第24話 ……怖いこと言うわあ
「うーん、朝かあ。昨日は楽しかったな。良いことあったら、お祝いも必要だわ」
「すぴー、すぴー、美味しい、楽しい、祭り、ですう……」
ユキも、お祝いには賛成のようだ。さて、準備して朝食を食べに一階に行こう。
「オリガさん、おはようございます。昨日は、ありがとうございました」
「おはよう。昨日は楽しかったねえ。あっ、そうだ。前に話した青空市が、3日後に決まったそうだよ」
「行商人が集まる市ですね。楽しみです!」
青空市とは、沢山の行商人が集まるイベントだ。この辺では珍しい品物や、掘り出し物を探したりするのが楽しいらしい。俺も掘り出し物を探すつもりでいる。
部屋に戻って、今日の予定を考える。
「今日は、どうしようか?」
「冒険者ランクも上がったので、Eランクの依頼を確認するのはどうです? 確認は大事なことなのです」
「確かに。ちゃんとEランクの依頼は、見てないや。じゃあ、ギルド行きますか」
「はいです」
◇◇◇◇◇
「G、Fランクより、Eランクは討伐依頼が増えるんだね」
「Eランクからは、討伐依頼がメインのようなのです」
ギルドに到着し掲示板を確認したら、Eランクからは討伐依頼が多かった。G、Fランクは採取や町中の手伝いがメインで、いわば冒険者の見習いのような括りなのだと思う。Eランクからは、一端の冒険者扱いがされるように感じた。
「ヤマトさん! この依頼が良いのです!」
「ん? ボアとウルフの討伐か。村の畑を荒らすボアと、そのボアを狙ってくるウルフね。村人が困ってるんだね。イベリスの南の村かあ。青空市までには、帰ってこれそうかな」
「はいです。3日後なら大丈夫なのです。絶対これが良いのです!」
依頼主の村は、イベリスから歩いて6時間ほどと書かれていた。これなら青空市までに、十分戻って来られると思う。ユキのテンションがおかしいのが多少気になるが、まあ良いだろう。
依頼書を剥がして、受付に向かう。受付には、ヴァニラさんがいた。
「ヴァニラさん、おはようございます」
「おはようです」
「ヤマトさん、ユキさん、おはようございます。先日は本当に、ありがとう」
「いえいえ。お母さんは、元気ですか?」
「はい。少しずつ動くようにしてます。お二人のお陰です」
「それは良かったです。あっ、これ受付お願いします」
「はい。……お二人とも、Eランクになったんですよね。素晴らしい早さですよ」
「自分達が、一番驚いてますよ」
ヴァニラさんと受付で話していたら、マリーさんに声をかけられた。
「ヤマトさん、ユキさん、おはようございます」
「マリーさん、おはようございます」
「おはようです」
「お二人に、一つ相談がありまして……」
「……はい。何でしょうか?」
ちょっとだけ身構えてしまった。マリーさんの話はこうだ。今受付している依頼主の村から、近くの森でゴブリンが集落を作っているようだと、今朝連絡がきた。そちらの依頼の方が若干緊急性が高いので、そちらを受けて欲しいとのことだった。
「わかりました。大丈夫ですよ。俺達が受けます」
「ありがとうございます」
「マリーさん! ボアとウルフの討伐も、あたし達が一緒に受けても良いのです?」
「えっ!? 大丈夫ですけど……。失敗すると違約金が発生しますよ」
「もーまんたい、なのです」
「ん? もーまん……」
「あー、気にしないで下さい! ユキの適当な掛け声みたいなものです……ハハハ」
「……そうですか。ではヴァニラ、受付お願いします」
「はい。わかりました。お二人ともギルドカードをお願いします」
Eランクに上がって、いきなり二つ同時に依頼を受けてしまった。ユキのテンションといい、何か考えがあるのだろうか。ヴァニラさんに、依頼の注意事項や達成条件などを説明してもらった。
受付を終えてギルドを出る。少し食材を買って、宿に外出する連絡をしようと思う。買い物に向かう時に、あの依頼に拘った理由をユキに聞いてみた。
「ユキさあ。あの依頼に拘った理由あるの?」
「はいです。あの村の畑を荒らすとは、絶対に許さないのです!」
「あの村に知り合いとかいる? わけないよね……。何でさ?」
「あの村は……ショウガンを作っているのです! もしこれでショウガンが取れなくなったりしたら、大問題なのです! そんなことになったら、あたしは世界中のボアを根絶やしにするしかないのです! むきー!」
「……怖いこと言うわあ。てか、何でショウガン作ってるって知ってるのさ」
「この前、市場に行った時に聞いたのです」
「そ、そうなんだ。産地まで調べるとは、どんだけショウガンにハマってんだか……。あっ、そうだ!
