンが絡むと、ユキのテンションは異常だ。少し寝て元気いっぱいなのだろう。俺は眠いのだが……。


 とりあえず、ユキが倒した魔物達をバッグに詰め込んで、畑の方に戻る。まだ夜が明けるまでは少しあるので、テントを出して朝まで眠ることにした。もう眠さが限界なのだ。魔物避けが作動するので、もうボアは来ないだろう。


◇◇◇◇◇


「うーん。まだ眠い……。何故か毎日、同じくらいの時間に起きてしまう。サラリーマン時代の名残りなのか……」


「すぴー、すぴー、フフフ、ですう」


 ユキに笑われた……。


「ユキの寝言は、何故か会話が成り立つんだよなあ……フシギ」


 ユキを起こして朝食を作る。ヴァニラさん直伝のミーソスープを多めに作った。最近入手したキャベッツも使って、野菜炒めも多めに作ってみた。寝不足の体に味噌汁が染みる。


 少し試してみたいことがあったので、食事をしながらユキに魔物のことを聞いてみた。それを踏まえて、俺の考えた作戦をユキに話してみた。


「それは良いかもしれないのです」


「じゃあ、村長さんに相談しに行こうか」


「はいです」


 片付けを終えて、村長さん宅に向かう。


「村長さん、おはようございます。ボアとウルフの討伐も終了しました。ただ、魔物の来る方向を調べるために、少し畑を荒らされました。すいません」


「畑のことは気にしないで下さい。討伐して頂けて、これからの被害は減るでしょう。ありがとうございました。倒したボアとウルフを、ロウに確認させます。畑にありますか?」


 マジックバッグに入っていることを伝えて、ここに出す許可をもらう。了承してもらったので、昨日の魔物を出した。


「ヤマトさんは、マジックバッグをお持ちでしたか。上位の冒険者なのですね」


「違うのです。昔、たまたま助けた人が貴族だったです。なので、貰ったです。まだまだ貧乏冒険者なのです」


 ユキの誤魔化しが発動したが、自分から貧乏冒険者と言うのは、ちょっと切ない。節約生活はしてるが、そこまで貧乏じゃないつもりなのだが……。ユキの誤魔化しなのだから、本当に思っている訳ではないとは思う。でも、何故か精神的ダメージを受けた……。


 気を取り直して、村長さんに俺の考えた作戦を伝えてみた。すると、試してみたいとの言葉をもらい、早速作業に取りかかることにした。色々作業があるので、ロウさんが手伝ってくれるそうだ。


 その作戦とは……案山子だ。そんなことかよ、と思われるだろうが、この世界に案山子は無いようだ。ボアは人も襲うので、人型の案山子では意味がない。ウルフ型の案山子を作ろうと思う。


 朝食の時にユキに聞いたのは、強い魔物は魔力察知して獲物を狙うのだが、弱い魔物は臭いで獲物を狙うということだ。なら、ボアの天敵であるウルフの臭いがする案山子を作れば、ボアは寄ってこないのではないかと考えたのだ。


 地球でキャンプの時に、臭いで獣を寄せ付けないというのをテレビ番組で見た記憶があったのだ。その時に使っていたのは、確か狼の尿の臭いだったと思う。


 ということで、昨日倒したウルフを解体して皮をゲットした。解体はユキとロウさんがやってくれた。ちなみに解体したウルフ6匹と、そのままの状態のボア2匹は、畑を荒らしてしまったお詫びに村長さんに渡した。村人みんなで分けると言って、とても喜んでくれた。


 俺は木材を使って、案山子を作った。十字に木を組み、地球の案山子でいう腕の部分に、半円の骨組みを幾つか付けた。その半円の骨組みを利用して、ウルフの体の形になるように皮を着せた。


 それを、畑の周りにセットしてみた。近くで見るとウルフの皮を干している感じにも見えるが、若干離れて見ると何となくウルフがいる感じにも見える。案山子なので、中に浮くウルフになっているが……。


 臭いに反応するかが目的なのだが、一応見た目で逃げる可能性も考えて、頑張って作ってみた。あまり上手くはないが、とりあえず確認のためなので許してもらおう……。


 これで効果があるかを確認するため、畑でもう一晩過ごすのが確定した。

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