「うっ……。ショウガンを守るのに必死で、つい使ってしまったのです……メンゴ」
これからも新しい食材をゲットしたら、地球の料理を作る予定なのだが、またユキがハマってしまうと危険な気がしてきた。
俺がユキにショウガン焼きを食べさせたせいで、危なくボアが絶滅するところだ。女神の弟子であるユキなら、本当に出来てしまいそうだから笑えない……。
◇◇◇◇◇
食材や調味料などを買い足して、宿に外出の報告もしてきた。3日後の青空市までには、帰る予定だ。
今から片道6時間なら、夕暮れ前には着けるので歩いて行こうとしたら、ユキが一刻も早くショウガンを守りたいということで、
「あの村みたいだね」
「ボアの気配は無いのです……フンス」
「ちょっと落ち着きなさい。とうっ!」
「はうっ! チョップなのです……イタタ」
「そんな血走った目で村に行ったら、怖がられるでしょうが」
「これもボアのせいなのです……ユルサン」
ボアが絶滅しないことを祈るばかりだ。とりあえず第一村人に声をかけて、村長さんの家まで案内してもらった。村長さんは、人族の男性だった。
「冒険者さん、こんな辺鄙な村にありがとうございます」
「村長さん! あたしがショウガンを守るのです! 安心して欲しいのです!」
「は、はいっ」
「こらっ! 村長さんが驚いてるでしょうが。すいません村長さん。今回ゴブリンとボアの依頼を二つ受けました、冒険者パーティー『幸運の
自己紹介を終えて、早速状況を説明してもらった。村から一番近い森にゴブリンを多数見かけるようになって、もしかしたら集落があるかもしれないと依頼をしたそうだ。今は村に被害は出ていないが、これから先を考えると早めの対処が必要だと思ったらしい。
ボアは昔から畑を荒らすことがあったが、今年は例年より頻度が多いので、今回依頼したようだ。今まではウルフが来ることもなかったが、ボアの出現が増えてウルフも現れるようになってしまったようだ。
「状況は、わかりました。まだ昼前ですし、これからゴブリンの依頼を進めますね。もし集落があった場合は、俺達が制圧した後に、どなたか確認に来てもらいます」
「はい。冒険者ギルドからも、聞いております。宜しくお願いします」
村長さんに教えてもらった森に向かう。さっきは集落があったら、と言ったが集落はある。バッチリ、マップにゴブリンの集団が映っていたのだ。ホブゴブリンも3匹確認した。ちなみに、畑の方に魔物の印は出ていないので、先にゴブリンの討伐を選んだのだ。村人に集落を確認してもらうのは、依頼を受けた時の注意事項で教えてもらったことだ。
「ヤマトさん。さっさとゴブリンを討伐して、ショウガンを守るのです!」
「りょーかい。本当にショウガン命だねえ」
俺は軽く呆れ気味だったが、どちらの依頼も村人にとっては死活問題なのだから、しっかり討伐しようと思う。
森に入り暫くすると、数匹のゴブリンに遭遇した。ユキはボアを滅する前哨戦と言わんばかりに、ゴブリンを瞬殺していった。ゴブリンの死体は後で集落ごと燃やすつもりでいるので、嫌々ながらバッグに詰め込んだ。程なくして集落を発見し、ユキの雄叫びが木霊する。
「ゴブリンどもー! あたしはショウガンを守りたいのですー! こんなところに集落なんぞ作るとは、何事かーですー! 成敗なのです!」
ユキは超本気モードの
「ヤマトさーん。終わったですー。早くショウガンを守りましょうなのですー!」
「ゴブリン相手とはいえ、マジで強いよね……」
マップで周りにゴブリンが残っていないことを確認して、倒したゴブリンを集める。ユキには、ギリギリ建物と呼べるものの中を魔力感知で何かないか探してもらった。残念ながら、戦利品になるものは無かった。
ユキに村人を呼びに行ってもらい、俺はゴブリンの魔石を取り出しておく。なかなかの重労働だが、戦闘しない分こういうところは頑張ろうと思う。バッグに嫌々ながら詰め込んだ数匹も、忘れずに取り出す。
魔石を取り出し終わったところで、ちょうど昼時だった。魔道水筒の水で手を洗いながら考える。
「ユキが、お腹ペコペコって言い出すよなあ。今日は、やっぱりショウガン焼きだよな。しかも、市場で新しい野菜ゲットしたし!」
ここに来る前に寄った市場で見つけたのは、キャベッツという野菜だ。おわかりの通りキャベツだった。これでショウガン焼きが、さらにしょうが焼きに近づくだろう。
「今回はオーク肉じゃなくて、ボア肉を使おう。これで美味しく出来たら、ユキはボアを根絶やしにはしないだろう」
この前錬金したテーブルを出して、料理開始だ。玉ネッギを切ってショウガンをすりおろし、調味料と混ぜる。そこに、薄く切ったボア肉を漬け込み少しおく。それからキャベッツを千切りにして、準備完了だ。
「あとは、ボア肉をもう少し漬け込んだらオーケーかな。最初から漬け込んで持ち歩いてればすぐに焼けるんだけど、時間停止のバッグだからバッグの中じゃ漬け込みが進まないんだよなあ……。漬け込み終わったものを持ち運ぶのには、時間停止は最高なんだけどさ。青空市で、何か便利なものないかなあ」
マップを見ながら、魔物とユキを確認して待つ。まだ戻ってこなそうなので、少しボア肉を焼いてみることにした。初めてボア肉で作るので、味見しておこうと思う。
漬け込んでいるボア肉を、少しカットして焼いてみた。
パクっ
「……旨いじゃん! ボア肉でも全然大丈夫。変なクセもないし。ユキも喜んでくれそうかな」
味見をしながらマップを見ていたら、ユキと村人だろう印が近づいてきた。とりあえず出した道具を全てしまって、到着を待とう。
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